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September 13, 2011

嵐が来たりて船沈む ジュリー・テイモア 『テンペスト』

Scan3『タイタス』や『アクロス・ザ・ユニバース』など、独特の衣装センスで知られるジュリー・テイモアが、シェイクスピアの(単独では)最後の作品を映像化。首都圏から数ヶ月遅れて公開の『テンペスト』、ご紹介します。

かつてミラノ大公であったプロスペラーは、弟アントーニオの奸計に陥り、一人娘とともに文明から遠く離れた孤島へと漂着する。それから十数年。アントーニオ一行を乗せた船が近くを通りかかることを知ったプロスペラーは、魔術を用いてその船を難破させる。アントーニオ一行は命からがら島へたどり着く。彼らを静かに見下ろすプロスペラーは、果たして何を企むのか・・・

今年もそれなりに映画を観ていますが、まだそんなに「失敗した…」という思いは味わっておりません(強いて言うなら最初に観たMOVIE大戦COREか)。結論から申しますと、この『テンペスト』、久々に「うーん、やっちまったw」って感じでした 「最悪!」とか「激怒!」というほどでもありませんが。
今回は反省会気味に「なんであんましノレなかったのか」ということをダラダラと考えてみました。

まずこの作品、冒頭でも述べたようにかの有名なウィリアム・シェイクスピア原作です。シェイクスピアといえば思い浮かぶのは四大悲劇に『ロミオとジュリエット』。ちょっと「こいつら思い込みが激しすぎじゃね?」という感こそあるものの、人間の業や情念といったドロドロしたものを鋭く描いております。『テンペスト』でも多くのキャラが復讐心や醜い欲望を抱えていて、そういった愛憎劇が華麗に物語られるのかな…と思いきや、すげーアッサリ終わってしまう。思わず「え? それでもういいの?」と確認したくなるほどでした。
しかしまあ、この点に関してはジュリーさんは悪くありません。原作がそういう話だから仕方ないんです。シィエクスピアもたまにはさわやかな話が書きたかったのかもしれません… って何気にわたしネタバレしちゃってる?

・・・・・

あの、その、ひとつ世界的に有名な作品だということで勘弁してください

で、さらにノレなかったもうひとつの点は、この映画がすごくこぢんまりしてるように感じられたことでした。狭い島の中を、数人の男女たちがずっとウロウロしてる話なもんですから。んでその内の半分以上が暗いくたびれたオヤジたち。背景は大体同じような原っぱか荒野。ストーリー上大きな起伏があるわけでもなく、中盤ごろには誰がどうなるか大体予想がついてしまいます。度々眠気に襲われましたが、ケチンボのこの私が「ま、ここら辺は寝てていいか・・・」と思ったくらいです。

テイモア監督の前作、『アクロス・ザ・ユニバ-ス』はとっちらかってるところこそあったものの、けっこう楽しめたんですよね。ほどよくまとまっちゃうより、いっそ散らかってた方が本領を発揮できる人なんではないでしょうか。

そんな風にいまひとつ冴えない中、ひとつ印象に残ったのがベン・ウィショー演じる空気の精「エアリアル」。ヘレン・ミレン演じるプロスペラーの手足となってなかなか芸達者な暴れっぷりを見せてくれます。変身あり、巨大化あり、分身の術あり。しかも全裸で。
エアリアルに比べるといささか影が薄いのがいま一人の怪物、キャリバン。周りはこぞって「見たこともない奇妙な化け物」と言いますが、画面に映っているのは普通にパンダメイクを施しただけのジャイモン・フンスーですし。ただモデル出身なのにパンツ一丁でお笑い演技をがんばっていたのは評価してあげたいところです。

Scan2とまあ、あれこれダメだししてしまいましたが、本作品、第83回アカデミー衣装デザイン賞にノミネートされたりしてます。ファッションに興味のある人はその辺に注目して観てもいいんじゃないかなー 『テンペスト』は9、10月もまだ日本のあちこちの劇場でかかるようです。あとこの作品からタイトルを取ったNHKのドラマ『テンペスト』も、近々映画化されるそうで。紛らわしいのでお間違えのないよう!


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Comments

正直衣装の良さと役者の演技の上手さぐらいしか覚えてない
んですよ。いやまあ話も覚えてるんだけど、申し訳ないのです
が「つまんね」って感じでして…。

Posted by: KLY | September 14, 2011 12:40 AM

このエアリアル、かわいい♪

私も期待したものとはだいぶ違って面食らったのですが
途中、これコントだ!と思いはじめてからは笑いが止まらなくなって(怒られるかな)、まあまあ楽しめました。
最後あっさり終わるのも、同じくそれでいいの??と思ったけど
本が海に沈んでいくエンドクレジット眺めてるうち
それもありかなーと思えてきて。。。

SGAさん、ワースト入り決定?(笑)

