君の瞳はチャンマクチャロー アヌバウ・シンハー 『ラ・ワン』
今年の春、久々にインド映画旋風を巻き起こした『ロボット』。そのヒットを受けてか、「姉妹編」という触れ込みでこんな作品まで日本公開とあいなりました。ラジニカーントと並ぶインドの大スター、シャー・ルク・カーンの『ラ・ワン』ご紹介します。
シェカルはイギリスでゲーム制作会社に勤めているサラリーマン。家族をなにより愛しているが、ドジが多く息子のプラティクから馬鹿にされる日々を送っていた。ある企画でシェカルはプラティクの「悪役が何より強い」というアイデアを取り入れ、画期的なTVゲーム『ラ・ワン』を開発する。一転父親に尊敬の眼を向けるプラティク。だがそんな親子の幸せな姿をよそに、ゲームの悪役「ラ・ワン」は自我を持つようになり、モデル用に作られたドールに乗り移って現実世界で暴走を始める。彼を止められるのはゲームの中で「ラ・ワン」と戦う正義のヒーロー、「ジー・ワン」のみ・・・
うっかりちゃっかりしたムードで始まる序盤。このままずっとそんな感じで進むのかな、と思いきや突然急転直下の悲しい展開になってしまって面食らいました。まあ悲しいといってもそんなに深刻ではなく、すぐまたのんきな調子に戻るんですけど。
『ロボット』の記事でわたくし「どんなにアホらしくても、インドの映画にはカースト制度から逃れたいという人々の願望が反映されている」と書きましたが、この『ラ・ワン』はその点かなり薄味でした。強いて言うならジー・ワンが最初ヒロインに邪険にされるあたりに「身分の低い者の悲しさ」が表れているかもしれませんが、それはさすがに深読みしすぎかしら。むしろこの「善の象徴と悪の象徴が真っ向から激突する」というシンプルでゲームっぽい設定は、ハリウッドのB級映画に多い気がします。実際スタッフにもハリウッドの人が数名名を連ねておりますし。
もちろんインド映画でおなじみの歌・ダンスシーンも満載です。『ロボット』では唐突に心象風景のように挿入されていたミュージカル部分ですが、こちらではもう少し自然に織り込まれておりました。パーティーのシーンでそのままダンスに突入したりとか、時間の経過を示すくだりでBGMのように使われてたり。
というわけで、『ロボット』にくらべるととてもよくまとまってる半面、インパクトの点ではいささか分が悪いかも。ただあくまで『ロボット』とくらべてであり、そんじゃそこらの映画なんかよりはよっぽどぶっとんでいます。
特にラ・ワンの猛攻になすすべなし・・・と思われたところへジー・ワンがさっそうと現れるところは問答無用で燃えます。アメコミヒーローが好きな人であればこの場面だけでごはんが十杯はいけるでしょう。
冒頭で『ロボット』の姉妹編と書きましたが、ではどの程度関係あるのかというと、ほとんど関係ありません(笑) 中盤のある場面でチッティがさっそうと現れ、なにもせずに去っていくというただそれだけ(一応ラジニ本人が演じてはいますが)。これだけで堂々と「姉妹編」と宣伝してしまうとは・・・パ○コさんア○プリンクさん、あんたらもなかなかやり手やね! しかしまあそんなことはどうでもいいと思えるくらい、痛快な作品でした。
『ラ・ワン』はできれば映画館で観て欲しい映画ですが、もうこれからやるとこ新潟と沖縄くらいしかないな・・・ とりあえず今月末にはDVDが出ます。
インド映画ではこのあと12月頭にラジニの『ボス、その男シヴァージ』が公開されます。あとインド映画じゃありませんがゲームの悪役が自分のアイデンティティーに悩む『シュガーラッシュ』が来春公開予定。どっちも楽しそうですね!
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