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June 27, 2011

1年X組デコパチ先生 マシュー・ヴォーン 『X-MEN ファースト・ジェネレーション』

110627_190142今年は『マイティ・ソー』『キャプテン・アメリカ』『グリーン・ランタン』『スーパー!』とアメコミ系の映画が目白押しですが、その先陣を切るのがこの作品。すでに映画ファンにはおなじみのX-MENシリーズ最新作『X-MEN ファーストジェネレーション』、紹介いたします。

第二次大戦中のポーランド。強制収容所で母と引き離されたことをきっかけに、一人の少年が超能力に目覚める。彼の名はエリック。遺伝子の中に特殊な力を秘めた「ミュータント」の一人だった。
時は下って1960年代。巨大な陰謀を企む悪の結社「ヘルファイアークラブ」の存在に気づいた天才学者のチャールズは、CIAの助力のもと、ミュータントの仲間たちを集めて彼らに立ち向かおうとする。その中には成長したエリックの姿もあった。

思い起こせば五年前の『X-MEN ファイナル・ディシジョン』公開の際、マーヴルは「幾つものスピンオフを企画」とアナウンスしておりました。その中で最も現実味があったのが『ウルヴァリン』と『ヤング・マグニートー』という企画。『ウルヴァリン』は二年前にすでに実現しましたが、もう一つの方は待てど暮らせど情報が入ってこない。恐らく二転三転して、この『ファーストジェネレーション(原題は『FIRST CLASS』)になったものと思われます。

監督は『キック・アス』のスマッシュヒットが記憶に新しいマシュー・ヴォーン。前作でのコミックオタクぶりは今回も健在です。まずストーリーの主な舞台がキューバ危機の生じた1962年なのですが、実は原作X-MENの第一号が出たのはその翌年の1963年だったりします。
また、今までの映画版では黒を基調としたオリジナルのスーツが用いられていましたが、今回は原作で長く使われていた黄色と青を基調としたスーツが原案となっています。
そして人気メンバーがギャラやストーリーの都合上登場できない代わりに、かなりのファンでしか知らないようなキャラクターが多く登場します。日本語版は一通り網羅してるわたしでさえ、「誰だお前は!?」というキャラが何人かいましたcoldsweats01
初登場の連中で原作でもまあまあ重要なのは、衝撃波を放つハボックと、超音波で飛行するバンシー。それぞれ一時期X-MENの分家チームのリーダーを務めていたことがあります。また敵方のエマ・フロストも近年X-MENの主力メンバーとして人気を博しているキャラです。

原作との比較はこれくらいにして。今回何よりも際立っているのはマグニートーことエリックの「怒り」であると思いました。まあこの方は第一作からずっと怒っているかのような印象がありますが、これまではあくまで悪役としてであって、あまり感情移入できるような人物ではありませんでした。しかしこの『ファーストジェネレーション』においては、彼の出自と感情を丁寧に描くことによって、その怒りがダイレクトに私たちに伝わってきます。恐らくこの映画を観た人たちの多くは、彼に同情することでしょう。パートナーとなるチャールズはいいヤツではあるのですが、いかんせん金持ちのボンボンであるため、エリックの強烈な存在感の前にはやや髪が・・・いや、影が薄い気がします。

今回は人気キャラのサイクロップスやウルヴァリンが(ほぼ)出てこないせいか、本国では第一週こそトップを取ったものの、シリーズとしては最低の出だしだったとか。まあサトシやピカチュウ抜きでポケモンの映画を作ってるようなものなので、あちらのお子さんが「こんなのX-MENじゃないよ!」と嘆いたとしても無理からぬことです。ですが、この映画は紛れもなく『X-MEN』の本質をとらえた作品であります。それはクライマックスにおける展開とあるセリフに顕著に表れております。・・・と以下はネタバレしてるのでご注意ください。

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捨身の戦いで世界を危機から守ったX-MEN(とはまだ呼ばれてなかったな)。だが米ソ両国の軍隊は、あろうことか「新たなる危機」とばかりに彼らに砲塔を向けます。そう、人は理解できないものを恐れるものです。その相手が強大な力を持っていればなおさらです。
放たれたミサイルはエリックのパワーにより180度方向を変え、両国の戦艦へと戻っていきます。「よせ、彼らだって善良な市民にすぎない。ただ命令に従っているだけなんだ!」と叫ぶチャールズ。それに対しエリックは血の滲むような声でこう答えます。「そんな奴らに・・・ オレはひどい目にあわされたんだ」

