バットマン・イズ・オーバー クリストファー・ノーラン 『ダークナイト・ライジング』
あの『ダークナイト』から四年、クリストファー・ノーラン版バットマン待望の第三作が公開となりました。本当はもっと盛り上がってるときに記事をあげたかった・・・ 『ダークナイト・ライジング(原題はライジス)』、ご紹介いたします。
ジョーカーがゴッサムシティを恐怖のどん底に叩き落してから八年。バットマンとゴードンとの間で交わされた密約により犯罪は激減。街はかつてない平和な日々を享受していたが、一方繁栄の裏で貧富の差は拡大していった。そんなゴッサムでかつてバットマンと戦った革命家の後継者が暗躍を始めていた。鍛え上げられた肉体と絶大なカリスマ性を持つその男の名はベイン。ベインの陰謀は長らく姿を消していたバットマンの復活を呼び起こし、ゴッサムに再び嵐が吹き荒れようとしていた。
第一作『バットマン・ビギンズ』の記事はコチラ。第二作『ダークナイト』の記事はコチラ
公開されるやいなやツイッターでは「絶対ネタバレすんなよ! したらぶっ殺すぞ!」みたいな殺伐とした空気が流れていました。まあネタバレは誰しも嫌がるものですが、ここまでそれが顕著に現れた例も珍しいでしょう。でもここはブログですし、もう上映されて一月近く経ってるのでほぼネタバレで参ります。これから観ようかという方は避難されてください。
ラーズ・アル・グールが冷徹な革命家、ジョーカーが悪魔的な愉快犯だとすれば、ベインは「怒りに燃える狂信者」といったところでしょうか。ただこのベインさん、一体何がやりたいのかよくわからないところがありまして、ネット上で色々叩かれてました。貧民たちをたきつけて革命を起こすのが目的なのかと思ったら、「どの道ゴッサムは核で吹き飛ばす」とか言うし。
たぶんこのベインさん、重度の「罰フェチ」なんだと思います。「その人(物)にぴったりあった罰をコーディネートする」、そういうのに異常なまでの情熱を燃やすタイプなんではないかと。そうでもないとすぐにでも殺せる状態のバットマンをわざわざ遠くの国の穴倉まで放り込みにいったりはしないでしょう。
ゴッサムに対してもただ吹き飛ばすだけでは物足りないので、その欺瞞を世界中に見せ付けてさんざん羞恥プレイを加えてから全員消滅させる・・・というのが彼の考えた「ピッタリの罰」だったのではないでしょうか。うわあ、ねちっこい! まるでボクみたい! ただそのまわりくどさが、結局計画の破綻を招いてしまった気はします。
という感じでむりやりこじつけてみましたが、他にも苦しいところは色々あります(^^; それでもこの映画、そしてクリストファー・ノーランには欠点を補って余りある力を感じました。例えば八年ぶりにゴッサムに現れるバットマンのシーン。これひとつとっただけでも三部作を追いかけてきた者としては全身があわ立つような興奮を覚えさせられました。
今回特に気づいた点は子供に関して印象的な描写が多かったということ。ゴッサムの孤児院の明日無き少年たち、牢獄で生まれた不幸な赤子、セリーナが養っている不良少女、飛んでいくバットマンを見上げてはしゃぐ子供達、などなど。良家の男の子が国家を歌うところでベインが「美しい・・・」と感じ入るシーンもなにやら意味深げでした。そして幼き日のブルース・ウェイン・・・
この映画からわたしが受け取ったメッセージのひとつは、当たり前のことですけど、「大人は子供のよい手本、あるいは庇護者でなければならない」ということでした。悲劇に打ちのめされているブルース少年を救ったのはゴードンがかけてくれた暖かいコートでした。その手本を見て、ブルースはゴッサムの子供達の守護者になったのです。それに対して大人たちが欲望をむき出しにした「牢獄」の子供は成長してああなってしまったわけで・・・
まあわたしも「ちゃんとした大人」かといえばいささかこころもとありませんが、それでも泣いている子供がいたら「かわいそうだな」「なんとかしてやりたい」と感じる気持ちは大切にしたいものです。
3作全部観て、やはりこのシリーズはブルースとゴードンの絆の物語だったのだと思いました。腐敗と暴力にまみれた街を、なんとか日の射す場所にしたかった二人の物語。お互いがいたからこそ彼らはラースにもジョーカーにもベインにも立ち向かえたのだと思います。くどいようですが終盤にわたしが『ビギンズ』で特に好きだったシーンを挿入してくれたので、細かいアラはすべて見逃すことにしました。そして彼らの精神は次世代に受け継がれていく。ノーラン監督、わたしのこの記事や『ダークナイト』レビュー読んでいてくれたんだなって胸がほっこりいたしましたよ(んなわけねーだろ)。ノーラン版のブルース・ウェインは実の父親はいなくても、「父親代わり」には本当に恵まれていますね。その代わりといってはなんですが、女性にはふられたりだまされたりばっかりで・・・
というわけで「壮絶に」完結となりましたノーラン版バットマン。ここまで完璧にやられちゃうともう今後十年くらいはリブートもないんじゃないでしょうか。ただDCは近々自社のスーパーヒーローを勢ぞろいさせた『ジャスティスリーグ・オブ・アメリカ』を製作予定。恐らくバットマンも出るものかと思われますが、間違いなくノーラン版とは別人の「ブルース・ウェイン」になるでしょう。頭を切り替えて、楽しみにしたいと思います。
Comments
おひさしぶり!
