消火のホース スティーブン・スピルバーグ 『戦火の馬』
オスカー関連作品が続きます。本日は作品賞含む6部門にノミネートされながら、結局無冠に終わった(ああ・・・)『戦火の馬』、ご紹介します。
時は第一次大戦直前。貧しい小作人のテッドは農耕馬を買いに市場へ出かけるが、領主に対する意地のためについ競走馬のサラブレッドを買ってしまう。しかし息子のアルバートはその馬「ジョーイ」に並々ならぬ愛情を注ぎ、従順には程遠いジョーイに畑を耕させることに成功する。
しかし喜びもつかの間、悪天候で作物が台無しになってしまったことから、ジョーイは結局軍馬としてイギリス陸軍に売られてしまう…
そんなわけでオスカーではイマイチかんばしくなかった本作ですが、わたしはと~っても良かったです。確かに欠点も幾つかありますが、それ以上にわたしの泣きツボにズボズボとはまってしまった作品でした。
よく「泣ける!」という映画のコピーを目にしますけど、やっぱ人によって泣けるポイントってそれぞれ微妙に違うもんじゃないでしょうかね。で、わたしの場合「ええーん、悲しいよー、死なないでー」と身も世もなく泣き崩れているシーンではあんまり泣けなかったりします。
じゃあどういうのに弱いかというと、本当はすごく辛いのに必死にやせ我慢してる姿とか、誰かのために自分のことも省みずに一生懸命になってる姿とか。そしてバカ、ぼんくらが右往左往したり、ひたむきににがんばってる姿にも非常に弱いんです。
たとえばジョーイの最初の主人となるアルバートですが、本当に馬のことしか考えてない筋金入りの馬馬鹿です。ジョーイが家にやってきたその時から頭にあるのは馬馬馬馬・・・・ ただそれだけ。「もうチ○コに毛も生えてるだろうにちっとは女の子のことにも興味を持てよ」とツッコミたくなるほどです。現代でいえばオタク君が車やバイクに夢中になるのにちょっと似てるかもしれません。
大体彼のオヤジにしてからがトラクターを買いにいってフェラーリを買ってきてしまうような大馬鹿ですからね。その息子のアルバートがお利口さんに育つはずもありません。
だけどそんな馬馬鹿君がみんなに馬鹿にされながらもがんばって畑を耕したり、去っていくジョーイを「うまー、うまー」と必死でおいかけていく姿にはもう泣かずにはいられないのであります
以降はどんどんネタバレしていくので未見の方はご了承ください。
さらにジョーイ君は行く先々で頭の悪そうなあんちゃんたちとめぐり合います。
乗り手を失って敵側のドイツ軍に捕まるジョーイ君。このとき彼の担当となる二人の兄弟がこれまたいかにもなボンクラで。状況判断が甘いと言ってしまえばそれまでなんですが、それゆえに彼らのたどる末路にも涙を誘われました。
で、わたしの鼻水が最も噴出したのは戦地に放り出され、鉄条網でがんじがらめになってしまったジョーイを、イギリス・ドイツの二人の兵士が憎まれ口を叩きながら助けるシーン。
お互い馬のために命の危険をおかすほどのやさしさがあるのに、意地を張り合いながらもつかの間いいコンビになれたのに。なんでお前らが殺し合いなんかしなきゃなんねえんだよと、そのことが悲しゅうて悲しゅうて。
ぼんくらたちは悪くないんです。そんなぼんくらを戦争に行かせる国が悪い!! ああ、もう!!
と、やり場のない怒りがぐらぐらとこみ上げてきたのでした。
ドイツ人だろうとフランス人だろうとみんな英語をしゃべってる、そのことに違和感を感じる方もおられるでしょう。でもこれは児童文学原作だからいいのです! カルピス名作劇場ではハイジだってペーターだって日本語しゃべってたじゃないですか!!
「展開が早くてついていけない」という意見も聞きます。そうですね、わたしもこれ全五回くらいのテレビシリーズだったら一番ふさわしい長さになったような気がします。でもそれではお馬さんが雄大に走る姿をスクリーンで見ることはできないだろうし… むずかしいところであります。
ちなみにこの『戦火の馬』、舞台版も作られて好評を博したそうです。馬はいったいどうしたんだろう・・・ 本物を使ったのか? それとも「ライオンキング」的演出だったのか? と頭の中を「?」が駆け巡りましたが、実際は二人の人が見事に着ぐるみを操演したと聞きました。そんな手があったとは…
『戦火の馬』はまだ全国の劇場で上映中ですが、もう一日一回のところも少なくありません! まだの方はお早めに!(本当にこればっかりだな!)
Comments
待ってました、伍一さんのレビュー!