多くの人にとって良き隣人であり、愛されている家庭人たち。そんな人たちですら差別をし、国家の下では殺人者集団となる。『X-MEN ファーストジェネレーション』は、エンターテイメントでありながらも、この点で世界が60年代から何ら変っていないことを明らかにしています。

110627_190256マシュー・ヴォーン氏はこれを起点として、前日談三部作を作る構想のようです。そうすっと以後のシリーズに出てこない面々は、壮絶な殉職シーンを免れないかもしれませんね・・・
それはともかく、「セカンドクラス」「サードクラス」があるならぜひマシューさんにメガホンを取ってほしいもの。売り上げはイマイチかもしれませんが、FOXさん、ぜひお願いします! 予算削ってもいいですから!

ちなみに上のイラストは原作版ミスティーク、下は同ビーストです。


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June 26, 2011

狼なんて怖い キャサリン・ハードウィック  『赤ずきん』

20060908191401もーりへーいきーましょおーむーすめーさんー(ほっほーほ)
 この歌最近も歌ったな・・・ 誰もが知ってる童話『赤ずきん』を、『トワイライト』第一作のキャサリン・ハードウィックが映画化。『赤ずきん』(まんま)紹介します。

そこは人里はなれたある山の中の村。美しい娘バレリーは幼なじみの木こり、ピーターと将来を共にする約束をしていた。だがバレリーの母は裕福な鍛冶屋のヘンリーと娘を結婚させようとする。母と思いが食い違うことにバレリーが悩む中、村では恐ろしい人狼が現れたという噂が流れ始めていた・・・

宣伝文を読みますと「あの赤ずきんが成長したその後の話」みたいなことが書いてありますが、内容はだいぶ違います。もしいたいけな少女の赤ずきんが、もう結婚ができるくらいの熟れ熟れの娘さんであったら(品のない表現だ)・・・という新解釈ストーリー。しかも出てくる狼が普通の狼ではなく、人に化ける「人狼」。そういえば昨年『ウルフマン』という作品があったばかりですが、そこそこ雰囲気似てます。また古谷一行みたいな人も出てるしw

しかしまあそこは女の子が主人公ですし、『トワイライト』の監督さんということもあって、恋愛模様もかなり重要です。ヒロインの恋人はワイルド系のイケメンなのですが、悲しいことにお金があんまりなさそう。その二人の間に割って入るのが腕力はなさそうだけど、生活力は申し分ないヘンリー。普通こういう横恋慕キャラというのはいけすかない性格だったりするものですが、彼はなかなかよくできたいいヤツでして。顔もそんなに悪くありません。「イケメン二人に愛されて、さぞやいい気分でしょうね!」と、なぜかひがみっぽいブスのような気持ちで鑑賞しておりました。

そして人狼退治に中央から派遣されてくるのがゲイリー・オールドマン演じるソロモンという聖職者。一見正義の味方のようでいて、任務のためには拷問もいとわぬ人でなし。最近ゴードン警部のイメージが強くなった彼ですけど、やっぱりイヤなヤツをやってる時の方がイキイキしてますね。

こうやって書いてますと「これのどこが『赤ずきん』なんだ!?」と思われるかもしれませんが、一応クライマックスに向けてだんだんお話はそれっぽい方向に進んでいきます。で、面白いのはソロモンさんが赤いずきんのことを「みだらな衣装」と言ったりするのですね。子供がかぶってる分にはかわいらしい赤の衣装ですが、「赤」ってまあいろいろ連想させる色であります。女性、危険、流血、罪、攻撃性etc
このお話は森が舞台なわけですが、森は主に獣たちの世界ゆえ、人に眠る獣性を呼び起こす何かがあるのやもしれません。

110626_201335『赤ずきん』は全国の劇場でたぶんまだ上映中。主演のアマンダ・セイフリードちゃんはここんとこ『ジュリエットからの手紙』『クロエ』と立て続けに主演作が公開されてます。わたしこのコなんとなく爬虫類というか宇宙人っぽい顔に見えるんですが、まあ今後の活躍が楽しみな女優さんであります。


