ジョルジュの奇妙な冒険旅行 マーティン・スコセッシ 『ヒューゴの不思議な発明』
本年度アカデミー賞において序盤は順調に受賞を重ねていったのに、気がついたら『アーティスト』に作品賞をかっさらわれていた本作。でも大好きです! 本日はマーティン・スコセッシがいつもと違うファンタジックなタッチで挑んだジュブナイル映画、『ヒューゴの不思議な発明』、ご紹介します。
20世紀前半のパリ。両親を失った少年ヒューゴは広大な駅に隠れ住み、まるでネズミのような暮らしを送っていた。彼の心の支えは父が残した奇妙な人形。ハートの鍵穴を持つそれに父からのメッセージが隠されているのではと思い、ヒューゴは懸命に人形を修理する。だが部品をかっぱらおうとした玩具屋で、ヒューゴは店の主人に捕まり、修理に必要なノートを取り上げられてしまう。ノートを取り返そうとあれこれ策をめぐらすヒューゴ。やがて彼は店主の過去に秘められた哀しみがあることに気づく…
冒頭で「ファンタジック」と書きましたけど、現実可能な範囲のお話。というか、いろいろ本当にいた人や本当にあったことも混ぜられていたりします。
ヒューゴが暮らす駅の中はまるで巨大な遊園地のよう。華やかな商店街あり、迷路のような抜け道あり。子供のころ、野原で秘密基地など作って遊んだ身としてはこういうの非常に魅力的でした。
加えて古めかしい機関車や謎の「自動人形」といったガジェットも少年の冒険心を思い出させます。
作品のそこかしこに児童文学のキーワードがちりばめられていたのも心憎かったですね。こじつけかもしれませんが、どれもヒューゴの境遇や映画の内容とリンクしてるようなところがあり。列挙してみると
『デビッド・カッパーフィールド』…両親を失って天涯孤独になってしまう点
『ロビン・フッド』…広大な場所に隠れ住む「盗人」である点
ジュール・ベルヌ…作品の重要なモチーフである『月世界旅行』の作者
あとまだなんかあった気がしたのですが忘れちった・・・・
そしてこの映画は「映画」というものに惜しみないほどの愛情を注いだ作品でもあります。
ヒューゴが穴の向こうから何かをのぞくシーンや、時計を調節するシーンが何度も出てくるのですが、またしてもこじつけで考えてみると「のぞく」ことは「傍観する」→「映画を観る」行為を、「時計を調節する」ことは「時間を操る」→「映画を作る」ことを表しているのでは、と思いました。
以下はネタバレしていくのでご了承のほど
実はヒューゴが出会ったおもちゃ屋の店主は、ジョルジュ・メリエスという実在の人物だったのでした。単なる「珍しいもの」だった「映像」にストーリーをつけたし、「映画」を作り出したのはこの人の功績のようです。
しかし第一次大戦後は一線を退き、細々とおもちゃ屋を営んでいた・・・というのも作品の通りだそうです。
ここ最近『ものすごくうるさくて・・・』や『メランコリア』『戦火の馬』といった映画を観てきましたがどういう偶然か3.11を想起させるものが続きました。この『ヒューゴ』もそうした一本でした。
メリエス氏は「戦争で残酷な体験をした兵士たちはわたしの映画に見向きもしなくなってしまった」と語ります。この言葉にちょうど一年前の空気を思い出しました。
日本が想定外の悲劇に見舞われたあのとき、繊細な人たちは映画を観る気をなくしてしまいました。当然だと思います。「こんな時に映画なんて不謹慎だ」という声も聞きました。おまけに電気もいつ止まるかもわからない状態で、映画館のスケジュールもメチャクチャになってました。
そんな中にあっても・・・そんな状況だからこそ?わたしはあえて映画を観に行きたくなりました。これはもう病気ですね(笑) 世の中そういう人間もいるということです。たぶんスコセッシもそういう一人なんじゃないかな。辛いからこそ映画に逃げ場を求めるというか。
ギャングが血みどろの戦いを繰り広げている映画が多いスコセッシ作品において、この『ヒューゴ』の健康的で前向きなムードはややイレギュラーかもしれませんが、「世の中にはなぜこんなにも哀しくて理不尽なことが多いのか。わたしたちはそれにどうやって対処したらいいのか」というテーマは確かに共通しております。そういうところはナイト・M・シャマランともよく似てます。
『ヒューゴの不思議な発明』はたぶんまだ全国の劇場でやってる・・・と思うんですけど、これまたそんなにヒットしてる風でもないので見そびれてる方はお早めに。
ちなみにこの映画がどの程度「事実」を描いているかに関してはこちらやこちらで読むことができます。有料記事なんでお金払わないと全部は読めないんですが・・・
Comments
伍一くん☆
最後のロボットは何じゃー??
