ウルフガキ 細田守 『おおかみこどもの雨と雪』
♪わーお わーお わおー どどんがどんどんどんがどんどどど
『時をかける少女』『サマーウォーズ』でその名を不動のものにした細田守監督が次に描いたのは、人間と狼男の壮絶なサバイバルバトル・・・ではありません。『おおかみこどもの雨と雪』、ご紹介します。
女子大生の花は、ある日同じ講義を受けている謎めいた青年に目を留める。彼のことが気になった花は思わず声をかけてしまい、以来二人の仲は急速に深まっていく。だが青年には秘密があった。彼は現代に生き残った狼男の末裔だったのだ。それでも気にせず、青年を受け入れる花。やがて結ばれた二人の間に、雪という女の子と、雨という男の子が生まれる。しかししあわせな四人の日々は長くは続かなかった・・・
例によって徐々にネタバレしていきます。
狼男といえばわたしが思い出すのは平井和正氏の『ウルフガイ』。無頼と孤高を気取りながら、弱き者に対しては限りなく優しい。そんな青年犬神明と、本作品の「おおかみおとこ」はイメージ的にかなり近かったです。
ただこちらのウルフ君は死に様があまりにもあっけなかった・・・ 鳥を獲ろうとして車にはねられたのか、高いところから落ちたのか。そしてワンコのままゴミ収集車行きって・・・ ここ、とても哀しいくだりだと思うのですが、わたしはなんだか笑えてしょうがありませんでした(感動した人スイマセン)。
ですが、一人で獣人の子二人を育てなければならなくなった花さんにしてみればたまったものではありません。線の細い人ならたちまちノイローゼになりそうな状況で、それでも花さんは笑顔を絶やしません。「咲く」という言葉には「笑う」という意味もあるのですが、まるで野の花が咲くように彼女は笑い続けます。やがて成長していく子供達。雨も雪も花の上に一時降り積もることはあっても、やがて通り過ぎ、どこかへ消えてしまいます。それでも花は土に根を生やし、穏やかにそれを見送っていく・・・ そんなお話でありました。
わたくしなんでこれ、「おおかみ」の話なんだろうと思ったのですが、細田監督としては狼に育てられたという少女、アマラとカマラの話が念頭にあったのかもしれません。もしかしたら人は狼としても生きられるのかもしれない・・・と。まあ狼少女の話は実際は発見した牧師の捏造だったらしいのですけど、それはさておき。
人として生きる、とはこの場合、人と関わって生きていくことをさしているのだと思います。一方狼として生きるというのは、誰にも頼らず己の力ひとつで生きていくことをさしているのかな・・・と。作品はどちらの生き方にもエールを送ります。
ただねえ、幾ら山の管理人が必要だからってまだ12歳なのにお母さん一人をおいて山の奥へと去っていってしまうのは薄情すぎやせんかと思いました。山から家へ通うことはできないのか? パンダコパンダのパパパンダはちゃんと家から通ってたぞ!・・・おっとまた宮○駿と比べてしまった・・・
とまあちょいと不満もありましたが、終盤の台風にさらされる学校のシーンはため息が出るほど神々しかったです。雨に覆われていく校庭。取り残された少年と少女。暗闇の中ゆらめくカーテンに見え隠れする少女の姿が、奇跡と言えるほどに美しく。アニメ映画のみならず、日本映画史上屈指の名シーンだと思います。
今敏氏が亡くなったのは日本アニメ界にとって本当に痛手でしたが、宮崎吾朗、原恵一、そしてこの細田監督と、ポストパヤオを担う作家は着実に力をつけているのだなあ・・・としみじみ感じ入りました。『おおかみこどもの雨と雪』は、現在全国で『海猿』の次くらいに大ヒット上映中です。
« 本当は恐ろしいアニメ童話 マーク・アンドリュース ブレンダ・チャップマン 『メリダとおそろしの森』 | Main | バットマン・イズ・オーバー クリストファー・ノーラン 『ダークナイト・ライジング』 »
Comments
こんにちは。
心洗われる良い作品でしたね。わたしも好きな作品です。
細田監督次回作楽しみですね♪
Posted by: 天羽鈴 | August 20, 2012 05:27 PM
>天羽鈴さん
わざわざこちらまでありがとうございます
実はわたしは前二作の方がすきなのですが、作品や絵の成熟度はこちらの方が上ですね
次回作はまた三年後かな・・・
