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June 27, 2011

1年X組デコパチ先生 マシュー・ヴォーン 『X-MEN ファースト・ジェネレーション』

110627_190142今年は『マイティ・ソー』『キャプテン・アメリカ』『グリーン・ランタン』『スーパー!』とアメコミ系の映画が目白押しですが、その先陣を切るのがこの作品。すでに映画ファンにはおなじみのX-MENシリーズ最新作『X-MEN ファーストジェネレーション』、紹介いたします。

第二次大戦中のポーランド。強制収容所で母と引き離されたことをきっかけに、一人の少年が超能力に目覚める。彼の名はエリック。遺伝子の中に特殊な力を秘めた「ミュータント」の一人だった。
時は下って1960年代。巨大な陰謀を企む悪の結社「ヘルファイアークラブ」の存在に気づいた天才学者のチャールズは、CIAの助力のもと、ミュータントの仲間たちを集めて彼らに立ち向かおうとする。その中には成長したエリックの姿もあった。

思い起こせば五年前の『X-MEN ファイナル・ディシジョン』公開の際、マーヴルは「幾つものスピンオフを企画」とアナウンスしておりました。その中で最も現実味があったのが『ウルヴァリン』と『ヤング・マグニートー』という企画。『ウルヴァリン』は二年前にすでに実現しましたが、もう一つの方は待てど暮らせど情報が入ってこない。恐らく二転三転して、この『ファーストジェネレーション(原題は『FIRST CLASS』)になったものと思われます。

監督は『キック・アス』のスマッシュヒットが記憶に新しいマシュー・ヴォーン。前作でのコミックオタクぶりは今回も健在です。まずストーリーの主な舞台がキューバ危機の生じた1962年なのですが、実は原作X-MENの第一号が出たのはその翌年の1963年だったりします。
また、今までの映画版では黒を基調としたオリジナルのスーツが用いられていましたが、今回は原作で長く使われていた黄色と青を基調としたスーツが原案となっています。
そして人気メンバーがギャラやストーリーの都合上登場できない代わりに、かなりのファンでしか知らないようなキャラクターが多く登場します。日本語版は一通り網羅してるわたしでさえ、「誰だお前は!?」というキャラが何人かいました
初登場の連中で原作でもまあまあ重要なのは、衝撃波を放つハボックと、超音波で飛行するバンシー。それぞれ一時期X-MENの分家チームのリーダーを務めていたことがあります。また敵方のエマ・フロストも近年X-MENの主力メンバーとして人気を博しているキャラです。

原作との比較はこれくらいにして。今回何よりも際立っているのはマグニートーことエリックの「怒り」であると思いました。まあこの方は第一作からずっと怒っているかのような印象がありますが、これまではあくまで悪役としてであって、あまり感情移入できるような人物ではありませんでした。しかしこの『ファーストジェネレーション』においては、彼の出自と感情を丁寧に描くことによって、その怒りがダイレクトに私たちに伝わってきます。恐らくこの映画を観た人たちの多くは、彼に同情することでしょう。パートナーとなるチャールズはいいヤツではあるのですが、いかんせん金持ちのボンボンであるため、エリックの強烈な存在感の前にはやや髪が・・・いや、影が薄い気がします。

今回は人気キャラのサイクロップスやウルヴァリンが(ほぼ)出てこないせいか、本国では第一週こそトップを取ったものの、シリーズとしては最低の出だしだったとか。まあサトシやピカチュウ抜きでポケモンの映画を作ってるようなものなので、あちらのお子さんが「こんなのX-MENじゃないよ!」と嘆いたとしても無理からぬことです。ですが、この映画は紛れもなく『X-MEN』の本質をとらえた作品であります。それはクライマックスにおける展開とあるセリフに顕著に表れております。・・・と以下はネタバレしてるのでご注意ください。

