« スパナのヒーロー、略して ジェームズ・ガン 『スーパー!』 | Main | 輝く太陽の下も、漆黒の闇の中も マーティン・キャンベル 『グリーン・ランタン』 »

September 23, 2011

うさぎ・エロネタ・木の根っこ ヤン・シュバンクマイエル 『悦楽共犯者』『アリス』『オテサーネク』

Photoシュールで突き抜けた作風で、多くのファンを持つチェコの映画作家ヤン・シュバンクマイエル。今年は新作が公開されるということで展示会なども開かれ、ちょっとしたヤンシュバブームとなっております。
その一環として先日新宿はケイズシネマにおいて特集上映が行われておりました。興味はあったもののあまり彼の作品を観る機会がなかったので、これ幸いとばかりに半日行って長編三本鑑賞してきました。順番にご紹介しましょう。


☆『悦楽共犯者』

エロ本で鶏の頭を作る男、毛皮の感触に執着する中年オヤジ、ニュースキャスターに妄想する雑貨屋、パンの団子を鼻につめる女・・・ 異常な性癖を持つ六人の男女。彼らは自分の趣味にひたすら邁進する。やがてその道が徐々に交差し始め・・・

最初に一番わけのわからん話を観てしまいました(笑)。
人間誰しもひとつくらい性に関するこだわりがあるもの。まあ太ももが好きとか、ちょっとMっ気があるとかそんなことです。しかしこの映画に出てくる皆さんはあまりにも行き過ぎというか、突飛というか。前半では何かに興奮してるらしきことはわかるのですが、一般人のそれとかけはなれているせいか、彼らが一体何をやりたいのかさっぱりわかりませんw
シュバンクマイエル氏の手による「エロ」はかようにややこしく、まわりくどい。だからこそ「芸術」になるのかもしれません。
そんなシュールな作品ではありますが、鳥の仮装をしたおじさんがパタパタ跳ね回るシーンは、わけわからないなりに奇妙な感動がありました。そして妄想が現実に侵入してくるクライマックスは、観る者に形容しがたい恐怖を感じさせます。


☆『アリス』

幼い少女アリスが物置の中でうたた寝していると、突然剥製のウサギが動き出した。ウサギが姿を消した机の引き出しに入っていくと、そこは人形やぬいぐるみが動き回る奇妙な世界だった・・・
誰もが知ってる『不思議の国のアリス』を、シュバンクマイエルが映像化した作品。昨年ティム・バートンも映画化してましたが、みんなが抱いている『アリス』のイメージというのは、ああいうやかましくてかわいらしいメルヘンな世界だと思うのですよね。それがアレンジのしようによってはどうしてこう、物静かで薄ら寒くなるのか(笑) これまた奇妙な怖さ・不気味さにあふれていて、小さなお子さんが観たらトラウマになるのではないかと。
一方で引き出しの中にはまた別の引き出しがあったり、小さな扉をくぐるのにアイテムを使って人形になったり・・・という展開は、まるでロールプレイングゲームのようでワクワクさせられました。
無人の家の中で大冒険をするという設定には、一昨年のチェコアニメ『屋根裏のポムネンカ』も思い出したり。というか、『ポムネンカ』がこちらに影響を受けているのかもしれません。


☆『オテサーネク』

子供が出来ず悩んでいるある一組の夫婦。ある時夫は別荘の庭で赤ん坊に似た切り株を掘り出してしまう。すると妻はそれを本物の赤ん坊のように可愛がり始め、自分の子供として育てようとする。夫の困惑をよそに、彼女の愛情は恐ろしい奇跡を呼び、アパートの住人たちを巻き込んでいく。
チェコの民話を現代風にアレンジした作品。作中でオリジナルの民話も絵アニメで語られるのですが、チェコの人って昔っから冷笑的だったんだなあ、ということがよくわかりました(笑)
ストーリーは奥さんの狂気をコメディチックに描いた前半と、ファンタジー・ホラーの様相を呈してくる後半に分かれています。喜劇的なんだけど、奥さんと世間体の板ばさみになって苦しむダンナさんがあまりに気の毒で笑えませんでした また隣に住む大人びた少女が二人の秘密を知ってしまったことにより、お話はどんどん混線していきます。
特に印象に残ったのは、やはり表題ともなってるオテサーネクことオティークでしょうか。恐ろしい怪物でありながら、その無垢さゆえにそばにいる者の母性愛をかきたてる、なんとも不思議な存在。コマ撮り独特のぎこちない動きもキモかわいさを引き立てています。


さて、シュバンクマイエル氏、「チェコアニメの巨匠」と聞いていたのですが、鑑賞した三本、いずれも「実写作品に一部アニメを取り入れた作品」でした。まあチェコアニメのあのコマ撮り技法は恐ろしく時間のかかるものなので、長編にはむかないのかもしれません
しかし実写とアニメのハイブリッドであるせいか、妄想と現実の混じり具合がよく伝わってきて、こちらの脳みそまでグルグルするしてくるような錯覚にとらわれました。たぶんいま頻繁に用いられているCGでは、この不気味さと言うか奇妙なリアルさは出せないと思うのですよね。その辺がファンをとりこにする一因であるのかもしれません。

