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March 28, 2012

ジョルジュの奇妙な冒険旅行 マーティン・スコセッシ 『ヒューゴの不思議な発明』

Hyugo1_2本年度アカデミー賞において序盤は順調に受賞を重ねていったのに、気がついたら『アーティスト』に作品賞をかっさらわれていた本作。でも大好きです! 本日はマーティン・スコセッシがいつもと違うファンタジックなタッチで挑んだジュブナイル映画、『ヒューゴの不思議な発明』、ご紹介します。

20世紀前半のパリ。両親を失った少年ヒューゴは広大な駅に隠れ住み、まるでネズミのような暮らしを送っていた。彼の心の支えは父が残した奇妙な人形。ハートの鍵穴を持つそれに父からのメッセージが隠されているのではと思い、ヒューゴは懸命に人形を修理する。だが部品をかっぱらおうとした玩具屋で、ヒューゴは店の主人に捕まり、修理に必要なノートを取り上げられてしまう。ノートを取り返そうとあれこれ策をめぐらすヒューゴ。やがて彼は店主の過去に秘められた哀しみがあることに気づく…

冒頭で「ファンタジック」と書きましたけど、現実可能な範囲のお話。というか、いろいろ本当にいた人や本当にあったことも混ぜられていたりします。
ヒューゴが暮らす駅の中はまるで巨大な遊園地のよう。華やかな商店街あり、迷路のような抜け道あり。子供のころ、野原で秘密基地など作って遊んだ身としてはこういうの非常に魅力的でした。
加えて古めかしい機関車や謎の「自動人形」といったガジェットも少年の冒険心を思い出させます。
作品のそこかしこに児童文学のキーワードがちりばめられていたのも心憎かったですね。こじつけかもしれませんが、どれもヒューゴの境遇や映画の内容とリンクしてるようなところがあり。列挙してみると

『デビッド・カッパーフィールド』…両親を失って天涯孤独になってしまう点
『ロビン・フッド』…広大な場所に隠れ住む「盗人」である点
ジュール・ベルヌ…作品の重要なモチーフである『月世界旅行』の作者

あとまだなんかあった気がしたのですが忘れちった・・・・
そしてこの映画は「映画」というものに惜しみないほどの愛情を注いだ作品でもあります。
ヒューゴが穴の向こうから何かをのぞくシーンや、時計を調節するシーンが何度も出てくるのですが、またしてもこじつけで考えてみると「のぞく」ことは「傍観する」→「映画を観る」行為を、「時計を調節する」ことは「時間を操る」→「映画を作る」ことを表しているのでは、と思いました。

以下はネタバレしていくのでご了承のほど

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実はヒューゴが出会ったおもちゃ屋の店主は、ジョルジュ・メリエスという実在の人物だったのでした。単なる「珍しいもの」だった「映像」にストーリーをつけたし、「映画」を作り出したのはこの人の功績のようです。
しかし第一次大戦後は一線を退き、細々とおもちゃ屋を営んでいた・・・というのも作品の通りだそうです。
ここ最近『ものすごくうるさくて・・・』や『メランコリア』『戦火の馬』といった映画を観てきましたがどういう偶然か3.11を想起させるものが続きました。この『ヒューゴ』もそうした一本でした。

メリエス氏は「戦争で残酷な体験をした兵士たちはわたしの映画に見向きもしなくなってしまった」と語ります。この言葉にちょうど一年前の空気を思い出しました。
日本が想定外の悲劇に見舞われたあのとき、繊細な人たちは映画を観る気をなくしてしまいました。当然だと思います。「こんな時に映画なんて不謹慎だ」という声も聞きました。おまけに電気もいつ止まるかもわからない状態で、映画館のスケジュールもメチャクチャになってました。
そんな中にあっても・・・そんな状況だからこそ?わたしはあえて映画を観に行きたくなりました。これはもう病気ですね(笑) 世の中そういう人間もいるということです。たぶんスコセッシもそういう一人なんじゃないかな。辛いからこそ映画に逃げ場を求めるというか。

ギャングが血みどろの戦いを繰り広げている映画が多いスコセッシ作品において、この『ヒューゴ』の健康的で前向きなムードはややイレギュラーかもしれませんが、「世の中にはなぜこんなにも哀しくて理不尽なことが多いのか。わたしたちはそれにどうやって対処したらいいのか」というテーマは確かに共通しております。そういうところはナイト・M・シャマランともよく似てます。

