アルジェリアから来た教師 フィリップ・ファラルドー 『ぼくたちのムッシュ・ラザール』
みなさんは「ムッシュ」というと誰を思い浮かべるでしょうか。かまやつ、吉田監督、ムニエル、ムラムラ・・・ なんとなくユーモラスな方が多いですけど、今日ご紹介するのは割りと控えめでひたむきな「ムッシュ」。スイスのロカルノ映画祭、カナダのトロント映画祭、オランダのロッテルダム映画祭と世界各地で賞に輝いた『ぼくたちのムッシュ・ラザール』、について少々書きます。
カナダはトロントの小学校でひとつの事件が起きる。生徒達が休み時間で遊んでいる間に、一人の女性教諭が教室で首を吊ったのだった。生徒たちの心のケアもさることながら、代替の教師が見つからず校長は頭を悩ませる。そんなところへアルジェリアから移民してきたというある男が、補充の教師になりたいと校長のもとを訪れる。彼の名はラザール。彼の暖かで真摯な人柄は、少しずつ生徒たちに受け入れられていく。だが事件について生徒たちと話し合おうとするその態度は、それを忘れさせようとする校長と次第にぶつかりあうようになる。
「ムッシュ」というタイトルからてっきりフランスが舞台のお話だとばかり思ってたのですが、劇中で「トロントはいいところだ」というセリフがあってようやく「ああ、これカナダの話なのか!」と気がつきました。たぶん地名が出てこなかったら最後まで勘違いしたままだったと思います。
で、カナダの教育事情なんですが、「そんなに気を使わなきゃいけないんだ・・・」というところが幾つかありまして。日本のそれとも少し似てるかもしれません。まず体罰はダメ。これはまあ仕方ないかとも思うんですが、軽くはたくのですら禁止。あと生徒を抱きしめるのも禁止。これは性的虐待を防ぐための措置なんでしょうけど、まあ要するに「生徒との身体接触はなるたけ避ける」というのがカナダの学校の方針のようです。
実際に行き過ぎた体罰や性的いたずらの不祥事もあるので、そういう流れになってしまうのもわかります。でもまったく生徒に触ってはいけないというのはあまりに寂しいし、それで本当に大切なことを教えられるのかな? とも思います。
罰にしろ体の接触にしろ、すべて禁止してしまうのではなく、「バランスを保って行う」のが子供たちにとって最もためになることではないでしょうか。でもその「バランスを保つ」・・・というのがなかなか難しいことなんでしょうかね。
あともひとつ「大変そうだなあ」と思ったのは子供たちがまだ小学生なのにやや大人びていること。つい先日日本の小学校を舞台にした映画も観たのですが、それに比べると欧州の子供たちはずいぶん達者というかませているなあと。先生といえどわずかな隙をみせるとすかさずつっこみが入ります。そんなガキどもにてこずりながらも真正面から真剣にむきあっていくラザール先生はふところの広い人だな・・・と思いました。
ともあれそんなガキどもにも年相応にかわいらしいところもあり。ムッシュ・ラザールと子供たちが笑顔で触れ合っているシーンにはこちらもふんわかした気分にさせられました。話が横道にそれますが一人の女の子が「おすすめの本」としてラザール先生にジャック・ロンドンの『白い牙』を持ってくるところは嬉しかったなあ。うん! ロンドン面白いよね! ちなみにわたしの感想記事はコチラに書いてあります。
世の中悲しいこともあるけれど、それをきちんと受け止めて、前に進んでいかなければならない。ラザール先生は子供たちに一生懸命そう教えます。それは先生自身がとても悲しい経験をしてきたから。この映画「ええっ ここで!?」というくらいかなり潔くスパッと終わってしまって呆然としてしまうのですが、先生の思いはきっと子供たちにも伝わっただろうな・・・と信じたいところです。
『ぼくたちのムッシュ・ラザール』はだいたい公開終わってしまいましたが、まだ秋田、香川、鹿児島、早稲田松竹などで上映予定。ていうかあさってにはDVDが出ます。『いまを生きる』『人生、ここにあり!』などが好きな人に強く推奨。
Comments