捨身の戦いで世界を危機から守ったX-MEN(とはまだ呼ばれてなかったな)。だが米ソ両国の軍隊は、あろうことか「新たなる危機」とばかりに彼らに砲塔を向けます。そう、人は理解できないものを恐れるものです。その相手が強大な力を持っていればなおさらです。
放たれたミサイルはエリックのパワーにより180度方向を変え、両国の戦艦へと戻っていきます。「よせ、彼らだって善良な市民にすぎない。ただ命令に従っているだけなんだ!」と叫ぶチャールズ。それに対しエリックは血の滲むような声でこう答えます。「そんな奴らに・・・ オレはひどい目にあわされたんだ」

多くの人にとって良き隣人であり、愛されている家庭人たち。そんな人たちですら差別をし、国家の下では殺人者集団となる。『X-MEN ファーストジェネレーション』は、エンターテイメントでありながらも、この点で世界が60年代から何ら変っていないことを明らかにしています。

110627_190256マシュー・ヴォーン氏はこれを起点として、前日談三部作を作る構想のようです。そうすっと以後のシリーズに出てこない面々は、壮絶な殉職シーンを免れないかもしれませんね・・・
それはともかく、「セカンドクラス」「サードクラス」があるならぜひマシューさんにメガホンを取ってほしいもの。売り上げはイマイチかもしれませんが、FOXさん、ぜひお願いします! 予算削ってもいいですから!

ちなみに上のイラストは原作版ミスティーク、下は同ビーストです。


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Comments

X-MENシリーズというか、この手の作品の肝である、特殊能力を活かしたバトルを存分に見せつつ、ファンには堪らないくすぐるトリビアが一杯。こりゃ面白いはずです。ブライアン・シンガーがいないとやっぱだめなんねーw

Posted by: KLY | June 28, 2011 12:02 AM

伍一くん、X-メンスコー(捻りなし)
イギリスもよいよ暑くて暑くてクーラーが元々ないので、帰国に向けていいリハビリだ・・・と思いつつ、息子はすでに暑さバテして倒れております。
これで日本の学校に通えるのか??

X-メンいいな~
大好きなので、非常に観たい!だけど引越しがっ!
暑さで作業がはかどりません。
DVDプレーヤーをガレージセールに出すので、慌ててDVD観たりして。時間ないよー

Posted by: ノルウェーまだ~む | June 28, 2011 04:55 AM


「スーパー!」は観たよ〜伍一くんなら反応してくれると思ったんだけどなー

このファーストジェネレーションと同様、規模はちっちゃいけどケヴィン様がワルで最高♪

こっちもまた観たいな〜。まだーむ帰国したら一緒にまた観ようかな−ー(って勝手に)
マイベスト10確定★

マイティーソーもなかなかだったけど、今年はアメコミが熱いね♪「アベンジャーズ」が楽しみ。

Posted by: mig | June 28, 2011 12:29 PM

>KLYさん

まいどどもー
ブライアン・シンガー&マシュー・ヴォーン、たいした手腕ですね!
とはいえわたしはブレット・ラトナーの『ファイナル・ディシジョン』もかなり評価してます
『ウルヴァリン』も好きなんだけど、あんまし心に残るものがないのよね・・・

Posted by: SGA屋伍一 | June 28, 2011 02:33 PM

>ノルウェーまだ~むさん

サイコキネシンスコ~ あんなに緯度の高いエゲレスですらそんなに暑いとは・・・ 地球ももうおしまいあるねw
ちなみにこないだ埼玉では6月なのに39度くらいいったって話です
こんなときスーパーパワーで地球を冷やせればいいのですが

実はわたしも近々引越しの予定(といっても同じ市内)なんですが、積み上げられた本の山を前に途方にくれてます。まあいいや・・・ なんとかなるだろ・・・(おーい)

Posted by: SGA屋伍一 | June 28, 2011 02:37 PM

>migさん

こちらにもありがと~
『スーパー!』はシアターNメインだからたぶんこっちではやってくれないだろうと思っていたら、九月に小田原で公開することになったので、なるべく情報規制してるのです。と言いながら、migさんとこの記事だいたい読んじゃったけど
ケビンさんが主役かと思ったらまた悪者なのね~

アベンジャーズも本当に実現しそうで、来年が楽しみだなあ

Posted by: SGA屋伍一 | June 28, 2011 02:58 PM

お気に入りのマカヴォイくんがハゲてなくて
ホッとしましたが、なんとなく微妙な髪型でした!(笑)
続編が心配です・・・・(^^;)