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June 22, 2011

明日のアースを救え ショートショート・フィルムフェスティバル&アジア2011 「STOP! 温暖化部門」 片岡翔 『SiRoKuMa』ほか(ついでに『ゆきだるまとチョコレート』も)

20060714194835当ブログ最長タイトルかも・・・ 思い起こせば一年前の「ショートショート・フィルムフェスティバル&アジア2010」がわたしの映画祭初参加でございました。そして今年も行ってまいりましたSSFF!(こう略すとぐっとラクだ!) 今回は温暖化防止をテーマとした「STOP!温暖化部門」を鑑賞。一挙に上映された14本の作品をざざっと紹介していきましょう。

1本目『流氷はいつやってくる?』、8本目『変化する潮』、13本目『11度』は、それぞれ網走、ソロモン諸島、スコットランドから温暖化の危機を訴えたドキュメンタリー。

2本目『怒りの温度』、3本目『セーブ アース、セーブ アス』、5本目『危機に万歳!』、7本目『地球温暖化の歌』、10本目『気候という名の料理』、12本目『温暖化ってなんだ?』は一発アイデア勝負のような5作品。
個人的にはルーマニアの片田舎を舞台にした『怒りの温度』が、なかなか軽妙で気に入りました。ちょっと考えないと、なぜこれが温暖化と関係あるのかわからないんだけどw あと『危機に万歳!』は柔らかな独特の絵ののタッチが目に心地よかったです。

4本目『ドリーム』はモンゴルで作られたSF作品。人気の少ない未来のウランバートルの情景が印象に残りました。14本目の特別上映作品『Green Film Project [everyday]』は加瀬亮と真木よう子が出演。若い恋人たちの日常を映しながら、温暖化防止になにができるか訴えます。

わたしが特に気に入ったのは9本目『エネボ- ワン ライト ライフ-』と11本目『テクロポリス』。前者はCO2と戦う発電ロボットを主人公としたCGアニメ。かわいらしいロボがボコボコに痛めつけられる描写は涙を誘います。
後者はカメラやマウスなどのツールが命を持った世界に訪れる、災厄の物語。立てかけられた雑誌を林に見立てたり、キーボードで出来た近代都市が出てきたり、レトロチックで独特な映像センスにひきつけられました。


そしてお目当ての片岡翔監督作品『SiRoKuMa』。
主人公はとある公営団地に住む、むさくるしい男。彼はやがて生まれてくる子供の顔を早く見たいと願っていたが、ある時妻のおなかから聞こえてきたのは「いややわ」という感じの悪い関西弁だった・・・

「シロクマ」というタイトルですが本物のシロクマは出てきません。まあシロクマがこの作品の重要な要素になっている・・・のかな・・・ 『ポーラX』にもシロクマは出てこないみたいだし、いいんじゃないでしょうかねえ

さて、この作品ももちろん温暖化防止をテーマとした作品です。ただ他の作品にも言えることですが、「このままじゃ地球は滅んでしまうぞーっ」と脅迫するようにそれを訴えるわけではありません。監督お得意のユーモラスでファンタスティックなムードで、「ああ、なんとかしなくちゃいけないよな・・・」とわたしたちに考えさせます。
確かにこれから世に出る赤ちゃんが今の世界の惨状を知ったら、生まれてくるのが「いややわ」という気持ちにもなるでしょうね。いつから世の中はこんな風になってしまったのでしょう・・・・ と落ち込んでいても仕方なーい! 本当に自分のできることからコツコツと始めていきたいと思います。「生まれてくるのが嫌な赤ちゃん」といえば『崖の上のポニョ』でもそんなエピソードがあったなあ。片岡監督はジブリ作品が大層お好きだそうですが。

主演の芹澤興人氏は、知る人ぞ知る今泉力哉監督の怪作『最低』で、あんな顔なのに(すいません・・・)美女三人から言い寄られるモテ男を好演した方。今回もその味のあるフェイスで、予想だにしない我が子の反応に右往左往する父親を巧みに演じておられます。特に変ったことをするわけではないんだけど、そのなげやりな表情や所作がなんともおかしい。今後もぜひいろんなところで活躍していただきたいものです。

