マティよ銃をとれ ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン 『トゥルー・グリット』
まだアメリカを馬が走り、無限の荒野が広がっていた時代。父をならず者に殺された少女マティは復讐を誓い、助けになってくれる保安官を探す。彼女が白羽の矢を立てたのは「真の勇者」と呼ばれるコグバーンという男だった。実際に探しあてたコグバーンは粗野な飲んだくれであったが、他にあてもないマティは父の敵討ちを手伝ってくれるよう懇願する。
これまた本年度アカデミー賞作品にノミネートされ、高い評価を得ている作品。『ノー・カントリー』のコーエン兄弟最新作『トゥルー・グリット』ご紹介します。
犯罪や追跡劇、無法者を題材にすることが多いコーエン兄弟。考えてみればそんな彼らにとって西部劇はかっこうのジャンルなのでは? 今まで手がけてこなかったことが不思議なくらいです。しかしいざフタをあけてみると、コーエン兄弟らしからぬところがけっこうありまして。
まず主人公が純真な少女であるというところ。コーエン兄弟の作品では、ひねくれた中年親父が主人公を努めることが多かった気がします。そんでそのしょぼくれたオッサンを遥か高みから見下ろして、小突き回して楽しむようなそんな作風だったかと。ちょうどこの直前に撮られた『シリアスマン』もそんな作品だと聞きました。
マティの前にも数々の困難が立ちふさがりますが、いたいけな少女ゆえか、今回の兄弟の目線はなんだかそばに寄り添って「がんばれ」と励ましているかのようです。実際インタビューでどちらかが「僕らは主演女優に惚れていたんだ」(ロリ?)なんて語っていましたし。
そんな風に広大な自然を舞台に少女ががんばっている姿は、なんだかジョン・ウェインの王道的な西部劇より、『大草原の小さな家』を彷彿とさせます。
ただこのマティという女の子、ローラなどと比べるとえらい鼻っ柱の強い女の子です。ずるい大人を前にしても商談で一歩もゆずりませんし、泊まる場所がないからとはいえ霊安室で一夜を過ごしたり。コグバーンのほかに成り行きで同行するラボーフという頭の軽い男がいるのですが、「何もそこまで」というくらい面と向って罵倒したりして。
「なんでそんなに強いんだ!?」と思わないでもないですが、ま~そんくらい気の強い女の子でもなければ「親父の仇をぶっ殺しちゃる!」なんて思わないかもしれませんね。
そんなマティに辟易する老保安官コグバーンですが、彼は彼でまた問題児だったりして(笑) 保安官なんだからしょうがないのかもしれませんが、むやみやたらに銃をぶっぱなしたがるし、つまんないことですぐヘソを曲げたりします。当然マティともウマがあうわけがありません。ですが旅を続けているうちにほんと~~~に少しずつですが少女にも思いやりを見せ始めます。そうしたひねくれ親父の不器用な優しさが、この映画の一つの見所かもしれません。
あと「コーエン兄弟らしからぬ」と書きましたが、彼らお得意の暴力描写・残酷描写も随所にあります。特に目の前の人間が突然何をやりだすかわからない恐怖。こういう空気をかもし出す点にかけては、二人はやはり当代随一だと思いました。男たちがいきあたりばったりに行動するところとかも相変わらずですね。
さて、かつては大量に作られた西部劇ですが、現在は本国でもだいぶ数が少なくなってきています。日本ではまだコンスタントに時代劇が作られていますが、いったいこの衰退ぶりはなんなんでしょう。単にアメリカ国民が「そんな昔の地味な話なんていまさら観る気にならない」ということなのかもしれませんが。いずれにせよ、昔ながらのかっこい正義のガンマンがアウトローどもをバンバンなぎ倒していく、そういう話は久しく作られていないようです。
代わりにわずかではありますが、こういう人生のシビアな面を物語るような、文芸作品といってもいいウェスタンが時折作られるようになりました。最近の例だと『3時10分、決断の時』など(これ観られなかったのよね・・・)
『3時10分~』は日本ではあまり話題になりませんでしたが、こちらはアカデミーノミネートに加えて実力派コーエン兄弟の監督ということもあり、なかなかのヒットのようです。あんまり小規模公開の映画がにぎわわない静岡東部の劇場でもけっこう人入ってましたし、GWの時新宿の劇場に行ったら公開から一ヶ月経ってたのに満員御礼の札が出ておりました。これをきっかけに、また深みのある西部劇が続々と作られていくといいんですけどね・・・ 今年のラインナップを見ますと『カウボーイVSエイリアン』とか、カメレオンが主役のCGアニメ・ウェスタンなんかが並んでて「なぜそんな方向に!?」と思わずにはいられません。まあ、こちらはこちらで楽しみですし、西部劇がここにきて徐々に復権を果たしていることは確かなようです。
先ほど「大入り」と書きましたが、『トゥルー・グリット』、さすがに今週金曜に終ってしまう劇場が多いようです。「久しぶりに西部劇もいいかも」と思われた方は、急いでご覧ください。さもなくばDVDで。
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たってしまいましたが
この映画は、なんといっても
14歳の少女マティが
素晴らしかったです。
14歳にして、この度胸と機転!