なんだかんだで夏休みも終わりかけています・・・・まだまだ暑いのに。
私もこれ最近観ました。私としては結構大満足の作品で
クリスチャン・ベールに惚れ直してしまいました。
べインがいまひとつ何がしたいかわからん悪役だったという点と
ブルースは女運がないというのには激しく同意いたしますわ。
今回一番印象に残ったのは案外アン・ハサウェイの魅力だったりしますが
私はけっこうMもSも持ち合わせているので
キャットウーマンの格好をして鞭なぞ鳴らしてみたい・・・というのは嘘ですが
闘う強い女性を観るのも楽しいものです。ストレス解消には。
でもでも終わってしまいましたね~~ このシリーズ。
残念だなぁ・・・・
Posted by: なな | August 22, 2012 10:41 PM
>ななさん
こんにちは! わたしの夏季休暇は親戚の相手でほぼ終了しました(笑)
クリスチャン・ベール、今回もよかったんですけどね、全体的に弱弱しいシーンが多くて、つい前作『ザ・ファイター』のヤク中の役を思い出してしまいました
ところでななさん、思い切った告白を(^^;
『バットマン・リターンズ』では全身レザーに身を包んでいかにも女王様だったキャットウーマン=セリーナ・カイルですが、今回の彼女はあまりアブノーマルな雰囲気はなく、ミシェル・ファイファーよりもずいぶんかわいらしいイメージでした
>でもでも終わってしまいましたね~~ このシリーズ。
ノーラン版のバットマンって3作合計してもほぼ一年くらいしか活動してないんですよね・・・ なんかもったいない!
Posted by: SGA屋伍一 | August 23, 2012 11:33 AM
伍一くん☆
あれ?平日にUPですか?
ノーラン監督もきっとごいっちのブログ読んだに違いないよ。うんうん。
そして他にも「アベンジャーズ」みたいな映画が作られようとしているの?
そりゃどうなんだろう?
集めりゃいいって訳じゃないよねーウルトラ兄弟大集合じゃないんだから・・・
Posted by: ノルウェーまだ~む | August 23, 2012 03:57 PM
こちらにもお邪魔します。
ベインは本作で初めて知った存在でしたが、知力体力を併せ持つ隙の無い悪役だなあという印象の他にも、愉快犯のジョーカーなんかと比べても無計画(ジョーカー)と計画性(ベイン)という対極みたいなのも見受けられて不思議な感じもありましたね^^。でも最後があんな感じでもありましたから、彼の立ち位置みたいなのが途中でブレちゃったように見えて勿体無かったんですよねぇ。あの牢獄で黒幕との関係性をもっと明確に描いていれば、ジョーカーとまでは言わずとも印象に残るヴィランになったかもしれません・・。
そいえばノーランバットマンは原作の方に忠実と言われてる作品ですけど、ベインに関しては忠実にしないで正解かもしれませんね(画伯の絵を見る限りではっw)
Posted by: メビウス | August 23, 2012 08:31 PM
終わってしまいましたね〜。ノーラン版のバットマン!
