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October 12, 2011

かわいいベジビー 黒坂圭太 『緑子』

Midorikobお、未消化記事あと二本か。最近がんばってんじゃん、オレ・・・ などと余裕こいてたらあっという間に一週間経ってしまいましたよ!
『チェブラーシカ』に始まり『ファンタスティックMr.FOX』『イリュージョニスト』『メアリー&マックス』『サヴァイビング・ライフ』と、アート系アニメ華やかなりし2011年でしたが(もう回顧モードかよ!)、日本代表はこの作品でしょうか。鬼才黒坂圭太氏が13年の歳月をかけた力作ドローイングアニメ『緑子』、紹介いたします。

時はおそらく近未来。食料危機を憂う五人の科学者は、新種の食物を作り出すべく実験を繰り返していたが、開発は難航していた。そんなある日一万年に一度現れるという特殊な天体「マンテーニャ」の星が出現。その光をあびた実験体は、植物と人間の融合体として完成を見る。しかし直後に実験体は脱走。おんぼろアパートでやはり植物を研究している院生、緑に拾われ、「緑子」と名づけられるのだが・・・

・・・ということが公式サイトを見ると書いてあるのですが、劇中ではこうした説明が一切ありません。謎の生物が謎の物体の回りで踊り狂っていると思ったら、突然物体の方がすっとんでいき、緑ちゃんの部屋に乱入してくるという流れ。さらに半人半魚や八面六臂のような怪物が普通に人として扱われているので、脳みそをもずくなみにやわらかくしないととてもついていけません。たぶんつげ義春の『ねじ式』とか、吉田戦車の『伝染るんです』などが好きな方だったら、違和感なく入っていけるんではないかと。
あと上映館の近くで昨年展覧会をやっていたからってわけではありませんが、わたしとしてはブリューゲルの描く様々な異形を思い出したりして。確かあれらのヘンテコな生き物のいくつかは、人間の欲望を表したものであったような。この作品でもたくさんのユーモラスな怪物が、「緑子」を食べることに異常な執着を示します。
その対極にあるのが唯一緑子を「守りたい」と願う緑ちゃん(ややこしい)。多くのキャラクターがわけのわからんデザインなのに対し、彼女だけが普通の人間の形をしています。愛こそが人間を人間たらしめている、ということなんでしょうか。ただ正確に言うならば普通の人間は、他にもう一人だけ「山本さん」というキャラがいます。彼は彼でやっぱり欲望むき出しなんで、上の説はあんましあてにならないかもしれません。

あと作者の黒坂先生の談によれば、この物語はキリスト降誕のエピソードを基にしているのだとか。世を救うべく生まれた緑子ちゃんはキリストで、五人の科学者は東方の三博士だそうで。そうすっと緑ちゃんは聖母マリアということになるのかな? そういえば聖書にはキリストが自分の肉をパン(食物)になぞらえている一節もあったような。

まあそういった小理屈はさておいて、この作品の最大の魅力は、やはりその絵や動きから放たれる巨大なパワーですね。なんせ一人の人間の十三年分のエネルギーが、55分の中に凝縮されているわけですから。一切の手抜きを許さない緻密な線のゆらめきには見ていて圧倒されました。私が観た回では黒坂先生のトークショーが付いてたのですが、「途中で何分くらい破棄した」とか「スキャナーに取り込んだものとフィルムで撮ったものの差が気になる」というお話を聞いていて、「この人、骨の髄まで完全主義者なのね・・・」と感じ入りました。ちなみに上映されたものも後半はいろいろ気になるところがあるそうで、DVD化の際は修正されるとのことでした。

愛情と欲望がからみあい、カタストロフを迎えるクライマックスは一見凄惨でありながら、音楽も手伝ってか不思議と暗い印象を受けませんでした。むしろ一種の爽快感すらあるような。

Midorikoa『緑子』は現在渋谷はアップリンクXにて上映中。世界に浸透していると言われているジャパニメーションですが、こんな世界もあるんやで!ということでひとつ。


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Comments

こんにちわ。逃亡先からいつも見てます。。。

>「スキャナーに取り込んだものとフィルムで撮ったものの差が気になる」

あはは。まったく違いがわからねーんですけど。。。

『黒い雨に打たれて』という昔の反原発アニメがとにかく強烈なので、DVD貸してあげようと思って、忘れちゃったん。また次あったら、貸したげるね。

中沢啓治先生の原作で、なぜか西城秀樹が声優をやっているという、怪作ですよ。じゃ。。。

Posted by: カダフィ大佐。。。 | October 12, 2011 06:29 PM

>カダフィ大佐。。。さん

潜伏先からありがとうございます。。。 最後まで諦めちゃ。。。ってあなたウラヤマさん(略)
その節はおつきあいいただきまことにありがとうございました。。。 み~ん。。。

