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July 06, 2011

明るくなるまで待てない ギリェム・モラレス 『ロスト・アイズ』

110705_211948スペインにて二週連続のヒットを飛ばしたホラー映画が、満を持しての日本上陸 ・・・つっても、もう三週くらい経ってますけどね。『パンズ・ラビリンス』『ヘルボーイ』のギレルモ・デル・トロ製作『ロスト・アイズ』ご紹介します。


夫とともに天文台に勤めるフリアは、ある日胸騒ぎに襲われて突然失神する。双子の姉の身に何か起きたのか?と思い、彼女の家に向ったフリアが見たものは、天井からぶら下がっていた姉の遺体だった。
深く傷ついたフリアだったが、姉の家を調べていくうちに、彼女の周りにいた何者かの存在に気づく。姉は彼に殺されたのでは?と考えたフリアは、その謎の人物の正体を追い求める。それが後に彼女を恐怖のどん底に陥れることになるとも知らず・・・・

で、この姉妹は「視力を失いやすい」という体質がありまして、お姉さんはすでに失明しておりました。周りの人は「それを気に病んで・・・」とフリアの考えを否定します。そして度重なるストレスにより、フリアの目もだんだんと弱ってきます。
ホラー映画の恐怖にもいろいろあると思いますが、「ものが見えなくなっていく」ということもなかなか怖いことのひとつであると思います。もし自分の目が急に見えなくなってしまったら?と考えてみてください。不安でたまらなくなるのではないでしょうか。
その恐怖をさらにあおるのがフリアの姉の周りにいた「謎の存在」です。彼がいたという証拠はあまりにあやふやで、序盤、わたしたちも観ていて「ヒロインの妄想では?」と疑りたくなります。そう思いかけた途端に突然シルエットや手だけヌッと出てきたりして、小心者のわたしをいたくびびらせてくれました。
果たして彼の正体は何なのか? 視力の弱い人だけに感じられる霊のようなものなのか? それとも忍者並みに気配を隠す事に長けた超人なのか?

お話がすすむにつれ、どんどん視力が弱っていくフリア。ただでさえ心細いのに、彼女は自分に気づいた謎の存在にも狙われ始めます。まるっきり無防備の状態に等しいフリアは、自分の身を守ることができるのでしょうか。

わたしもしかしてこのヒロインの状態に合わせて、画面もどんどんぼやけてくるのでは?なんて予想をしておりました。でもまあ、そんな試みをやったら、お客さんは「なんも見えんぞコラー!」と怒り出しますよね これから観ようという皆さん、そんなことはありませんのでどうぞご安心ください。ただこの設定を利用して、ちょっとずるうまい仕掛けが用いられていました。気になる方はご自分の目でお確かめください。

前に別の記事にも書きましたが、スペインの方は「目に見えない存在」というものを特に意識している気がします。やはりデルトロ氏製作で主演も同じ『永遠のこどもたち』、スペイン出身のアレハンドロ・アメナーバル監督による『アザーズ』、そして名作として親しまれているビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』。これらはみな目に見えない誰かさんをテーマとしております。ただ恐れるだけではなく、主人公たちが何とかして「それ」を理解しようといろいろチャレンジするところは、明らかにアメリカのホラーとは違うものが感じられます。

あとこれはスペインの、というかデルトロさんの特性ですが、どうしても作品で「愛」を語りたがるんですよね。この乙女野郎! 「ホラーに愛なんて余計なもんを持ち込むなあ!」という方もおられましょうが、軟弱者としてはこういうメロメロな作風にちょっと助けられます。ただ怖いだけの映画だと、夜中にトイレに行きたくなった時、思い出して布団から出られなくなったりしますからね・・・・

110705_212008『ロスト・アイズ』は現在渋谷と梅田で上映中なのですが、二館ともすでにレイト限定なうえに今週の金曜までというとっても不憫な扱いです。さらに追加上映館もいまのところたった三館。もうちょっと注目を浴びてもいい映画だと思うので、興味を持った方はぜひ。


 

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Comments

私は大好きな作品ですけど多分流行らないだろうなって…。観たら結構面白いと思うんですけどね。映画好きはデル・トロと聞けば観てみるかとなるけれど、そうじゃない人はポスターだけじゃ別に気にも留めないと思うんです。もったないなぁ。

Posted by: KLY | July 06, 2011 11:56 PM

>KLYさん

なんでなんでしょうね。この感覚、ハリウッドよりJホラーに近いと思うんjですけど。でもそういやJホラーも割りと下火・・・

あと「ギレルモ・デル・トロ」の名前だけではそんなに客が来ない・・・ということも意外でした。これが「監督」だったらまた違ったかもしれませんが

Posted by: SGA屋伍一 | July 07, 2011 04:03 PM

きのうアイスくってて、道に落っことしたで、、、ロストアイス。。。

ボクこの映画、あんまり覚えてないんですよね、、、だってスガさんの横顔ばっかりチラチラ見てたから。。。

主人公の視力が衰えていくのにあわせて、見えないようで見えている、見えているようで見えていない、そこうまく使ってトリック見せてほしかったですよね。まあ、見てるこちらは、そうとう混乱しそうですがね。。。

Posted by: この乙女野郎。。。 | July 09, 2011 08:57 AM

>この乙女野郎。。。さん

だって。。。男の子なんですもん、わかって!
てゆうーかあなた裏山さんでしょー!

