芸術はブラック&ホワイトだ ミシェル・アザナヴィシウス 『アーティスト』
気がつけば約10日ぶりの更新です。はっはっは…
本日はフランス映画でモノクロサイレントにも関わらず、第84回アカデミー作品賞に輝いた『アーティスト』、ご紹介します。
サイレント映画華やかなりし1927年ハリウッド。ジョージ・ヴァレンティンは愛犬と共に数多くの映画に出演し、名声をほしいままにしていた。そんな折、ジョージはスターを夢見るぺピーという少女と出会う。ジョージのアドバイスと天性の魅力、そしてトーキーという新たな形式にマッチしたことにより、ぺピーは瞬く間に花形女優への階段を駆け上がっていく。一方サイレントにこだわりつづけるジョージの評判には次第にかげりが生じ始める・・・
やはり驚いたのは色つき・音つきが当たり前の今の時代にあえてモノクロ・サイレントをやろうという心意気ですね。単に白黒でやりたい、ということなら『シンシティ』『白いリボン』『動くな、氏ね、甦れ!』などが思い浮かびますが、声までシャットダウンしてしまったという例はちょっと記憶にありません。気をつけないと心地よい伴奏に乗せられて夢の国に行ってしまうことは必定。実際私の隣で観ていた老婦人は開始15分後にはいびきをかいておられました(後半復活してましたが)。
ただそのことは監督も覚悟していたようで、作品の隅々に「飽きさせまへんでー」という工夫がみなぎっておりました。例えば作中作、撮影現場、心象風景、妄想などを巧みに映像に盛り込んだり。サイレントとしては掟破りですがここぞというところで「声」を入れたり。そして犬。多くの方が絶賛していますがジョージの愛犬の名演技は紛れもなく映画史に伝説として記憶されることでしょう。
そういった演出・絵作りにはさすがオスカーと感心させられましたが、ストーリーの方はやや腑に落ちないところがありました。こっから先はだんだんネタバレになりますが
売れっ子になったぺピーがいつまでもジョージを愛し続けているというのが、あまりにも都合がいいというか、「おじさんたちの夢」を映像化しているようでそれがひっかかったのですね。そりゃ駆け出しのころ世話になったとか昔憧れてたというのはあるでしょうけど、現実にはあんな上昇志向の強いタイプが落ち目の恩人をいつまでも想い続ける…というのはないんじゃないかなあと。まるで少年漫画で優しいだけがとりえの優柔不断な主人公が、理由もなく美少女達にモテモテになるような、そんなわかりやすさを感じてしまったのでした。
まあこういうみんなの夢(笑)をかなえてあげるのが古きよきサイレントの王道なのかもしれませんが、チャップリンやキートンはもっと愛のためにガムシャラに戦ってたからなあ。それに比べるとジョージさんはメソメソイジイジしてるとこばかりが目につきました。
だからこの映画で感動したのはやはり犬 あといくら落ちぶれても主人を見捨てない執事さんとかね。女は見捨てても犬と老人は見捨てないというのは現実に十分ありえる気がするし(君は何か女性に恨みでもあるのか?)
とまあいろいろくさしてしまいましたが、やはり今の時代にサイレントをやろうというチャレンジ精神は素晴らしいです。お話はサイレントの凋落を描いていますが、決してその形式を否定するものではありません。大体サイレントへの深い愛情がなけりゃこんな映画作ろうとは思わないでしょうし。これを機に若い世代がチャップリンやキートンに興味を持ったり、音なし・色なしで絵作りだけで勝負を挑む作家が現れたらよいなあと思います。
『アーティスト』はたぶんまだ全国の劇場で上映中。とりあえず犬好きは必見です。わたしは猫派だけど。
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CG・3Dが氾濫する中で、
あえてモノクロのサイレントってところが、
フランス人監督だな〜って気がします。
ストーリーもシンプルで
まあ、たまにはこんな作品もいいかなぁ〜って
思いました。
1927年のハリウッドで、サイレント映画のスターの
ジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)は、
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Comments
伍一ん。
>売れっ子になったぺピーがいつまでもジョージを愛し続けているというのが、あまりにも都合がいいというか、「おじさんたちの夢」を映像化しているようでそれがひっかかったのですね。
あー、私はそれ
ずっと憧れてたサイレント界のスターだから、
実際あえて舞い上がりっぱなしになるのはわかるな。
だけど逆に 最後の方に落ちぶれた彼を救う為にこっそりしてた買い取りとか
単に優しさと感じるんだけど、それが深い愛故っていうのがそこまで想うのが伝わらなかったなぁ。
でもどちらにせよ、アカデミー賞の平均年齢高いひとたちが気に入りそうな作品だよね。
Posted by: mig | May 04, 2012 11:59 PM
こんばんわ伍一。母です。いつも見てますよ。。。
いつもよりイラストがおじょうずね。アーティストだからかしら?