Photo理解しきれなかったところもあるものの、とても見ごたえのあった特集上映でございました。またどこかでこういったチェコアニメの特集を組んでくださると嬉しいです。
この特集上映はさすがに終わってしまいましたが、冒頭でも述べましたように現在イメージフォーラムにて新作『サヴァイビング・ライフ 夢は第二の人生』が公開中であります。またシュバ氏が絶賛したというドローイング・アニメ『緑子』がアップリンクXにて今週末より上映。アートアニメ祭りはまだまだ続くのです。


|

« スパナのヒーロー、略して ジェームズ・ガン 『スーパー!』 | Main | 輝く太陽の下も、漆黒の闇の中も マーティン・キャンベル 『グリーン・ランタン』 »

Comments


あはは!最後の画、いいね〜。

ごいっちゃんはシュヴァンクマイエルの観てると思ったんだけど意外だよね。
ティムバートンはじめ あらゆる監督が影響うけてるし好きと公言してる人だからね〜★

悦楽共犯者はコメディだよね。
悦っちゃんは、松本人志のお笑いとか大好きって言ってるひとだから、これ一番は納得でしょ?
佐吉は「オテサーネク」だし(笑)
わたしはやっぱり「アリス」だな♥

もう終わっちゃったけど本物の
オテサーネクの木とか、展示されてたラフォーレでの個展もみてほしかった!!

Posted by: mig | September 24, 2011 06:47 PM

>migさん

おはようさんです
シュバンクマイルはやっぱりケイズシネマでやってた特集上映で、短編を二本見てたくらいだったんだよね
名前も二年前くらいにようやく知ったばかりだし。なぜか突然三人くらいの別々の人から「シュバンクマイエルはすごいよ」とすすめられたんだよね。実はそのうちの一人がmigさん

>悦っちゃんは、松本人志のお笑いとか大好きって言ってるひとだから

ああ、確かにぽかーんとしちゃうようなシュールなお笑いセンスは松ちゃんのそれに似てるかも

わたしはこの三作品では『アリス』が一番面白かった。短編ももっと色々見てみたい

Posted by: SGA屋伍一 | September 25, 2011 08:05 AM

伍一くーん☆昨日は楽しかったね♪
いやー、シュヴァンクマイエルを3本立て続けに観てたごいち君ってすごいわ。
私、「オテサーネク」で3日気持ち悪かったからね。
風邪の治りかけだったからか、賞味期限の切れたもの食べたからか、お腹がずっと調子悪かったもの。(DVD見ただけでー!)

Posted by: ノルウェーまだ~む | February 26, 2012 10:16 AM

>まだ~むさん

昨日はどうもありがとうございました~ みかん、あれから食べてくださったでしょうか?

こういうのね、こっちではなかなか観る機会ないんですよ。レンタル店にも置いてないことが多いし。そんでこの機会にいっぺんに観ちまえ~いと張り切って行って来たんですが、ええ・・・ ちょっと脳みそがウニになりかけましたw

『オテサーネク』はわたしそんなにグロくは感じなかったかな~ むしろ一番上の『悦楽共犯者』のほうがもっとぐぐっときましたよw 三浦のえっちゃん先生は大のお気に入りだそうですが(笑)

Posted by: SGA屋伍一 | February 26, 2012 10:54 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference うさぎ・エロネタ・木の根っこ ヤン・シュバンクマイエル 『悦楽共犯者』『アリス』『オテサーネク』:

» 悦楽共犯者 / Spiklenci slasti / Conspirators of Pleasure [我想一個人映画美的女人blog]
ランキングクリックしてねlarr;please click フェティシズム。 人には言えないけど、コレたまらなく快感〜 というものが誰にでもある?  現在 5年振りの新作「サヴァイヴィング・ライフ」が公開中 新宿Ksシネマでは過去作品を一挙上映の特集...... [Read More]

Tracked on September 24, 2011 05:01 PM

» オテサーネク / Otesanek [我想一個人映画美的女人blog]
ランキングクリックしてね larr;please click 御歳76歳!チェコの鬼才ヤン・シュバンクマイエル監督 来日中 シュヴァンクマイエル監督といえば、「アリス」や「悦楽共犯者」、「シャバヴォッキー」、「ルナシー」など、 ストップモーション・アニメーションを...... [Read More]

Tracked on September 24, 2011 05:02 PM

» DVDレビュ-「PICNIC」「パンズ・ラビリンス」「オテサーネク」「サンタサングレ」 [ノルウェー暮らし・イン・原宿]
年明けから見ていたDVDの中でも特殊なジャンル映画をご紹介。 今回はねえねオススメ映画のほかに、ダークファンタジーの傑作とシュールレアリズム映画に挑戦☆(★はまだ~む採点 満点が★5つ) 共通して言えるのは、どれも「おとぎ話」であること。イッてる作風はそれぞれ違えども、内面を深くえぐって忘れる事ができない。... [Read More]

Tracked on February 26, 2012 10:17 AM

« スパナのヒーロー、略して ジェームズ・ガン 『スーパー!』 | Main | 輝く太陽の下も、漆黒の闇の中も マーティン・キャンベル 『グリーン・ランタン』 »