サイコなヴァンサン ドミニク・モル 『マンク ~破戒僧~』
昨年『ブラックスワン』でセクハラの限りを尽くした名優ヴァンサン・カッセル。そのヴァンサンがまたしてもブラックな世界に挑戦!(てゆうかこの人そんなんばっかし・・・) 『マンク ~破戒僧~』、ご紹介します。
17世紀スペインはマドリッド。郊外の修道院に、ある晩一人の赤ん坊が捨てられていた。赤ん坊はアンブロシオと名づけられ、修道士として育てられる。やがてアンブロシオは周囲からその説教を聴きに大勢の人が集まるほどに、高徳の僧として名声を集める。だが彼にはある悩みがあった。夜毎夢の中に出てくる一人の女性。顔を見ようとすると決まって夢はそこで醒めてしまう。その夢はやがて彼を煩悩の地獄へと導くことになる。
原作は18世紀に英国で書かれたゴシック小説。舞台はスペイン。製作国は主にフランス。多国籍ですね。
原作は当時あまりにも過激な描写が物議を醸して、その後160年禁書扱いだったとか。映画の宣伝文を見ると「彼は悪の化身となった」とか「悪の限りをつくした」と書かれていて、「どんだけ悪人なのやら」と思います。
ただ実際に作品を観てみるとだいぶ違う印象を受けます。確かに結果的には犯罪者に堕してしまうわけですが、そんな「究極の悪人」と言えるほど悪人ではないです。むしろ可哀相な境遇にもめげず一生懸命やってきた優等生が、悪魔の蟻地獄のようなわなにからめとられて、気がついたらどうにもならなくなってしまった・・・そんなお話。
それゆえ映画を観ていると「ああ~もう~ そこで思いとどまりなよ~」と必死で願うわけですが、哀しいかなこちらは観客の身。スクリーンの中に入っていくことはかなわず、ヴァンサンが色ボケの道に堕ちていくのを見守ることしかできません。やっぱりいままで色んな作品でセクハラとバイオレンスの限りを尽くしてきたヴァンサンが、潔癖な聖人を演じ続けるということに無理があったのでしょうか。
そんなやるせねえお話をなぜわたしが観にいったかというと、単純に「古めかしい修道院ってなんかワクワクするよな~」というただそれだけの動機。修道院ものの映画といえば『クリムゾン・リバー』などもありましたが、そういやあれにもヴァンサン出てましたね・・・
ともかく荒涼とした風景にどっしりとたたずむゴシック建築と、そこに施されたいかめしい装飾は期待通りなかなかに趣味の世界でございました。そこで深く憂い苦しむヴァンサンの姿と、仮面をつけた謎の修道士がこれまた絵になります。
そんなアートな背景を楽しみながらも、クライマックスのあたりでは「あー、どうしてこんな救いようのない映画観にきちゃったんだろ」と嘆いておりました。でも不思議なもんで最後までがんばって観たら、なぜか不思議と心やすらぐものがあったりして。いや、でもそういう印象を持つ人は少数派かもしれない。よってあんまり他の皆さんには勧めづらい作品です。
『マンク ~破戒僧~』は現在全国の劇場を細々と巡回中。あんまり上映館も多くないのですが、なぜかわが静岡東部が全国でも三番目くらいの公開にあずかりました。別にキリスト教にゆかりの深い土地でもないんですけどね・・・ 観られない地域の人は9月にDVDが出ますので、ヴァンサンや修道院や暗い話が好きな方だけごらんください。
Comments
あれ?これはまだDVDになってなかったっけ、、、?
観たいナぁって思いつつスルーしたの。
アンディの「マッスルモンク」も今度みてね★
Posted by: mig | July 11, 2012 10:57 PM
>migちゃん
マイナーな映画の記事にコメントありがとう! これ、東京でも一館(シアターN・・・)しかやってなかったみたいね
ヴァンサン好きだったら観てみて損はないと思うよ。お尻とか出てくるし。わたしゃ見たくなかったけど
アンディ・・・ ってウォホール? ・・・じゃなくてラウの方か チェックしとくね!
Posted by: SGA屋伍一 | July 12, 2012 09:07 AM