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February 23, 2012

禁断のFB愛 クリント・イーストウッド 『J・エドガー』

Edogaいま最も精力的なジジイ監督でおられるクリント・イーストウッド。その最新作はFBI長官、J・エドガー・フーバーの内面に迫った異色のドラマ。『J・エドガー』、紹介いたします。

1960年代アメリカ。晩年のFBI長官、フーバーは自分の歩みを振り返るべく、一人の部下に回顧録を書かせる。時はさかのぼって1919年。共産主義者によるテロ行為でパーマー司法長官の家で爆発事件が起きる。事件を知った若き日のフーバーは、アメリカの治安を守るため連邦捜査局の設立を決意する。二つの時代を行き来しながら、作品はフーバーの業績と副長官クライド・トルソンとの関係を赤裸々に物語っていく・・・・

「FBI」はともかく、フーバーというと日本人にはどうもなじみが薄い人物。なんとなく「手段を選ばないやり手」みたいな、「悪名高い」イメージが流布しているような気がします。

作品からまず感じたのは、フーバーがものすごく熱意に満ちた「管理オタク」であるということ。図書館の本をすべて組織的に整理したことを誇らしげに語り、「国民すべてに番号をふる事ができたらどんなに素晴らしいだろう」と夢見る。はっきり言ってうざい(笑)  しかしまあ、彼が私利私欲ではなく、純粋に理想を追う青年だったことは認めざるを得ません。少なくともこの映画の中では。そしてその理想を妨げる共産主義者やギャングたちを、容赦なく締め上げていきます。
もう一点インパクトがあったのは彼がある意味とても女性的であったということ。生涯副長官のクライドただ一人を愛し、母のドレスに憧れを感じるその姿は、彼がえげつない陰謀家であることを忘れさせ、同情の念を抱かせます。思えば彼が最初に長年の同僚となるヘレン・ギャンディに求婚したのも、彼女の「仕事第一」という男性的な面に惹かれたのやもしれません。

しかしまあ、ほんまもんのJ・エドガーはもっとネガティブな人間であったろう事は想像に難くなく。本国でこのイメージについていけなかった観客が多数いたこともなんとなく頷けます。わが国だって小沢一郎や石原慎太郎、渡辺恒雄の半生記をこんな風に映画化したら、「ふざけんな!!」の大合唱になりそうですし

それはともかく特に面白く感じたのは・・・・ と。ここからは深刻なネタバレになるのでご了承ください。

彼がたどってきた若き日の記憶、それが自分に都合よく脚色、美化されてたというとこでした。実際は安全な場所から指揮してただけだったのに、記憶では悪党のところに乗り込んでいって自ら逮捕したことになってたり・・・とか。あれこれ陰謀を企んでいるうちに、自分でも虚構と現実がわからなくなってしまったのだ、みたいなことを最愛のクライドに言われてしまったりします。
この記憶の中の銃にもひるまず悪党を追い詰めていくフーバー、なんつーかダーティー・ハリーとほとんど一緒じゃないですかw もしかしたらかつてイーストウッドも映像の中のタフガイと本当の自分と、どっちがどっちなんだかわからなくなってしまったことがあるのかもしれません。「自分は銀幕の英雄などではなく、皆と同じ弱さを持つ一個の老人にすぎない」 そのことを改めて確認するために、この作品を撮ったんじゃないかな・・・なんて憶測したりして

そんなことを思うのはイーさんはこれまでず~っと「人の強さ」を軸に作品を作ってきたのに、前作『ヒアアフター』から急に「人の弱さ」の方に興味がいっちゃったような気がするからです。この映画、感動するべきところで笑ってしまったたところが幾つかあったのですが、老いてなおこのように変容を続けていく作家というのは本当に興味がつきないですね。

Edogawaそんな『J・エドガー』は現在全国で上映中・・・なはずなんですが、ご近所では来週からもうレイトで1回だけになってるよ!? イーストウッド&ディカプリオでこの仕打ちか・・・ アメリカの近代史の勉強にもなりますので、ご興味おありの方はお早めに~


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Comments

ごいち君こちらにも☆
いや~、なかなかイイコトいいますなぁ。
伍一くんのレビューで久々感心いたしましたです。
イーさん監督が自分の中の虚構と現実を改めて確認する作業のために監督をしているのだとすると、ただ老いて弱っていく自分とまだバイタリティーをもって作品に挑んでいきたい気持ちとの葛藤が現在の作風なのかもしれないですね。

Posted by: ノルウェーまだ~む | February 24, 2012 03:55 PM

>ノルウェーまだ~むさん

こちらにもくださって伍一感激っす。と思ったら

>久々感心いたしましたです

久々かよ! でもそうですね、いつもろくでもないことしか書いてませんでした・・・

毎年毎年傑作を送り出してるイーさん監督、はたからはまったく老いを感じないのですが、やはりご本人は色々と意識せざるをえないのでしょうね。いかに精力的といえど、体力はどんどん限られてくるでしょうし。それでもなお新しい題材にチャレンジし続ける監督はやっぱりすごいです。まだまだがんばってほしいものです