あとお母さんはサイ好きですよ。サイレントだけに。。。
もうそろそろいいですかね。ボケがそんなに思いつかなかった。。。あ、バトルシップひどいじゃないか!! ウラヤマさんなら気に入るとかいってたから見ちゃったよ。感想かけよ!! ディスるから。。。
Posted by: お母さんより。。。 | May 05, 2012 01:07 AM
伍一くん☆
お疲れ様~~
朝からお疲れ気味だったけど、無事家に辿り着いたかな?
みんな今日はお休みだったけど、一人働いているmigちゃんが心配・・・
さて、きっと出待ちをするぐらいのファンだった事を考えると、ペピーにとって彼は永遠のスターだったんじゃないかな。
でもお互いに心を寄せ合う間柄になっているっていうところは、ちょっと伝わりにくかったよねぇ。
Posted by: ノルウェーまだ~む | May 06, 2012 09:58 AM
>migちゃん
昨日は一日お疲れ様&今日も労働お疲れ様
よく言われてるけど、アカデミーの選考委員って基本的におじいちゃんが多いからね(笑) 女優さんはそこそこ若くても主演女優賞もらったりするけれど、若いイケメン俳優が獲ることはまずないとか
まあわたしも今だから「それはおかしいよ」と言えるけど、じいさんの年齢になったら「こんなオナゴおったらええのう」なんて夢を抱くようになるかもしれない(笑)
個人的アカデミー作品賞はやっぱり『戦火の馬』かな。同意する人少ないだろうな~
Posted by: SGA屋伍一 | May 06, 2012 09:11 PM
>お母さんより。。。
ぼくずっと会いたかったよ!てゆうかあなた(略)
居酒屋が嫌いならそう言ってくれたらよかったのに・・・ もう! 奥ゆかしいんだから!
そのことは水に流しますが、バトルシップへの悪口は見過ごせません! 宇宙人が出てくる映画は全て名作です! 許されねばならないのです! 次に感想書きます。。。 み~ん。。。
あといつか裏ママさんが漫研時代に描いたという少女マンガ見せてくださいね。。。
Posted by: SGA屋伍一 | May 06, 2012 09:17 PM
>ノルウェーまだ~むさん
昨日は山登りの傍らジャンプの講義につきあってくださりありがとうございました~
おかげさまで11時半ごろ無事帰宅しました。帰りの電車ではほぼ死体と化してましたが… migちゃんは夕方ごろ「足が棒になった…」とつぶやいてましたよ
まだ~むは情が深そうだからこういう一途な思いも理解できるんでしょうね。でも世の中そんな菩薩のような女性はそうそういないと思いまふ(笑)
そんでジョージが火事場でフィルムを抱え込むほどにぺピーのことを想っていた、というのも「いつの間に?」って感じなんですけど
こういう冷めたことばかり言ってるからわたしは女の子にもてないのでしょうか…
Posted by: SGA屋伍一 | May 06, 2012 09:27 PM
ハリウッド成功した人が、落ち目のスターの競売品を買い漁って返却したり、仕事を紹介するというのは、結構よくあることです。
『地獄の黙示録』で破産したコッポラの私物をルーカスが競売で買い取り、コッポラにプレゼントした話は有名です。
離婚でもしない限り(←これ、当時赤字会社だった、ピクサーの前身の会社を売らざるを得なかったルーカスのこと)、お金余ってますから(笑)
最近の傾向として、破産は明日は我が身とばかり、助け合い活動が実に盛んです。
そんな訳で、この映画は、アカデミー会員のツボを押さえた映画なんです。
最近は、スコセッシ監督+クルーニーとその仲間達ばかりが幅を効かせているので、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、エミー賞共にあまり代わりばえしないので、面白くないです。
Posted by: サワ | May 09, 2012 06:23 PM
>サワさん
いつも解説ありがとうございます
ハリウッドではそういう美しき伝統があるのですね~ 映画監督も俳優も一発こけたら明日をも知れぬ身ですしね(笑) スピルバーグやルーカスレベルならばともかく
わたしもミッキー・ロークが昼飯のスパゲティ代も払えず往生してたところを、通りがかったスタローンが払ってくれたという話を聞いたことがあります。規模小さい(笑)
ただ男女間の愛情でそこまでやる人いるかというと、ちょっと疑問ですよね
>アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、エミー賞共にあまり代わりばえしないので、面白くないです