ついでに先の特集で追加上映された『ゆきだるまとチョコレート』についても語っておきます。
舞台は北海道。少し髪の長い女の子のような男の子が主人公。いじめっ子にいやなことをされても、少年は気弱な性格ゆえか、いつも逆らうことができません。ある日彼は校庭の隅にたたずんでいた雪だるまに手袋をかぶせてあげます(だったかな? すんません。この辺少しうろ覚え)。すると翌日驚くべきことが・・・

この作品は北海道の素人の子供たちを使って作られた作品。それゆえに素朴で一生懸命な演技がなんともほほえましかったです。全編通じてセリフらしいセリフがほとんどないことも特徴のひとつ。例によってほのぼのしたテンポでお話は進んでいきましたが、最後には手に汗握ってスクリーンを見つめておりました。これまた機会があれば多くの人に観て欲しい作品です。

110619_152728『SiRoKuMa』含む「STOP!温暖化部門」は、ラフォーレ原宿にて24日(金)13:20と、ブリリアントシアター横浜にて22日(水)10:45&(いや、さすがにこれはもう間に合わないか・・・)26日(日)に上映予定。
あと新宿はケイズシネマにおいて一日こっきりですが、「Movies-High11」枠において7月27日「片岡翔作品特集」が組まれております。詳細はコチラ。といっても時間以外の詳しいことはまだ書いてないな・・・ ま、何が上映されるのか楽しみなことであります♪

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June 17, 2011

黒ひげ危機百連発 ロブ・マーシャル 『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』

110617_184639あれだけ堂々と「完結!」と言い切ったのに、またしてもディズニー&ジョニーのあのヒットシリーズが帰ってきたーっ!!
そんなわけで四作目にして初の3D作品となった『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』、紹介します。

海軍やデイビー・ジョーンズを相手に激闘を繰り広げてから数年。風狂の海賊・ジャック・スパロウは次なるお宝「永遠の命の泉」を探し求めていた。そんな彼の前に、かつての恋人・女海賊のアンジェリカが姿を現す。彼女はジャックの持っている「生命の泉」の地図を狙っていた。さらにはアンジェリカと組んでいる「最強の海賊」黒ひげや、英国王のスケットとなったバルボッサ、秘密を知ったスペイン海軍も「生命の泉」を狙って熾烈な競争が始まる。勝者となるのは果たして誰か・・・?

ジャック・ウィル・スワンの「三人組」が主人公だった『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズですが、三作目で他の二人の物語はきっぱり決着がついてしまったので、今回はとうとうジャックがピンで主役を張ることになりました。うーん。わたしはあの三人のルーク・レイア・ハン=ソロのような関係が好きだったんだがなあ・・・ ジャックさんも前作ほどラリってないようだし。それはさておき。
代わりにジャックのパートナーとして出てきたのがペネロペ・クルス演じるアンジェリカ。恋愛ものや人間ドラマが中心だった彼女がこういう冒険活劇に出るのは意外な気がしましたが、はすっぱでチャーミングな女海賊もなかなかお似合いでした。ただジャックとは心底信じあってるわけではなく、すきあらば出し抜こうと狙っているような、そんな関係。あそこまで悪どくはないけど、ルパン三世のふ~じこちゃんなどを彷彿とさせます。

で、彼女と組んでいるのが最強の称号を有している「黒ひげ」エドワード・ティーチ。日本ではパーティーゲームでおなじみの彼ですが、なんとびっくり、この人実在の海賊だったりします。恐らく欧米ではとてもメジャーな悪党かと思われます。その昔ディズニーが『黒ひげ大旋風』なんて映画を作ったこともありました。公開直後にタイムリーなことに、彼の乗っていた海賊船の錨のひとつが発見されるというニュースもあったりして。まあ本物は映画みたいにゾンビ作ったり、魔法を使ったりはできなかったでしょうけど・・・ 史実と映画の違いを比べてみるのも一興でしょう。