Hyugo2『ヒューゴの不思議な発明』はたぶんまだ全国の劇場でやってる・・・と思うんですけど、これまたそんなにヒットしてる風でもないので見そびれてる方はお早めに。
ちなみにこの映画がどの程度「事実」を描いているかに関してはこちらこちらで読むことができます。有料記事なんでお金払わないと全部は読めないんですが・・・

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March 21, 2012

猫背×猫目 テンダーシネマVol.1 今泉力哉 『ハイタイム』 片岡翔 『party』

Tnderacinema2これでようやく二月に観た映画の感想記事も終りです。・・・いまごろかよ!
というわけで今回は先日渋谷のオーディトリウムで一日限り上映された自主映画プログラム『テンダーシネマVol.1』、ご紹介します。
わたしが鑑賞したのは今泉力哉監督の『ハイタイム』と片岡翔監督『party』が組まれたBプログラム。まずは『ハイタイム』の方から参ります。

とあるアパートの一室。別れを決めた一組の男女。その後女・・・加奈子は妹の看病をしながら、そのいきさつを振り返っていく。
ヒロイン加奈子は一応女優さんであります。といっても仕事はほとんどなく、懸命にレッスンに通って大役をつかもうとあがいている、そんなポジション。もともと気性の激しい方なのでしょうけど、年齢のことや演出家の厳しいダメだしや、仲間に先を追い越されたり・・・ということが重なって怒りのボルテージがぐんぐんと上がっていきます。

こういう自主系の上映に行くと、夢にあふれたキラキラした若者たちがたくさん来てるんですよね。40手前のさえないオッサンからすると、そんな彼らがとってもまぶしく見えたりします。でもそういう若者たちもきっと夢を追っかけてる裏で、目から血を出したり、ゲロ吐いたりして苦しんでるんだなと。
ただこの作品の主題はそういった演劇青年の苦悩ではなくて、若い精神の切ないすれ違いとか、浮き沈みの激しい感情などにある気がします。終幕近く、離れた場所で二人がそれぞれ宙に放るミカンがそれを象徴しているような。人の感情ってヤツはものすごく昂ぶったかと思えば、次の瞬間あっという間に急降下したりする。日々がその繰り返しであります。

今泉監督の作品は現在新宿はケイズシネマで行われてる「MOOSIC LAB 2012」プログラムで観ることができます。タイトルは『nico』。 他にも『こっぴどい猫』『ヴァージン』といった作品が待機中です。あと奥さんの今泉かおりさんが『聴こえてる、ふりをしただけ』という作品でベルリン映画祭の子供審査員特別賞に輝かれたとか。すごいっすね。


さて、もう一本は当ブログではおなじみの片岡翔監督『party』。
田舎のとある家に住む五人の男女。やたらと明るくテンションの高い男。じっと黙って座ったままの男。卵をひたすら泡立てる女。幼児に退行したような女。周囲に片っ端から怒りをぶちまける女。
やがて連れ立って遠足のように出かける五人。するといつの間にかもう一人の男が後から着いてきて・・・

わりとシンプルな筋立ての多い片岡作品の中にあって、パッと観ただけではわかりづらい作品。そのシュールで不条理な展開はなにやらつげ義春の漫画と似たところもあり。終始陰鬱なムードに包まれているところはちょっと違いますけれど。彼らがそれぞれ何を表しているのか、どこへ向かおうとしているのか、観た者それぞれに考えさせるような作りになっています。
特筆すべきは謎だらけのこの作品にあって、さらに謎めいた存在の特別出演・今泉力哉監督(笑) その猫背から放たれるオーラは尋常ではありません。たしかご自身の『TUESDAYGIRL』にも出ておられましたが、監督だけやらせておくのは実にもったいないキャラクターです。
もうひとつ印象に残ったのは胸にのしかかってくるような海のビジュアル。この重苦しさはやはり劇場のスクリーンだからこそ伝わってくるものなのでしょうね。あと寄せては返す波のイメージはどうしても昨年の痛ましい災害を思い起こさせます。

それにしても、今泉監督と片岡監督、資質はかなり異なると思うのですが、下北映画祭、トリウッドでの特集上映、先の仙台短篇映画祭、そしてこのテンダーシネマと何かと並んで発表されることが多いような。これからも切磋琢磨してレベルの高い作品を作り続けていってほしいものです(えらそうなこと書いてるなcoldsweats01)。

