« さっちゃんとのんちゃんとトイレの花子さん 今泉かおり 『聴こえてる、ふりをしただけ』 | Main | ボンちゃん、故郷に帰る サム・メンデス 『007 スカイフォール』 »

December 18, 2012

黒パン不良記 アグスティー・ピジャロンガ 『ブラック・ブレッド』

Bbd2ぺドロ・アルモドバルの『私が、生きる肌』を押しのけ、スペインのアカデミー賞といわれる「ゴヤ賞」を受賞した作品。年末の慌しい時期にこちらでも一週間限定(・・・)で上映されたので観てきました。『ブラック・ブレッド』、ご紹介します。

1940年代スペインはカタルーニャ地方が舞台。ある村で一台の馬車が崖から転落し、乗っていた親子が死亡するという惨事が起きる。警察はこれを殺人と判断し、第一発見者だった少年アンドレウの父ファリオルに疑惑の目を向ける。立場が悪くなったファリオルは村から逃亡。母は一層働かねばならなくなったため、アンドレウを実家に預ける。その村でアンドレウは片手をなくした早熟な少女や、修道院に隔離されている変わった美青年と会う。村に流れる陰湿な噂話や、次第に追い詰められていく両親の姿は、繊細なアンドレウ少年の心に深い傷を残していく。

謎の男のショッキングな殺人事件から始まるお話は、最初のうちこそミステリー(推理小説)的な印象を与えます。しかし意外な犯人とか合理的な推理などを期待すると肩透かしを食らうことでしょう。この映画は謎解きよりも人の業の深さや、その中にあって揺れ動く少年の心理を芯としています。横溝正史の小説によくあるような、草深い地方の暗~い人間関係をやたら強調したような作品。あとやはり欧州の田舎を舞台とし、大人たちがこぞって欲望・因業まみれで子供たちによくない影響を与えている点は、アゴタ・クリストフの『悪童日記』などを思い出させます。

子供が主人公の映画(以下、子供映画と書きます)にもいろいろございます。一つには主に子供たちのために作られた子供映画。『やかまし村の子供たち』や『ホームアローン』、ディズニーのアニメ映画はこの部類かと。
二つ目は子供にもわかるけど、大人たちの心にも深く訴えてくる作品。『火垂るの墓』や『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』、『A.I.』、『オリバー・ツイスト』『バビロンの陽光』などはこの部類。
そして三つ目は「これは小さなお子さんは観ないほうがいいんじゃないか・・・」という子供映画。『動くな、死ね、甦れ!』や『縞模様のパジャマの少年』、『サラの鍵』『蜂蜜』など。で、とりわけスペインには子供に対して容赦ない映画が多い気がします。例えば『パンズ・ラビリンス』や『永遠のこどもたち』など。アメリカ合作の『アザーズ』もそう。『ミツバチのささやき』は容赦ないって感じではないけど、やはりお子さんにはよくわかんない映画でしょう。
そんでこの『ブラック・ブレッド』ももちろん三つ目のカテゴリに入る映画です。

どこの国にせよ、子供たちにはみんな幸せな環境で暮らしていてほしい。我々はそう願います。だから子供たちのための子供映画では、主人公は大抵幸せになります。でも現実は必ずしもそうはいきません。大人のための子供映画は、我々にそんな厳しい現実をつきつけてくれます。ゆえに『ブラック・ブレッド』も見ごたえのある映画ではありましたが、観終わったあとずずずずーんと重い気分になりました。
厳しい環境に生きる子供たちは、早い段階で大人になることを強いられます。まだ親に甘えたい年齢なのに、重大な決断を迫られるアンドレウ。次第に子供らしい無邪気な表情が消えていく様子が、観ていて辛うございました。

Bbd1『ブラック・ブレッド』はもう三軒茶屋シネマか金沢のシネモンドくらいしか上映劇場がないみたいです。ていうか先週DVDが出ました。
欧州の良質の映画を紹介してくれるアルシネテランさんは、現在『ミステリーズ 運命のリスボン』というこれまた見ごたえありそうな子供映画?を配給しておられますが、これが四時間くらいあるそうなのでちょっと腰がひけております・・・


|

« さっちゃんとのんちゃんとトイレの花子さん 今泉かおり 『聴こえてる、ふりをしただけ』 | Main | ボンちゃん、故郷に帰る サム・メンデス 『007 スカイフォール』 »

Comments

公開あってよかったね。これ私好きなんですよ。
こういうまがまがしいやつ。
グリム童話じゃないけど、残酷な子どもの話でしたね。

Posted by: rose_chocolat | December 24, 2012 12:07 PM

>rose_chocolatさん

こんにちは。諦めてたころに上映決まって「やった!」と思いました。が、後味はあんまりよくなかったですね~ でもまあ観られてよかったです。観ないで後悔するより観て後悔したい(笑)
「残酷」「童話」といえば先ごろヒュートラ渋谷で上映してた『親指トムの冒険』も観たかったな・・・

Posted by: SGA屋伍一 | December 25, 2012 10:18 AM

こげパンがあまりにも上手く書けているのでスルーできず、コメントしてしまいました。

Posted by: サワ | January 10, 2013 10:13 AM

>サワさん

こげパン、最近あまり見ませんね。まだグッズ展開してるのかな
アンパンマンの勢いは一向に衰えてませんが。うちのめいごも大好きです

Posted by: SGA屋伍一 | January 10, 2013 10:25 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 黒パン不良記 アグスティー・ピジャロンガ 『ブラック・ブレッド』:

» 【LBFF_2011】『BLACK BREAD(英題)』(2010) / スペイン・フランス [Nice One!! @goo]
原題: Pa negre 監督: アグスティ・ビリャロンガ 出演: フランセスク・クルメ、マリナ・コマス、ノラ・ナバス ラテンビート映画祭 2011 公式サイトはこちら。 映画『ブラック・ブレッド』公式サイトはこちら。 2011年ゴヤ賞作品賞・監督賞・主演女優賞ほか(...... [Read More]

Tracked on December 24, 2012 12:05 PM

» 『ブラック・ブレッド』『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』 ムービープラス・アワード2012 [映画のブログ]
 ムービープラスが実施しているムービープラス・アワード 2012。  その4部門に投票したので、内容を紹介する。  投票に当たっては、例によって当ブログで未紹介の作品であることを心掛けた。  すなわ...... [Read More]

Tracked on January 14, 2013 09:26 PM

« さっちゃんとのんちゃんとトイレの花子さん 今泉かおり 『聴こえてる、ふりをしただけ』 | Main | ボンちゃん、故郷に帰る サム・メンデス 『007 スカイフォール』 »