彼女が父親とともに一家を
支えてきたのであろうという状況が
すごくよくわかります。
父親を殺された14歳の少女マティ(ヘイリー・スタインフェルド)は、
真の勇気を持つといわれる保安官のコグバーン(ジェフ・ブリッジス)に
犯人の追跡を依頼。テキサス・レンジャーの
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Comments
なんせオスカー俳優になったジェフの作品だしねw
にしても彼女が素晴らしい!
ジェフとマットを相手に回して押し返してるってのが
もう驚きですよ。ジェフなんて孫の世代だよね。
オリジナルもみて見て、面白いし、ジョン・ウェインが
めっちゃカッコイイですよ^^
Posted by: KLY | May 24, 2011 08:46 PM
>KLYさん
毎度すばやいコメントありがとうございます!
ジェフ・ブリッジスは遅ればせながら『アイアンマン』の悪役で初めて認知いたしました オスカー以後もめざましい活躍ですね。スタインフェルドちゃんの今後も楽しみです
オリジナルの方も見てるとはさすが。ジョン・ウェインは親父が大好きなんですけどね。このタイトルはコレクションの中に入ってなかったような・・・
Posted by: SGA屋伍一 | May 24, 2011 09:59 PM
伍一くん、西部劇ンスコ~☆
アカデミー賞ノミネートのわりには評判はそれほどでもないってことだったので、私も期待値を下げて見たけど、うん、なかなかこの保安官はさすがにいい味出していたよねー
昔の映画は本当にテンポがゆっくりだから、そういう意味でちょっとのんびりしすぎなかなって思ったけど・・・
女の子は伍一くんの絵ほど可愛くはないのだけど、見ているうちにどんどん愛らしく思えてくるよね。
コーエン兄弟らしさは微塵も感じなかったけど、なるほど女の子の魅力でさすがに暴力に巻き込めなかったのかも。
Posted by: ノルウェーまだ~む | May 26, 2011 08:21 AM
>ノルウェーまだ~むさん
キンウェスタンコ~
そういや最近hinoさん更新ないですね。さみしい・・・
わたしはあのコーエン兄弟の西部劇ってことでけっこう楽しみにしてました。うん、まんずまんずでしたよ
まあいまのスピーディーなアクション映画に比べればたしかにまったりムード。銃撃戦もほんのちょっとだし。「だから良かった」って人もいそうですね
女の子はね~ かわいかったけど、ウィル・スミスに似てるなって思ってました あ、だからあんなに戦る気満々だったのか?
Posted by: SGA屋伍一 | May 26, 2011 04:13 PM
伍一さん、おひさしぶり〜♪
これ楽しみって言ってたもんね☆
>「僕らは主演女優に惚れていたんだ」
な〜る〜。コーエン兄弟のそれ、なんだかすごくわかります!
50,60のおじさんたちを相手に、むしろマティがヒーローだったものね。
新宿の映画館て武蔵野館かな?
