ポールのトラブル大作戦 グレッグ・モットーラ 『宇宙人ポール』
『ショーン・オブ・ザ・デッド』でゾンビ映画を、『ホット・ファズ』で刑事ドラマを茶化してくれた英国の異能コンビ、サイモン・ペッグとニック・フロスト。彼らが次に挑んだのは『未知との遭遇』に始まる宇宙人コンタクトもの。『宇宙人ポール』、ご紹介します。
イギリス人のSF作家クライヴとイラストレイターのグレアムは仲の良いオタク友達。彼らはいたってノーマルだが、その仲むつまじさは傍からはゲイにしか見えない。そんな二人はコミコンを皮切りに、エリア51、ロズウェルなどアメリカのオタク聖地を巡る旅に出る。旅は順調に進んでいたが、ハイウェイで車の事故に遭遇したことから彼らはリアルにSFを体験することに。なんとその車にはモノホンのいかにもな宇宙人「ポール」が乗っていたのだ。
なりゆきでポールの脱出行につきあうことになるクライブとグレアム。そんな彼らを政府のエージェントや、ポールを悪魔と思い込んだ田舎のオヤジが追いかけていく。
こうやって書いてみると実に都合のいいお話だな(笑) でも楽しいので良しといたしましょう。昨年は本当にたくさんの宇宙人さんが地球に侵略に来ました(映画の中の話です)が、やっぱり世の中にはけっこういるものなのですね。SFや宇宙人が大好きというキトクな方たちが。この映画にはそんなSFオタクの喜びそうなネタがギュウギュウ押し込められています。
が、わたしはちょっと映画を観ながらややこしいことを考えておりました。ポールたちは旅の途中で信心深い・・・というか極めて自省的なクリスチャン女性と出会います。宇宙人の存在を認めた彼女は「キリストの教えはウソだった!」と、突然発情したりドラッグをキメたりし始めるのですね。この女性がまるで近代アメリカの象徴のように思えたりして。
アメリカだってかつては多くの人々が信心深く、性モラルに厳しく、慎ましやかだったわけです。ところがある時を境に無神論が勢力を増し、ドラッグもセックスもやりたい放題な社会になってしまった。その原因はどこにあるのでしょう。もしかしたらロズウェル事件→宇宙人の存在が証明される→神の存在が否定される→じゃあ、なにやたったっていいじゃん! ・・・・という流れなのかもしれませんが(ないない)
皮肉なことにポール、ひいてはETはキリストと色々共通点が多かったりします。天からやってきて、数々の奇跡を起こし、地上の人々と心を通わせ、いっぺん死んだ後、また天へと帰っていく・・・という具合に(あ、ネタバレしちゃった
)。評論家の町山智浩氏は名前からポール=使徒パウロ説を取っていますが、わたしは普通にキリストをモデルにしてるんだと思ってます。
ただ、キリストは確かに多くの戒律からユダヤ人を解放しましたが(割礼や安息日、定期的に犠牲を捧げることなど)、「なんでもやっていいよ」とは言ってません。戒律でガンジメガラメになるのも不健全ですけど、モラルを破壊しまくるのも明らかにまずいです。大事なのはその間で自分なりのバランスを保つことではないかな~と。
バランスといえばこの映画もいささかアンバランスなところがあります。全体的に低予算的な印象が強いのに、ポールだけがやけによくできている。実際この映画の予算の多くはポールの造形に注ぎ込まれてしまったとか・・・ 映画人としてはどうかと思いますが、SFオタクとしては正しいと言わざるを得ません。『仮面ライダークウガ』冒頭の二話で教会を燃やしてしまい、年間の予算の半分以上をふっとばしたという話を思い出します。
とまあ小理屈をコネコネこねてしまいましたが、基本的には頭をからっぽにして楽しめる映画です。『宇宙人ポール』はまだ銀座や渋谷でしぶとく公開中。全国の劇場でこれからかかるところもあるようです。長寿と繁栄を・・・
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10:イギリス
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Tracked on March 01, 2012 11:02 AM
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なかなか笑わせて
いただきました!!!
ポールってば、めちゃめちゃ
お茶目でした。
サイモン・ペッグとニック・フロストの
オタクぶりも面白かったです。
SFオタクのイギリス人、クライブ(ニック・フロスト)と
グレアム(サイモン・ペッグ)は、念願だったコミックの祭典
「コミコン」とアメリカのUFOスポットを巡る旅を楽しんでいた。
その途中、ネバダ州の「エリア51」でポールと名乗る宇宙人と遭遇する。
そしてポールを故郷に帰すため、悪戦苦闘することに・・・・。
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Tracked on January 17, 2013 05:44 PM
Comments
絵はすっげー上手いけど違うww
ちゃんとスピルバーグが声の出演してくれるところがアメリカらしく
ていいやねぇ(笑)
ちなみに、この後「ザ・ベストハウス123」かなんかで、子どもが庭で遊んでる後ろにポールでてたよー。
Posted by: KLY | February 20, 2012 11:01 PM
伍一さん、
ほんとにポールの絵、上手いです!それと、カメみたいだから面白い。
伍一さん曰くのバランスって大事ですよね、ほんと。ちょいと違うけど健康の為にも。
この映画、とても気に入っています。宇宙人オタクの仲間入りしているって事かなぁ?伍一さんの面白いレビューも期待通りに面白かったです。
Posted by: まみっし | February 21, 2012 12:02 AM
宇宙人のヒッチハイカーってことで期待しすぎちゃったのと、
最近の予告篇はほんとにみせすぎで、
一番面白い鳥生き返らせるオチまでみせちゃってるんだもん、この映画のせいじゃなく配給会社のせいだけど
そういうのやめてほしいなーと。
そのせいで楽しめたのは半減。
このコンビは大好き♪
サイモンペッグ好きならゾンビコメディの「ショーンオブザデッド」をぜひみてみて!