GG賞はアカデミー賞に比べて根回しがしやすいと聞きました。オスカーを逃したアバターがGG賞を取ったのもキャメロンの接待がものをいったとか…(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | May 09, 2012 10:43 PM
アカデミーの御方達に闇討ちされたらどーしよー
とか思いつつ・・・
決定の「ど・ツボ涙涙ルイルイ 太川洋介」が無くて
展開は、あっそー で?ふーん まんまじゃぁぁぁ
若き女に奥殿と不仲だからって激いーイージー
と。感じても嬉しい映画だったのだ
眉の動き1つのニヒル♪
語る恋心は視線のクロス♪
魅せたるは哀愁の背中♪
細めのヒゲのオクチ♪
そっと愛しい人の服に・・・
私って映画が好きって言って良いのかなぁ
って ちょっと思ってる
だって!もっともっとすっげぇ映画愛する方達っているんだもん
qなんか、足元にも及ばないって何時も思ってる
.:*゚..:。*゚:.:。*゚:.。*゚..:。*゚..:。*゚:.。:。*゚..:
ハリウッドが作ったら
どんな感じで「アーティスト」が出来ただろーね
Posted by: q 闇討ちしないでね | May 12, 2012 05:45 PM
>qちゃん
各々方! 討ち入りでござる! 出会え出会え~!
…なんつって。太川洋介ってよく知ってるねえ(笑)
そうだね。おじさんとか秘めた恋心にウルウルできる人だったらもっと楽しめるのだろうけど、大人の男女にはあんまし感情移入できないんだな、ということをいまさらのように悟ったでござるよw
qちゃんが映画が好きじゃなかったらいったい誰が映画好きだと言えるだろう(笑) 愛し方は人それぞれじゃないかな。浴びるようにいっぱい観てても文句ばっかり言ってる人って本当に映画を愛してるのかな、とも思うし
>ハリウッドが作ったら
どんな感じで「アーティスト」が出来ただろーね
うーん、むずかしいな… 普通にカラーで3Dで作るかもね~
Posted by: SGA屋伍一 | May 13, 2012 07:19 PM
こんばんは!(^_^)
私も、ステキな映画だったなぁ〜とは思いましたけど、
心に残る作品ではなかったです。
(アギーの名演技は別として・・・笑)
モノクロ・サイレントだからこそ、このストーリーで良かったで
カラーだったら、多分普通の作品になっていたような気がします。
Posted by: ルナ | June 12, 2012 11:48 PM
>ルナさん
こんばんは~
まあアカデミー作品賞ってそれなりに高レベルなんですが、胸にグサッと来るほど感動するものってそれほどないような… 少し前の『スラムドッグ$ミリオネア』くらいかな
この作品、当初は普通にカラーで撮られる予定だったそうです。あえてモノクロに変更した監督とそれを許可したプロデューサーに拍手
Posted by: SGA屋伍一 | June 13, 2012 11:07 PM
こんばんは!
お返事すっかり遅くなってごめんなさい
多忙すぎてほとんど死んでいたもんで・・・・。
今はちょっと蘇生していますが。
猫派の私もこの作品のワンちゃんにはメロメロでした。
女性はそんなにオジサンを想いつづけないけど
犬と執事は・・・ってくだり面白い~~
確かにそれはあるかもね。
モノクロで新鮮だったのは「シンドラーのリスト」以来かなぁ
私の中では・・・
そのうえ「無音」なんですから,はじめは私も
かなり身構えて鑑賞したのですが,さすがオスカー、
退屈させない演出や展開は見事でしたね。
Posted by: なな | June 26, 2012 09:56 PM
>ななさん
いえいえ、いろいろ大変だったようですね。お疲れ様でした。お仕事の関係でご旅行にでも行っておられたのでしょうか
>女性はそんなにオジサンを想いつづけないけど
犬と執事は・・・ってくだり面白い~~
まっ これはあんまし女性に親切にされたことのない、もてない男のひがみですな。あはははは・・・・
わたしは最近モノクロで印象に残ったものというと『シン・シティ』やリバイバルで見た『動くな、死ね、甦れ!』などでしょうか。
たまには無声の世界もいいですけど、数秒間伴奏もぴたっと止まった完全に「無音」のシーンありましたよね。あれで米国では「音が出ない! 金返せ!」と怒りだしたお客さんがけっこういたとか。本当に思い切ったことやりますね(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | June 28, 2012 11:14 PM