そうか。。。 オレの顔ばっかり見てたのか。。。 ひょっとしてオレのことが好き? ドキドキ

見えそうで見えないトリックか。。。 それは女の子のパンツがうっかり見えてしまったのだけど、そっと見なかったフリをしてやる。。。
そういうものかな?

たぶん違うね。。。。

Posted by: SGA屋伍一 | July 11, 2011 09:15 AM

hey伍一君

これあのあと急いで行って間に合ったんだけど
ホラーっていうよりサスペンスのジャンルよりだなぁって思っちゃった。
あの少女の惨殺シーンはホラーな展開だけど
それ以外は。
サスペンスも好きだけどちょっと期待しすぎたかな

ホラーに愛を持ち込んでも大歓迎だけど、
ホラーである以上はもっと怖い演出が欲しいわ

その点、「永遠のこどもたち」『アザーズ』は比べ物にならない傑作!両方ちゃんと怖いしね♪
こういうのもっと出て来ないかなー

それはそうとムカデ人間の感想待ってるわ
ともやさんと繋がっちゃえー 笑

Posted by: mig | July 12, 2011 10:38 PM

>migさん

こんちは。お返しありがとー
とりあえず間に合ってよかったね(笑) 
ホラーとサスペンスの区分もむずかしいところだよね。同じだと考えてるもけっこういそうだし
超現実的な話がホラーで、一応現実的におこりえる話がサスペンス・・・と前は考えていたけど、一概にそう言えないところもあるし

『永遠のこどもたち』は感動したね~ あれも旦那さんがかわいそうなお話だったなあ。『アザーズ』は感動というかやるせない想いがつのった映画だった

『ムカデ人間』は今日小田原で観てくるかもしれない・・・ こっちでは明日で終わっちゃうそうで

Posted by: SGA屋伍一 | July 13, 2011 12:03 PM

あれ???
昨日携帯から最新記事niいちはやくコメしたのに
その記事がないよ??
6月に観た映画まとめみたいなのだったけど、、、


伍一君結局ムカデみたのかな?
そのコメにはゆきえちゃんとまだーむ帰国したらつながればいいんじゃない?って勝手に思いついて書いたのだけど。

わたしはその写真をとりにいくわ(笑)
シネクイント、ムカデヒットでお昼の回?も出来たらしくて。
感想待ってまーす。

Posted by: | July 14, 2011 09:40 AM

>たぶんmigさん

どもー。コメくれたのはこっちのブログかな
http://d.hatena.ne.jp/sga851/20110712

ここと並行して長いことやってる日記ブログなんだけど、最近はツイッターのせいでかなりさぼりがち。ほとんど映画のまとめ記事しかあげてないという

そうそう、ムカデ見たよ。いやあ、ひどすぎて笑えた 見終わった直後は北島康介じゃないけど「なんも言えねえ」状態だった(笑)
まだ~むさん、hinoさんとだったらつながってもいいなあ。あ、あちらがよければの話だけど。詳しい感想はうまくいけば二三週後に・・・

Posted by: SGA屋伍一 | July 14, 2011 03:34 PM

この乙女野郎!って(笑)ふふ、笑った。
そんなデルトロさんが好き。

たしかに『永遠のこどもたち』ほど怖くも傑作でもなかったけど
なかなかおもしろかったです。
とくに、包帯してるときの見せ方。ちょっとした仕掛けでしたね。
記事中に挙げられてる関連作で『ミツバチのささやき』を観ていないのを
思い出しました。
近日中にチェックしたいと思います。

バカデミーならぬアホデミー賞めざして、
他の記事にもおいおいお邪魔しますー。
もちろん今年も、師匠を見習ってマンガベストもやる

Posted by: kenko | December 30, 2011 02:07 AM

>kenkoさん

こちらにもども。ふふふ・・・ 男は心に乙女を宿しているものなのですよ。某庵野秀明監督とか(笑)

>包帯してるときの見せ方。ちょっとした仕掛けでしたね

そうですね。現実の景色と思わせて実は心象風景だったわけで。この辺『ミッション8ミニッツ』で、本当は別の顔なのにずっとジェイクの顔で映ってる演出と似てるような

『ミツバチのささやき』はきれいなんだけどなかなかに手ごわい映画です。目が冴えてるときにどうぞ(笑)

漫画ベストは映画ベストほど見かけないので、毎年つきあってくださるkenkoさんは本当にありがたい限り。楽しみにしてますよ~

Posted by: SGA屋伍一 | December 30, 2011 09:46 PM

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