Tndercinema1片岡監督の方はこれからは脚本のお仕事が増えるそうで、さっそくその一弾となる『Miss Boys!』という作品が4月にDVDリリースされるそうです。その合間を見て、また短篇作品の方もよろしくお願いします。にゃー


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March 19, 2012

瀬戸際の花嫁 ラース・フォン・トリアー 『メランコリア』

Photo_2本日は第64回カンヌ国際映画祭でキルスティン・ダンストが主演女優賞に輝いたのに、そのあととんでもな発言をして顰蹙をかったラース・フォン・トリアー最新作『メランコリア』ご紹介します。

西暦201X年、人類は宇宙より迫りくる小惑星「メランコリア」により滅亡の危機を迎えていた。そんな騒ぎをよそに、美人コピーライターのジャスティンはいままさに恋人のマイケルと結婚の誓いを交わそうとしていた。だが式が進むにつれ、ジャスティンの胸には言い知れようのない不安が去来し始める。その不安は式にぎこちないムードをかもしだし、やがてジャスティンとマイケルの間には埋めようのない亀裂が生じてしまうのだった。

世界でも国民の幸福度が高い点で有数と言われるデンマーク。そのデンマークにあって「観ると気分が暗くなる」と言われる映画を作り続け、自信もうつ病を患っているトリアー監督(笑) 『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『奇跡の海』『ドッグヴィル』『アンチクライスト』などわたしもタイトルはいろいろ知ってますが、あらすじを読んだだけで「もう十分です!」と言いたくなるような映画ばっかり。だのに今回思い切って挑戦してみたのは ①SFみたいだから ②予告で観たスローモーション映像がきれいだったから という理由によるものでした。
だのにスローモーション映像は冒頭の数分くらいで終わってしまうわ、そのあとはえんえんときまずいムードの結婚式が続くわで、「オレはいったいなにを観に来たんだ・・・」という気分になりました。でもまあ後半は一応SFになりましたし、いろいろ考えさせられるところもあったのでよしといたしましょう。体が大きければ大きいほど流れる時間の長さはゆっくりになる、という説があるそうですが、冒頭のスロー映像は地球の身になって時間を感じてみるとこんな感じ、ということなのかもしれません(にしては若干早めかしら・・・)

マリッジブルー(なのか?)に沈む妹ジャスティンと、世界の終末に怯える姉クレア。あくまで個人の中での苦悩と全人類の存亡が同列に対比されてるのがなんとも大胆な構成です。しょせん自分が消滅してしまえば周りの世界を感じることはできなくなってしまうわけですから、そう考えれば自分個人の消滅も世界の消滅も大差ないのかもしれません。
結婚式をぶちこわしにしてすでに「終わって」しまったジャスティンはメランコリアが近づくにつれ逆にウキウキとしてきます。メランコリアが来てくれれば、自分も苦しみから解放されるわけですから。そこで印象に残ったのはこんなシーン。世界が終わる前に毒をあおって楽に死のう、というクレアをジャスティンは「卑怯だ」といってなじります。受けるべき罰をズルして逃げることだとでも言うかのように。
ほかにも劇中で「人類は滅ぶべき存在」みたいなセリフがあったような。トリアー監督がカンヌで「ナチに共感してる」とか言ってしまったのは、要するに「人類の大半は滅んでいい存在」みたいなことを考えてたんじゃないですかねえ。ただメランコリアが人類に対する罰だとしたら、まきぞえくって滅ぼされるほかの動物さんに申し訳なくてなりません。
あともう一つ特に強く思ったのは、世界の終末を描いた作品にしてはやけに静かで淡々としてるな~ということ。劇場版『デビルマン』でも思いましたが(よりによってそれを出すか)この世の最後というのはよくあるディザスタームービーのようにドッカンドッカン騒がしいものではなく、ひっそりとしのびよるようにやって来るものなのかもしれません。

最初に書きましたが主演女優はキルスティン・ダンスト。この人も『ジュマンジ』や『スモール・ソルジャーズ』のころは本当にかわいかったなあ(わたくし、人の美醜をどうこう言えるツラではございませんが)。そういや彼女、『スパイダーマン』でも二度ほど婚約破棄とかしてませんでしたっけ。

