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April 23, 2012

ライアンと、そのカーチェイス  ニコラス・ウィンディング・レフン 『ドライヴ』

Drive1『ラースと、その彼女』『ブルーバレンタイン』『ラブ・アゲイン』と地味ながら評価の高い作品に次々と出演しているライアン・ゴズリング。そのライアン氏の最新作が、同日公開となった『スーパーチューズデー』と『ドライヴ』であります。スパチューはこちらではまだ公開予定がないのですが、『ドライヴ』の方はなぜか一週遅れてかかりました。ご紹介いたします。

昼はカースタントと車の整備を、夜は強盗たちのドライバーを引き受けている謎めいた若者「ドライバー」。アパートや連絡先を絶えず変え、人との関わりを極力避けていた彼だったが、隣室に住む健気な母子と知り合ったことから、「ドライバー」の静かな生活に不穏な嵐が吹き荒れる始める…

犯罪映画にもケレンミをひたすら追及した「派手系」と、リアルな描写でみせる「地味系」とがあります。『ワイルドスピード』や『トランスポーター』は派手系。『ペイバック』や『ザ・タウン』は地味系。ほんでこの『ドライヴ』はどっちかといえば地味系に属する犯罪映画です。
たとえば冒頭のカーチェイス、派手系であれば平気で逆走したり歩道を走ったりするわけですが、この『ドライヴ』の主人公はそんな無茶はしません。ライトを消して物影に隠れたり、入り組んだ交通網を巧みに利用して警察の追跡を逃れます。まあこんな風にスマートに仕事が進むのは本当に冒頭のそこだけなんですが(笑)

そういったおさえたタッチや、けだるいまったりとしたスコアやヴィジュアルが、犯罪映画にしてはかなり独特なムードをかもし出しています。その辺はデンマークでキャリアを積んでいた監督ニコラス・ウィンディング・レフンの手腕でしょうか。

ただわたしが最も印象に残ったのは音楽や映像よりも、主人公でありながら本名さえ語られない主人公「ドライバー」の個性でした。
最初のうちはとにかく生気に乏しい。感情もほとんど表さないし、口数も少ない。上手に追っ手をまいても歓声ひとつあげない。大都会の孤独な生活が彼をそんな性質に作り上げていったのでしょうか。
しかしキャリー・マリガン演じるアイリーンと触れ合ううちに、彼の笑顔や優しい側面が徐々に見えてきます。やっぱり幾ら一匹狼を気取っていても、人はどこかで他の誰かのぬくもりを求めているものです。
ここで終われば「ちょっといい話」で済むのですが、そうは問屋が卸しません(笑) 後半は映画も「ドライバー」も、それまでとうってかわったような血みどろバイオレンスを繰り広げることになります。

この「ドライバー」の出自、結局映画では謎のままなのですが、わたしは勝手にあれこれ考えてしまいました。若いに似合わず度胸が座っていて、プロの犯罪者たちとも十分に渡りあう腕っ節を持っている。恐らく特殊部隊かなにかで高度な殺人技術などを叩き込まれ、その道で活躍していたものの、殺伐とした世界に嫌気がさして俗世に戻ってきた・・・ そんなところではないかなと。
ところが鑑賞後に原作パラ読みしたら全然違ってました。あはははは まあ映画版で潔く彼の過去をぶった切ったのは正解ですね。それによって「ドライバー」のミステリアスさが一層引き立っていますから。まるで都会の孤独が産み出した妖精さんか、下界に降りてきて人間の生活を楽しんでいる神様のような雰囲気さえあります。そう考えれば整備屋のあんちゃんがなんであんなに強いのか、むりやり納得することもできますし。

Drive2『ドライヴ』は現在全国の主要都市で公開中。東京方面ではもうちょっとやってると思いますが、ジョイランド沼○では今週金曜までのようです。あと同監督による中世時代劇『ヴァルハラ・ライジング』もいまやってるんですが、全国で二館しかかからない上にレイト限定みたいなのでこちらは観られなさそう。さめざめ


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Comments

伍一くん☆
「ドライブ」都会の孤独と仲良しのドライバーくん、格好良かったねぇ。
それで原作のドライバーくんはどんなだったのかな?
知らないほうが良かったような、そんな人物像だったの?
ますます気になるぅ。
久々ヒット!今回の絵はどちらも上手♪

Posted by: ノルウェーまだ~む | April 23, 2012 11:12 PM

伍一つぁんこれ観るのは意外〜

東京の方でもGW前あたり入れ替わってオワリじゃないかな?
ライアンにてないケド巧い★
なぜサソリなの???

