ボーイズ・ビン・アンビシャス アミール・ナデリ 『駆ける少年』
最近注目を集めているイラン映画。その雄の1人、アミール・ナデリ監督の伝説のデビュー作がこのほど正式公開されたので、東京はオーディトリウム渋谷まで観にいってまいりました。『駆ける少年』ご紹介します。
ペルシャ湾岸の廃船に1人住む少年アミル。親はいないし辛いこともあるけれど、アミルは日々を元気に暮らしていた。空き瓶集め、列車との競走、異国からやってくる飛行機や雑誌・・・ 仲間たちと楽しくはしゃぐ一方でアミルは胸の中に熱い感情の塊を抱えていた。
親のない子が1人で働きながら生きていく・・・というと大抵はかわいそうな話になりがちです。しかしアミル君にはそうした悲惨さはあまり感じられません。子供ながら彼の生活力はなかなか大したもの。そりゃ贅沢はできないでしょうけど食べるものにはそれほど困ってないようだし、遊びや趣味にお金を払う余裕さえあります。
とりわけアミルくんが好きなのが飛行機。彼はしょっちゅう飛行場に通ってはいずこから飛んでくる飛行機に向かって歓声をあげます。TVゲームなどの高価なおもちゃは持っていなくても、そばに大きな乗り物が見られる場所があれば子供たちは十分毎日が楽しいのかもしれません。
アミル君は朗らかで子供らしい半面、年不相応なほどにギラギラした一面もあります。自分が集めたビンや売り物の氷水を横取りされると野獣のような必死さでもって、それを取り返そうとします。また「字が読めない」と言われた悔しさから、せっかく買った雑誌をビリビリに引き裂いてしまったりする。学校に通い始めたアミルが寄せてくる波に向かって文字の暗記を叫ぶシーンもまたそういう気迫に満ちていました。
ぎゃんぎゃんとしたわめき声や、子供が作業場で駆け回る姿は、ちょうど今オーディトリウムの上の階でやっているロシア映画の衝撃作『動くな、死ね、甦れ!』とも通じるものがありました。両方とも監督の自伝的作品であるところも似てますし、製作年代もけっこう近いです(『駆ける少年』が1985年、『動くな、死ね、甦れ!』が1989年)。
ただ『動くな、死ね~』にあって『駆ける少年』になかったものは同年代の女の子とかエロ要素とか。ロシアの田舎と違ってイスラム社会は性モラルに厳しいということなんでしょうかね。
タイトル通り、この映画にはアミルが疾走するシーンがふんだんに織り込まれています。(いまはまだできることに限りがあるけれど、きっといつか広い世界に出て挑戦してやる) 少年の駆けていく姿にそんな力強い意志を感じました。実際彼は後に世界的に有名な映画監督となり、日本の映画館のロビーで毎日お客さんに挨拶してるわけですからね。
『駆ける少年』はもう渋谷での上映は終わってしまいましたが、これから神奈川、大阪、富山、大分などの劇場を回っていくようです。
ちなみにわたしが観にいった日はけっこうな雪の日で帰りの電車が出るかどうか、びくびくしながらの観賞となりました(笑) 無事帰れたどうかは次回『ルビー・スパークス』のレビューにて
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