Posted by: kenko | September 14, 2011 12:46 AM

>KLYさん

こんちは。KLYさんも微妙でしたかw
「これを書いた後シェイクスピアは筆を断った」ということですが、彼も自分で「こりゃもうだめだ」と思ったのか、あるいはアレンジの仕方がまずかったのか~

シェイクスピアに通じた方の意見が聞きたいとこですね

Posted by: SGA屋伍一 | September 14, 2011 03:20 PM

>kenkoさん

おかえしども

コントかー 確かにキャリバン一行はボケ百連発でしたね(笑) ミランダと王子様のラブロマンスもあまりにセリフが大時代すぎて笑えました。まあイタリア人って今でもあんなセリフ言いそうですけどね・・・

今年はありがたいことにワースト候補が少ないので、たぶん悪い方の上位は確定だと思います。後味とかそんなに悪くないんだけどなー

Posted by: SGA屋伍一 | September 14, 2011 03:24 PM

こんにちは。
あ、わざわざ苦労して観に行かなくて正解だったかもしれない(笑)(COREもね…観なくてもよかったかも…2回観たけどね…)
チラシはもらってて、プロスペローを女性化してたり、テイモア作品は(「タイタス」とか。いやそもそもこの方はミュージカル「ライオン・キング」の人ですけどね)個性的で面白いのでどうかなと思っていたのですが、これは…外しましたか(笑)。でもDVDでは観ると思います(笑)。値段が安ければ、色々旦那と一緒に突っ込んで楽しむものと割り切れます(笑)。
ミランダ・オットーの名前はこの作品から取って父上(俳優)がつけたんですよ。
ベン・ウィショーは観たいですよ。でもこの人露出度高い役が続くなぁ。
ヘレン・ミレンは凄いんですけどね。彼女主演の「クイーン」はお勧めです。イギリスって暗部もあるけど確かに大人の国だなあと思わせる作品です。あと、シャレがわかってるっていうか。
元々イマイチシェイクスピアってわからないです(^^;)。ロミジュリは当然、GWに「ヴェニスの商人」の舞台を観たのですが、結局何であんなにアントーニオが最初から最後まで憂鬱症なのかもわからなかったし。まああれは英国文化、役者の台詞回しの勉強みたいなものか(失礼)。でも、役者を目指す人が必ず経験できる共有の財産がある国っていいですね。国立のシェイクスピア劇団があって、所謂シェイクスピア役者出身の俳優さんの台詞にはうっとりします(E.マッケランなんかはLotRにそれが生きて、吹替では全く生かされてませんでしたが、他の現代的な映画でも基礎力が物を言ってる気が)。日本にはそういうものが余りないですから。どの有名劇団も舞台にかける「定番」みたいなものがなくて(「人形の家」なんかはそうなのかしら?)、結局色々な劇団がシェイクスピアやってたりしますしね。

Posted by: 高野正宗 | September 14, 2011 03:42 PM

>高野正宗さん

詳しい方の解説が聞きたかったところにコメントありがとうございます

プロスペラーがオリジナルでは男性だったというのは、この記事を書くにあたって調べていて初めて知りました
この人が男性か女性かで、けっこう作品全体のイメージが変わってくるんじゃないでしょうか。母性が強調されたり、エアリアルとの関係もちょっぴり甘酸っぱいものになってたりしてましたよ
高野さんならそういったオリジナルとの違いを比較しながら楽しめるんじゃないかなー

ヘレン・ミレンは春に老人アクション映画『RED』で拝見してるんですが、姥桜ながら(失敬)なかなかにキュートでございましたよ。かわいらしい笑みを浮かべながらマシンガンをぶっ放したりしてました(笑)

わたしは以前世界名作全集のようなもので何作か読んでみたんですけど、やはり戯曲というものは読むよりも演じられて初めてよさがわかるものじゃないかと思いました。やはり演劇人にとっては一度は通る道のようですから、お芝居の基本のようなものが色々つめこまれているのでしょうね。みなもと先生も『ハムレット』書いてたけど、一度先生のシェイクスピア論も聞いてみたいですね
原作者のネームバリューゆえか、地方のレイトショーだったにも関わらず、15人くらいはお客さんきてましたよ

Posted by: SGA屋伍一 | September 15, 2011 10:14 PM

こんばんは!(^_^)
実は、私も途中眠気と戦ってしまいました。
どうせなら、もっと派手にアレンジしてくれた方が
映画的には楽しめたような気がします。
衣装は美しかったけど、舞台劇にした方が
良かったような作品だなぁ〜と思いました。

Posted by: ルナ | October 07, 2011 01:39 AM

>ルナさん

お返しありがとうございます
うーん、やっぱり舞台劇を映画にするのって難しいですね(その逆もまたしかり?)
少し前の『マンマミーア』なんかはまあまあ好評でしたが、わたしはこちらも置いてけぼりでしたねい(笑)

Posted by: SGA屋伍一 | October 08, 2011 09:47 PM

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