このシリーズは、最後までクールでシリアスだったなぁ〜。
私もブルースとゴードンの絆の物語だったと思いますよ。
未来に希望をたくすラストは、なかなか感動的でした。
Posted by: ルナ | August 24, 2012 12:34 AM
バットマン好きの私がそこまでこれにハマれなかったのは、
キャスティングがノーラン御用達の方達だらけ
ってことと
ゴッサムシティの良さがあまりでてないこと、
そしてビギンズを直前にみなおさなかったこと
(これは自分のせい)なのよね。
だから
>ブルースとゴードンの絆の物語だったのだと思いました
ここまでかんじとれず残念。
マリアンコティヤールのキャラはむりくりな感じして
いらないと思ったワ。
Posted by: mig | August 24, 2012 09:21 AM
>ノルウェーまだ~むさん
こんちはっす。これは一昨日の夜くらいにヒーコラ言いながら上げました
そっか、やっぱりノーラン読んでてくれたんだな・・・ じゃあアイデア料払えよな!(すぐ図にのる)
ジャスティスリーグというのも戦前からある由緒正しきヒーローチームなんですよ。ただ今まで全然映画化の話を聞かなかったのに、ここにきてどんどん話が進みだしたのは明らかにアベチャンズの影響のせいでしょうね
Posted by: SGA屋伍一 | August 24, 2012 11:06 AM
>メビウスさん
こちらにもども!
ベインも最初はなかなかがんばっていて、「おお、ジョーカーにもひけをとってないぞ!」と思ったんですが、最後のあれはあまりにも残あっけなかったですね・・・
もしヒース・レジャーが生きていたらジョーカーもこの作品に出て、ベインとバットマンの三つ巴になったかもしれません。でもそうなるとメチャクチャ収拾つかなそう(^^;
>ベインに関しては忠実にしないで正解かもしれませんね(画伯の絵を見る限りではっw)
ええ!? こんなにかっこいいのに!?
ちなみに原作に忠実なベインは『バットマン&ロビン』で見られますよ~
Posted by: SGA屋伍一 | August 24, 2012 11:24 AM
>ルナさん
こちらにもありがとうございます
本当に「アメコミヒーローだって、ここまでリアルにシリアスにできるんだ!」ということを証明してみせた三部作でした
皮肉っぽい作品もあるノーラン氏ですが、今まででいちばんさわやかな幕切れだったのではないでしょうか
Posted by: SGA屋伍一 | August 24, 2012 01:27 PM
>mig ちゃん
おかえしども
ノーラン監督も気に入った人は何回も使うタイプだよね。とりあえず最多出演はベール、キリアン、マイケル・ケインの四回かな
ゴッサムシティはノーランの場合作品ごとにイメージが変わったような。バートンの漫画をそのまま立体化したゴッサムも思い出深いね。あれは本当に多くの手間ヒマをかけてデザインしたって聞いた
コティヤールのあのキャラは原作にもちゃんとあって、けっこう長いこと活躍してたりするんだよん。まあ今回は確かにいろいろ唐突だったw
Posted by: SGA屋伍一 | August 24, 2012 02:00 PM
『バットマン&ロビン』はシュワちゃんだし
当時映画館で観てるんだけど、ベインが出てたことは全然覚えてないです。。。
バットガールがムチムチだったことはよく覚えてる。
ライジングは自分でもなんでそこまでハードル上げてしまったのかよく分からないけど
とにかく期待しすぎて、だいぶガッカリでした。
それでも二回観たけど
ブルースとゴードンの絆の物語かー。
てかあんなハイテクな乗り物を乗り回すバットマンの正体って
だいぶ限られるでしょうに、ゴードン気付くの遅すぎ!と
心の中でツッコミました。
Posted by: kenko | September 29, 2012 12:00 PM
>kenkoさん
こちらにもどもー
ベインはバットガールよりさらにムチムチだったポイズン・アイビー(ユマ・サーマン)のお供みたいな感じで登場してました
チューブをひきぬかれた途端あっというまに収縮してしまって、ええ、それは情けなかったですね
『ライジング』は否定派もわりといますね。やっぱり三部作で尻上りにレベルをあげていくのって、なかなかむずかしいものです。ライミ版スパイダーマンもそれで失敗したし・・・
>ゴードン気付くの遅すぎ!
それは『ホームズ』のワトソン君が何かにつけ気づくのが遅いのと同じことですよ。見逃したって!
Posted by: SGA屋伍一 | September 29, 2012 09:00 PM