んで、全然関係ありませんが、あしたはよろしく~

Posted by: SGA屋伍一 | February 24, 2012 11:23 PM

>こちらにも、、、

あ、ブログ引っ越したんだっけ。忘れてた。。。

江戸川区に赤マルをつけた着眼点は、するどいと思いました。お隣墨田区にスカイツリーが出来上がり、まさかの地価高騰。に、ひとり取り残された江戸川区。。。これはまさに時代に取り残されたフーバーそのもの。共産主義とかFBIとか、わかりやすい仮想的がいた時代はよかったってことですよ。

じゃ、あしたはよろしく~。。。

Posted by: ワタミ会長。。。 | February 25, 2012 08:59 PM

>ワタミ会長さん。。。

こちらにもどうも。。。
社員の皆さん、もっといたわってあげてください。。。 ていうかあなた(略)

江戸川といえば『オジャマンガ山田くん』の主題歌が懐かしいですね。ひがしっえどがわさんちょうめっ (さんちょうめっ!!)
今のアメリカの敵はなんでしょうね。。。 さしあたってイランとか北朝鮮なんでしょうけど、やっぱしソ連に比べると役不足というか。。。 ていうかそれより財政破綻をなんとかせにゃならんですよね。。。

あ、今日は楽しかったです。会ってないけど。。。

Posted by: SGA屋伍一 | February 26, 2012 10:48 PM

伍一くん、先日はありがとう!
遠い中いつも感謝!
ネタバレ翔が話したときにはもういなかったんだっけ?
夫婦かなとおもったんだけど独りだったの。
あ、この感想はいいか。

で、イーストウッドにしてはこれ全然ヒットしなかったよね。
私最近ダメだなぁイーストウッド。
これもネタ自体がどうでもいい人だったんだもの。
あ、言っちゃった!

Posted by: mig | February 27, 2012 10:25 PM

>migちゃん

こんばんは。こちらこそどうも~ お好み焼きおいしかったね
そのネタバレ、すんごく気になるんだけど(笑)
結局ツイッターのほうで書いた解釈でよかったってことなのかな?
???

外国はともかく、日本ではさっぱりだったようだね。日本でフーバーに関心がある人なんてそうそういなさそうだし。去年は去年で公開打ち切られちゃうし。気の毒だな、イーストウッド
まあ次回は久々にご本人も出演ということで盛り上がるんじゃないかな~

Posted by: SGA屋伍一 | February 28, 2012 11:46 PM

イーさん監督ぽくない作品だなぁ〜って気がしたんですが、
「人の弱さ」の方に興味がいっちゃったからなのかな〜。
でも、人間ドラマとしては面白かったです。
いろんな映画に登場するFBIが、こういう人物によって
作られたというのは、なかなか興味深いですねー。

Posted by: ルナ | March 01, 2012 11:34 PM

>ルナさん

ここ二本はテーマもぱっとわかるようなものではなくて、「あなたが自分で考えて」という感じですよね。これからまたどこへ向かうんでしょう、イーストウッド

FBIの活躍する映画というと『アンタッチャブル』・・・と思いましたが、調べてみたらあれはまた違う組織の話のようです 『羊たちの沈黙』のクラリスはたしかFBIの人だったような

Posted by: SGA屋伍一 | March 02, 2012 11:29 PM

こんばんは〜
禁断のFB愛。本当に数秒だけFaceBookのことかと思ってしまいましたが、その後鼻で笑いましたwいつもタイトル本当に面白い!
ここに描かれたJ・エドガーほどではないにしろ、老年になって自分を美化して考えすぎがちな人って、意外と居そうですよね。
理想を高く持ち、アメリカの国防の礎を築いた人物を、ここまで大胆に描くなんて。
CIAの話ですがデ・ニーロの『グッド・シェパード』みたいな作品とは随分違うタッチだなーと感心してしまいました。

Posted by: とらねこ | March 09, 2012 04:09 AM

>とらねこさん

一日差でこんばんは~ もっと!もっとその冷たい眼差しで笑って! さげすんで!
まあ大体において人というのは自分の過去を美化したがる傾向にありますよね。わたしも将来そんな自分に甘々なおじいちゃんになりそうでちょっとイヤです。ううう・・・ 若く美しいまま死にたい・・・

わたしも『グッド・シェパード』思い出しました。名優が監督という点も一緒だし。こちらよりももっとドライなタッチの映画でしたかね。J・エドガー氏にはイーストウッドのダメな子への愛情が深く感じられました。

Posted by: SGA屋伍一 | March 09, 2012 11:19 PM

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