サイコロジー青春期 デビッド・クローネンバーグ 『危険なメソッド』
グログロネバネバ描写には定評ある映画作家デビッド・クローネンバーグ。『イースタン・プロミス』から四年ぶりとなる新作は、心理学草創期を描いたちょっとヘンテコな人間ドラマ。『危険なメソッド』、ご紹介します。
時は20世紀になるやならずやのころ。新進気鋭の精神科医カール・グスタフ・ユングは、スイスの病院で心を病んだ資産家の娘ザビーネを担当することになる。彼女の治療法を捜し求めるうちに、ユングはオーストリアの学者ジーグムント・フロイトと知り合い、親交を深めるようになる。やがてユングはザビーネを一人の患者としてみることができなくなり、妻子ある身でありながら彼女と関係を持ってしまう。
あんまりモノを知らないわたしでもさすがにユングとフロイトの名前くらいは知ってます。心理学という学問の基礎を築いた20世紀の偉人たちですよね。でも彼らの学説とか主張がどんなものだったのか・・・と言われると???となってしまいます
で、この映画ですが幹となっているのは「心理学とはこういうもんじゃー!」と語ることではなく、ユングという一人の青年の、愛と友情と青春の物語のように感じられました。もちろんそこはクローネンバーグなんで変態描写もちょこちょこ盛ってあります。
「映画なんだから面白く作ろうとするのはわかるけど、『患者に手を出した』ことにされてるなんてユング先生がちと気の毒だなあ」と思いながら観てたのですが、あとで調べて驚きました。これ、ほぼ本当にあった出来事なのですね・・・ 才能のある人って人格に問題がある場合が少なくないですが、その点ユング先生も例外ではないようです。ちなみに一応はがまんしてた先生に「やっちゃいなよYOU!」とけしかけるのがヴァンサン・カッセル。『ブラック・スワン』でもけしかける立場で、『マンク 破壊僧』では逆の立場で・・・ 忙しいことであります。
まあ映画を観てるとユング先生の気持ちもわからなくはないんですよね。この人のために力になってあげたい・・・という思いがいつの間にか愛に変わるということはよくあります。それが妙齢のカワイコちゃんで向こうからも迫ってきたらなおさらでしょう。
というわけで『失楽園』(古いなあ)よろしくふらふらとよろめいてしまうユング先生。かといって全てを投げ出して彼女の元に走る勇気はなく・・・ 結局そういう中途半端な優しさが一番女を傷つけるのよね! 最低!
話が変な方向に行きました。以下は大体ネタバレで。
まあそんな風にスキャンダラスではありますが、このころがユング先生にとってもっとも活気に富んだ時代だったわけですよね。このあと先生は師であるフロイトと決別し、愛人のザビーネも遠くへ去り、ついにはノイローゼ寸前にまで追い詰められてしまいます。そんなユングの精神は当時の世界情勢とシンクロしていきます。穏やかで華やかだったベル・エポックの年代から、重苦しく陰惨な世界大戦の時代へ。そして人類は二度と20世紀最初期のような希望に満ちた時代を取り戻せなくなります。人も時代も、いつまでも若々しいままではいられない。それは当たり前のことですが、同時にとても残酷なことでもありますね。ふうううう・・・
こうした哀愁漂うムードは、紛れもなくクローネンバーグ作品のそれであります。ザビーネの症状に見られる「自分の内に潜むものが自分を食いつくそうとする」イメージも、監督の映画によくでてきたものでした。ただそれがこれまでのように直接的なグロ描写ではなく、あくまでお上品な範囲で語られるので、長年のファンは少々物足りなく感じられるやもしれません。
そんなクローネンバーグ監督の最新作はすでに北米で公開されている『コスモポリス』。予告編を見ただけではよくわかりませんが、ちょっと彼らしいエグさが戻ってきた感じ。
『危険なメソッド』は現在関東・近畿を中心に公開中。その後ほかの地方を回っていくようです。
Comments
こんにちはー
今回の絵はどっちも日本の政治家みたいだにゃ!!
(お約束のつっこみで)
これまでのクローネンバーグ作品全部観てるほど好きだけど、
私これも好きだよ♪
でもクローネンバーグらしさはほとんどなかったな〜
どうしちゃったんだろね?こんな文芸作品みたいなの撮って
キーラがとにかくすごいよね。賞あげてもいいのにって思った★あのゴリラ顔 笑
それにしてもNYでの公開から1年、あいかわらず日本での公開はまだまだ遅いのもあって残念な限り、、、、
Posted by: mig | November 21, 2012 11:03 AM
>migちゃん
こんばんばん
うむ、今回は確かに似てないな・・・ でもみんなユングとフロイトの実際のお顔とかあんまり知らないだろうから問題なし
いつもイラストは自信満々で描いてるけど
まあやっぱり年を食うとまったりした物も撮りたくなるんじゃないの? イーストウッドしかり。リドリー・スコットは相変わらず血みどろ系だけどねw
『コスモポリス』はそんなに間を置かず上映される・・・らしいよ。しかしクローネンバーグも日本ではすっかり単館系の人になっちゃったね・・・
Posted by: SGA屋伍一 | November 21, 2012 10:17 PM
伍一くん☆
>かといって全てを投げ出して彼女の元に走る勇気はなく・・・
というと、あたかもザビーネを愛していたかのようだけど(そのときは愛していたけど)後年フロイトにもザビーネにも去られた後、やっぱり愛人が居たみたいだし、ユングってそんなやつなのよっ(キッパリ)
でも悪い夫と決め付けているわけではなくて、それはきっと妻の深層心理に自分と離婚したがってる(本当には愛されていない)と判っていて寂しかったとも取れるよね。
ある意味精神を病みやすい人は、依存傾向にあるからそういうことなんじゃないかなぁ。
Posted by: ノルウェーまだ~む | November 22, 2012 12:20 AM
>ノルウェーまだ~むさん
おばんです
そういえば心理学って何かと行動をセッ○スに結びつけようとしますよね。そんな学問に打ち込んでたらやっぱりやりたい放題になってしまうのではないでしょうか(心理学者のみなさんすいません)
あー、あとわたしの観察したところによると男性の七割くらいは「寂しがり屋さん」ですね。カワイコちゃんならともかく野郎に「どうしてもっとかまってくれないの?」と言われてもうざいだけですが
Posted by: SGA屋伍一 | November 22, 2012 11:03 PM