あの鍵を回すのはあなた ジル・パケ=ブランネール 『サラの鍵』
さてさて・・・ 新年あけましてのようやくの更新は、一昨年の東京国際映画祭で最優秀監督賞と観客賞のW受賞を果たしたこの作品。『サラの鍵』、ご紹介いたします。
1942年7月、ナチス占領下のパリで「ヴェルディブ事件」という惨事が起きた。市内にすむユダヤ人は同胞だったはずのフランス人の手で一斉検挙され、自転車競技場(ヴェルディブ)へと押し込められた。その中に幼い少女サラと家族の姿もあった。サラは警察が家に押しかけてきたとき、慌てて納戸に隠してきた弟ミシェルのことを案じていた。納戸を開けてミシェルを助け出せるのは、鍵を持っている自分だけ。早くアパートへ戻らなければ・・・ だがその思いとは裏腹に、サラは遠く離れた収容所へと連れて行かれる・・・ 時は移って現代。腕利きのジャーナリストとして働いているジュリアは、ヴェルディブ事件について調べているうちに、自分が越してきたアパートにかつてサラの一家が住んでいたことを知る。
年明け早々なんですが、重ための映画です。残酷なシーンはほとんどないのに、サラや家族たちを見舞う過酷な現実にキリキリと心が痛みます。交互にはさまれる平和な現代のパートに入ると、ほっと一息ついたりして。
『サラの鍵』はおそらく文芸作品に属する映画かと思われますが、同時にミステリーとしての一面も持っています。現代に生きるジュリアの眼を通し、サラとミシェルは果たしてどうなったのか、わたしたちは固唾を呑んでその謎が明かされていく様を見守り続けます。
以下は軽くネタバレしていくのでご了承ください。
わたしが特に強く記憶に残ったのは、次の二つの言葉でした。ひとつは資料保管所で働いている老人がジュリアに言う「わたしの仕事は、数字に光をあてることだ」という言葉。たくさんの犠牲者たち一人一人がどんな名前で、どんな人間だったのか、それを掘り起こしていく作業のことを彼はこう語っていました。
もうひとつは事件を聞いて嘆く同僚に対して、「あなたがその場にいたらどうした?」というジュリアの言葉。ジュリアが取材した老婦人は「当時はユダヤ人の悪い評判ばかりが立っていた」と答えます。加えてナチスに異を唱ええれば自分たちが罰せられるという恐怖もあります。
時代も遠く離れた今であれば、「許せないことだ」と怒りを燃やすのはごく簡単なことです。しかし果たして自分がそのときそこにいたら同じ態度でいられるでしょうか。
そんな疑問に対し慰めを与えてくれるのが、サラを助けてくれる兵士と農夫の夫婦。兵士は最初サラを乱暴にふみつけますし、夫婦は邪険に追い払おうとします。かばえば自分たちに危害が及ぶのですから、当然といえば当然の態度かもしれません。しかしその少女の名前を知ったとき、自分と同じ感情を持つ人間だとわかったとき、彼らはためらいながらも危険を冒してまで少女をかばいます。それでも見捨てる人もいるでしょうけど、自分はできればかばえる人間でありたいと思いました。
歴史を学ぶということは、きっとデータの羅列を暗記することではなく、縁もゆかりもなかった名前たちに意味を付し、彼らの生きた証を残していく。そういうことなのかな・・・なんてことも思いました。
『サラの鍵』は現在新宿武蔵野館、銀座テアトルシネマを中心に公開中。全国の他の劇場でも順次公開予定とのこと。大好評につき、銀座テアトルではモーニングショーの追加が決定したとのこと。少し毛色は違いますが『ライフ・イズ・ビューティフル』などに感銘を受けた方におすすめかな・・・
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現代、ジャーナリストのジュリアは、夫が祖父母から譲り受けたアパートに、かつてユダヤ人家族が住んでいたことを知る。過去、ユダヤ人一斉検挙の朝、少女サラは弟を納戸に隠して鍵をかける。
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1942年、ナチス占領下のパリ。
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Tracked on July 14, 2012 04:41 PM
Comments
伍一っっちゃん
書いてたのね!
