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February 26, 2013

ガラスの能面 首藤瓜於・瀧本智行 『脳男』

Nootk120代はじめのころはそんなにお金もなかったので、映画を観るよりもミステリーを読むことの方に時間を費やしておりました。そのころに読んだ一冊『脳男』がなぜか今頃映画化されると聞いて興味を持ったのですが、予告を見るとどうもかつての記憶と違うような・・・ ともかく観てまいりました『脳男』、ご紹介します。

都内で続く猟奇事件や爆破事件。刑事の茶屋は一連の事件を捜査しているうちに、犯人のアジトらしき場所を発見する。だが茶屋が踏み込もうとした時爆発が起きる。辛くも難を逃れた彼は、現場で無表情に座っていた「鈴木一郎」と名乗る男を逮捕した。鈴木を担当することになった精神科医の鷲谷は彼に心理的な試験を試みるが、その常人離れした結果に戸惑うのだった。果たして彼は犯人なのか・・・

いきなりおばさんが舌をチョッキンされるシーンで始まるこの映画。アップにはならないものの衝撃的な幕開けです。でも原作にはこんなシーンあったかな・・・? すいません、あったかもしれません なんせ読んだのが十年以上前なもんでかなり記憶があいまいなのですが、原作『脳男』はよくも悪くももっとあっさり風味だった印象があります。
あと発表当時ある書評家の方がこの作品を『バットマン』に例えていたんですが、確かにそんなテイストもありました。ただ原作では終盤まで鈴木君がバットマンなのかジョーカーなのか明らかにせず、その真相でもって読者をひっぱるようなお話になってたと思います。対して映画の方は割りと早い段階で鈴木君がバットマン側であることが明かされます。ですから一種のヒーロー映画と言えなくもないです。

けれど「ヒーロー映画」と言い切ってしまうにはためらわれるところも色々あります。まず鈴木君がとことん無表情。愛想のかけらもありません。格闘シーンで技の名前を叫ぶことさえありません。
そしてその攻撃方法がいちいち痛々しかったりえぐかったりするんですよね・・・ 小さなお子さんが見たら憧れるどころかギャアギャア泣き出すこと必至です。ヒーローものというよりかつて東宝がよく作っていたオカルト系の「○○男」「○○人間」シリーズや、TVシリーズ『怪奇大作戦』に近い雰囲気を感じました。
そんなキモキモな脳男くんを、ジャニーズの生田斗真くんが実に不気味らしく好演しておりました。これまでは名前くらいしか知りませんでしたが、この存在感は大したものです。

あともう一点ヒーロー映画らしからぬのは、茶屋や鷲谷たちからずっとその行動が「まちがっている」と言われ続けることです。基本ヒーローというのは賞賛されるものですからね。まあ自分の判断で司直を通さず死刑執行してしまうのですから、警察としちゃあ黙って見過ごすわけにもいかんでしょうけどw 
アメコミヒーローは基本的に人は殺しませんし、日本のヒーローが退治するのは怪人や怪獣。悪人とはいえ人間をバサバサ殺していったら「殺人鬼」と言えなくもないわけで。そういう行動を誉め讃えちゃいかんよな・・・とは思いつつも、残虐な事件を見聞きすると「こんな犯人さっさと死刑にしてしまえばいいのに」と思ってしまったりもする。そんな人間の建前のモラルや、危うい願望について考えさせられる内容となっておりました。

Nootk2大作邦画らしいツメの甘いところも幾つかあるのですが、作り手の本気度やチャレンジ精神がよく伝わってくるいい映画でした。『脳男』は現在全国の劇場で準大ヒット公開中です。


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Comments

伍一くん☆
ちょっと気になってはいたものの、どうしよっかなーと思う程度だったので、また気になりだしました。
生田くんがキモキモなかんじが想像つかなくて、CMの無表情だけで結局カッコイイ生田くんじゃない、キモキモの生田君なら興味津々です。
↑の絵は超イケメン~ちょっと生田くんより少年入ってるけど。

Posted by: ノルウェーまだ~む | February 27, 2013 02:26 PM

>ノルウェーまだ~むさん

いや、これは真面目にお勧めですよ。細かいところが気になる人はダメみたいだけど、まだ~むだったらきっと楽しめるかと思います
生田くんはキモキモなムードを出すために極力まばたきをしなかったそうです。すごいわー
あとまだ~むにはお嬢さんと一緒にぜひ『魔法少女まどか☆マギカ』を観てほしいんですが・・・

Posted by: SGA屋伍一 | February 27, 2013 11:26 PM

たしかに、ヒーローと言うにはちょっと武器もないし
いくら身体能力が優れていてもね〜〜〜
せめて、バットスーツくらいないと車には勝てませんよ!!!
まあ、自分で悪人を倒す分、デスノートのキラよりましですけど・・・(笑)
まばたきしない演技って、目の乾燥が尋常じゃない気がしますよねー。

Posted by: ルナ | March 05, 2013 12:32 AM

>ルナさん

そういえば今日バットマンのスーツを着た男が犯罪者を警察に突き出したなんてニュースがありましたね。体型的にむっちりしてたのがちょっと残念ではありましたが・・・
「すごく知能が高い」と言われてるのに生身で車に立ち向かうのはどう考えても頭がいいとは思えず。天才とアレは紙一重ってやつなんでしょうかね!

Posted by: SGA屋伍一 | March 05, 2013 10:20 PM

> 愛想のかけらもありません。

愛想がありすぎる脳男・・・マンガ『寄生獣』の表情がオーバーなパラサイトみたいなのかな。実写だと柳沢慎吾みたいな脳男になるんだろうな、何かやだな、それ。

Posted by: ふじき78 | March 08, 2013 12:02 AM

>ふじき78さん

柳沢慎吾さんのご実家はわたしがよく映画を観にいくO田原市なんですよねー だから勝手に親近感を抱いております
女は度胸、(脳)男は愛嬌ですよ!

Posted by: SGA屋伍一 | March 08, 2013 10:55 PM

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原作は、第46回江戸川乱歩賞の 首藤瓜於のバイオレンス・ミステリー。 思ったよりは良く出来ていたような 気がしますが、 救いの無い内容だし、 結構グロイシーンもあるし 人がたくさん死ぬので、 万人におススメの作品ではないかも・・。 残忍な無差別連続爆破事件を追う刑事の茶屋(江口洋介)は 犯人の居所を突き止めるが、爆破がおこり 身柄を確保できたのは男一人だった。 男は鈴木一郎(生田斗真)と名乗ったが、感情を表さず、 精神科医・鷲谷真梨子(松雪泰子)の精神鑑定を受けること... [Read More]

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