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September 02, 2011

痛快! 魂食堂!! ファティ・アキン 『ソウル・キッチン』

Scan2ご存知の方はご存知でしょうが、わたしの住んでる地域はミニシアター系の作品はだいたい数ヶ月遅れてかかるんです(それも一部だけ)。で、これもそんな遅れ単館系の映画。・・・って都心じゃ1月に公開されてるのになんぼなんでも遅れすぎでしょー! そんなわけで先週もうDVDも発売されてしまった『ソウル・キッチン』、ご紹介します。

ドイツはハンブルグの場末で食堂を営む青年のジノスは、中国へ行くことになった恋人を追いかけるため、店を誰かに譲渡することを決意する。しかし自分が心血を注いできた店だけに、なかなか納得のいくゆずり相手が見つからない。そんな折、ジノスはついはりきってしまったことが原因で激しい腰痛に見舞われる。さらに仮出所になったややこしい兄や、税務署や衛生局のお堅い役人までやってきて、ジノスはますます八方塞がりに・・・

ファティ・アキン氏の作品は初めて観ました。噂によると氏は移民を題材にしたメロウなお話をよく手がけておられたそうで。しかしこの『ソウル・キッチン』は極めて明るく軽快なノリで、氏のこれまでの作風とはやや異なる映画のようです。主人公ジノスにしてみれば実に悲惨で泣きたくなるような状況なんでしょうけど、傍から見てる立場としては彼の不幸がいちいちおかしい(笑) まあそんな風に笑って観てられるのは、たぶん最後はハッピーに終わるだろうという、根拠のない確信があったればこそなんですが。

舞台がぱっとしないレストランというところは、もはや懐かしいドラマとなってしまった三谷幸喜の『王様のレストラン』を思い出させます。従業員たちがくせものぞろいだったり、勝負好きの兄貴に足を引っ張られるところも似てます。
あと個人的には主人公を襲う災難のひとつが「腰痛」というのが親しみやすかったです。わたし自身は幸いまだ経験ありませんが、父と弟がヘルニアで相当苦しんでいたのを目の当たりにしてたので。しかし映画が始まってすぐからクライマックスにいたるまで、ずっと腰痛で苦しんでいる主人公、というのもそうはいませんよねw
そんな地獄の苦しみにさいなまれながら、途中あるエピソードで、ジノスは酔いつぶれたウェイトレスをかつぎあげて部屋まで運んであげたりします。なんていいやつなんでしょう
そう、ジノス君って、さえなくてドジばっかりでスケベエで太り気味で空気が読めなくて腰痛もちで食べ物商売なのに長髪で欠点だらけなんですが、根はすげえいいやつなんですよね。そんなあったかみがビンビン伝わってくるから、こちらも笑い転げながらも彼を応援せずにはいられません。

以下、どんどんネタばれしていきますのでご了承のほど。

ジノスがさまざまな災難に見舞われた理由。わたしにはそれは彼が店を手放そうとしたことと無縁ではないように思えました。まあ心の底から愛している彼女とどちらをとらねばならないとしたら、彼女を選んだとしても仕方がないかもしれません。しかしジノスにとって魂の置き場所は、やはりひとりの女よりも、情熱を注いできたお店だったということではないでしょうかねえ。彼がそのことに気づいた時、山のようだった難題は少しずつ解決していきます。
そしてラスト、「何もかも元通り」というのではなくて、ようやく新たなスタート地点に立ったところで幕となるのがとてもいい。これからも色々問題は出てくるでしょうが、彼が魂の置き所を見失わない限り、きっと大丈夫・・・ そんな風に思わせられました。

Scanそんな『ソウル・キッチン』は冒頭でも述べたようにすでにDVDが発売中。公開はほぼ終了・・・と思いきや、これからかかる劇場もまだまだあるのね~(笑) もう最近の公開事情、よくわかりません! フンガー!