今日はにゃんこさんとお会いして、伍一っちゃんの話も出たよ〜今にゃんこさんは浜松だから近いのね。
で、サラの鍵観る筈が渋谷だからとフライトナイトに変えていたわ(笑)
今度にゃんこさん来た時にお誘いするねー。
サラの鍵、なかなか良かったよね☆
Posted by: mig | January 07, 2012 06:42 PM
データの羅列を暗記ね・・・
なるほど。
原作。読んでたんだけど
歴史を「語りつぐ」
重く難しく辛く哀しみもあるし
現実は大切に伝えたいし
自分の中にしっかり収めたい
過酷な歴史の現実。
当事者は深く遠い奥底へ「封じ込み」
過酷な事を経験した人達は亡くなりつつ
ジュリアはどうして留まらなかったのかなぁ
人には触れて欲しくない逆に触れられたくない事もあるのに
自己中心的だったなぁ・・・と思ったし
私なら真実を知っても静かに自分の中に
潜ませて黙るけど
さーて。新年が明けてしまった
今年も色々と映画を観たいわ
ま、のったらくったら記事upしていくのは
何時ものコトで変化は無いだろうけど
たまにはqのヤツの所にでも行くか~
なんてノリで見守っててね~
3匹のモフモフ猫達と
ほわほわと生息してるよ~
Posted by: q 明けてものったらくったら | January 08, 2012 10:42 AM
>migちゃん
昨日はにゃんこさんと楽しめたようでよかったね~
彼女とはmixiでたまたま知り合ったんだけど、前からmigちゃんとこにコメントしてる人だと後で知って、世の中本当にせまいと思った(笑)
で、今度から同じ県民になるわけだけど、静岡県って横に長いから浜松から熱海までってけっこう距離があるんだよね。それこそ熱海から東京までの距離と同じくらいかもしれない
>今度にゃんこさん来た時にお誘いするねー。
ぜひぜひよろしく
Posted by: SGA屋伍一 | January 08, 2012 11:01 PM
>qちゃん
どもども。原作読んでたんだね
歴史から学ぶことは大事だよね。ただ時折歴史を探ることがある人の封じたかった過去を掘り出してしまうこともあるわけで・・・
どこまで明るみに出していいか、ラインをひくのは難しいことだよね
ジュリアの場合は結果的に関わった人がみんなハッピーな気持ちになれたからよかったけど
山田風太郎さんという作家がいるんだけど、生前絶対に出さないでほしいと言っていた日記が死後どんどん出版されちゃって「あちゃ~」と思ったことなどを思い出しました
さてさて本年もよろしく。qちゃんが大変な状況でも一生懸命がんばっているのを読んでると、わたしもちっとのことくらいはへこたれずにがんばらなきゃ、と思うよ。それじゃまたお邪魔させてもらうね!
Posted by: SGA屋伍一 | January 08, 2012 11:09 PM
名もなき人に焦点を当てて行ったら、きっと驚くべきドラマたちがたくさん出てくるに違いないと思います。
人はこの世から去っても魂だけが残る状態=成仏できない、という言葉がありますが、サラだってたぶんそうだったのでしょう。 こうしてジュリアによって明らかになり、それぞれ関連する人たちの想いはあれど、彼女の真意を理解してもらえてよかったねと、思わぬところで仏教的概念も感じたりしたのでした。
Posted by: rose_chocolat | January 11, 2012 01:33 AM
>rose_chocolatさん
こんばんは。お返しありがとうございまする~
うん、たぶんこの時期のユダヤ人たちは誰しもドラマの主人公になれそうな境遇にあったのでしょうね。最も彼らが望んでいたのは悲劇の主人公になることではなく、ごくごく当たり前の家庭の平穏だったのでしょうけど…
仏教的概念ですか。そういえば「袖刷りあうも他生の縁」なんて言葉がありますが、サラもまさか数十年経ったあとで自分の人生が見も知らぬ女性に深い影響を与えるとは思いもよらなかったでしょうね
Posted by: SGA屋伍一 | January 11, 2012 10:30 PM
こんばんは
観るまではてっきりクリスティン・S・トーマスがサラ役かと思い込んでいました。
反ナチスものではあるけれど,ジャーナリストの姿勢についてとか
おっしゃるように,歴史を知るということは
その中で生きた実在の人々の思いや痛みをも知ることだと
なんだか深いテーマの作品でしたね。
私もあの時代に生きていたら,
サラを助ける人間でありたいけど・・・どうでしょうか?
その時にならないとわからない弱さを持つのが人間であるし,
同時に優しさや強さも,案外とっさに出てくるのも
人間のいいところだと信じたいかなぁ。
初めての映画館はちょっと迷ったのですが(迷うなよ,あんなわかりやすい場所で)
無事に鑑賞できて安心しました。さすがに作品のせいか
落ち着いた年齢層の方たちが多かったですね。
Posted by: なな | January 21, 2012 10:26 PM
>ななさん
こんばんは
わたしは最近ようやくクリスティン・スコット・トーマスが女性であることがわかりました・・・ なんか「スコット・トーマス」って男っぽくありません?
わたしはどっちかというとミステリー要素にひかれて鑑賞したのですが、サラやミッシェルの運命があまりに過酷でしおんなものを楽しむ余裕もありませんでしたよ・・・
>その時にならないとわからない弱さを持つのが人間であるし,
同時に優しさや強さも,案外とっさに出てくるのも
人間のいいところだと信じたいかなぁ
それはありますよね。普段気弱そうな人がここぞというところで芯の強そうなところを見せたり。上でも書きましたがそんな人間でありたいです
新宿武蔵野館はわたしも度々行きますよ~ ダージリン急行、地下鉄のザジ、息も出来ない、メアリー&マックス、そしてサラの鍵もこちらの劇場で観ました。あんまり大きくない劇場ですから迷われても無理ないかと
Posted by: SGA屋伍一 | January 22, 2012 09:50 PM