Photo_3上映終了後、場内に観客達の「おれたち、最後までがんばってよく観たよな?」的な空気がどわっと流れた本作品。いささかヤケになっている人におすすめします。これまたぼちぼち公開終わりそうなんで、ご興味おありの方はお早めに。

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March 15, 2012

俺たちナイフスラッシャー(じゃないよ) イーライ・クレイグ 『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』

Tg2洋画不振と言われる昨今。内容が面白くても、賞を取ってたり有名俳優が出ていないとなかなか配給が決まらないのが現状です。そんな現状に業を煮やしたヒューマントラスト渋谷さんがぶちあげたのが、この「未体験ゾーンの映画たち2012」という企画。「海外での評価が高く、話題作であるのに日本ではなかなか劇場公開されにくい、日本人にとっていわば
【未体験ゾーンの映画】の中にこそ、お宝作品がたくさんあります」「“映画は映画館で”を合言葉にあらゆるジャンルの映画の中から珠玉の【未体験ゾーンの映画】、計17作品を一同に集め、日本では未公開になってしまう前に、映画館での観賞機会を設けるべく開催致します!」 いやあ、頼もしい! 今回はその中でも特に評価の高い 『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』ご紹介しましょう。

タッカーとデイルは外見はキモいが中身はやさしい中年二人組。お互い金を出し合って、緑豊かな湖畔に一軒の別荘を買い、休暇を楽しむことにした。その道中、二人はやはりバカンスを楽しみにきた大学生のグループと出くわす。当然不気味がられる二人。まあ気にすることはないさと夜釣りを楽しんでいたタッカーとデイルだったが、溺れた女子大生を助けたことがきっかけで、大学生達から『悪魔のいけにえ』の殺人鬼のような連中だと誤解されてしまう。さらにこれに不幸な偶然が重なり、二人は仲間を取り戻そうとする大学生たちの攻撃を受けるはめに・・・

ちょっと文句を言いたいのはこのタイトルですね。「タッカーとデイル」ってなんだかほのぼのした親友二人のハートウォーミング的ストーリーを連想してしまうじゃないですか。「チップとデール」「ハリーとトント」「愛と誠」みたいな。いや・・・ それはそれでまちがってないのかもしれませんが、でもそれだけじゃないんですよ! このタイトルにだまされてついスルーしてしまった映画ファンがどれほどいることでしょう。ちなみに原題は一応『タッカーとデイルVS悪霊』となっています。あれ。悪霊なんかでてきたかな・・・ まあいいや。

まず感心したのはこの『13日の金曜日』をひっくりかえしたようなアイデアですね。アメリカの片田舎に不気味な顔をした男たちがいたら映画ファンはもうシリアルキラーだと思い込んでしまう。しかし顔が怖くても優しい人は幾らでもいます。むしろ悪人はイケメンの方が多いのでは? ちなみに京都太秦には「悪人面ほど善人」ということわざがあります。
ついでささいな誤解がきっかけでどんどんシャレにならない方向へ進んでいくストーリーが痛快でたまりません。こちらはホラーの定番通りおバカな大学生達が、命をかけたボケを百連発でやらかしてくれます。こんなんで笑ってしまうのは不謹慎なのかもしれませんが、でも笑わずにはいられない(笑) 本当にここまで壮絶なボケはそうそう見られるものではありませんよ!

ただこの映画がすごいのは、そういう馬鹿さ加減だけにあるのではありません。意外と深遠なテーマもはらんでいるのです。人は外見、先入観だけで他の人間を判断しがちであるというテーマ。そしてそうした先入観が悲劇を積み重ねていくという真理。こういう時、お互いひざを割って話し合えば誤解は解けるのでは、と思うでしょ? ところがこの映画では「ちゃんと話し合ったって解決しないもんは解決しない」というとこまで踏み込んでいるのがすごい(笑) そういえば5.15事件で亡くなられた犬養首相も「話せばわかる」といいながら撃ち殺されちゃったんだっけ・・・

もちろんただのバカ映画としても楽しめます。んで、主人公のデイルが(実はタッカーはどっちかっていうと添え物・・・)とってもいいやつなんですよ。初登場時こそ「うーん、きもっ」と思わずにはいられませんが、ストーリーを追うごとに「頑張れ!」と応援したくなることうけあいです。本当にこんなむさくるしいオッサンをこんなに愛らしく描けているという点でも出色の一本です。

