荒野の一匹トカゲ ゴア・ヴァービンスキー 『ランゴ』
「パイレーツ・オブ・カリビアン」三部作で大ヒットを飛ばしたゴア監督が次に選んだのは、カメレオンが主人公の西部劇? 今回は今年最も異色かもしれないCGアニメ『ランゴ』、ご紹介します。
ハイウェイを突っ走る車の水槽の中で、おもちゃたちを相手に一生懸命芝居にいそしんでいる酔狂なトカゲがいた。彼の名はランゴ。ジョニー・デップに良く似た声のキザなカメレオンだ。ドライバーが乱暴にハンドルを切ったためにランゴは突然砂漠のど真ん中に放り出され、小動物たちが寄り集まったしょぼい町へとたどり着く。奇妙な偶然が重なって凄腕のガンマンと勘違いされたランゴは、町で深刻化している水不足を解決しようと奮闘するのだが・・・
う~ん。変な映画(笑)。あるいは変なアニメ?
これまでもいろんな動物がアニメの主人公になってきましたが、トカゲ・・・それもカメレオンのものというのはちょっと記憶にありません。大体カメレオンって表情がありませんからねえ。まあカメレオンに限らず動物というものは本来泣いたり笑ったりしないものですが、いかにキャラ化しても喜怒哀楽を表現しづらいというか。ロボットであるWALLEですらまだ表情豊かだったような。
ただ無表情なのはランゴだけに限らず、その他のネズミもモグラもカエルもその点はあんまし大差ないです。反面セリフだけはやたらとギャースカやかましい。その辺のアンバランスさがこの手の動物アニメとしては大変個性的でした。それを「面白い」と感じるか「ついていけん」と感じるかで評価が別れそうな気がします。あとヒロインの砂トカゲちゃんはやけに研ナオコに似ていました。
このアニメのもうひとつの特徴は西部劇でもあるということ。おそらく「ランゴ」という名前はマカロニ・ウェスタンの名キャラクター「ジャンゴ」のもじりでしょう。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶカスカベボーイズ』監督の水島務氏によるとマカロニウェエスタンというのはレイプとヴァイオレンスのオンパレードだそうですが、さすがに子供が観るアニメでそれは無理ってもんでしょう(笑) そういえばランゴ君は結局直接には誰一匹として殺してませんでした。西部劇にあって不殺のヒーローとは、ある意味奇跡的な存在と言えるかも。まあでもマカロニ特有の小汚さとか、生きるための執着とか、悪者の怖さとか悪さはよく出てたと思います。
「生きるための執着」といえば、このランゴくん、冒頭のナレーションでいきなり「こないだ死んだ」とかネタバレされちゃうんですよ(笑)。子供向けアニメなのにそんな風に死の気配がところどころに漂っておりまして。ランゴ君なんかラストまでもたないんじゃないかというくらい、全編通じて無理ゲーのように絶えず死につきまとわれております。でも全然暗くなく、むしろカラッとしているところも独特でありました。
わたしが特に気に入ったのはランゴと一緒に水槽に入ってたお魚のオモチャ。時々ランゴの妄想の中でしゃべってたりしていて、これまた当然無表情なんですが、なんかあのうつろな眼差しを見てるとすごくぽやや~んとしたいい気分になってしまったりして。
あと落ち込んだランゴが砂漠をさまようシーンは、大変幻想的で、オチャラケアニメの枠を超えた芸術性を感じさせました。アート好きな人はここだけでも観る価値があるかと思います。あ、あとジョニデのファンも一応観ておいたほうがいいのでは。「あんなのジョニデじゃない!」というあなた。カメレオンの彼も受け入れてこそ真のファンと言えるのでは? ただ前の記事にも書きましたが、この映画本国ではけっこうなヒットを飛ばしたのに、日本ではあんまし興行が思わしくないようです。そろそろ上映終了かもしれないので、観ようと思ってる方はおはやめに。
Comments
この映画を見に行った時、後ろの席は幼稚園児とパパが座って単ですが、ヒロイン(ビーンズちゃんでしたっけ?)が出てきた瞬間、その男の子が「こわい」と言いました。
その後、彼女が出てくる度に「こわい、こわい」と五月蝿いこと!
