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March 15, 2012

俺たちナイフスラッシャー(じゃないよ) イーライ・クレイグ 『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』

Tg2洋画不振と言われる昨今。内容が面白くても、賞を取ってたり有名俳優が出ていないとなかなか配給が決まらないのが現状です。そんな現状に業を煮やしたヒューマントラスト渋谷さんがぶちあげたのが、この「未体験ゾーンの映画たち2012」という企画。「海外での評価が高く、話題作であるのに日本ではなかなか劇場公開されにくい、日本人にとっていわば
【未体験ゾーンの映画】の中にこそ、お宝作品がたくさんあります」「“映画は映画館で”を合言葉にあらゆるジャンルの映画の中から珠玉の【未体験ゾーンの映画】、計17作品を一同に集め、日本では未公開になってしまう前に、映画館での観賞機会を設けるべく開催致します!」 いやあ、頼もしい! 今回はその中でも特に評価の高い 『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』ご紹介しましょう。

タッカーとデイルは外見はキモいが中身はやさしい中年二人組。お互い金を出し合って、緑豊かな湖畔に一軒の別荘を買い、休暇を楽しむことにした。その道中、二人はやはりバカンスを楽しみにきた大学生のグループと出くわす。当然不気味がられる二人。まあ気にすることはないさと夜釣りを楽しんでいたタッカーとデイルだったが、溺れた女子大生を助けたことがきっかけで、大学生達から『悪魔のいけにえ』の殺人鬼のような連中だと誤解されてしまう。さらにこれに不幸な偶然が重なり、二人は仲間を取り戻そうとする大学生たちの攻撃を受けるはめに・・・

ちょっと文句を言いたいのはこのタイトルですね。「タッカーとデイル」ってなんだかほのぼのした親友二人のハートウォーミング的ストーリーを連想してしまうじゃないですか。「チップとデール」「ハリーとトント」「愛と誠」みたいな。いや・・・ それはそれでまちがってないのかもしれませんが、でもそれだけじゃないんですよ! このタイトルにだまされてついスルーしてしまった映画ファンがどれほどいることでしょう。ちなみに原題は一応『タッカーとデイルVS悪霊』となっています。あれ。悪霊なんかでてきたかな・・・ まあいいや。

まず感心したのはこの『13日の金曜日』をひっくりかえしたようなアイデアですね。アメリカの片田舎に不気味な顔をした男たちがいたら映画ファンはもうシリアルキラーだと思い込んでしまう。しかし顔が怖くても優しい人は幾らでもいます。むしろ悪人はイケメンの方が多いのでは? ちなみに京都太秦には「悪人面ほど善人」ということわざがあります。
ついでささいな誤解がきっかけでどんどんシャレにならない方向へ進んでいくストーリーが痛快でたまりません。こちらはホラーの定番通りおバカな大学生達が、命をかけたボケを百連発でやらかしてくれます。こんなんで笑ってしまうのは不謹慎なのかもしれませんが、でも笑わずにはいられない(笑) 本当にここまで壮絶なボケはそうそう見られるものではありませんよ!

ただこの映画がすごいのは、そういう馬鹿さ加減だけにあるのではありません。意外と深遠なテーマもはらんでいるのです。人は外見、先入観だけで他の人間を判断しがちであるというテーマ。そしてそうした先入観が悲劇を積み重ねていくという真理。こういう時、お互いひざを割って話し合えば誤解は解けるのでは、と思うでしょ? ところがこの映画では「ちゃんと話し合ったって解決しないもんは解決しない」というとこまで踏み込んでいるのがすごい(笑) そういえば5.15事件で亡くなられた犬養首相も「話せばわかる」といいながら撃ち殺されちゃったんだっけ・・・

もちろんただのバカ映画としても楽しめます。んで、主人公のデイルが(実はタッカーはどっちかっていうと添え物・・・)とってもいいやつなんですよ。初登場時こそ「うーん、きもっ」と思わずにはいられませんが、ストーリーを追うごとに「頑張れ!」と応援したくなることうけあいです。本当にこんなむさくるしいオッサンをこんなに愛らしく描けているという点でも出色の一本です。

Tgそんなベタホメしてしまった『タッカーとデイル』ですが、もう渋谷でも梅田でも上映が終わってしまったようです。ごめんなさい! しかし本当にこのまま埋もれてしまうのは惜しい名作。またいつの日かどこかでスポットライトがあたりますように!
「未体験ゾーンの映画たち」の方はひきつづき続行中のようです。『カウボーイ&ゾンビ』とか『ザ・チャイルド 悪魔の起源』とかいうタイトルが「んも~ あなたも本当に好きねえ!」って感じですw

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Comments

伍一君☆
うわー、これは面白そう!
こういう映画好き☆でも上映終わっちゃったんだね。
DVDにはなるのかな?
日本ではイケメン出てないだけでスルーされるもんね。
私もイケメンほど悪人、というのは賛成!
かつていままで、イケメンでろくなヤツに会ったことないし!!!
悪人顔については未調査なのでわかりませんが。

Posted by: ノルウェーまだ~む | March 18, 2012 03:37 PM

>ノルウェーまだ~むさん

(久々の)キンスコ~
まだ~むさんはサイモン・ペッグ&ニック・フロストの映画好きだもんね。はっきり言ってああいうノリです。大好評だったんでたぶんDVDになる・・・といいなあ

>かつていままで、イケメンでろくなヤツに会ったことないし!!!

ふふふ、そう言われるといささか申し訳ない気分になりますね・・・ (つっこみ無用)
まあ結局ワルでもヘタレでももてるのはイケメンの方なんですよね。世の中まちがっとる!

Posted by: SGA屋伍一 | March 18, 2012 11:43 PM

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