ほかの映画の見所としてはとってもリアルな人魚でしょうか。それも一匹(一人?)や二匹じゃなく、海中から群れをなしてぞわぞわとやってきます。CGの発達した現代だからこそ出来た映像かもしれません。
あとジャック、ギプスを除いては唯一のシリーズ皆勤賞となる(あ、猿もいた)キャプテン・バルボッサ。この人も一作目じゃ憎憎しい妖怪人間だったのに、すっかりジャックのいい~お友達になってしまいましたね。今回の作品ではやけにキャラクターの書き込みに力が入っていて、監督・脚本家にひいきにされているとしか思えませんでした。まあこないだ『英国王のスピーチ』で折り目正しい紳士を演じていたジェフリー・ラッシュが、ドタバタ活劇を演じていたのは観ていて楽しかったですね。チャップリンの『黄金狂時代』のオマージュとおぼしきシーンには爆笑いたしました。

110617_184719ディズニーはまたこれを起点として新たな三部作を作る予定のよう。「もういいよ」という人もいるかもしれませんが、古の帆船が活躍する映画というと、やっぱこのシリーズしかないので、個人的にはがんばってほしいと思ってます。できればジャックの駆け出しのころのお話なんかも観てみたいものです。あとネッシーとの対決とか。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』は現在全国の劇場で大ヒット上映中。海賊王に、彼はなる?


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June 16, 2011

パラレルワールドのパラドックス ジャコ・ヴァン・ドルマル 『ミスター・ノーバディ』

110614_215741時は遠未来。人類がテロメアの無期延長に成功し、「死」を克服した時代。最後の寿命を持つ男が臨終の時を迎えようとしていた。男の名はニモ・ノーバディ。医師や記者たちは彼からその人生の記録を聞きだそうと努めるが、男の話は無数に分岐していき、聞く者を混沌の中へと誘っていく・・・

『トト・ザ・ヒーロー』で名高いジャコ・ヴァン・ドルマルが、前作『八日目』から実に13年ぶりに作り上げた作品、『ミスター・ノーバディ』紹介いたします。
まあ一言で言えば「ゲームブック」のような映画ですね。・・・あ、ゲームブックっていままだあるのかしらん・・・ ・・・・
え~、つまりストーリーがまっすぐ一つのラインですすんでいくわけではなく、要所要所で分岐点があり、その選択に応じてストーリーの方向が変わっていくという。
例えば主人公、ニモはまず離婚することになった両親のどちらについていくか、選択を迫られます。また成長してからは、三人の魅力的な女性のだれと結婚するかによって人生が大きく変っていきます。わたしはダイアン・クルーガーの若いころが一番タイプでしたが・・・そんなことはさておき。

まあすごいのは分岐によって映画のジャンルまで変わってきてしまうということですね(笑)。等身大の家庭ドラマもあれば、波乱万丈のラブストーリーもあり、サスペンスチックな展開もあれば、はたまた宇宙SFにまで話が飛んだりする。何本かの全くタイプの違う映画を、ザッピングして観ているような感覚です。最初のうちは「いったいどれが真実なんだ?」なんて思ったりもしますが、そのうち「どれが真実でもよいさね・・・」なんて思えてきます。

わたしといえばSF的な部分は喜んで観ていましたが、後半暗い家庭ドラマが続いたりするパートには「もうちょっと編集で短くできんかったのか・・・」などと思ったりしてましたcoldsweats01 でもまあ、美しく、かつ変ったビジュアルセンスがあちこちに多用されていて、なかなか飽きさせません。美しいといえば青春時代のニモや彼を取り囲む女の子たちが本当にキラキラと美しく、「若さって素晴らしいなあ」と腹の出た30男はつい感傷にふけってしまいました。

結局この夢のような映画で監督が何を言いたいのかと言えば、「人生は夢みたいなもんだよ」ということなのかもしれません。ここまで極端でないにせよ、年を重ねるにつれ過去の記憶はあいまいになっていくもの。時には事実とは微妙に違う形で記憶していることもままあります。この年でもうそんなことを言っている自分は、確実に早いうちに痴呆症になりそうです。んあ~~~ 歳を取るのが怖い・・・・ 若く美しいまま死にたい・・・・

「様々な形の未来を見せる」という点では、『時をかける少女』(アニメ版)や『タイムマシン』(最近版)などを思いしたりもしました。なぜかどれもちょっぴり切ないムードが漂っている作品。あと未見ですけど『ラン・ローラ・ラン』『スライディング・ドア』というのも選択によって分岐していくお話と聞きました。

20071219182630『ミスター・ノーバディ』はすでに終了した劇場もありますが、関東でもその他の地方でもこれからかかるところも多いようです。ひも理論とかビッグバンなどのSF的ウンチクが味付け程度ですが入っておりますので、そういうのがお好きなひとはよければ。