パパは見たかったらしく、なだめて踏ん張ってましたが、結局開始1時間で出て行きました。
その時に思いました「この映画ダメだわ」
結局、エンドロールが終わるまで映画に付き合ったのは、如何にもジョニデファンという方々ばかりでした。あ~あ。
余談ですが、ランゴは名前を聞かれ、咄嗟に地名の「デュランゴ」と書かれた何かを見て「ランゴ」と答えてましたよ。
このコロラド州デュランゴという場所は、現在もSLを走らせている場所で、死ぬまでには行きたいなぁと思っています。
Posted by: サワ | November 09, 2011 12:11 AM
>サワさん
おはようございます。さっそくコメントありがとうございます
ヒロインは原語ではビーンズちゃんでしたが、字幕では「マメータ」になってましたね。「豆から取った」という由来が伝わりにくいのでこんな風に訳してたんでしょうけど
彼女がかっと目玉をおっぴろげてるところは、確かに日野日出志先生の漫画にも近いものがありました。お子さんがびびったとしても無理はないでしょう(笑)
わたしはなかなか面白かったですけど、いろいろ「子供は置いてけぼりだろうな」と思うところはありました。ただ米国では普通にヒットしたようなので、アメリカのお子さんはなんとかついていけたみたいですね
「ランゴ」の解説もありがとうございます。そういえば酒ビンに書いてあったのかな? 地名だったとは知りませんでした。でも「ジャンゴ」に似てるから、という理由もあると思うのですよ~
Posted by: SGA屋伍一 | November 09, 2011 09:31 AM
伍一君、ジョニデファンデスコー☆
そんなわけで、春ごろにはロンドンで観ていた私です。
ところで外人の子供たちはこの程度、充分平気なのよねぇ。
何しろスリたんも、つるっぱげの『何処が可愛いの?人形』を大事そうにしているし、子供向けアニメキャラや人形劇の人形ですら、やたらリアルで可愛くないものばかりだもの。
そんなお国柄だから、このくらいのキャラは普通であって、決して怖くないのでしょう。
っていうか、可愛いとすら思っているかも。
ノルウェーのトロール人形とかクリスマスの妖精なんか、実際おっさんか、バケモノだもの。
デフォルメされたキュートキャラに慣れている日本人には理解できないでしょう~☆
Posted by: ノルウェーまだ~む | November 10, 2011 12:13 AM
>ノルウェーまだ~むさん
カメレオンスコー・アーミー(古い・・・)
そう。英米ではもっと公開早かったんですよね。予告編の映像見たときから楽しみだったのにけっこう待たされました
確かに東洋と西洋では子供の趣味ってかなり違う気がしますね
日本ではドラえもんやアンパンマンを嫌いな子ってまずいないんですが、欧米ではああいうまん丸な顔のキャラクターってそんなにいないですし
むしろこういう手足がひょろひょろっと長いキャラの方が主流なような気がします。洋の東西を問わず愛されているものといったらそれこそキティちゃんくらいですかね
あと向こうでパイカリが受けて三銃士がいまひとつな理由も、たぶん「登場人物が微グロじゃないから」ではなかろうかと
Posted by: SGA屋伍一 | November 10, 2011 02:31 PM
こんばんは!(*^^*)
ホントにヘンな映画でしたよね〜(笑)
日本では、絶対受けないキャラたちですよね。
でも海外では、こういう奇怪なキャラも
子供たちには人気なんですねぇー。
私もお魚のおもちゃは結構好きでした!
アメコミの講座、面白そうですねー。
近くだったら、ぜひ行きたいトコですけど・・・残念です。
がんばってくださいね〜。(*^o^)ノ
Posted by: ルナ | November 15, 2011 12:09 AM
>ルナさん
こんばんは!
思った以上にシュールで大人向けで、趣味に走った作品でした(笑)
こういうのでも楽しめちゃうということは、アメリカのお子さんってけっこう懐が広い? 向こうでは「動物を主人公にしたアニメ」ってだけで無条件にヒットしてしまう気もしますが~
あの魚のオモチャ、商品化されないかな・・・ たぶん日本では無理でしょうね・・・
アメコミ講座にも暖かい声をかけてくださりありがとうございます
もしルナさんがこっちに来てくださることがありましたら、がんばって一席もうけますよ~
Posted by: SGA屋伍一 | November 15, 2011 10:25 PM
こんばんは〜。これ、すんごい素敵なアニメでしたよね〜。
特に冒頭から前半半分にかけての、無茶苦茶な展開は私の好みでしたー!自分が何者かよく分からず、ただ流されるままに職や自分のカラーを変えていく私には、ズキっと刺されるような物語でもありました。
ただ、途中から本当の自分の責任に目覚める辺りから、個人的にはトーンダウンしてしまったようにも感じました。
カメレオンの無表情、私は全く気にならなかったw
Posted by: とらねこ | December 21, 2011 12:19 AM
>とらねこさん
おお、とらねこさんはけっこうお気に入りだったのですね
まあいつも漂流しながらも元気でやってるところがとらねこどんの面白いところだと思いますよw そういう意味では確かにランゴと似てるかも(あっとまた地雷を踏んでるような・・・)
私は上にも書いたけど、街から追われたランゴがしょんぼり歩いているあたりが一番好きだな。同時にツーンと切なくもなりました
あと冒頭から「死ぬ死ぬ」とか言われてて、結局そういうオチかよ!、というところもけっこう好きだw
Posted by: SGA屋伍一 | December 21, 2011 10:58 PM