清貧フィンラン道 アキ・カウリスマキ 『ル・アーヴルの靴みがき』
先月は映画館で二度フィンランド映画を観る機会がありました。一本はとんでもSF映画『アイアン・スカイ』。そんでもう一本は名匠アキ・カウリスマキ5年ぶりの新作『ル・アーヴルの靴みがき』。ご紹介します。
南仏の港町ル・アーヴルで靴みがきをしている老人マルセルは、貧しいながらも妻と二人穏やかな日々を送っていた。ある時港でランチを食べようとしたマルセルは、コンゴから逃れてきた難民の少年イドリッサと出会う。かくまえば罪に問われると知りつつも、マルセルは少年のために人肌脱ごうと奔走する。妻アルレッティがひそかに重い病を患っているとも知らずに・・・
というわけで記事タイトルに思い切り「フィンランド」と書きましたが、舞台はフランスです。アキ・カウリスマキといえば珍妙なヘアスタイルのバンドを描いた『レニングラード・カウボーイズ』二部作などで前から存じ上げていましたが、作品を観るのは初めて。わたしが見た時はいつもは片手前後くらいしかお客がいないジョ○ランド沼津に辛うじて十人くらい入っていて、「さすがカウリスマキ!」と思いました。
さて。作品のカラーを一言で申しますと「慎ましやか」というところでしょうか。主人公マルセルの生活は極貧というわけではありませんが、とても質素です。そもそも靴磨きで生計を立てているというあたり、お金とは縁がなさそう。日本でも戦後まもなくはたくさんいらっしゃったんでしょうが、たぶん今はいませんよね、靴磨きのおじさん。そんなところも含めて、この映画現在より三四十年前の設定なのかな、と。21世紀を象徴するネット・パソコンも出てきませんし、音楽が奏でるのはCDじゃなくてアナログレコードだし。あ、でも携帯電話はちらっと出てきたな・・・ 世界にはまだあちこちにこういうゆったりした社会が残されているのかもしれませんね。
慎ましやかなのはマルセル夫妻の人柄もそう。表情に乏しく、必要なことしかしゃべりません。特に奥さんのアルレッティさんの放つ独特なムードは岸田今日子に非常に近いものがありました。それだけに言葉のひとつひとつに重みが感じられるというか。
なぜ見ず知らずの少年(しかも異人種)にそこまで親身になるのか、マルセルは特に語りません。「自分には社会を変えることはできないし、難民すべてを救うこともできない。でもせめて自分の目に止まった少年くらいはなんとかしてあげたい」そう普通に思っただけのことなのかもしれません。
そんな彼の行動に心動かされて、最初は「ツケ返して」「売るものはないよ!」と言っていた商店街の皆さんも少年のためにできることを行います。職務に厳しい鬼警部も、大岡越前顔負けの「いきなはからい」を見せてくれます。そんな大仰ではない自然な善意の示し方も慎ましやかで、でも力強いものでありました。
こういう遠くはなれた土地の映画を観ても普通に人々に共感できたとき、わたしは「やっぱりどこの国の人間もそう違うものではないんだな」と嬉しくなります。もちろんさっぱり理解できないときもありますが(笑)、そういうのは邦画の中にだってあるしね~
『ル・アーヴルの靴みがき』はさすがにもうどこも上映終わってしまったようです。東京では5月にやってた映画だし・・・ ていうかうちが最後尾だったのか? とりあえず来年頭にDVDが出るようです。
『レニングラード・カウボーイズ』も観たいな~ どこぞの名画座で二本まとめてやってくれないかしら。
Comments
遅かったですねぇ、この映画がそちらに行くの。
関西で好評で、結構いつまでもかかってましたから、そういうのも影響したのかもしれません。
今回のイラスト見て「えっ、どんな映画だっけ?」と思うほど叔父さん似てませんよね(笑)
私も奥さんの役の人は岸田今日子と思って見てました。
Posted by: サワ | November 14, 2012 07:49 AM
>サワさん
公式サイトの公開劇場一覧見てみたんですが、ウチの劇場出てませんでしたw 後付でオマケのように上映決まったのかもしれません
みんな最初に知り合ったころは「イラスト面白いですね!」「上手ですね!」とやさしい言葉をかけてくれるのですが、仲良くになるにつれだんだん本音が出てきますね
子供の方はともかくじいちゃんの方はわりと自信あったのだが・・・ 出直してきます
奥さんが岸田今日子ならだんなさんは仲谷昇か
Posted by: SGA屋伍一 | November 15, 2012 11:20 PM