Tgそんなベタホメしてしまった『タッカーとデイル』ですが、もう渋谷でも梅田でも上映が終わってしまったようです。ごめんなさい! しかし本当にこのまま埋もれてしまうのは惜しい名作。またいつの日かどこかでスポットライトがあたりますように!
「未体験ゾーンの映画たち」の方はひきつづき続行中のようです。『カウボーイ&ゾンビ』とか『ザ・チャイルド 悪魔の起源』とかいうタイトルが「んも~ あなたも本当に好きねえ!」って感じですw

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March 12, 2012

ブラックさん達を訪ねてるんだが、僕はもう限界かもしれない スティーブン・ダルドリー 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』

Msgurtika毎年この時期続々と公開されていくアカデミー賞ノミネート作品。その先陣を切ったのはこの映画。ブック・オブ・ザ・イヤーに輝いたジョナサン・サフラン・フォアの小説を、『リトル・ダンサー』『愛を読む人』のスティーブン・ダルドリーが映画化。『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』、をご紹介します。

2001年、世界を震撼させたNY貿易センタービル爆破事件。その影で父親を失った一人の少年、オスカーがいた。大好きだった父の部屋で、ある日オスカーは一つのカギを見つける。そのカギが開けるだろう何かに、父はメッセージを残していたかもしれない・・・ 彼はそう思い込む。手がかりは封筒に書かれていた「Black」「遺品セール」という文字。「Black」は人の姓だと判断したオスカーは、ニューヨークに住むたくさんのブラック姓の人々をしらみつぶしに訪ねて歩く。

予告編を観て思い出したのは、2000年(日本公開は2001年)の映画、『ペイ・フォワード 可能の王国』。一人の少年の行動が、見ず知らずの多くの人たちに深い影響を及ぼしていくという内容でした。そういう点ではこの『ものすごく~』も似てるといや似てるかも。
これは主に原作者の功績でしょうけど、同じ姓の人を片っ端から訪問していくというアイデアが独特で面白いですよね。オスカーが探す姓が浜松市の鈴木さんじゃなくて本当によかったです。鈴木さんにも隣の鈴木さんから世界の(鈴木)イチローまで千差万別の鈴木さんがいるわけですが、それはNYのブラックさんたちだって一緒。
男性もいれば女性もいる。おっかない人がいれば優しい人もいる(というか映画に出てくるブラックさんのほとんどは優しい人でした。それにはある理由があるのですが・・・)。「次はどんなブラックさんに会えるんだろう?」と、まるでオスカーと一緒にNY市を冒険しているような気持ちで観ていました。そしてそのカギが開けるものは一体何なのか。そこにお父さんのメッセージは残されているのか。ジャンルとしてはヒューマンドラマに分類されるのかもしれませんが、そんなミステリー的な筋立てにまず惹かれました。
もちろんヒューマンな部分も良かったです。見ず知らずの人々がふとしたきっかけでつかの間の間心を通わす、そういう話にわたくし弱いんですcrying 少年がめぐり合う多くのブラックさんたちの優しさ。ベッタベタじゃなくてそんなさらっとした優しさがひねくれ者には心地よかったです。

主演のトーマス・ホーン君はこれが映画デビュー作。父を亡くした上にアスペルガー症候群という難しそうな役を非常に自然に演じていました。わたしが何よりも感心したのはびよ~んとしたそのまつげ。男の子なのにそんじょそこらの女の子よりもよっぽど長いまつげをしています。世の中にはわざわざ買ってまつげをつける人もいるというのに、なんだか不公平ですよね・・・ ただ子役美少年というのは長じて劣化する場合が少なくないので、ホーン君もくれぐれも油断しないよう。

オスカーを助けてくれる「謎の間借り人」は、この作品でオスカー助演(笑)男優賞にノミネートされたマックス・フォン・シドー。映画ではこの老人の過去に関してははっきりと明かされませんでしたが、原作小説ではじっくりページを割いているそうで。お話は第二次大戦時のドレスデン空爆に飛び、9.11とシンクロしていくとか。こちらもちょっと読んでみたいですね。

さて、この『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』という印象深い題に関して。わたくし映画を観ながらこの題は二つのものを表してるのでは、と思いました。