Posted by: SGA屋伍一 | August 20, 2012 10:15 PM
SGAさんこんばんわ♪コメント有難うございました♪
個人的にサマーウォーズみたいになんか色々とワッショイしてるエンタメ作品が印象的でもある細野作品なので、1人の女性の人生の一端を描いた本作は当初毛色が違うような雰囲気も抱きましたねぇ。でも花の13年間の軌跡は『おおかみ』というちょっとしたファンタジーを付け加えたことによってなのか、普通の子育て風景もイイ意味で異色な感じがあって、笑いあり涙ありハラハラありと、結果的にはちゃんとエンタメしてて面白かったですね♪子育てモノでここまでハマってしまったのはナムコのゲーム『子育てクイズ マイエンジェル』以来かもしれませんw
そいえば雪のカミングアウトシーンは自分も感動しましたね。教室のカーテンの好演出に感動もすれば、草平クンの心の広さにもこれまた感動。雪は絶対草平クンの嫁に行くべきですっ。
Posted by: メビウス | August 23, 2012 08:04 PM
こんばんは!(*^^*)
もしかしたら動物は、人間より成長が早いので、12歳でも
結構一人前なのかもしれないなぁ〜と思いましたが、
子供たちが巣立ってしまっても、花ちゃんはまだ30前半ですよね〜。
これからずっと田舎で一人で暮らしていくのはなんだかなぁ〜と
思ってしまいました!!!
良い作品でしたが、私もどちらかというと前二作の方が好きです。
Posted by: ルナ | August 24, 2012 12:15 AM
>メビウスさん
おかえしありがとうございまする。
細田監督は『時かけ』で自分の趣味に走りすぎ、『サマー~』では観客サービスを重視しすぎたと語ってました。だから今回は趣味とサービスのバランスをとって作ったみたいです
先日うちにも姪っ子と親戚の子(共に二歳)が来てたんですが、それはもう元気に走り回っていて、それこそ雨ちゃんと雪ちゃんのようでした。たった数日間だったけど、すげえ疲れた(笑) 楽しかったですけどね
おおかみとうさんが結ばれたのが「花」さんだったわけですから、雪ちゃんが「草」平くんと結ばれるのは至極自然な気がします。また苦労があるんでしょうけど、二人ならなんとかなるでしょうね
Posted by: SGA屋伍一 | August 24, 2012 11:15 AM
>ルナさん
ちはっす。犬猫は12歳っていったらもう立派なじいちゃんばあちゃんなんですよね。狼の寿命もそのくらいだと思うんですが、狼人間は人間と同じくらい生きられるのかな?
花ちゃんは文太さんのじいちゃんと結婚しちゃえばいいと思います。あ、また先立たれちゃうか
Posted by: SGA屋伍一 | August 24, 2012 01:21 PM
おおかみお父さんが死ぬシーンが笑えたなんて・・・ひどい
しかし笑ってないとやってられないくらい
とんでもない悲劇ですよね・・・
愛する夫が死んで、ゴミ収集車に回収されるなんて・・・
その後の子育ても、頭がおかしくなって当然の過酷さなんだけど
雨雪ちゃんのアニメーション的なおもしろかわいさで
なんとか楽しく観ることができました。
現実だったらありえないなーと思いながらも。
ほんとだ雨くん、家から山へ通ったらいいのに・・・
あ、でも、子供がそのような生活をすることは
むしろ人間界のほうが許してくれないかも?
Posted by: kenko | September 29, 2012 11:29 AM
>kenkoさん
おかえしどうもありがとうございます。いやー、気の毒すぎて笑ってしまいました。ひどい男ですいません
しかし男って本当に肝心な時に役に立ちませんよね。花さんの夢枕?で「ずっと君たちを見てた」と言ってましたが、「見てただけかよ!!」と思わずツッコミそうになりました
まー彼にしてみればあの世で孤軍奮闘する花さんをただ見ることしかできなくて、いろいろ歯がゆい思いをしてたのでしょうけど
そういえばいろんなところで言われてますけど、花さんは雨くんがいなくなってしまったことを周囲にどう説明してるのでしょうね? やっぱり雪ちゃん同様「遠くの学校に行くことになった」ってことにしてあるのかな?
Posted by: SGA屋伍一 | September 29, 2012 08:53 PM