私もあそこで観ました。いろいろ飾り付けがしてあって、そういうふうに盛り上げてる劇場って久々だったのでいいなあと思いました(*゚▽゚)ノ
Posted by: tomoco | May 29, 2011 12:14 PM
伍一さん、こんにちは。
鼻っぱしの強い女の子のネゴ、ヒヤヒヤっと面白かったですね。
西部劇ならではの面々の男臭さも抜かりなく盛り込まれていましたよね。
Posted by: まみっし | May 29, 2011 04:43 PM
>tomocoさん
こんばんはー お返しありがとうございます
最近戦う少女ものがちょっと目立つんですよね。『キック・アス』や『ゾンビランド』。あとシアーシャ・ローナンちゃんの殺し屋映画も待機中だそうで。ハリウッドにロリの空気が充満しつつあるようで、心配です
記事で述べてる劇場はお察しの通り武蔵野館です。例の『メアリー&マックス』はここで(二回・・・)観ました。いろいろ工夫をこらしてるようですね。大手シネコンが後ろに控えている新宿でもなかなかの集客率を誇っているようです。
Posted by: SGA屋伍一 | May 29, 2011 08:48 PM
>まみっしさん
こんばんは! おいでくださって嬉しいです
「あんな気の強い女の子の旦那になる人は大変だな・・・」と思いながら観てましたが、最後まで観るとあららら・・・ みたいな
ジェフもマットも最後はかっこよく決めてくれましたが、中盤までは全然頼りなかったですね(笑) そんなところはコーエン兄弟らしいな、と思いました
Posted by: SGA屋伍一 | May 29, 2011 08:51 PM
こんばんは!(*^^*)
そう言えば、最近西部劇!って感じの作品はあまりありませんよね〜。
この作品も、復讐劇というよりロードムービーって感じで、
犯人に行き着くまでのドラマとその後の展開が山場だった気がしました。
『3時10分、決断のとき』は、DVDで観ましたが、いい作品でしたね〜。
ハリウッドも、もう少し西部劇を製作してもいいかもですよね。
Posted by: ルナ | May 30, 2011 11:24 PM
>ルナさん
こんばんは。お返しありがとうございます
この映画も熟年世代の方がマカロニ・ウェスタンみたいなものを期待していくと、けっこうあてがはずれるかもしれませんね。そんなに頻繁に銃撃戦があるわけでもありませんし。イーストウッドの名作『許されざる者』もそんな感じだったような
『3時10分~』はいつか見たいと思ってます。とりあえず今は『カウボーイVSエイリアン』に期待。またアホな話思いつく人がいるもんですね~(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | May 31, 2011 08:31 PM
またしても夜更けにおじゃまします。
SGAさん、次男だと思ってた・・・長い付き合いなのに、間違えちゃってごめんなさい。
転職なさったんですね?ご実家とはいえ新しいお仕事、大変でしょう。
かげながら応援してます。
>僕らは主演女優に惚れていたんだ
私も惚れました。スタインフェルドちゃんすばらしかったです。
コグバーンもテキサスレンジャーも、バリーペッパー演じる悪党も
みーんな惚れてたと思うな。
スピさんプロデュース映画が続きますが
今日は『スーパー8』観てきました!
『カウボーイVSエイリアン』『トランスフォーマー3』もたのしみです。
Posted by: kenko | July 02, 2011 12:48 AM
>kenkoさん
ミッドナイトにありがとうございます 暖かいお言葉もありがとうございます。
まー姉が半分男みたいな人なので、実質的には次男かなー こんな文章書いてることがばれたら殺されるなー
スタインフェルドちゃん、がんばってましたね。ただ上のコメントにも書いてますが、わたしはどうしても「ウィル・スミスに似ている・・・」という思いがぬぐえず 次は『ロミオとジュリエット』のジュリエットだどうで。う~ん(^^;
わたしも昨日スーパー8観てきました。面白かった! スピルバーグへの愛がつまった一本でしたね。しかしスピさんのプロデュースも幅が広いわあ。『タンタンの冒険』ももうすぐかな?
Posted by: SGA屋伍一 | July 02, 2011 11:10 PM