いままでのシリーズでは、完璧に悪役だったマグニートーの
人気が急上昇しそうですねー。
なんとなく、SWのダース・ベイダーみたいですよね〜。

Posted by: ルナ | June 29, 2011 12:59 AM

>ルナさん

こちらにもありがとうございまする~
まあ個人的にはやはり教授の髪がフサフサなのがちょっとアレでした。デ・ニーロやクリスチャン・ベールだったらきっちりツルツルに剃ってきてくれただろうに・・・

>なんとなく、SWのダース・ベイダーみたいですよね〜。

おお、まさにその通り! あのメットもなんかそれっぽいですしね。とゆうことは最後は「お前がただしかった・・・」と言って息子の腕の中で息を引き取るのか?

Posted by: SGA屋伍一 | June 29, 2011 10:06 PM

自分も見てきました。
面白かったですね。
ただ残念なのが、エリックの壮絶な過去が強すぎて、チャールズがあまり前に出てこなかったことですかね。
敵対したとしても親友である、という二人の関係が好きだから、もっと友情を育むシーンがあるかとばかり。

でも最後のモイラが撃った弾が跳弾してチャールズに当たってしまうところ。
跳弾の原因はお前だろ!とツッコミたいけど、それ以上の思いやりがあるチャールズを抱きかかえるエリック。あのシーンは良かったです。

Posted by: 大吉 | July 04, 2011 09:45 AM

伍一さん、

最近では、この映画がやたら面白かったし印象深かったので、超個人的に言えば、他の映画の影が薄くなっちゃってます。
伍一さんのレビューも面白すぎ。

Posted by: まみっし | July 04, 2011 05:31 PM

>大吉さん

おお、久しぶり。おいでくださってうれしいです

チャールズの意見は至極正論なんですけど、つい「お前はエリックほど苦労してないからなー」と思っちゃうんですよね。

友情を育むシーン、わたしとしてはパワーの使い方に慣れてないエリックにチャールズがアドバイスするシーンや、どこかの建物の前で語らいながらチェスをするシーンなどが印象に残ってます

あと最後の方でエリックが「正直、少しさびしい」ともらすところとかね。どんだけツンデレなんだお前はと(笑)

Posted by: SGA屋伍一 | July 05, 2011 09:59 AM

>まみっしさん

こんにちは! 忙しさの山は過ぎましたか?
X-MENはかれこれ15年以上のファンなので、記事にもつい力が入ってしまいました

この映画、日本での売り上げはそれほどかんばしくありませんが、映画ファンの評判は上々ですね。いまのところ酷評をほとんど見てません

これに比べると多少力が抜けてますが、昨日観てきた『マイティ・ソー』もなかなか面白かったですよ

Posted by: SGA屋伍一 | July 05, 2011 10:03 AM

こちらは続編、確実そうですね。
原作のチャールズは、ヤングな頃からちゃんとつるつるなの?

SGAさんでも知らないキャラがいたとは・・・
これまでのXメンを観ていなくても楽しめる映画だったのではと思いますが
マニアにもたまらない内容だったってことかな。

ビーストは、ビースト化する前の彼がかなり好きだったので
まるでワンコのようになってしまってちょっと残念でした。
でもちゃんとメガネしてるのが良し。

Posted by: kenko | September 30, 2011 09:56 PM

>kenkoさん

ちょいと遅れてごめんなさい
続編、大丈夫かとは思いますが「シリーズで一番もうからなかった」と言われてるのがちと不安
教授は若いころはまだ髪の毛あったんですけど、ハイスクールの時点でかなり生え際が後退してましたw(それでもモテモテだったそうですが)

マニアでも満足できる出来だったと思いますよー 特にダーウィンなんてマイナー中のマイナーみたいなキャラだそうなので。今度訳されるエピソードに出てくるとか

わたしは毛玉みたいなビーストの方がなじみ深いんですけどね。めがね男子好きは「ああ、もったいない」と思うだろうな(笑)

Posted by: SGA屋伍一 | October 02, 2011 08:56 PM

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