ナンガが何だ ヨゼフ・フィルスマイヤー 『ヒマラヤ 運命の山』
春は名のみの明けの寒さや・・・ 相変わらず寒い日が続いてますね。そんなときにさらに寒そうな雪山の映画など観てどうしようというんでしょう。「超人メスナー」が若かりし頃に経験した悲劇の真相に迫るドイツ映画『ヒマラヤ 運命の山』紹介いたします。
ヒマラヤの難所のひとつ、ナンガ・パルバート。1970年、若き登山家ラインホルトとギュンターの兄弟は、世界最大の標高差を誇るルパール壁の登攀に成功する。だが弟のギュンターは下山中帰らぬ人となった。記者会見でチームリーダーのヘルリヒコッファー博士は、その場に来たラインホルトを「弟を死に追いやった」と糾弾する。それに対しラインホルトはまだ傷のいえぬ体で、弟の死の真相について語りだした・・・
ヒマラヤというと山に詳しくない身としてはすぐにエベレストを思い浮かべますが、他にもいろいろ馬鹿高い山があるようで。とりわけナンガ・パルバートはその超ど級の断崖絶壁のため多くの遭難者を出し、「人食い山」として登山家たちから恐れられていたようです。1937年 には ドイツ隊のキャンプ地を雪崩が直撃し、16名の死者を出すという惨事もありました(そんな山にどうして登りたがるかねえ・・・)
あと余談ですが『セブンイヤーズ・イン・チベット』でブラッド・ピット演じたハインリッヒ・ハラーも、この山を登っていたら戦時中だっためにイギリス軍の捕虜になってしまった、なんて話もあります。
しかしこの種のお話を見るたびに思うのは、どうしてそんなに大変なところへ命を削ってまで行こうとするのか、ということですね。そりゃわたしも高いところは好きです。無理ない範囲なら景色を楽しむためにえっちらおっちら上ることだってあります。しかし酸素の薄さに苦しんで約5キロの壁をよじ登って、凍傷で指がもげるような思いまでして行こうとは到底思いません。この映画を観たら少しはわかるかな、と思いましたがますますわからなくなりました。というか絶対に行きたくありません。
あるいは実際にハゲるほどの苦労をして目標を達成して、初めて彼らが頂を目指す気持ちがわかるのかもしれません。そういえばわしゃあ昔から苦労とか努力からすぐ逃げ出すタイプだったなあ・・・
この映画は登山映画であると同時に兄弟映画でもあります。近年の兄弟映画というと『ダージリン急行』『ディファイアンス』『ザ・ファイター』などが思い浮かびますが、かように兄弟というのはいがみあったり衝突したるすることが多いもの。それと比べるとこちらの兄弟は実に仲がいい。絶妙なコンビで数々の天険を制してきたわけですから。
しかしお互い心から深く信頼しあっているかというとちょっと違うような。ラインホルトは弟のギュンターがいなくても、割と一人でホイホイ行ってしまうタイプ。それに対しギュンターは兄に遅れまいと意地でもついて行こうとするタイプ。この二人のすれ違いが1970年のこのトライでは悲劇を生むことになってしまいます。
わたしが特にすごいな、と思ったのは作品の最後に語られるラインホルトと、ライバルのコンビのその後。フィクションでは一つのヤマが終わればそのあとはめでたしめでたしですが、現実にはそのあとも様々な難関やらドラマやらがあるわけで。その辺のことが本当にさらさらっと語られてしまいます。
あと山の魅力がそんなにわからないわたしでも、スクリーンで観るヒマラヤの雄大な情景には息を呑むものがありました。
さて、この作品都心では昨年の夏にとっくに公開されていて、半年後地元の映画館に流れてきてようやく観ました。もうやってるとこないだろうな~と思っていたら、大森とか豊洲とかでまだやってるんですね。3月末にはDVDも出るようですが、山の好きな方はぜひ劇場で。
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