この映画はこうみえてラブストーリーなのでやっぱり
あのエレベーターシーンがキモかな♥

Posted by: mig | April 24, 2012 10:53 AM

>ノルウェーまだ~むさん

こんばんばん
この際だから教えちゃうと、原作のドライバーは本当にごく普通の田舎の若者がぽっと都会に出てきた、みたいなそんな感じです
それがなんであんなに強いのか!? ありえね~!!と言いたいところですが、そこはやはり「ファンタジーだから」ということで大目にみてあげることにしましょう
おほめの言葉ありがとうございます。ちょっと『頭文字D』入ってますが

Posted by: SGA屋伍一 | April 24, 2012 10:11 PM

>migちゃん

こんばんばん

>伍一つぁんこれ観るのは意外〜

なぜ・・・ そりゃ怪獣は出てないけど。ライアン・ゴズリングやロン・パールマンの気迫は怪獣なみに怖かったなあ

サソリはドライバーのスカジャンに入ってたマークだよ~ 

>あのエレベーターシーンがキモかな♥

目の前で人の頭を踏み潰したりしたら、女の子はやっぱひくよね
ボクもデートの時は気をつけよう・・・

Posted by: SGA屋伍一 | April 24, 2012 10:19 PM

いやぁ、原作読みましたか!
実は、まだ読んでませんが、映画を見た後、劇場のコンセッションで、文庫を即買いしました(笑)
やっぱ、気になるところは、皆同じですね。

映画は、パルプ(フィクション)モノな仕上げになってましたが、原作はもう少しハード・ボイルドっぽいかなぁと思ってます。
読むのは、来週になりそうです。

Posted by: サワ | April 27, 2012 09:28 PM

>サワさん

いや、正確には読んだとはいえません。ドライバーの過去のあたりと結末だけささっと目を通しただけ(笑) 作者の方に本当に申し訳ない
解説も読みましたが、それによるとこちらの作者の方は描写も分量もあっさり風味が持ち味のようですね。そんなあっさり感が映画にも十分反映されていたと思います

Posted by: SGA屋伍一 | April 27, 2012 11:32 PM

多分、おそらくですが、全世界の整備屋のあんちゃんは、みんなあれくらい強いんじゃないでしょうか。そして、その強さを控えめに表現したのが『ワイルドスピード』シリーズなのでは。

Posted by: ふじき78 | May 13, 2012 07:42 AM

>ふじき78さん

おお、こんばんは
まあ整備士も力仕事ですからねえ。普通の人よりも馬力はあるでしょうねえ
ただわたしはこれが漁師だったらもっと納得しました。ほら、こないだあったじゃないですか。食われかけながらサメを絞め殺したとかいう漁師さんのニュースが…
あれを聞いたときわたし「漁師こそが最強の職業!」と思いましたよ

Posted by: SGA屋伍一 | May 13, 2012 07:23 PM

私は原作読んでないのですが

なんで主人公はあんなに強いの~
そしてあんなにストイックで孤独なの?
単なる変わり者?いやいや
なんか「病んでる」のかな~と個人的には思ってしまって
そこらへんはゴズリング氏が「ラースと~」のような
変人(失礼)キャラを演じるのが得意だという先入観もあるけど
特殊能力を持った病んだひとのように感じました。だからこそ
彼が本気で誰かを愛したことが切ないのであって・・・
しかし私でも,この主人公・・・どんなに尽くされても
あの殺戮シーンを目の当たりにしたら
やっぱりドン引きだなぁ

Posted by: なな | September 29, 2012 05:33 PM

>ななさん

こんばんは~

>なんで主人公はあんなに強いの~

本当になぜなんでしょうね・・・ 「ゴズリング」ってなんとなく迫力のある姓ではありますが。「ごっついレスリング」みたいで

そんなに作品を観てるわけではないですけど、わたしの中ではライアン氏、「不思議ちゃんがよく似合う俳優」という風に位置づけられましたよ(笑)
熱烈なチューもしてましたけど、なんとなく彼がアイリーンに抱いた愛って、男女のものというより子が母を思うようなものに感じられました。きっと今までろくに愛されることもなく、だからこそあんな孤独なライフスタイルに徹してたのではと・・・ さめざめ

>この主人公・・・どんなに尽くされても
あの殺戮シーンを目の当たりにしたら
やっぱりドン引きだなぁ

ですね。やっぱり首をこきっとひねるくらいでとどめておかないと。やりませんけど

Posted by: SGA屋伍一 | September 29, 2012 09:14 PM

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