Posted by: mig | February 21, 2012 11:04 AM
>KLYさん
じつはこの有名な絵も、ミケランジェロの『アダムの創造』のマネだったということを最近になって知りましたよ・・・ ふふふ・・・
スピルバーグもシガニー・ウィーバーも本当に懐が広いですけど、何気に他局の番組を紹介されてるKLYさんも懐が広いと思いました
Posted by: SGA屋伍一 | February 21, 2012 08:58 PM
>まみっしさん
毎度おほめいただき恐縮です
言われてみれば亀みたいですね。グレイ系の宇宙人ってシルエット的に爬虫類に近いものがあると思います
健康のバランスも大事ですよね! 最近腹が出る一方の私にはちょっとくら耳の痛い言葉です(笑)
それにしても英国のおしゃれ夫人でありながら宇宙人やガンダムがお好きなまみっしさんは本当に面白い方だなあと。今年の宇宙人映画では浅野忠信も出演している『バトルシップ』が話題ですが、これどうなんかな~
Posted by: SGA屋伍一 | February 21, 2012 09:18 PM
>mig ちゃん
こんばんは~
実はこの映画は予告編見ないで観たのだ。だから鳥のシーンにはビックリした。鳥かわいそう・・・・
まあ猫だったら許せんけど鳥ならいいかな。わたしも焼き鳥好きだしね。 つか、ここが一番面白いシーンだったんだ(笑)
予告編見せすぎには同意。何度も言ってるけどその点『第9地区』の予告編には本当に感心したな。『ドラゴンタトゥーの女』でモザイクが不評をかってるけど、あれは数少ないいいモザイクだったと思う
『ショーン・オブ・ザ・デッド』はいつか観てみたいなり。うむ
Posted by: SGA屋伍一 | February 21, 2012 09:33 PM
伍一くん☆
これ結構ごいちー好みかと思っていたけど、そこまでではなかった?
私は大好き~~♪
そっか、ポールはキリストだったのね。
キリストいなかったこと判って、急に羽目をはずしちゃうアメリカ人もどうなんだろうね?笑
ともあれ「クウガ」は非常に良かった!
予算が無い中で必死に頑張るから、いい脚本が出来るいい見本ですね。この映画も。
Posted by: ノルウェーまだ~む | February 24, 2012 10:12 AM
>ノルウェーまだ~むさん
いやいや、好みではあったんですけど、そうですねえ・・・・
もっと宇宙人が大挙してドサドサドサドサ出てきてくれたらもっと嬉しかったです!
まあ人間、あまりガマンしてると反動もまた激しかったりするものですよね。ダイエットもそう・・・
クウガに関しては「ロケ弁がどんどん粗末になり、最後は支給すらされなくなった」という証言も有名ですねw オダジョーもこういう現場でもまれて成長したのでせう
Posted by: SGA屋伍一 | February 24, 2012 11:16 PM
こんにちは♪
なんか...すごく真面目なレビュー。
なるほどキリストですか~
全くそんなこと考えずにポール最高ポールいいね~と観てましたよ。
Posted by: yukarin | March 01, 2012 11:07 AM
>ykarinさん
こんばんは~ おかえしありがとうござりまする
日ごろアホなことばかり書いてるので、たまにはこうやってインテリぶりたくもなるのですよ。ふふふ・・・
それにしてもyukarinさんの好みもK一君から宇宙人まで幅広いですね~ 尊敬します!
Posted by: SGA屋伍一 | March 01, 2012 10:38 PM
こんばんは!(^_^)
宇宙人とキリスト教の関係を考えながら、観てたなんて
なんか深いですね〜。
私は、単純に笑いながら楽しんじゃいました!
どちらかというと、攻撃してくるエイリアンが
多いので、こういう友好的なエイリアンのお話は
なんかいいですよねー。
Posted by: ルナ | March 01, 2012 11:26 PM
>ルナさん
こんばんは

まあ上の考えはたんなる思いつきにすぎませんが
やっぱりキリスト教は程度の差こそあれ西洋の人々の見方・考え方に大きな影響を与えているんだな、と思いました
『スーパー8』ももっと友好的な話になってもよさそうなものでしたが。あれの宇宙人はポールの懐の広さをもっと見習ってほしいものです
Posted by: SGA屋伍一 | March 02, 2012 10:54 PM
どうも、お返事がたいへん遅くなりまして・・・
そういやクリスマスにポール観に行く前、町山さんがツイッターで
)
「ポールは実はクリスマスにぴったりな映画」とかつぶやいてたのチラ見して
(けっこうネタバレしてるときもあるからじっくりは見ない
観たあとクリスチャンなヒロイン出てくるからかと思ってたけど、
ポールは使徒パウロ説、なるほどですね。
SGAさんのキリスト説もなるほど!
スピルバーグの『戦火の馬』たのしみです。
Posted by: kenko | March 02, 2012 11:25 PM
>kenkoさん
こんばんは(笑) 韓国行かれてたんですね。いいなあ
>「ポールは実はクリスマスにぴったりな映画」
そうかなあ
まあキリストについていろいろ考えさせられるという点ではそうかもしれませんが・・・
ところでツイッターやってると、ブログよりもさらにネタバレに出くわしやすいですよね。最近はぶつかりそうになるとさっと見送るスキルを身につけましたが、油断は禁物であります
『戦火の馬』はあした公開でしたっけ。その前にわたしはまず『ヒューゴ』観てきます
Posted by: SGA屋伍一 | March 02, 2012 11:47 PM