ガラスの能面 首藤瓜於・瀧本智行 『脳男』
20代はじめのころはそんなにお金もなかったので、映画を観るよりもミステリーを読むことの方に時間を費やしておりました。そのころに読んだ一冊『脳男』がなぜか今頃映画化されると聞いて興味を持ったのですが、予告を見るとどうもかつての記憶と違うような・・・ ともかく観てまいりました『脳男』、ご紹介します。
都内で続く猟奇事件や爆破事件。刑事の茶屋は一連の事件を捜査しているうちに、犯人のアジトらしき場所を発見する。だが茶屋が踏み込もうとした時爆発が起きる。辛くも難を逃れた彼は、現場で無表情に座っていた「鈴木一郎」と名乗る男を逮捕した。鈴木を担当することになった精神科医の鷲谷は彼に心理的な試験を試みるが、その常人離れした結果に戸惑うのだった。果たして彼は犯人なのか・・・
いきなりおばさんが舌をチョッキンされるシーンで始まるこの映画。アップにはならないものの衝撃的な幕開けです。でも原作にはこんなシーンあったかな・・・? すいません、あったかもしれません なんせ読んだのが十年以上前なもんでかなり記憶があいまいなのですが、原作『脳男』はよくも悪くももっとあっさり風味だった印象があります。
あと発表当時ある書評家の方がこの作品を『バットマン』に例えていたんですが、確かにそんなテイストもありました。ただ原作では終盤まで鈴木君がバットマンなのかジョーカーなのか明らかにせず、その真相でもって読者をひっぱるようなお話になってたと思います。対して映画の方は割りと早い段階で鈴木君がバットマン側であることが明かされます。ですから一種のヒーロー映画と言えなくもないです。
けれど「ヒーロー映画」と言い切ってしまうにはためらわれるところも色々あります。まず鈴木君がとことん無表情。愛想のかけらもありません。格闘シーンで技の名前を叫ぶことさえありません。
そしてその攻撃方法がいちいち痛々しかったりえぐかったりするんですよね・・・ 小さなお子さんが見たら憧れるどころかギャアギャア泣き出すこと必至です。ヒーローものというよりかつて東宝がよく作っていたオカルト系の「○○男」「○○人間」シリーズや、TVシリーズ『怪奇大作戦』に近い雰囲気を感じました。
そんなキモキモな脳男くんを、ジャニーズの生田斗真くんが実に不気味らしく好演しておりました。これまでは名前くらいしか知りませんでしたが、この存在感は大したものです。
あともう一点ヒーロー映画らしからぬのは、茶屋や鷲谷たちからずっとその行動が「まちがっている」と言われ続けることです。基本ヒーローというのは賞賛されるものですからね。まあ自分の判断で司直を通さず死刑執行してしまうのですから、警察としちゃあ黙って見過ごすわけにもいかんでしょうけどw
アメコミヒーローは基本的に人は殺しませんし、日本のヒーローが退治するのは怪人や怪獣。悪人とはいえ人間をバサバサ殺していったら「殺人鬼」と言えなくもないわけで。そういう行動を誉め讃えちゃいかんよな・・・とは思いつつも、残虐な事件を見聞きすると「こんな犯人さっさと死刑にしてしまえばいいのに」と思ってしまったりもする。そんな人間の建前のモラルや、危うい願望について考えさせられる内容となっておりました。
大作邦画らしいツメの甘いところも幾つかあるのですが、作り手の本気度やチャレンジ精神がよく伝わってくるいい映画でした。『脳男』は現在全国の劇場で準大ヒット公開中です。
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