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January 16, 2012

十字架のシンメトリー レフ・マイフェスキ 『ブリューゲルの動く絵』

100906_1908542012年最初に観た映画。しょっぱなからずいぶん風変わりな作品を観てしまいました(笑) 巨匠の名画を人間を使って再現した『ブリューゲルの動く絵』、ご紹介します。

舞台は16世紀のベルギーっぽい世界。映画はブリューゲルがたくさんの人々を前に、キャンバスに向かって筆を動かしているところから始まります。巨大な風車で粉をひく老人。わんぱく盛りの子供たちとその母親。ロバを飼っている慎ましげな若夫婦。人々を虐げる異端審問官たち。彼らを苦々しく思う領主らしき男・・・
作品はそんな風に当時いたであろう人々の日常を淡々と描いていきます。
ところが中盤のあたりで突然キリストの受難劇が始まってしまうのでビックリします。16世紀ベルギー風の背景の中で(笑)

え~、実はこの映画、はっきりとした元ネタがありまして。それはブリューゲルさんが1564年に描いた『十字架を担うキリスト』という絵です。どういう絵かというとこういう↓絵。
A_2
キリストは画面の中央あたりにちっちゃく描いてあります。なぜこんな風に目立たなく描いてあるのか? それににもちゃんとした理由があるのです。ピーデル・ブリューゲルさんは農民の生活風景をよく題材にしたことで知られております。またこの画家は大変信心深い人で、宗教的なメッセージを込めた作品を多く世に残しました。代表作『バベルの塔』もそのひとつかと。
映画は絵の中の人々に息吹を与えることで、ブリューゲル氏が当時の世の中をどのように思っていたのか、まったりと解き明かしていきます。ちなみに映画の原題は『The mill and the cross』。風車(mill)と十字架(cross)がこの絵を読み解くポイントになっているのですね。

まーですから世に多くある主人公がいてお話に起承転結があって・・・ というほとんどの映画とは趣を異にしております。しかしわけのわからん絵をこうやって再現することで意味を探っていこう、という試みはなかなかに独創的で面白いじゃあーりませんか。加えてばかでっかい風車がゴリゴリと動いている様子や、明らかに書割のような背景の中で動いている人々、時間も場所も遠く離れた16世紀ベルギーの生活のひとつひとつになにやら引かれるものを感じました。

ただ自分、ブリューゲルさんって農民画家であり宗教画家である以前に、「へんてこな生き物」を描く人というイメージがあったんですよね。どういう生き物かというとこんなの↓
B_2


いやあ、吹っ切れてますね(笑) ブリューゲルを題材としているということで、このへんてこな生き物たちも出番があるのでは・・・と期待していたのですが、残念ながら今回は架空の生き物は出てきませんでした。
どなたかこれらの生き物を使って、不気味かわいいアニメーションを作ってくれませんかね~ 

多少人を選ぶきらいはあるものの、美術展などが好きな人はそれなりに楽しめるかと思います。『ブリュ-ゲルの動く絵』は現在渋谷はユーロスペースを中心に公開中。全国の他の劇場にも順次巡回していく予定だそうです。


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Comments

伍一君、ブリューゲルンスコ☆
うわー、彼はこんな風変わりな絵も描いていたとは、全く存じませんでしたわ。
勉強不足だったわぁ。
こっちのほうが面白のにね。特に動かすには。
タモリさんが日本画をちょっとだけ3Dっぽく動かしたりしているけど(ブラタモリ)、名画を動かすのもいいアイデアね。

Posted by: ノルウェーまだ~む | January 20, 2012 05:47 PM

>ノルウェーまだ~むさん

フランダーンスコ~
コメのない記事にどうもありがとうございます
まだ~むさんは欧州の美術館で実物をごらんになったことがあるのかな?
だいたい「ブリューゲル 画像」で検索すると『バベル』が出てくるので、そっちで覚えてる人の方が多いかもですね

名画を動かすアイデアといえばなにかで『鳥獣戯画』のカエルやウサギを動かしてたアニメを見たことがありますね。あと「みんなのうた」の『メトロポリタンミュージアム』とか

Posted by: SGA屋伍一 | January 20, 2012 10:20 PM

こんにちは〜
ブリューゲル展は1年少し前でしたっけね。私も友人と行きましたよ。
そう言えばあれ以来、美術館行ってないなあ。
途方も無い作品でしたけど、アイディアは結構良かったんですよね。

Posted by: とらねこ | January 21, 2012 03:12 PM

冒頭のイラストはブルーギルのダジャレですかね。。。

そっか。ボクは、キリスト受難ものはけっこー好きなんですけどね。なんで風車が回ってる時代にキリストはいねーだろう、って思いながら、寝てしまい、、、

これは宣伝がよくないと思うよ。こんな邦題つけてさ。信用なくすよね、こういう配給してると。

あと、ミラ・クニスが出てたらよかったね。mill and the cross だけに。。。じゃ、メジャーでがんばりま~す。。。 

Posted by: ダルビッシュ有。。。 | January 21, 2012 10:34 PM

>とらねこどん

こんばんは~
わたしも最近美術展行ってないあるよ。今上野でやってるゴヤ展は興味あったんだけど、気がついたらもう会期があと一週間くらいしかなかった・・・
とらねこどんはだいぶ物足りなかったようだけど、わたしはものめずらしいオモチャみたいでそれなりに楽しめましたよん

Posted by: SGA屋伍一 | January 22, 2012 09:34 PM

>ダルビッシュ有。。。さん

はじめまして。サエコが慰謝料勘弁してくれてよかったですね。。。ってあなた裏山さん(略)
冒頭の魚のような物は確か「怠惰」をあらわしていたと思いました。だる~フィッシュなんつって。。。

芸術家関連の映画はおじいさんおばあさんたちがたくさん来ますからね。邦題はその効果を狙ってたんではないかと。でもそれだったら渋谷じゃなくて銀座でやるべきだよな~。。。

それではメジャーリーグでがんばってください。み~ん。。。

Posted by: SGA屋伍一 | January 22, 2012 09:59 PM

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