間食なくして何の人生 伊坂幸太郎・中村義洋 『ポテチ』
小説にしろ漫画にしろ、実写映画化されると大抵原作ファンからは不満の声があがるものですが、その数少ない例外と言えるのが「伊坂幸太郎原作・中村義洋監督」作品。本日は『アヒルと鴨のコインロッカー』『フィッシュストーリー』『ゴールデンスランバー』に続くこのコンビの第4作、『ポテチ』をご紹介します。
今村は仙台で活動している泥棒。ある晩今村は恋人の若葉とともに憧れの野球選手、尾崎のマンションに忍び入る。そこへかかってくる一本の電話。今村は「過去のある経験」もあってついその電話を取ってしまう。電話の主は以前尾崎にストーカーから助けてもらった一人の少女だった。またそのストーカーから呼び出しを受けたので、尾崎に力になってほしいと言う。かげながら尾崎のサポートがしたいと願う今村は、若葉とともにその少女に会ってみることにする。
この冒頭のシーンが面白いですね~ 人のマンションで自分の部屋のようにくつろぐ今村君。しかも女連れ。自分はやったことないのでわかりませんが、泥棒ってのはもっとこそこそ緊張感をもってやるもんではないでしょうか。そして間違ってもかかってきた電話を取ったりはしないのでは・・・ まあこれにはそれなりの理由があるんですけど。泥棒さんがアパート借りて我々と同じように日常生活を営んでる情景も、不思議といえば不思議でありました。
この今村を演じているのが今年『ロボジー』や『宇宙兄弟』でも出演している濱田岳くん。最初に「コンビ」と書きましたが、正確には「トリオ」かも。濱田君は伊坂原作&中村監督の4作品に全て出演しているので。しかも今回は堂々の主人公であります。
わたくし濱田君は『フィッシュストーリー』や『ロボジー』での印象が強く、「気の弱いその辺の青年の役が似合う俳優」と思っていたのですが、この映画では実に色々な顔を見せてくれます。今村というキャラは前述のようなヘタレ君の時もあれば、突然予測不能の行動に出る天然君でもあり、何を考えているかわからない不気味な面も持ち合わせています。でも心の一番根底にあるのは、他人のことを心から「かわいそう」と思える心優しい性質であったりします。
あともう一人強い印象を残すのが、黒澤というやはり泥棒。演じるのは先ごろ婚約された大森南朋さん。彼も『アヒルと鴨』を除く全ての伊坂×中村映画に出演してますね。
今村が「こんなヤツいるか?」と思えるようなファンタジー系の泥棒だとすれば、黒澤は頼もしくクールでプロフェッショナルなムードに溢れたリアル系の泥棒です。面白いのはそんな今村とはまったく違った気質の黒澤が、彼に頼まれるとほいほいと力になってやってること。そういった黒澤や今村の心情をあれこれ推し量りながら観ると、この映画を一層楽しめるのではないかと思います。
実は黒澤は『重力ピエロ』や『ラッシュライフ』といった他の伊坂作品にも顔を出しています。わたしのイメージとはちょっと違ったけど、大森さんの黒澤はダンディでなかなかようございました。
そして原作版『重力ピエロ』を読んでいると「その知り合いって○○じゃないかーっ!!」と盛り上がれるところがありますので、余裕があったらそちらもおすすめしておきます。
もうひとつこの映画で注目しておきたいのは尺が1時間ちょいと実に短めなこと。その分安めに劇場では料金を1,300円に設定してあるようです。じゃあどんどん映画を短めにしてほしい、というわけではありませんが、作品の内容がコンパクトなものなら、無理にひきのばさずにこういう低料金一時間の映画にしてほしいと思います。
『ポテチ』は東日本での上映はだいたい終わってしまった模様。ていうか昨日までのところが多いようですね(・・・)。ただ西日本はこれから&まだのところが幾つかあります。ま、DVDもそのうち出るでしょう。どうでもいいことですが、わたくしポテチはコンソメパンチとピザポテトが好きです。
Comments
伍一くん☆
「ポテチ」って映画のタイトルは内容と関係あるの?
この映画、結構気になっていたけどスルーしちゃったの。
ファンタジー系の泥棒とリアル系の泥棒って・・・!
どっちも泥棒に変わりないけど、違うのかな?
Posted by: ノルウェーまだ~む | July 19, 2012 12:04 AM
>まだ~むさん
ども~
実は主人公がポテチを食いながらさめざめ、と泣き出すシーンがあるんですけど、これがけっこう重要な伏線になっているのです
ファンタジー系の泥棒というのはルパン三世とかキャッツアイみたいなのですね
リアル系の泥棒というのは・・・ 本物の空き巣とかですよ!
Posted by: SGA屋伍一 | July 19, 2012 10:57 PM