花とポエムと巨大ロボ 永野護 『花の詩女 ゴティックメード』
二十五年以上(辛うじて)連載が続いている永野護氏の大河SFコミック『ファイブスター物語』。その永野氏が久々にてがけた映像作品が、少々遅れてですがこちらでもかかったので観てまいりました。『花の詩女 ゴティックメード』紹介します。
はるか時空を経た宇宙のどこかの星々のお話。惑星カーマインは代々「詩女(うため)」と呼ばれる不思議な女性により統治されていた。彼女らは歴代の詩女たちの記憶をそっくり受け継ぎ、その知識をもって人々に恩恵を施してきた。詩女になったばかりの娘ベリンは、最初の役目である都への旅に出発しようとした矢先、いかめしい戦艦の来訪を受ける。艦の主であり某大国の皇子でもあるトリハロンは、惑星連合の命により、彼女に対するテロを防ぐため護衛としてやってきたと告げる。武力を嫌うベリンはトリハロンとことあるごとに衝突するが、いつしか二人は心を通い合わせるようになる。
タイトルのゴティック・メードというのは「おかえりなさいませ、ご主人様♪」と微笑んでくれるメイド少女ではなく、このお話に出てくる巨大ロボのこと。恐らく「古の時代の召使」みたいな意味だと思われます。この映画というかアニメを観たかったのは、もちろんわたしが永野氏の、特に『ファイブスター物語』のファンだからであります。膨大な歴史と設定、独特のセンスと世界観。プロダクションではなく、一個人がここまで緻密に作り上げた幻想世界はそうあるものではありません。
特に独特なのが氏のデザインするロボット。参考までに描いておくとこんな感じ。モノホンはもっとスタイリッシュですが・・・
とにかく頭と肩がでかく、腹と脚が細い。ちょっと激しく動いたら胴体がぽきっと折れちゃいそうな気がしますが、そこはものすごく頑丈な素材で作られているのでしょう。この永野ロボがかなりコミックに近いイメージで動いていたのが観られたのが眼福でした。起動する時の悲鳴のようなサウンドとか、信号のように色を変えていく装甲。そして巨体なのに忍者のように動きがすばやい。コミックも好きですけどやっぱりロボは動いてナンボだと思いました。
ただそのロボの出番・・・えらくちょびっとなんですよね・・・ それでも損したという気にならなかったのは、他にも見所がいろいろあったから。
まず背景美術がとても美しかったです。アニメ(絵)なのに平原が遥か遠くまで広がっているなあ・・・というのがちゃんと感じられました。もしかしたら永野監督が力を入れてたのはロボよりも背景だったのかもしれません。
ベリンの歌う東洋的な民謡?もしみじみ良かったです。いっぺん聴くとなかなか耳から離れないんですよね、これが。♪風にまかれた種ひとつ ふたつ みっつ よっつ たくさん そんな歌(笑)
この手のロボ映画にしてはえらくストーリーがささやかだったのも印象的でした。激動の時代の直前に、こんな歴史に埋もれた秘話があった・・・というような。ベリンとトリハロンの恋愛感情も決して表に現れず、でもお互い肝心なところは伝わってるんだろうな・・・というのもささやかで切な良かったです。
まあ正直このささやか70分の映像を作るのに、『ファイブスター物語』が八年止まってしまったのはもうちょっとなんとかならなかったのか、とは思いますけどね・・・
『ゴティックメード』は終了した劇場もありますが、これからまだ関東はじめ全国の劇場をぼちぼちまわっていくようです。
『ファイブスター物語』もようやく三月発売の『ニュータイプ』誌から連載を再開するようです。もう悟りの境地でつきあっていくしかないっすね!
Comments