地面の底からこんにちは エミール・クストリッツァ 『アンダーグラウンド』
ユーゴスラビア出身の個性派作家エミール・クストリッツァの代表作が、ニュープリントにあわせて再上映。「20世紀のベストに必ず入る」という『アンダーグラウンド』、ご紹介します。
第二次大戦たけなわのユーゴはベオグラード。レジスタンスの名コンビ、暴れん坊のクロと洒落男のマルコは、神出鬼没の攻撃でナチスを悩ませていた。しかし気の多い美人女優のナタリアが間に入ったことから、二人の友情はギクシャクし始める。やがてレジスタンスはナチスの猛攻から逃れるため、地下の広大な空間に避難する。ナタリアと共に地上に残ったマルコは、戦争が終わった後も彼らをだまして地下に閉じ込め、なおも大量の武器を作らせ続けるのだった・・・
作品は一応三部構成となっておりまして、ナチスとの戦いを描いた第一部「戦争」、チトー統治下の平和な時代を舞台とした第二部「冷戦」、そして再びユーゴが再び砲火に見舞われる第三部「戦争」となっております。
こう書くとなにやら重厚な歴史ドラマのような印象を受けるかもしれませんが、第二部までは「そんなんありえないやろー」と言いたくなるようなスラップスティックなムードに包まれています。「なんで手榴弾が間近で爆発してるのに死なないんだ!?」とか、「そんな長いこと地下に閉じ込められてて、いい加減誰か外に出ようとか思わんのか?」とつっこみたくなることうけあい(笑)。絶え間なくドンプカ流れている管楽器の調べがまたなんともにぎやか。対ナチス・レジスタンスってえと常に死ととなり合わせの悲壮な戦い、みたいなイメージがありますが、楽隊をひきつれて大行進してるクロとマルコには、そんなムードはかけらもありません。
ところが第三部に入ると一転、そうしたにぎやかさはなりを潜め、ただただ血なまぐさいユーゴ内戦の惨状に胸を締め付けられます。そう、いつのまにやら忘れてしまっていたけど、この映画が作られた90年代、ユーゴではいつ果てるとも知れぬ殺し合いが繰り広げられていたんですよね・・・ 遠い地のこととはいえ、しばらくの間思い出すことさえなかった自分を少し反省いたしました。
先日『キャプテン・アメリカ』を観たときにも思ったのですが、ここでわたしはマルコやクロ、そして映画にとってのナッチのありがたさというものを感じずにはいられませんでした。ありがたさ・・・というと少し語弊があるかもしれませんが。
つまりナチスほど、映画の中で悪役にしやすいものはないというか。彼らならばどんなに悪く描いても、派手にやっつけてもほとんどどこからも文句はこないでしょう。理由としてはヒトラーという余りにもわかりやすい象徴がいること、実際に人類史上最も恐るべき蛮行を犯したという史実、そしてさすがに五十年以上時を経た今となっては、若干フィクションの中の存在のようになってしまっていること。映画作家のみなさんもそんだけネタにしやすい存在だからこそ、次から次へとナッチ関連の作品を作り続けているのでしょう。
しかしナチスがいなくなったあとマルコはウソを重ね続けなければならなくなり、共通の敵を失ったユーゴは陰惨な内戦へと突入することになります。劇中ではナチスものの映画が作られるくだりがあるのですが(ややこしい・・・)そのお気楽さと、当時限りなくリアルだったユーゴ内戦の深刻さが見事な対比となっていました。
そうした歴史の皮肉さとは別に、二人の男と一人の女の笑える愛憎劇としても、十分面白いです。思い込んだら一直線で、恐れを知らないクロ。何事にも計算高いようで、その実心のどこかに良心のとがめを感じているマルコ。クロにもマルコにも愛嬌をふりまき、二人を迷わせるナタリア。エネルギッシュな三人がドタバタはしゃいだりいがみあったりしてるのが、本当に愉快でありました。
ちなみにわたしが特に感情移入してしまったのはマルコさん。なんかこう、ウソをつき続けてどんどん引っ込みがつかなくなってくあたりとか、そういうダメ男っぷりが自分に特に近いように感じられたので(笑)
『アンダーグラウンド』ニュープリント版は、メイン劇場であるシアターNでは今週いっぱいで終了なのですが、今後も横浜のジャック&べティ他全国主要都市で公開予定。そのうちDVDの新版も出ることでしょう。この予告編を観ていただければ、そのしっちゃかめっちゃかさが伝わるのではないかと。
Comments
な、何なんですか!いつになく力の入ったイラストはっ!!
思わずコメントしてしまうじゃないですか!!!
Posted by: サワ | October 23, 2011 10:36 PM
>サワさん
たまにはわたしだってマジメに描くのですよ!
あんまし似てませんがね(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | October 23, 2011 10:54 PM
伍一君、アンダーグラウンスコー☆
これですね、わざわざこちらまで来て観たのは!
なるほど興味深い映画だわ。
確かにジプシーの音楽だね。
で、今回の絵がすごい!!ちょっとー、今まで才能を隠していたの??
Posted by: ノルウェーまだ~む | October 24, 2011 01:02 AM
>ノルウェーまだ~むさん
ゆーごすらびあんすこ~
これです(笑) 遠くまで観に来たかいがありました。前の人の頭がでかくてちょっと観づらかったのがアレでしたが
欧州に関して造詣の深いまだ~むさんなら楽しめると思うのですよ。ファンキーで濃い面子の三角関係もね
ふふふ・・・ 能あるバカはツメを隠すのですよ・・・ む?
Posted by: SGA屋伍一 | October 24, 2011 02:21 PM
遅くなりました~。
さぞ力作なんだろうなぁと思いましたね~。
あんなに非現実的なイメージとか音楽とかが、人間関係や展開と交錯してて、単純にすごいなぁと思いました。
スプラスティックだから「ありえないだろ~」のツッコミが起きるのですね!それは愉快なほうのツッコミだ。
ナチたちは絵にもなるのかなぁ。そうそう、ユーゴの歴史を知ってたらもっと複雑な気持ちがわかって、こんなに今はなき祖国をにぎやかに描くことにも感動するのでしょうね。
Posted by: takako00san | October 30, 2011 11:36 PM
>takako00さん
おお、その節はありがとうございました
わたしは予告編や近作の『ウェディング・ベルを鳴らせ!』などから、きっとバカっぽい映画なんだろうな~と思っていたので、第3部のしんみりしたムードにはちょっとビックリしました
いずれにしても音楽も登場人物も、エネルギーがびんびんはち切れてるような映画で、本当に圧倒されましたね。多少の無理は力ずくで押し通す!といった感じで(笑)
ウィキペディアの記事を見ますと、当時監督はこの映画で「大セルビア主義を主張してる」ということで批判を浴びた、なんてことも書かれてました。ちなみにこちらの記事、細かいあらすじまで丁寧に書いてあるので、字幕が隠れてわからなかったところ補完してみてね
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%89_(%E6%98%A0%E7%94%BB)
Posted by: SGA屋伍一 | November 01, 2011 10:43 AM