ひとつはオスカーが電話を通して聞く、貿易センタービル倒壊の音。そしてもう一つはオスカーの亡き父の声。劇中で「帰ってくるといつもバカでっかい声で言ってた」というセリフがあったのですが、例え姿は見えなくても、思い出そうと思えばお父さんの声はすぐ近くで大きく聞こえてくる・・・ そんな意味じゃなかろうかと。もっともこれは単なるあてずっぽうです。原作を読めばもっとはっきりわかるんでしょうかね~

090908_130156『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は現在全国で公開中。そんなに大ヒット、というわけでもないようなのでご興味おありの方は早めにご覧ください。
隣になんで仮面ライダーが貼ってあるのかに関しては、「南光太郎」もしくは「倉田てつを ライダー」でぐぐっていただければわかると思います。

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March 09, 2012

トラは死して何を残す ダニエル・ネットハイム 『ハンター』

Hauntaer2エンターテイメントからアート系の作品まで幅広くこなす「異貌」の俳優、ウィレム・デフォー。そのデフォー氏の最新作は、オーストラリアの大自然を舞台にした孤高の男の哀切な物語。『ハンター』ご紹介します。

多くの戦場を行き巡り、凄腕の傭兵として名高いマーティン・デビッド。彼の次の仕事はバイオ企業の依頼により、オーストラリアに生息する幻の獣「タスマニア・タイガー」を仕留めることだった。企業はその生体サンプルを極秘裏に入手して利益を独占することを目論んでいたのだ。デビッドは研究に来た大学教授と身分を偽ってかの地に赴く。だが彼はホストファミリーの一家と触れ合ううちに自分の生き方に戸惑いを感じるようになる。そんな思いをよそに、タイガーのサンプルを狙うライバル企業の手は、デビッドの周囲にそっとしのびよっていた。

・・・ともっともらしくストーリーを紹介してみましたが、実はわたし冒頭十分ばかりぼーっとしてて肝心な部分をかなり聞き逃しておりました。だもんで、デフォーさんはてっきり大学の研究者だとばかり思い込んでいました。お話が進むにつれ、なんで貴重なタイガーを殺そうとしてるのかとか、なんで研究に来たのに命を狙われにゃならんのだと増していく混乱。かなりモヤモヤした心境で劇場を出ました。おうちに帰ってネットでお話を調べて、ようやっと「そういうわけだったのか!」と納得しました(笑)
いやあ、たった十分集中してなかっただけですっかりお話がわからなくなってしまうんだから映画って怖いですねえ・・・ ていうかそういう大事なことはもっと大きい声で折に触れ二度三度と繰り返し言ってくれないと!!

まあそんなあやふやな状態でもなんとかわかったのは、人を遠ざけていた男が行きがかり状人と触れ合うことによって、静かに心を溶かしていく様子とか。流れ者と健気な人妻と無垢な子供、そして彼らに包み込んでいく不穏なムードは西部劇の名作『シェーン』を思い出させます。
動物好きとしては姿を消して久しいタスマニアタイガーの姿を見られるという点で貴重な作品であります(たぶんCGだと思うけど)。お尻の方に入ってるワンポイントの縞模様がなかなかにチャーミング。これ「タイガー」と呼ばれてますが、実は狼の一種。序盤にはタスマニアデビルという別の耳慣れない生き物も登場し、混乱に拍車をかけてくれます。
タスマニアタイガーを探すお話としてはかなーり前に田中邦衛主演の『タスマニア物語』という映画もありました。そっちは『北の国から』をもっとぬるーくしたようなそれなりに心温まる映画でしたね。

ウィレム・デフォーがここまでクローズアップされたという点でも貴重な作品。『スパイダーマン』や『スピード2』のイカレタ役が印象的な彼ですが、ヒゲをモサモサはやしてるとちょっぴり癒し系に見えてくるから不思議です。

Hantaer1とまあ紹介してまいりましたが、早くも大体公開おわっちゃてるかな・・・ なんかこの映画に関してはいろいろ申し訳ない気持ちでいっぱいです。
デフォーさんは先ごろ亡くなられたテオ・アンゲロプロス氏の遺作『第三の翼』でも主演を張っているようなので、近々またスクリーンで観られるやもしれません。フォー!