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Comments

黒人の料理か、或いは韓国の料理か…ドイツかよ!
なのに海原雄山だし。(笑)
面白かったはずなのだけど、どーもあんまり内容覚えてなかったり…。まいったな^^;

Posted by: KLY | September 02, 2011 09:31 PM

お☆観たんだ。

ってDVD出たよねー 
最初の絵、似てる!
最後もカイバラユウザンだ!
(KLYさんのみて字がわかったわ)

美味しんぼはちょっとみてたから知ってるの☆
料理番組系好き♪
この映画も好き♪

Posted by: mig | September 02, 2011 11:02 PM

伍一っちん☆
私も最後の絵わかったよーすぐ♪
美味しんぼは、読んだこともアニメも見てなかったけど。
映画館たしかに遠いね。
車ない人は大変だわー

「ソウルキッチン」も見てないのだけど、確か評判良かったみたいだし、ごいちんのレビュー読んだら、見たくなってきたよ。

Posted by: ノルウェーまだ~む | September 03, 2011 11:04 AM

>KLYさん

美味いものにかける情熱は万国共通ということですよ! 毎度すばやきコメントありがとうございます(笑)

まあこのあとをひかないカラッとしたタッチが、この映画のいいところではないでしょうかね~ 忘れてしまったら忘れてしまったで、再見した時また楽しめるってことで

Posted by: SGA屋伍一 | September 03, 2011 08:53 PM

>み~ぐ~ちゃん

んばんわー
ツイッターで「どうしようかな」ってつぶやいたら、公式さんから「ぜひ観てください!」と言われてしまってね(笑)
今回はわりとすぐわかってもらえたようで。うん、自信作です

この映画に出てきた料理、どれもおいしそうだったね。ただ質より量のわたしとしては「ちょっと食いでがなさそう」とも思ってしまったり
卵白をあわ立てたヤツをくるっとひっくりかえしてもこぼれないシーンはかっこよかったな

Posted by: SGA屋伍一 | September 03, 2011 08:58 PM

>ノルウェーまだ~むさん

んばんわです
美味しんぼ、こないだ床屋の待合時間に読んでたもんで、つい。どんな人生のトラブルも食い物で解決してしまうという、すごい漫画ですw

そうそう、この映画もあそこから十分ほど行ったとこの劇場で観たんですよ。でもわたしはまだ恵まれてる方で、それこそ下田や伊東のひとが映画館に行こうと思ったらもっともっと大変なんです

で、『ソウル・キッチン』、なかなか笑えて楽しくておすすめです。これもみんなで観た方が楽しい映画かな?

Posted by: SGA屋伍一 | September 03, 2011 09:09 PM

これよかったですね。 テンポが良くて痛快というか。
モーリッツ・ブライブトロイはまた新作にも出ますんで楽しみです。

Posted by: rose_chocolat | September 08, 2011 06:58 AM

>rose_chocolatさん

モーリッツ・ブライブトロイ・・・ 主人公のお兄さん役の人ですよね。こういういいにくい名前がすっと出てくる人はすごいなって思います
フィルモグラフィー見ると彼の出演作は『スピードレーサー』や『ミュンヘン』なんか見てるんですが、なんかかなりの端役だったようで・・・ 代表作は『素粒子』という作品になるのかな

Posted by: SGA屋伍一 | September 08, 2011 09:47 PM

えっとね。
モーリッツ・ブライブトロイ、私が観たのは『バーダー・マインホフ/理想の果てに』なんですけど、
これすんごく重いけど好きなのよね。

Posted by: rose_chocolat | September 09, 2011 09:46 AM

>rose_chocolatさん

それ、噂は聞いてます。ドイツ版日本赤軍のような集団の話ですよね。確か公開されてすぐ配給会社がお亡くなりになったとか・・・ でもDVDは普通に出てますね

これがシネマライズでかかってた時たまたま前を通りかかったのですが、同時にかかってたのが『蟹工船』で、「ずいぶんと政治くさい組み合わせだな・・・」と思ったのを覚えてます

Posted by: SGA屋伍一 | September 09, 2011 04:19 PM

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