ガンズ・アンド・メタモルフォ-ゼズ 大畑創 『へんげ』『大拳銃』
知る人ぞ知るマニアックなSF・ホラーを多く上映してくれる渋谷の名物映画館「シアターN」。そのシアターNからまたひとつ(ふたつ?)ヘンテコな映画が飛び出して参りました。新進気鋭の大畑創監督の手による『大拳銃』『へんげ』、あらすじを続けてご紹介いたしましょう。
『大拳銃』:経営に失敗し、閉鎖寸前にまで追い込まれたある町工場。そこへ暴力団らしき男から、「拳銃を密造してくれないか」という依頼が入る。工場主の縣は弟や妻と共に、やむなくその仕事を引き受ける。やがて仕事が進むうちに、縣は次第に「あるもの」を作る欲求に駆られていく・・・
『へんげ』:閑静な住宅に住む門田夫婦。二人は深く愛し合っていたが、夫の吉明は突然別の何かにとりつかれてしまう奇病に悩まされていた。次第にエスカレートしていく吉明の奇行。ついにはその身体までが醜く「変化」していく。妻の恵子はなんとか夫を支えようと努力するが・・・
この二本を観ようと思った理由は三つ。ひとつはTwitterでフォローしている自主映画の雄・今泉力哉監督が熱くプッシュしていたから。二つ目はこういう一本の尺で同じ監督の二本の映画をかけるというスタイル、めったにないせいか妙にひかれるんですよね。例をあげるなら『赤い風船』&『白い馬』とか、『ルンバ!』&『アイスバーグ!』とか。三つ目は読売新聞夕刊の映画欄で「新たな才能の登場に感動した」と激賞されていたこと。こういう新聞評って日本の新人作家はめったにほめたりしないのでね。こりゃ確認せねばなるまいと小田急線で東上したのでした
で、観てみて素材的にはそれほど目新しいものはなかったあな、と 『大拳銃』の市井の人々がのっぴきならない状況に追い込まれていく様子はコーエン兄弟の諸作を思い出させるし、『へんげ』はあんまし言うとネタバレになりますが、『ザ・フライ』『ガメラ3』『渇き』、そしてカフカの『変身』を連想させます。この二本の際立っている点はむしろ作品の持つ「空気」でしょうか。恐らくは低予算で作られているがゆえに、すごくわたしたちの実生活に近い雰囲気が漂っているんですよ。ハリウッドでの大作特撮映画ではなかなかこういう感覚、出せないと思うんですよね。そんな身近な世界と、そこに侵食していく非日常のアンバランスさが、なんというか「珍味」的な味わいをかもし出しております。
方やバイオレンス、方やホラーのジャンルにわけられる作品でありながら二本とも夫婦というものの不可解さを描いている点でも珍味っぽいですね。特に奥さんキャラの行動が予測不可能でなかなかに怖い。一方で、ああこういう人っていそうだなあ、という説得力も感じられたりして。
ご夫婦の状況が 『大拳銃』・・・貧乏・ドライ 『へんげ』・・・わりかし裕福・情熱的 とコントラストをなしている点も面白かったです。
あともうひとつこの二本に共通してるテーマは、「暴発」でしょうか。おとなしくつつましく生きてきた人々が、理不尽な抑圧にさんざんさいなまれたあとに大爆発してしまう。このカタルシスのパワーは尋常ではありません。ただすっきりさわやかな開放感という感じではありません。さんざん暴れまくったあとで、「これからどうなるんだろう」とふっと我に返ってしまうような、おさまりの悪い余韻を残していきます。
『へんげ』及び『大拳銃』は好評につき、現在シアターNでロングラン公開中。お茶の間のあったかさ?が感じられる風変わりな特撮に興味のある方はぜひ足を運ばれてみてください。
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