« 石の下にも六日間 ダニー・ボイル 『127時間』 | Main | 三つの体がひとつになれば トム・シックス 『ムカデ人間』 »

August 06, 2011

ある日パパと二人で森へ行ったさ セミフ・カプランオール 『蜂蜜』

090703_130139去年のはじめごろですか。若松孝二&寺島しのぶコンビが、『キャタピラー』でベルリン映画祭をにぎわしていた時、しかしわたしが興味を抱いたのはそちらよりも、グランプリである金熊賞を受賞した作品でした。トルコの森で親子が養蜂を営む話・・・と聞いて、なにやらファンタジックなイメージがむくむくとわいてきたりして。その作品、一年経ってようやく日本でも公開となりました。『蜂蜜』、紹介いたします。

主人公はトルコの森に両親と暮らす少年ユスフ。父親はユスフにとてもやさしく、ユスフもまたお父さんのことを強く慕っています。吃音がなおせないことに悩みながらも学校に通い、ごく普通の子供としての生活を送っていたユスフ。ところがあるときを境に、その平穏に深い影がしのびよっていきます。

これはある意味とてもよくわかる映画ですが、一方でとても難解な作品ともいえます。

「よくわかる」のはユスフの学校生活を描いた部分など。調子にのって目立とうとしたらかえって赤っ恥をかいたり、宿題をやってこなくてあせったり、クラスで自分だけができないことがあって落ち込んだり・・・ 誰もがおさないころに感じ、経験したことではないでしょうか。あまりにささやかですっかり忘れてしまっていたそんな思い出を、ユスフの姿を通して思い出させてもらいました。
もうひとつよく伝わってきたのは、「おとうさん」の姿のギャップ。子供にとって父親というのはほぼ万能の存在であります。なにか困ったことがあっても、お父さんに助けを求めれば大丈夫・・・そんな風に感じているもの。
しかし実際には父親とても悩める不完全な人間にすぎず、ささいなことで失敗したり、明日の生活に不安を覚えたりしています。それは自分がそのときの父親の齢に近づいていくにつれ、だんだんとわかっていくことであります。

で、一方で監督が何を語りたいのか? 何をテーマとしているのか?ということはこちらも思考を働かせないとわかりづらいお話です。作品のほとんどは少年の日常を淡々とおっていくだけなので。
またこの映画ではBGMというものがまったく使われておりません。普通映画ではここぞというとき音楽が流れて、登場人物の悲しみや喜びをわかりやすく伝える役割をはたしているわけですが、この『蜂蜜』ではスピーカーから流れてくるのは、本当にトルコの森で録音された自然の音のみ。ですから受け手の側である程度ユスフ一家の心情を想像する必要があります。

その想像がもっとも必要なのがラストシーン。以下、完全にネタばれしてるのでこれから観ようかという方は避難されてください。






大好きだった父親の死を知ったユスフ。しかし彼はわっと泣き出すでもなく、無言のまま森へと向かいます。そしておそらくは父親との思い出のある木の下に腰掛け、そっと目をつぶります。
少年にとっては父親はただ形を変えただけで、依然として森の中で目に見えない形で生きているということなのか? だからそれほど深く悲しみを感じないということなのか・・・

相変わらず安直な解釈だなあ これは、という意見のある方、ぜひお聞かせください。

110806_214901さて、この映画実は「ユスフ三部作」と呼ばれるものの完結編にあたります。第一部『卵』では大人になったユスフが、第二部『ミルク』では十代の思春期の姿が描かれます。後に行くにつれ時間軸が戻っていくこの構成、興味深いというか、ややこしいというか(笑)

第一部、第二部を観ればこの『蜂蜜』を、もっとよりよく理解できそうな気がします。とりあえず三部作はいまのところ銀座テアトルシネマや横浜はジャック&べティで観られます。わたしもなんとか全部観たいものですが・・・

|

« 石の下にも六日間 ダニー・ボイル 『127時間』 | Main | 三つの体がひとつになれば トム・シックス 『ムカデ人間』 »

Comments

私も何とかみたいのだけどスケジュールがとれない…。
というか残りの2本どころか映画が観れない…。
こまった、どうしよう…

Posted by: KLY | August 08, 2011 11:58 PM

>KLYさん

わたしもスケジュールの関係で銀座の方にはもう見にいけなさそう。そんなわけでジャック&べティに一縷の望みを託しているのですが、これまた変な上映の仕方なんですよね。一週目が蜂蜜2回で二週目が蜂蜜&ミルク。三週目が蜂蜜&卵だとしたら結局二回通わねばならないことに・・・

