学園煉獄 朝井リョウ 吉田大八 『桐島、部活やめるってよ』
朝井リョウ氏による印象的なタイトルの青春小説を、『クヒオ大佐』『パーマネント野ばら』などの吉田大八監督が映画化。スポーツものかと思いきや映画オタクも感涙必至の『桐島、部活やめるってよ』、ご紹介します。
そこはどこにでもある普通の高校(少しレベルは上の方かもしれない)。バレー部のキャプテンでエースの桐島。桐島の親友で、やはりスポーツ万能だが半帰宅部になってしまっているヒロキ。桐島の彼女で校内有数の美人と噂されるリサ。バドミントンに情熱を傾けているミカとカスミ。オタク丸出しで映画製作にいそしむ前田。
学校生活を楽しんでいた彼らだったが、突然桐島が部活をやめてしまったことをきっかけに、心の中に不穏なさざなみが揺れ始める。
実は登場人物はまだ他にもちらほらいまして、物覚えの悪いわたしは冒頭話についていくのが大変でした。彼らをグループわけするとおおむねこんな感じでしょうか。
・放課後3ON3に興じている桐島の親友たち
・ルックス高めの仲良し女子四人組
・桐島のチームメイトであるバレー部の部員2名
・ヒロキに片思いしている吹奏楽部のアヤ
・女子たちから敬遠されている映画オタクの前田くんとその相棒
実は肝心の桐島は話題に出るだけで実際の画面には登場しません。一週間近く経っても一向に姿を現さない桐島に、登場人物はどんどん苛立ちを募らせていきます(あくまで対岸の火事、みたいなキャラもいますが)。
そんな桐島を通して見えてくるのは、各人の「好きなもの」への思い。迷いなく好きなものに情熱を傾けられる者。才能に恵まれているのに、好きなものが見つからない者。好きだと思ってたのに実はそうでもなかったことに気づいてしまった者。好きなんだけど能力が追いついていかないゆえに歯がゆい思いをしてる者、などなど・・・ 桐島くんは果たしてどうだったのでしょうか。生徒たちの会話から察するにその日の前まではバレーに並々ならぬ情熱を注いでいたことは確かです。だけどある時本当に好きではないことがわかってしまったのか。あるいは好きなままでいたいからこそやめてしまったのか? その辺は藪の中であります。
あと男子は「好きなもの」が部活だったりスポーツだったりするのに対し、女子は普通に恋愛対象である場合が多かったりして。
そんな風に今時の若い子たちの繊細な心理が、モノローグを排した乾いたタッチで描写されます。もうじき40に手が届くわたしにも普通に共感できるところが多く、嬉しい反面、自分に「いいかげん大人になれよ」とも思いました
登場人物の中で一番身近に感じたのはオタクの前田くん。女子達からはキモ悪がられ、映画秘宝を握り締めて「今月号はすごいよ!」と叫ぶ彼。これが共感せずにいられようか! 反面もっとも縁遠く感じたのはイケメンでモテモテでなんでもできてしまうヒロキくんでした。実際この二人は同じクラスであるということ以外、クライマックスまでまったく接点がありません。
(以下はネタバレで参ります)
しかし終盤で起きたある事件をきっかけに、二人はほんのわずかな間だけ気持ちを通い合わせます。先日観た『鍵泥棒のメソッド』もそうでしたが、わたしこういう話に弱いんです。「なんでもできていいよな、お前は」と思っていたヒロキ君だって、心の中にある種の空洞を抱えていて、好きなものに純粋に打ち込んでいる前田君のことをまぶしく思っている。そのことになんだか安心したりしました。
んで、ここで前田くんが映画やフィルムに対する思いを淡々と、しかし力強く語るんですが、ここがすごくよかったです。わたくし正直いま映画界を賑わせている「フィルムとデジタルの質の違い」というやつがよくわかりません。でも八ミリカメラを通してぼやける映像を見て、フィルムの良さというものが少しだけわかったような気がします(ま、そこもデジタルで撮ってんですけどね・・・)
あと前田君はなぜ映画を作り続ける理由について「こちらの世界とあちらの世界がつながっているように感じられて」と語ります。その時の演じている神木隆之介君のニッコニコした表情があまりに可愛らしくて思わず抱きしめたくなりました(←キモいぞー)。ヒロキ役の東出昌大君はこれが俳優デビュー作になるそうですが、初めてで戸惑ってたところへ神木君が色々励ましてくれて「すごく嬉しかった」と語っていて、それがまたなんとも微笑ましく感じられました。
ただ映画はさわやか・すこやかなばっかりでなく、青春のほろ苦さややるせなさも十分に描かれています。下手すると高校時代のトラウマを思い出してずーんと落ち込んでしまう可能性もありますんでその辺どうぞお気をつけて。
『桐島、部活やめるってよ』はもうほとんどの劇場で公開が終わってしまいました。またタイミング逃してるよ! ただ都内のシネリーブル池袋では1日一回上映になってしまったものの続映中で連日満席を記録してるとか。まちがいなく今年の邦画を代表する一本ですので、ご興味抱かれた方はぜひ。
Comments
原作通りのタイトルなんで仕方ないのですが、お客の入らなさそうなタイトルの見本みたいなタイトルですよね。
桐島、部活なんとかっていう映画ってなるみたいです。
この映画、全くノーマークだったのを、岩井秀人さんが出演(映画部の顧問役)と聞き見に行きました。
この夏、トップクラスの作品だったと思ってます。
岩井秀人さんって、とても良いシナリオ書くので、機会が有ればチェックしてみてください。(まだ売出し中です)
Posted by: サワ | September 22, 2012 09:50 PM
>サワさん
お疲れのところコメントどうもありがとうございます
全国的にはそれほどヒットしたわけでもないようですね。ただ記事中のシネリーブルではロングランが決定したようでごく一部では(笑)熱い支持が集まっているようです
わたしも丸っきり観る気なかったのですが、ネット上の評判に動かされて鑑賞してきました。いや、ほんと観ておいてよかったです
岩井さんって、脚本家だったのですか。劇中では神木くんに自作のベタベタな脚本撮らせてウザがられてましたっけw
Posted by: SGA屋伍一 | September 22, 2012 10:31 PM
SGAやん、こんばんは。
神木くん、本当良かったですよね〜!