え~とね。カメラと絵の間に空気の層があるかないかでちょっと違う。。。みたいなことをおっしゃってたかな。それでどっちがよかったかというと。。。 どっちだったんだっけ。。。

中沢啓治作品は図書館で唯一置くのが許されてた漫画でしたね。。。 「わーい、漫画だ」と思って喜んで読むと、ぐっさりトラウマ残してくれるという。。。

それじゃ今度DVD楽しみにしてます。。。

Posted by: SGA屋伍一 | October 12, 2011 10:08 PM

伍一さん、こんにちは。

邦画の中で現在お勧めなのが、この映画なのですね。参考になります。

ところで、伍一さんは『猿の惑星』観ましたか?
レビュー楽しみにして待ってます。なんといっても絵も楽しみ。
あっ、押し付けがましかったらすみません。


Posted by: まみっし | October 13, 2011 05:52 PM

>まみっしさん

こんばんは おいでくださりうれしゅうございます

うーん、この映画、確かに一見の価値はありますが、あまりにも突き抜けていてやや人を選ぶ作品かも
最近の邦画で人に薦められるのはむしろ『GANTZ』や『コクリコ坂から』でしょうか

『猿の惑星』は実は明日観に行ってきます。最初はあんまし興味なかったんですが、あまりの評判にこれは観に行かねばと。シリーズで一番好きなのは三作目の『新・猿の惑星』です

Posted by: SGA屋伍一 | October 13, 2011 10:37 PM

伍一くん、みどりスコ~
この前の時に観るって言っていたのが、これだった?
「ねじ式」嫌いじゃないけど、脳みそもずくになれるかなー??
いや、既にモズクかも☆

さて、私も3作目の「新猿の惑星」が一番好き♪鮮明に思い出せるよ。

Posted by: ノルウェーまだ~む | October 14, 2011 06:26 PM

>ノルウェーまだ~むさん

ねじしキンスコ~
これはもう少し前に観たもので(わたし記事上げるのが遅いんす・・・)こないだは『アンダーグラウンド』という二十年ばかし前のヨーロッパ映画を観たのでした

このアニメはね~ まだ~むさんは常識人ゆえぽか~んとしちゃうと思うけど、お嬢さんや三浦悦子先生だったらきっとツボにはまると思います(あっ)

そういえば『猿』新作も観ましたよ~ わたしとしてはやっぱり『新猿』の方が好きです(ややこしい)

Posted by: SGA屋伍一 | October 15, 2011 09:01 PM

こんにちは〜。こちらこそお久しぶりになっちゃいまして、えらいすいませんでした!

これは結構面白かったね〜。
ほんわかしているのに毒々しくて。

「スキャナーで取り込んだ画像をフィルムに映す」
だったよね。あの微妙に連続していない感じが、なんだか居心地が悪いんですよね。でも私はそこが面白かった。
デッサンも狂っているわ、監督の頭も狂っているわ。
久々に本気で狂っているものが見れて幸せでした。
お誘いありがとうね。

>・・ということが公式サイトを見ると書いてあるのですが、劇中ではこうした説明が一切ありません

ハハハw 確かに、「マンテーニャの星」に関する記述はなかったよなあ、とは思いましたが。
緑子がおかしな部屋のところで何かやってるうちに、ポーンと生まれて来たのは分かるし、もうそれで良くね?wって好意的に思えましたよ。

Posted by: とらねこ | October 16, 2011 03:42 PM

>とらねこさん

こんばんばん
その節はウラヤマさんともどもつきあってくれてありがと~ 楽しめたようでよかった! ウラヤマちんは普通に微妙だったようだけれど(笑)

>「スキャナーで取り込んだ画像をフィルムに映す」

補足説明もありがとう。たぶん三人の中でとらねこさんが一番解説をちゃんと理解してたと思うよ・・・

この作品、シュバンクマイエルが絶賛してたということだけど、確かに彼の作品の狂気に通ずるところがあったね。あととらねこさんの好きな『パプリカ』の幻想シーンもちょっと思い出したりしました

わたしは事前にちろっとあらすじを読んじゃったのだけど、この作品は説明がないほうがわけわかんなくて面白いかもね。だいたいあの怪しげな怪人たちどう見たって「博士」には見えないし(笑)

Posted by: SGA屋伍一 | October 16, 2011 08:01 PM

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