Posted by: SGA屋伍一 | August 09, 2011 11:00 PM

観てきましたよ。
とても良かったんですけど催眠効果も半端なかったですね(笑)。

ラストに関してはユスフは父の死を知ってたんでしょうかね。
聞こえたにしても「そんなの信じないや」と飛び出したように見えました。
ラストで目をつむっているのは
探し疲れて眠ったのだと思いました。
意識が飛んで肝心のシーンを観てない可能性もありますが。

この映画、三部作の完結編ということは
絶対、一部、二部でああだった原因はコレだ!という
内容だったと思います。
話を理解するには観るしかないでしょう。
12日までとなると私には無理ですが。

Posted by: かに | August 10, 2011 11:54 PM

>かにさん

おお、ご意見どうもありがとうございます
正直申しますとわたしも意識が遠のきかけたところが何度かw 歯を食いしばって起きてましたけどね。わざわざ銀座まで観に来て寝てたらさすがにそれはバカでしょうと

かにさんの解釈もなるほど、と思わせられるものがあります。謎めいた印象深いラストシーンでしたね
イスラム圏の少年の物語といえば先日『バビロンの陽光』がありましたが、あちらのストレートさに比べるとやや難しいお話でございました

『ミルク』と『卵』ですが、かにさんだったらもしかするとジャック&べティの方が近いかもしれませんよ。ま、あの黄金町というところも独特な雰囲気のところですが

Posted by: SGA屋伍一 | August 11, 2011 09:07 PM

「ンガ・・・ 」ネムィ…(σω-)。о゜ゴシゴシ (u_u)。o◯Zzzz
じゃなくて 「癒しの映画」って言うんだもーん
ヾ(✿❛◡❛ฺฺ)ノぉはよぉ~❤ฺ
民族の大移動のこちら東京は静か~♡

☆*:;;;;;;:*☆*:;;;;;;:*☆*:;;;;;:*☆*:;;;;;:*

三部作の制覇してから「蜂蜜」を観ようとしたけど
どうにも無理 ランダム観だな・・・

さて。 トルコってのは乱開発されてるのがよく解る「現実映画」でもあったかな
ホント、ユーロが狙ってるんだよねぇ

なんというか「自然に還る自分」を改めて確認したような バック・トゥ・ネイチャーというか
包まれていく感覚だった

結局 ユステフも 魅了されてしまったってコトよね
「蜜蜂」「ハチミツ」「父」「失踪」「森」
って これさ。深層心理のなんちゃらみたいとか今更 感じてたりする私

Posted by: q 美と買い物のトルコ!!! | August 14, 2011 07:55 AM

>qちゃん

おはよーさーんんん!! もう朝だよー!!
まだまだお休み満喫中ですか!? わたしは明日まで・・・

癒しの映画かあ。いきなり人死にから始まってたけどね(笑)
銀座テアトルはもう上映終わっちゃったみたいね。観るとするならジャック&べティしかないけど、qちゃんは横浜も行動範囲なのかな

わたしは背景に乱開発があるとかよくわかってなくて、みなさんの記事など読んでようやく知りますた。あはははは

森に還るか・・・ やっぱり人間というのは意識しててもしてなくても、自然なしでは生きられない生き物だからねい

『卵』『ミルク』のあらすじ読むとユスフくんはこのあと故郷を出るようだけど、三部作の最後(というか一作目の最後・ややこしい)にはやっぱり森に帰ってくるんだろうかー

Posted by: SGA屋伍一 | August 15, 2011 11:43 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference ある日パパと二人で森へ行ったさ セミフ・カプランオール 『蜂蜜』:

» 蜂蜜 [LOVE Cinemas 調布]
トルコの新鋭セミフ・カプランオール監督の『卵』、『ミルク』に続く三部作最後の作品。6歳の少年ユスフは森に出かけたまま帰らない父親を想い、しかし父の残した「家はだれが守るんだ?」の言葉を忠実に実行しようと健気にふるまう。時に子どもらしい心情を描きながらも、物語はユスフが少しづつ成長してゆく姿を描いている。2010年ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作品。... [Read More]

Tracked on August 07, 2011 11:38 PM

» 蜂蜜 [Said the one winning]
幻想的な森を舞台に、決して戻ることのない最愛の父を待ち続ける6歳の少年ユスフの成長を通して、人間の心の機微や親子のきずなを情感豊かに描く感 動作。デビューからわずか5作で現代トルコ映画界を代表する監督となった新鋭セミフ・カプランオールが、心に寂しさを...... [Read More]

Tracked on August 14, 2011 09:17 PM

« 石の下にも六日間 ダニー・ボイル 『127時間』 | Main | 三つの体がひとつになれば トム・シックス 『ムカデ人間』 »