お化けとポストに手紙を入れりゃ 沖浦啓之 『ももへの手紙』
瀬戸は 日暮れて 夕波小波♪ 本日はアニメ作家沖浦啓之氏の久々の監督作品となった『ももへの手紙』をご紹介します。
父親を亡くし、母と二人東京から瀬戸内へとやってきた少女もも。慣れない環境や父への想いから、気の晴れない日が続くもも。さらにおいうちをかけるように、彼女を仰天させる出来事が起きる。いつしかももたちの周りにはえたいのしれない影がうろつき始め、その影はとうとう妖怪となってももの前に姿を現す。
パニックに陥るもも。しかも三匹の妖怪たち… イワ・カワ・マメは畑の作物を荒らしたり、ファンシー系のグッズを盗んだりしてはももを悩ませる。しかし妖怪たちと格闘しているうちに、ももにはいつしか自然な笑顔がよみがえってくる…
いまをさること12年前、その芸術性の高さで海外でも話題を呼んだ『人狼』というアニメ映画がありました。押井守氏原案でパラレルワールドの日本を舞台とした、公安警察の苦闘を描いた作品。
どれほどのものかと思って鑑賞してみたら確かに見ごたえはあったんですが、あまりにも暗く救いがなさすぎる。わたしがこれまでに観た「落込む映画」のゆうにベスト(ワースト?)5に入ります。
そんな『人狼』のこともだいぶ忘れた今年初め、監督の沖浦氏の作品が再び公開されると聞きました。ところがこれが『人狼』とはうってかわったのほほ~んとしたムードでたまげましたよ。さすがに監督も「前作は暗すぎた」と反省したのでしょうか。
ざっと感想を観ましたところ「ジブリと似てる」という印象を持たれた方が多いようです。たしかにどこかしら似通ったところも多々あります。でもしかし、この作品独自のいいところもたくさんあります。それをこれからネチネチとあげていきましょう。
まず宮○駿御大はもうビッグになりすぎて、最近の作品なんか父親、あるいは地球の目線からしか物語を語れなくなってると思うんです。しかし沖浦監督はあくまで少女の感性になりきって、少女の目線でお話を語っていると思いました。そういう点ではむしろ御大のジュニアである吾○氏に近いかも。
ただ宮崎○朗氏の作風がとても生真面目であるのに比べると、『ももへの手紙』はすこーんといい具合に力が抜けております。そんな風に作品のガス抜きとなっているのがイワ・カワ・マメの妖怪三バカトリオ。この三匹、クライマックスぎりぎりまで本当に何の役にもたちゃあしません。それどころか次から次へと軽犯罪を繰り返す始末で、ももちゃんならずとも頭を抱えたくなります。まあなんとなく憎めないやつらではありますが。
こんなダメ人間の象徴みたいなやつらがイキイキと描かれてるところも、近年のジブリとはちょっと違います。
あともひとつよかったのは、直接エコロジー的なテーマを語ろうとしなかったこと。昔はよかった今はダメ、美しい自然を大切にしましょう!みたいなテーマが盛り込まれたアニメが多くありますが、そういうのってエンターテイメントで説教くさく語られるとかえってひくんですよね。その点『ももへの手紙』はあくまで絵だけで伝統の良さや自然の美しさを表現していたと思います。
沖浦監督と『ももへの手紙』に関しては現在webでこんな濃いいインタビューが続けられているのですが、そこでぶったまげたのがなんとこのアニメの元ネタとなったのは『不思議惑星キン・ザ・ザ』だということ。『キン・ザ・ザ』とは旧ソ連末期に作られた珍SF映画で、気難しいロシアのおじさんが宇宙に突然ワープしてしまい、そこであこぎなナニワ商人みたいな宇宙人に四苦八苦させられるというストーリー。わたしもこんなレビューを書いたりしてました。
インタビューで「『不思議惑星キン・ザ・ザ』という作品がありまして、それにとても感銘を受けたんです。あれは、地球人のおじさんと異星人のおじさんの話だったんですけど(笑)。それを女の子とおじさんたちという組み合わせで、舞台を変えてやれないかなと思って。だから、おじさんっぽいイメージの妖怪たちにしたいなと」と沖浦監督。ふんふん、なるほどね… と言いたいとこだけど全然わからねえ(笑) あの『キン・ザ・ザ』をどうひねくったらこんなさわやかなジュブナイル作品になるのか… ぜひ『もも』を観た方はそちらも観て頭をひねられてください。
『ももへの手紙』は現在全国の劇場で上映中。でもあんまし興行かんばしくないっぽいです。わたしが観た時はお子さんたちもよくケラケラと笑っていたので、もっとたくさんの子供たちにぜひ観てもらいたいものですが。
Comments
口下手なお父さんが他にも呼びかけだけの 「ママへの手紙」や「ミミ萩原へのファンレター」を出そうとしていたのはモモには秘密です
Posted by: ふじき78 | May 20, 2012 09:10 AM
>ふじき78さん
♪らぶらぶ みんきーもも
内容書いて♪
Posted by: SGA屋伍一 | May 20, 2012 09:12 PM