そうか~
男の子には堪らなく面白い作品だったってことね!
確かに「隠れ家」や「ロボット」「機械」と、少年には大好物が勢ぞろいでした。
私は~~うーん、女の子ですから・・・
冒頭すごく魅力的な駅のシーンだけに、寝ちゃったのが残念だったわ。
Posted by: ノルウェーまだ~む | March 29, 2012 11:42 PM
伍一〜おは★
シャマランはそういう意図とかメッセージよりも単に超常現象好きな人だからねちょっと違うと思うケド
あの機械人形が絵を描く所からメリエスの世界、この世界観が好きだったな〜。
サシャと花屋のくだりはしつこいと思ったし出過ぎだと思うけどアーティストよりこっちが好みなんだな〜私は。
伍一んはどうかな?
Posted by: mig | March 30, 2012 09:25 AM
>まだ~むさん
こんばんは。お返しありがとうございます
ははは… 資料を見ずに書いたらこんなダッ○ワイフのようになってしまいましたo(#゚Д゚)_‐=o)`Д゚)・;グハッ
そうか~ 女の子にはわからないか~ 女の子・・・ 女の子・・・
・・・・
はっ なんでもありません
まあ前にも書きましたが3Dは暗くなる上に眼に負担がかかるので眠くなりやすいんですよね。メガシャキ決めてのぞみましょう!
Posted by: SGA屋伍一 | March 30, 2012 11:26 PM
>migちゃん
半日ずれてこんばんばん&お返しありがとう
うん、シャマラン作品のメインは明らかにそういうオカルティックなところにあると思うんだけど、彼はたぶん根底でいつもそういう悲しい思いを抱えていると思うんだ。料理でいえば隠し味というかベースになるもので、パッと見にはわかりづらいんだけど。おまけにその上のデコレートが派手すぎるから一層伝わりづらいんだよね
アーティストはまだ観てないけど、わたしは大人の話より子供の話の方が好きだから、ほぼまちがいなくヒューゴ支持になると思う。それよりももっと気に入ってしまったのは動物の話(戦火の馬)なんだけどね
Posted by: SGA屋伍一 | March 30, 2012 11:33 PM
こちらにも!
伍一さんのレビューて深いなー。
真面目に語りながらイラストがふざけてるトコがないす♪
アーティストも良かったけどヒューゴのほうが好きかな。
Posted by: yukarin | April 09, 2012 04:04 PM
>yukarinさん
こちらにもどうもー
お褒めにあずかり恐縮です。せっかくいいこと書いても、このアホ名イラストのおかげですべてぶち壊しですよね。あはは・・・(やめりゃいいのに・・・)
『アーティスト』は来週か再来週見る予定ですが、たぶんわたしも『ヒューゴ』の方が上かも。子供の出てくる映画が好みなので
Posted by: SGA屋伍一 | April 09, 2012 10:31 PM
SGAさんこんばんわ♪今日出張から戻ってきましたので、またよろしくお願いいたします♪
『アーティスト』を見逃してしまったのでどちらが映画愛に溢れている作品かは分かりませんが、それでもパッと見だとやっぱりサイレント映画はちょっと堅苦しい感じもしちゃいますし、楽しく観るという点も踏まえれば、極彩色で煌びやかな世界観、そして実在の人物や時代設定にフォーカスを当てた本作の方が良いかもしれませんね。それに自分もスコセッシ=バイオレンスというイメージがありましたので、ギャップというプラス要素も働いたのかも?
でも自分って本作で初めてメリエスを知ったのですが、特撮の第一人者でもある彼を知らないと言うのはいかがなものかと、やや自虐的になっちゃいました^^;
Posted by: メビウス | May 01, 2012 09:33 PM
>メビウスさん
こんばんは♪ 帰ってきたばっかりなのにさっそくおかえしありがとうございます
たったいま『アーティスト』の感想をあげたばかりなんですが、わたしはやはり『ヒューゴ』の方が好きです。ただこれは作品の質の問題ではなく、「大人より子供の方が感情移入できる」というわたしの性質の問題です
スコセッシがジュブナイルものもいけるというのは意外でした。タランティーノやコーエン兄弟もそのうち一回くらいキッズムービーを撮ってほしいものです
>特撮の第一人者でもある彼を知らないと言うのはいかがなものかと、やや自虐的になっちゃいました^^;
いやいや、よほどの映画ファンじゃないと知らないと思いますよ。ちなみにわたしは『月世界旅行』は『メトロポリス』などのフリッツ・ラングが作ったものと変な勘違いをしておりました
Posted by: SGA屋伍一 | May 04, 2012 10:43 PM