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June 07, 2011

ダンスをうまく踊りたい ダーレン・アロノフスキー 『ブラック・スワン』

110607_183508またしてもアカデミー作品賞ノミネート作品の記事です。ノミネートされたタイトル、どれもさすがに力作・傑作ぞろいでしたが、たぶん一番突き抜けてるというかいっちゃってるのはこの映画じゃないかな・・・ 『ブラック・スワン』、参ります。

NYの由緒あるバレエ団に所属するニナは、その優等生的なスタイルでコーチ陣から高い評価を得ていた。だが次の演目『白鳥の湖』を監督するトマスは、プリマに白鳥・黒鳥のニ役を課し、黒鳥の激しさを演じることも求める。捨身のアピールで主役の座を射止めたニナだったが、自分の気性と正反対の黒鳥を踊ることは、彼女に多大なる重圧をもたらした。さらには母親、役を奪われた先のスター、油断のならないライバル、彼女の周りの全てが、ニナの精神を極限まで追い込んでいく・・・

最初にお断りしときますが、わたくしバレエのことなど全くわかりません。はっきり言ってド素人です。ですからこの映画を見ていてヴァンサン・カッセル演じる振り付け師が変なこと思いついたのが、全ての元凶だよな~なんて思ってました。ですが後に聞いたところによりますと、『白鳥の湖』でプリマが白黒二役やることはよくあることなんだそうですね。よく白鳥は水面の下で必死に足を動かして努力している、なんてことが言われてますけど、いやはや大変なご職業ですね・・・

この作品から強く感じたのはアロノフキー監督の考える「完璧」「理想の姿」がどういうものか、ということですね。普通は完璧というと、混じりけのない純粋なものをイメージしがちです。ところがアロノフスキーさんは清らかな面も汚れた面も、慎ましい面も激しい面も、とにかく両極とことんつきつめて初めて「完璧」だととらえているようです。「んな無茶な」と思いますが、確かに演技の世界にはいるんですよね・・・ 相反する二つの要素を同時に兼ね備えている名優というものが。ただそういう方というのはプレッシャーのゆえか、人格や人間関係が破綻していることも少なくありません。それこそ舞台で人々を魅了しているその裏で、毛も抜けるような精神的苦痛に苛まれているのかもしれません。またそのように極限まで追いつめられることによって、ある種の人々は自分の限界というものを超えられるのかもしれません。

まあそんな風にヒロインをじわじわと追いつめていくお話だけに、途中までは見ているこっちまで胃が痛くなってきます。『レスラー』でもホッチキス攻撃とかありましたが、監督お得意の痛描写が冴え渡っていて、こいつがまたじくじくと神経に来ます。そういう点では苦手な話でしたが、果たして二ナにどんな運命が待ち受けているのか気になって気になって、食い入るようにスクリーンに見入っておりました。そしてとうとう二ナが限界を超えたあたりからは、痛描写も踊りもストーリーも大全開。緊張感がほどけてきたせいか、むしろ笑えて来たりします(わたしだけか?)。この感覚は一昨年のホラー映画『スペル』と似ているかもしれません。

あとこの映画でひとつ真剣に考えさせられたのは、「芸術のためならどこまでセクハラが許されるのか」ということですね。も~ とにかくヴァンサンがエロい。言うこともエロいし、指導と称してナタリーのあそこやあそこをむにゅっと揉んだりする。本人はよこしまな気持ちでやってるのではないかもしれませんが、これ絶対に訴えられても文句言えないレベルだと思います。ただバレエは知りませんけどこういうの、映画とかではいかにもありそうな話・・・ バカと天才は紙一重と申しますが、エロと芸術もまた紙一重なのでしょうか。

110607_184122下世話なわたしにふさわしくすっかりお上品なレビューになってしまいました・・・ 『ブラック・スワン』は「いまどきバレエじゃ客は来ないわ」なんてセリフとは裏腹にヒット街道をばく進中。まだまだ当分やってると思います。上にも書いたようになかなかきわどい描写も多いので、複数で観にいくのであれば、下ネタも気軽に言い合えるような方とどうぞ。

