坂の上を向いて歩こう 宮崎吾朗 『コクリコ坂から』
80年代の少女マンガを60年代の日活映画風にアレンジしたスタジオジブリ最新作『コクリコ坂から』。さっそくあらすじまいります。
朝鮮戦争が終わって数年経ったころの港町横浜。戦争で父を失った少女海(通称メル)は、さびしさを抱えながらも祖母が営む下宿「コクリコ荘」で元気に暮らしていた。メルはある時ふとしたことがきっかけで、一人の快活な上級生風間と出会う。風間は戦前から残っているクラブハウス「カルチェラタン」の取り壊しを阻止するべく、仲間たちと奔走していた。海は成り行きでその活動を手伝っていくうちに、次第に風間にひかれていく・・・
今回はなぜこの映画がいいのか、なぜ私は好きなのか、だらだらだらだら書きます。ネタもどんどんばれていくのでその点ご了承ください。
まず心惹かれたのはカルチェラタンでした。最初のあたりはすげーとっちらかってて『千と千尋』の温泉街を彷彿とさせます。そしてそこにたむろしている男子学生たちの「自分酔い」が大変面白おかしい。通りすがりの学生を捕まえては哲学談義をふっかけたり、わざわざ声に出して「太陽の黒点は今日も動いているぞ!」と叫んだり。私にも心当たりがないでもないですが、まあ、ああいう年頃の男子というのは何かと誇大妄想な状態に陥りがちなものです。そんな作品にとっちゃどうでもいいような連中まで生き生きと描かれてるところに、この映画に注がれた愛情と情熱を感じました。
最近の宮崎父があまり描かなくなってしまった「男らしさ」も心地よいものでした。海の父、風間の父、そして風間自身のぶっきらぼうでありながら、人を思いやるやさしさや、こうと決めたら迷いなく行動するまっすぐさ。そんな風に気負いのない自然体の男らしさというのは、実は意外とあんまり見当たらないものであるような気がします。
そしてその「男らしさ」もそうですが、「もう今はいない親から子供に受け継がれていく」という話にわたしはすんごく弱いのですね。たとえば海ちゃんは劇中で「お父さんが自分の代わりに風間さんをよこしてくれた」というセリフを言います。ここでずっと父親を想っていた少女のけなげさにまずホロホロと泣きました。そのあとそれがある意味本当だったことがわかり、ダラダラと泣きました。前作『ゲド戦記』の「命はそうやってつながっていくんだよ」という言葉が、ここに至ってようやく生きてきます。
物語のクライマックスでさらにダメ押しするかのように、「あいつらの子供のこんな立派な姿が見られて、本当にうれしい」と言う父たちの親友。わたしはなぜかそこでジブリ最大のトラウマ作品『火垂るの墓』を思い出しました。思えば、「戦争で親を失った兄妹」というところで二つの作品は微妙につながってるような気がします(我ながら強引だ・・・)。もし『火垂る』の兄妹もこんな頼もしい大人たちに出会えていたなら、あるいは生まれ変わっていたなら、海や風間のような健やかな少年少女に成長したのではなかろうか・・・ そんなことを想い、滝のように鼻水を噴出したのでした。
そしてもひとつ感動したのはこれが宮崎吾朗監督作品であること。前作であれほど酷評をうけ、実際「一作でやめる」と言っていた吾朗氏。もう一度映画を作るということは相当なプレッシャーだったと思います。それでも再び立ち上がり、これだけの作品を作り、冷ややかな目で見ていた一部の観客たちからも賞賛を得ております。その頑張りと成果に、心から感服いたしました。
息子の頑張りぶりを見てか、おとうさんも再びやる気を出し始めたようで、先ごろ新作に取り掛かってることが鈴木Pの口から漏れてしまいました。その言葉によると今度は自伝になるとか・・・・? ちょっと想像もつきませんが、これまた楽しみにしたいと思います。
Comments
カルチェラタンの話はノスタルジックでとても良かったです。
一方の海たちの恋のお話が物足りなかった。というより何故
あんなに駆け足早足なんだろうって。普通にゆっくり描いてく
れればいいのにと。
なんだかどうもその辺のチグハグさ加減が気になりました。
もっとも手島さんの歌なんて反則ですがな。あれ聞いて涙が
出ない訳がない…
Posted by: KLY | August 10, 2011 11:47 PM