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March 07, 2012

明日は明日の風が吹くのか 311仙台短篇映画祭映画制作プロジェクト作品『明日』

311bあの衝撃の3月11日から、もう一年が経とうとしております。あの時の思いを忘れないために・・・というわけでもないのですが、先日仙台短篇映画祭で特別に作られた『明日』というプロジェクト作品を東京は写真美術館まで観てまいりました。新進気鋭の作家たち40人が「明日」をテーマに作った約三分の短篇映画を、一気に40本まとめて上映するという企画でございます。上映作品ならびに参加された監督たちの一覧はコチラです。

お目当てはこのブログでも何度か取り上げている片岡翔氏の『超スーパーギガゴーレムSVプラス超リーサルウエポンⅡアンドギガ』。タイトル長え! 氏の唯一?のシリーズキャラクターであるコタロウ君が登場する第四作。お家の中でダンボール製のロボットスーツを作るコタロウ君と弟のシシマル君。自慢の長い名前をボディに書いたり、股間にホースを付けたり、その作業はとっても楽しそう。二人が公園に出かけるともう一人のお友達がやってきて、三人の愉快なバトルが始まります。
これだけ書くととってもほのぼのした作品みたいですけど、出かけるときにコタロウ君がつぶやくある言葉。そして子供三人しかいないがら~んとした町の風景がそこはかとない不安をかきたてます。
これからの時代、子供たちはいろんなものから身を守らなければなりません。そんなうすら寒い世界を嘆いているようでもあり、不自由な中でも明るい子供たちを微笑ましく見守っているようでもありました。

やはり自主映画の雄として名を馳せている今泉力哉監督も出品しておられました。『Mother said.I sing.Wife listens.』という作品。若い妻を前に、この世の理不尽さをギターに乗せて歌う一人の男。独特なユーモア感覚が持ち味な作家さんだと思ってましたが、こちらではまた違った叙情的な風景を見せてくれます。そういえば3.11の直後、氏も政府に対して憤りのつぶやきを繰り返していたな・・・なんてことを思い出したり。徒党を組んで青筋立ててそれを叫ぶのではなく、さびしげに語りかけるように訴えているのがらしいですね。

ほかに特に印象に残ったのは松尾貴史氏の芸と女子高生のパンチラが鮮烈だったタカハタ秀太監督の『びんた』。あ、これはyoutubeで普通に観られますね。百聞は一見にしかず。どうぞ。
一人の人間の一生を意外な形で表現した平林勇監督の『Matou』も面白かったです。おもいがけないサービスにちょっと「ウホッ」となったり(これこれ)。平林監督はやはり311を題材にした『 663114』という作品でも話題を呼んでいます。
さらに漫画の中の男の子が駆け出していくウイスット・ポンニミット作品『明日』
よくあるティッシュ配りの風景が下着と震災への議論につながっていく鈴木太一作品『ベージュ』
震災の日に娘の婚約者を待つことになったお父さんの狼狽を描く日原進太郎作品『アイツがやって来る』
二人の珍客に振り回される映画監督の受難劇、冨永昌敬作品『妻、一瞬の帰還』 『武闘派野郎』
・・・などがツボにはまりました。

311aこの 「311仙台短篇映画祭映画制作プロジェクト作品『明日』」、今後も散発的に各地で上映される模様。とりあえず今月十日よりキネカ大森、札幌のシアターキノ、横浜のブリリアショートシアターなどでも観られるようです。詳しい情報はショートピース!公式ツイッターよりどうぞ。『サイタマノラッパー』の入江悠監督、『萌の朱雀』の河瀬直美監督、 『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の瀬田なつき監督、『マイバック・ページ』の山下淳弘監督らも参加されてますので、ファンの方はぜひご覧ください。約3分とはいえ、一気に40本を観るのはなかなかの体力勝負ですけどね!coldsweats01

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March 05, 2012

オレたち朝鮮族 ナ・ホンジン 『哀しき獣』

Kk1『チェイサー』で多くの映画人を瞠目せしめた韓国の新生ナ・ホンジン。その待望の第二作が、満を持して公開・・・って、都市部ではもうとっくにやっちゃってるんですけどねcoldsweats01 『哀しき獣』、紹介いたします。

中国の辺境でタクシー運転手として働いている「朝鮮族」のグナムは、バクチで借金を増やし続ける鬱々とした日々を送っていた。韓国に出稼ぎに行った美しい妻が消息を絶ったことも彼の苛立ちを募らせていた。そんなグナムの前にミョンという怪しい男が近寄る。ソウルに行ってある男を殺せば、借金を帳消しにしてくれるというのだ。妻を探し出したいという思いも手伝って、グナムはミョンの申し出を受け入れる。