期待通りです。1回読んだだけでは物足りなくって、2-3回読んでしまいます。そして一人でヘラヘラと笑っています。(これ、もしも失礼だったらすみません)
この映画、伍一さんも気に入っているのですね。(笑顔)
そうですよね。傍から見ても一目瞭然で完璧すぎる人物描写に対しては、せいぜい試験中に拝む試験官の顔と同様に感じちゃうのが関の山です。感動し難い。
伍一さんが、言語の比喩に日本のハイジを取り上げている所、スゴーイと思いました。
Posted by: まみっし | April 02, 2012 10:35 PM
>まみっしさん
さっそくコメントありがとうございます
自分のことを棚にあげて何度も馬鹿馬鹿書いてしまいました・・・
そして馬についてはほとんど書いてないや
まあこの映画は馬の映画というより馬を通して人間のおろかさや一途さを描いた映画だと思うのですよ
わたくしスピルバーグに関してはそれほど思い入れがあるわけではないのですが、今回は素直にやられてしまいました。彼に泣かされたのは実に『シンドラーのリスト』以来かな。『A.I.』でもちょっとほろっときたけど
カルピス名作劇場は良いシリーズでしたね。どうでもいいことですが今地元の静岡ではトム・ソーヤーの冒険を再放送してます
Posted by: SGA屋伍一 | April 02, 2012 11:32 PM
伍一くん☆
カルピス劇場よかったな~
そしてこれは純粋にカルピス劇場みたいな映画だったね。
観る時はこの「純粋さ」が必要!大前提です。
つまり伍一くんは純粋ってことですな。
これね、舞台の予告編を見ると、それがまた泣けるのよーちょっとしかやらないのに・・・
舞台を観ておくんだったわ。
Posted by: ノルウェーまだ~む | April 04, 2012 12:33 AM
>ノルウェーまだ~むさん
カルピンスコ~(久々)
おいでくださりありがとうございます
ちなみに『牧場の少女カトリ』までがカルピスで『小公女セーラ』以後は「ハウス名作劇場」です。どうでもいいですね。。。
そういえばこの話、『名犬ラッシー』にちょっと似てなくもないですね
>つまり伍一くんは純粋ってことですな。
ありがとうございます~ 最近ついツイッターで「おっ○い」とか書いてしまってひんしゅくかってますが、ようは子供の頃から成長してないということですな・・・
これの舞台は日本ではやらないんですかね。馬のマペット操演はわたしもちょっと見てみたいです
Posted by: SGA屋伍一 | April 04, 2012 07:00 PM
アルバート君は、多分ジョーイに出会った頃は12歳位の設定だと思うんですよね。
あれ大人の俳優一人で押し通してるんで、ちょっと馬フェチの変な人になっちゃってますね(笑
Posted by: ノラネコ | April 08, 2012 11:08 PM
>ノラネコさん
こちらにもどもです。
>多分ジョーイに出会った頃は12歳位の設定だと思うんですよね
ああ、それなら納得です。カルピス名作劇場でやるのならば、ぜひその設定でやってほしいですね
ジョーイ君は確かにちょっと変な人になっちゃってましたが、ギャンブル抜きで愛してただけまだ純粋かなあ
Posted by: SGA屋伍一 | April 09, 2012 10:24 PM
舞台版の馬は、多分歌舞伎でやっているのと同じような感じなのでしょうね。
ちゃんと、人も乗れますよ。
後足の人が、キツいそうです。
前足の人が下手くそだと、後ろに余分に重量がかかるらしいです。
Posted by: サワ | April 10, 2012 11:12 PM
>サワさん
>ちゃんと、人も乗れますよ。
おお、すごい。なんだか運動会の騎馬戦を思い出しますね。あれは前足?部分の人が一番きついみたいですが
あと引越しで冷蔵庫を運ぶときは、下側を持つ人の方がきつかったりします
Posted by: SGA屋伍一 | April 11, 2012 09:38 PM
こんばんは!(^_^)
オスカーの評価はイマイチでしたが、よい映画でしたね。
敵対する2人の兵士が、ジョーイを助けるシーンは
私も好きでした。
最後は、ちょっとご都合主義過ぎる気もしましたが、
ハッピーエンドで良かったです。
Posted by: ルナ | May 26, 2012 12:11 AM
>ルナさん
こんばんは おかえしありがとうございます
アカデミー候補もまだ三本ばかし観てないのがあるんですが、わたしの中ではこれがアカデミー作品賞ですよ! うん
たしかにあの広大な戦場の中で再会できたりとか、「まず助からん」とか言われてたのに普通に生きてるあたりは無理がありますよね
ま、そこは愛の奇跡ということでひとつ…
Posted by: SGA屋伍一 | May 26, 2012 11:32 PM