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June 05, 2011

明るい家族拳闘 デヴィッド・O・ラッセル 『ザ・ファイター』

081203_173823アカデミー賞作品賞にノミネートされた作品も『127時間』『ウィンターズ・ボーン』を残して大体公開されましたが、これもまたそのうちの一本。俳優のマーク・ウォルバーグが製作に携わった実録ボクシング・ドラマ『ザ・ファイター』、ご紹介します。

20世紀も終わりを迎えようとしているころ。ミッキー・ウォードはタフネスとパンチ力を売り物にボクシングを続けていたが、戦績はいまひとつだった。原因のひとつはトレーナーでもある兄のディッキーにあった。かつてシュガー・レイ・レナードと接戦を繰り広げた兄だったが、引退後ドラッグ中毒になってしまい、ミッキーのトレーニングもそっちのけに。兄を思うがゆえに我慢し続けていたミッキーも、ある事件をきっかけにひとつの決意をする・・・

アクション映画の出演も多いウォルバーグに、4代目バットマンのクリスチャン・ベール。この二人が実在のボクサーを演じ、タイトルが『ザ・ファイター』と来たらそれはもう、男の男の煮えたぎるようなドラマが展開されるのだろう・・・と予想していました。ところがどすこい。いやあ、こんなにかっこ悪いボクシング映画は初めて観ました(笑)
まずミッキーとディッキーにはステージママ的なお母さんがいるのですが、二人ともこのお母さんにまるで頭が上がらなかったりします。さらにミッキーはうじゃうじゃいる姉妹たちや前妻、エイミー・アダムズ演じる恋人にも言われたい放題で、とても格闘家にむいているタイプには思えません。

それに輪をかけて情けないのがクリスチャン・ベール。ここに『リベリオン』や『ダークナイト』での精悍なベールはいません。ヤクのやりすぎでげっそりとやせたジャンキーがいるだけです。まあそこまでヤク中の体を忠実に再現してしまう演技への入れ込みは、本当にすごいですけどね・・・ 13キロ減量して毛を抜いて歯並びまで変えたそうです。その辺が評価されてか、見事アカデミー助演男優賞を受賞。余談ですが彼は家族との折り合いが悪いらしくて、お母さんを突き飛ばして警察に捕まったりしてるんですよね。だもんで、お母さんがらみのシーンにはなにやら複雑な気持ちがしました。

そのお母さんを演じているメリッサ・レオは、この作品でアカデミー助演女優賞を受賞。なるほど胸元をボイーンとあけたスタイルで夫や息子たちを威圧する姿は大した存在感。彼らは決して仲がわるいわけではなく、むしろ深く愛し合っています。ただその愛情がやや幼いというか、自分中心なところがあるため、あんまりお互いのためになってなかったりします。

『ザ・ファイター』で印象に残るのはこの家族というものの面倒くささですね。少し前の『ザ・タウン』でも描かれていた、人のしがらみを断つことのむずかしさ。すぱっと縁が切れればなーとも思っても、なかなか切れないのが家族というものです。切ったら切ったでまた苦しんだりしてね。まあ映画ではこの辺をそれなりにコミカルに描写しているので、重苦しくいムードはあまりありません。『ロッキー』を『あしたのジョー』に例えるとするなら、こちらはむしろ『はじめの一歩』に近いです(笑)

そういえば『ロッキー』も試合シーンが全体の多くを占めてるわけではなかったですね。ロッキーの境遇とか人間関係をえんえんと描きつつ、徐々にクライマックスのリングのシーンに向けて盛り上げていく。『ザ・ファイター』もその点では同じです。情けなかったミッキーが下馬評を覆して強豪たちと互角の試合を繰り広げていく。そのあたりはやっぱり拳を握って見入らずにはいられません。また先ほども名前を出しましたが十五年以上『はじめの一歩』を愛読している者としては、幾つかのエピソードを思い出させるところもあって何度かニヤリとさせられました。

110604_223513_2『ザ・ファイター』はすでに公開終了してる劇場も多いですが、まだ細々と公開してるところもあるようで。DVDも10月には出るみたいです。
あと今年の年末には『リアル・スティール』というロボットがボクシングをする映画が待機してるそうです。予告編を観た時点でかなりの微妙臭が漂っているのですが、ロボ好きとしてはやはり観にいくべきか・・・

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