ダンシング・オールライフ マイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガー 『赤い靴』
みなさんおわかりでしょうか・・・ とうとう当ブログでもスキャナーを導入しはじめました!(六年目にして!) まあいかな機械を使おうともヘボはヘボに変わりないわけですが… で、今回はこのたびデジタルリマスター版が公開となった、バレエ映画の名作『赤い靴』、ご紹介します。
舞台はたぶん第二次大戦後まもなく。バレエが人気を博していたロンドンで、夢を追う二人の若者がいた。一人はプリマを目指すビクトリア・ペイジ。もう一人は作曲で身を立てることを願うジュリアン・クラスター。ビクトリアとジュリアンは共に名高いバレエ団のオーナー、ボリス・レルモンコフに見込まれ、童話をもとにした『赤い靴』の舞台で華々しい評価を得る。彼らの未来は栄光に満ちているかに思えたが・・・
製作されたのは1948年。実に終戦からたった三年後であります。イギリスだって戦時中はバカスカ爆撃受けただろうに、次から次へと映し出される豪勢な映像は、まったくそのことを感じさせません。
特に目を見張るのは中盤における『赤い靴』の上映場面。舞台の上で踊ってたはずなのに、急にバックが果てしない荒野になってたり、すんげー奥行きのある宮殿になっていたり、明らかに現実ではない映像になっております(笑) しかしこの一連の場面、ひとつひとつが実に美しく、かつ迫力があります。月並みな文句ですが、いま観てもまったく古びておりません。「いったいどこまでいってしまうんだ!?」とエキサイトせずにはいられませんでした。
バレエ映画といえば先ごろ『ブラック・スワン』がありましたが、この映画もまた、芸術への執着心が生み出す悲劇が物語られています。ヒロインをおいつめていくのはあらすじに書いた二人の男。
バレエ団のオーナーであるレルンコフは、自身にとって「バレエは宗教である」と語ります。それゆえ彼はプリマが恋に落ちて、専心の対象が別たれることを激しく嫌います。そして結婚を選んだプリマや、ヒロインと結ばれたスタッフを迷うことなくクビにします。これには求道精神だけでなく、嫉妬心も含まれているんじゃないかな・・・と感じました。彼にとってプリマとは自分にとっての理想の女性ということなのでしょう。だとしたらその女神が他の男に思いをよせているのを知って、面白いはずがありません。ゆがんだ愛情ってやつですねw
そういえば『ブラック・スワン』にも問題のある振付師が出てきましたが、彼がバレエに色恋をどんどん持ち込もうとしたのと実に対照的であります。芸術を極めるのにもいろんな考え方があるのですね。
考え方の違いといえば、ヒロインをめぐってだけではなく、音楽の捉え方に関してもレルモンコフとジュリアンは衝突します。バレエ崇拝者であるレルモンコフにとって音楽はバレエの一部にしかすぎませんが、作曲家であるジュリアンにとって本来音楽というのはそれだけで成り立っているものであり、「バレエの曲なんて二流の仕事」とまで言い放ちます。バレエが上か音楽が上か・・・ こういうのって「どっちが上」ってもんではないと思いますが、まあその道に人生ささげちゃった人にはそれじゃ納得いかんのでしょうね~
今回のデジタルリマスター版ですが、名称マーティン・スコセッシが監修となって、二年半の歳月をかけて完成させたとのこと。それほどにスコセッシ氏はこの映画に心酔しているようで。血しぶき飛び交うスコセッシ映画と、絢爛豪華な『赤い靴』。かなりかけ離れている気もしますが、なるほど、ひとつのことにのめりこみすぎたために常軌をいっしていく描写などは、確かにスコセッシ作品と通じるものがあります。
『赤い靴』はまだこれから秋にかけて全国を巡回していくようです。バレエに興味はなくとも、突き抜けた映像センスに興味がある方はぜひスクリーンでごらんくだされ。
Comments
はじめまして、メジャーリーグで活躍中の松坂大輔です。ブログ毎日みてますよ。
そして遅くなりましたが、スキャナー導入おめでとうございます。まあ、どうでもいいですが。。。
マイケル・パウエルさんはかなり血しぶき飛び交う感じの人で、プレスバーガーさんとタッグでやってるときはブレーキが利いていたものの、コンビ解消したとたん 『血を吸うカメラ』 というスプラッタムービーを撮ってしまうという、、、藤子不二雄みたいな人たちだったということですよ。
じゃ、明日、登板なので、もう寝ます。。。
Posted by: 松坂大輔(レッドソックス)。。。 | August 24, 2011 07:09 PM
>松坂大輔(レッドソックス)。。。さん
うわあ、有名人からコメントが来てぼくとっても感激です。最近調子よくないみたいですけど、ぜひがんばって。。。。ってあなたウラヤマさんでしょー! コメントありがとうございます。。。。
夢カメラ・・・じゃなくて血を吸うカメラについてはこの記事書く前にちょっと調べたんですのよ。なんでもお堅い時代に発表したら大酷評されて、なかば監督生命を絶たれてしまったとか
ちなみに赤い靴というと、「赤い靴~ はいてたら抜けた~」という替え歌(カックラキン大放送だったか?)が思い浮かぶ世代です。み~ん。。。
Posted by: SGA屋伍一 | August 24, 2011 08:49 PM
松坂大輔さんとのやりとりに、つい笑ってしまいました。。。
今頃ですがこちらにコメントを。。。
ほんと『赤い靴』の上演場面は見事でした。ひきこまれました。
終戦からたったの3年後、そう思うとますますスゴすぎますね、このクオリティ。
私もあの団長、嫉妬じゃん!それも男としての・・・と思いました。
パワハラじゃん!
ヒロインが団長に恋していたら、どうだったんでしょうね。
Posted by: kenko | October 04, 2011 11:00 PM
>kenkoさん
んばんわー
松坂(偽)さんはコメントも変な人ですが、ご本人もなかなかに変な人ですよ。いいひとなんですけどね(フォロー)
やっぱりこの映画は『赤い靴』の上演場面が一番興奮しますね。そのあとの展開もまあわかるけれど、この劇中劇ほどにはテンションあがらなかったです
団長もねえ(笑) 芸術だの宗教だの言ってますけど、非常にわかりやすい人ですよねェ。ただ優れた芸術家って、こういう性格に問題アリアリな人が多いのもまた事実だったりして
>ヒロインが団長に恋していたら、どうだったんでしょうね
きっと断腸(だんちょう)の思いでヒロインをふるでしょう。自爆
Posted by: SGA屋伍一 | October 05, 2011 05:25 PM