貴方の事だから仏歌劇団の某、キッチリ絡ますと思っていたが………ゴメンよ(笑)。
個人的に映画の内容より、吾郎氏叩きがいささか鼻につきます。
もう少し彼を冷静に長い目で見れないとは余りに愚かだ。
徳川秀忠の評価、低い訳だよな。
>火垂の墓
これには共感したい。
あの兄妹に救いは無かったが、もし状況が転べば
こんな感じになっていたのかな…………と想像するのもありですね。
そうでもしないと救いが無さ過ぎだ。
Posted by: まさとし@葛城 | August 11, 2011 08:13 PM
>KLYさん
うーん、人の感じ方はそれぞれでありますね
わたしは別段二人の恋の流れとか、不自然には感じませんでしたよ
ずっと頼れる誰かを心の中で待っていた少女
その少女が旗を揚げ続けるのを、ずっと見守っていた少年
そんな二人がであったらずんずんと距離が縮まっていくのは自然なことじゃないかなあ、ってね。それに二人とも時代にふさわしく、とても慎ましやかですし
手島さんの歌は相変わらずいいですね。こないだTLを追いながらゲド戦記の地上波放映観てたんですが、「歌だけはいい」というつぶやきが集中して笑えました
Posted by: SGA屋伍一 | August 11, 2011 08:57 PM
>まさとし@葛城さん
毎度どもー いや、サ○ラ大戦のことはあんまり知らないんですよ ちなみにコクリコとはフランス語でひなげしのことだそうで。与謝野晶子さんがフランスにいる夫を偲んで「我もコクリコ」と歌ったのではなかったかな。しかし広井王子さんは「君死にたもうことなかれ」とか、与謝野晶子が好きねえ
わたしはもっとフルボッコにされると思ってたんですがね。思ったより全然好評でちょっとびっくりしました(笑) まあ本当に正当に評価されるのは、まだまだもう少し年月が経ってからでしょう
最近できた映画の『火垂る』は、はっきり少年が死んだとはせず終りになってるそうです。実際は少年は死なず、あんなひねくれた老人(野坂昭如)になってしまったわけですよね・・・
Posted by: SGA屋伍一 | August 11, 2011 09:18 PM
ほおー
SGAさんかなり、気に入られてるみたいですね。
まさしく吾朗氏監督作品てことで冷ややかな目で見てしまっていたけど
実際観てみたら、とてもいい作品でした。
海ちゃんと風間くんに、火垂るの二人を重ね合わせるとは・・・
思ってもみませんでしたよー
お父さんの次回作品、CUTのインタビュー読んだのですが
関東大震災を描くらしいですね。
自伝的な要素も絡んでくるのかな?楽しみです。
Posted by: kenko | September 26, 2011 10:43 PM
>kenkoさん
こちらにもどうもー
わたしはむしろゴローちゃんに肩入れしてたほうなので、今回のレベルアップはとてもうれしいのです。
「火垂るの墓」を重ねあわせたのはたまたまそのときこの作品についてネットで目にしていたからかもしれません。なんでも中国で放映したらあちらでも多くのトラウマを生み出したとかなんとか(笑)
パパンの次回作はわたしが聞いたところでは戦闘機開発に携わる学生と病弱の少女の交流のお話ということでした。駿氏にしては、かなり現実的な話になりそうですね
Posted by: SGA屋伍一 | September 28, 2011 10:35 AM
こんばんは!
とても、良いお話でしたねぇ〜。
でも・・・・だたそれだけでした。
なんかもう少しワクワクとかドキドキとかさせて
ほしかったかなぁ〜。
私が期待しすぎなんでしょうかねーーーー。
パパンの次回作も、夢のあるお話ではない感じですね〜。
Posted by: ルナ | October 15, 2011 12:52 AM
>ルナさん
こんばんは~
もう! いい話だったらそれでいいじゃありませんか!(笑)
いやあ、わたしはいまのジブリにはそんなに期待値高くないので~ 一番好きだったのは『カリオストロ』のころかなあ(それ、ジブリ以前じゃん)
パパンの新作も戦中のころの話なようなので、それこそ『火垂るの墓』のような作品になったりして・・・ いや、さすがにそれはないか
Posted by: SGA屋伍一 | October 15, 2011 09:13 PM