私正直、見るまでは、神木くんは所詮イケメン美青年であって、
オタク役なんて出来るのかよ本当に!オラオラ!
なんて斜に構えていたのですが、「イケてないダメンズ」的な小手先の演技技術を
ちゃんと駆使している彼に、その度力いっぱい「偉いっ!」と熱くこぶしを握って応援してました。
ロメロ好きって辺りにまずシビレますしね〜。
あれでホラーファンの8割はこの映画に惚れたっしょ。
Posted by: とらねこ | October 23, 2012 01:00 AM
>とらねこさん
お返しありがとう。TBが入りにくかったようで申し訳ないっす。
神木君はちっちゃいころを仮面ライダーなどで見たことあるんだけどね、それはもう天使のようにかわいらしいお子さんだったのですよ・・・ それがこんな立派なオタク君に育ってくれてお兄さんは嬉しいですw と思ったらまた大河で美青年役やってましたけどね
それはともかく相棒のオタク友達とのやりとりにもいちいち「あるある」とにやけさせられました。まあ本当はわたしもヒロキ君のようなリア充な高校生活を送りたかったですけどね
あと神木君というか前田君には「腹からなんか出てくる」だけであんなにすらすらタイトルが出てくるところにも感心しました。「映画監督は無理でも映画ライターはぜひめざしてほしいw
Posted by: SGA屋伍一 | October 23, 2012 11:42 PM
伍一くん☆
ほんと、興味をもたれないようなタイトルとポスターだったので、しっかり見逃しちゃってました(汗)
だって神木くんがこんなオタクやるとは思わないもんねー
ただの青春ものだったらクソだし・・・と思っちゃったの。
彼は美青年だけど本質はオタクらしいので、きっとこの役を楽しんで演じていたことでしょう。
ちなみに私は女子高だったし、リア充な女の子なんてクラスには2~3人程度だったよ。
Posted by: ノルウェーまだ~む | April 05, 2013 12:22 AM
>ノルウェーまだ~むさん
こんばんは。今晩は大暴風雨ということですが、さて
都市部ではけっこうなロングランでしたが、こちらではさくっと終わっちゃってました。果たしてどれほど儲かったのやら・・・
子役のころもてはやされた俳優は大成するの難しいとよく言われますよね。その点神木くんはまだまだのびしろがあるように感じました。大後寿々花ちゃんもがんばってほしい
女子高か・・・ いろいろ妄想が膨らむなあ。あっ! 逃げないで!
Posted by: SGA屋伍一 | April 06, 2013 10:08 PM
こんばんは♪
コメントありがとうございました
「映画秘宝」とはどんなものじゃ!?という謎がひとつ解けたような気がします
でも、なんか、1ページめくったらとまらなそうな気がしないでもないんですよね(笑)
神木君のいけてない「女走り」疾走姿の細かさに驚いてみたり(男子!という走り方じゃなかった)リアリティのありすぎる会話や友人関係が、非常に痛々しくも胸に響く作品でした
前田のファインダー越しにみえた、妄想ゾンビ世界の出来も素晴らしかったですよね^^
Posted by: maki | April 25, 2013 09:34 PM
>makiさん
こんばんは。遅くなりましたがこちらにもコメントありがとうございます♪
うん、やっぱり『映画秘宝』ってなんか怪しいですよね。たぶんタイトルはわが町にある怪しい施設「秘宝館」から取ったと思うのですが、そこからしてもう怪しい(笑)
わたしも顔もっとイケてませんでしたがもろ前田くんみたいな少年でしたねえ。美少女と「仲良くなれた!」と喜んでたら勝手な思い込みだったりとかねえ。ふうううう
あとゾンビの出てくる映画がこんなにも日本映画界で高く評価されてるというのも、すごいことだと思います
Posted by: SGA屋伍一 | April 27, 2013 10:20 PM