今回はどんどんネタバレしていくんでどうぞご了承くださいwobbly

この映画は大きく四部に分かれています。第一部「タクシー運転手」・第二部「殺人者」・第三部「朝鮮族」・第四部「黄海」という具合に。それぞれのパートにあわせてグナムのテンションも変化していきます。
あらすじでも書いたように、第一部では常にイライラしている彼ですが、第二部に入ると妙に調子よさげになってきます。普通人を殺すとなったら、もっと緊張したり悩んだりするものではないでしょうか。といって、もちろんウキウキしているというわけでもない。入念に決行のための下調べをしているその姿は、必要な仕事を淡々とこなしていく職人に近いものがあります。
同じことはグナムの雇い主であるミョンにも言えます。こちらはもう本当に殺しのプロフェッショナルで、お話が進むごとにバカスカ死体を量産し続けます。といって、それに喜びを感じている風でもない。仕事だからとりあえず全力でやる、そんな感じです。アマチュア、プロの差はありますが、グナムもミョンも一種のハンターであります。問題はその狩る対象が人間だということ。この二人に絡むもう一人のキーマンとして、韓国のインテリヤクザみたいなテウォンという男が登場するのですが、文明化してしまった彼はグナムとミョンに一方的に振り回されるだけで、引き立て役以外の何物でもなかったです。

そんな三人の思惑が複雑に絡んだ結果、事態は予想だにしない方向へ進んでいきます。第三部で警察、ミョン、テウォンの三者から追われることになるグナム。皮肉なことに全身全霊をかけて逃げ延びようとするこの時の彼が、一番生き生きとして見えました。しかしこれほどまでに生きることに必死になっていた彼が、あるショックな事実?を知ってしまったために、第四部では抜け殻のようになってしまいます。あるいは彼は中国の辺境でずっと命を燃やすに足る何かを求め続けていたのかもしれません。そして妻を取り戻すために、自ら修羅場の中に身を投じていきます。ですが、祭りはいつかは終わるものです。踊り狂ったあとに彼が行き着く先とは、果たして・・・

グナムを演じるは『チェイサー』で不気味な異常殺人犯役が印象的だったハ・ジョンウ。『国家代表!?』では一転して母への思いをひたかくしにした純朴な青年を演じていました。本作ではまたガラリとちがったキャラクターを見せてくれます。さほど大仰な演技をするわけでもないのに、どの役もぴたっとこなしてしまうのは見事としかいいようがありません。
一方彼を翻弄することになるミョンは、やはり『チェイサー』でハ・ジョンウと対決していたキム・ユンソクが二周りくらい大きくなったお腹で演じています。今回は群がる敵を無骨な大鉈でバッタバッタとなぎ倒していく凶悪ぶりwobbly 鉄砲を使ったほうがよっぽど効率的だろうに・・・ そういえばこの映画では発砲するのはおまわりさんだけで、他はみんなもっぱら刃物だけで立ち回りを演じます。これでもかというくらい刺したりえぐたっり切断したり撲殺したりするシーンが出てきてさすがに悪酔いしそうになりましたshock
監督の悪趣味と言ってしまえばそれまでですけど、過酷な環境で生まれ育ち、そこに身を置く者たちは、血を流し、流させたりしなければ生き続けることができないのかもしれません。そんな彼らの生き様が冒頭で語られる「狂犬」の話とシンクロしていきます。

『チェイサー』と同様、全編に渡ってヒリヒリと焼け付くような痛みがみなぎった本作。しかし映画秘宝のインタビューによりますとホンジン監督は意外と茶目っ気豊かな方のようで。たとえばミンスク氏に「役作りのために歯を抜いてくださいよ」なんてメールを送ったら「ぶっ殺す」と返ってきたとか。当たり前だ。そんなサド的というか人を食ったようなユーモアが、作品の中にもチラチラッと見え隠れしておりました。

Kk2『哀しき獣』はもう公開終わっちゃったところもありますがcoldsweats01シネマート六本木など一部の劇場で公開中・公開予定です。東北ではこれからかかるところも多いみたい。
そういや『チェイサー』のハリウッドリメイクってどうなったんでしょね? その後聞きませんが・・・


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