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May 16, 2011

わたしとおじさん シルヴァン・ショメ 『イリュージョニスト』

110515_190703あああああ・・・・ これ、もう一ヶ月も前に見たヤツだよ どんどんどんどん遅れていく・・・・ ええと(笑)、メガヒットを飛ばすその影で、こっそり世界の絶品アニメを紹介してくれているスタジオ・ジブリ。今回はアカデミー長編アニメ部門にもノミネートされたフランス作品、『イリュージョニスト』を公開してくれました。パチパチパチ

それでは例によってあらすじから。町から町へ旅の生活を続ける老いた奇術師、ユロ。しかしすでに人々は奇術にあまり心動かされず、ロックやテレビに関心を向けるようになっていた。ある時めずらしく芸がうけたスコットランドの村で、ユロ氏は下働きのアリスという少女に出会う。奇術を見てユロ氏を魔法使いだと信じ込んでしまったアリスは、強引に彼のあとについていってしまう・・・

脚本は名匠ジャック・タチ。「まだ生きてたのか!?」と驚愕しましたがもちろんそんなわけはなく、遺稿をもとに制作したということですね。
タチといえば『ぼくの伯父さん』などの軽妙なコメディ作品で知られています。『イリュージョニスト』もクスクスと笑える場面はあるのですが、なぜだか全体的にものさびしいムードに包まれています。
まず主人公のユロ氏がいいかげんくたびれた年であり、しかも芸がなかなかうけないという時点でフィルムに哀愁が立ち込めまくっております。そして期待を裏切るまい、悲しませまいとするために、少女が見ていないところで懸命に奮闘する姿が涙を誘います。なんだか『ライフ・イズ・ビューティフル』で、息子に「これはゲームなんだ!」と必死で信じ込ませようとするお父さんの姿を思い出してしまいました
これを老人の「最後の恋」の物語と考えるなら、悲しみはいよいよ増すのですが、わたし自身はあまりそうは思えませんでした。ユロ氏の愛情は、どちらかといえば親が子に注ぐようなものに近いのではないかと。てゆうか、公式とか予告とかにはっきり「別れた娘の面影を見た」って書いてありましたよ・・・・ でもこれ、本編観ただけじゃわからないですよね? たしかセリフでは言ってなかったような(セリフ自体がものすごく少ない映画なんです)。

そしてユロ氏や貧しい隣人たちを取り囲むエジンバラの淡い色調が、作品にはかなげな印象を与えております。この作品にいまひとり主人公がいるとするなら、このエジンバラなのではないかという気がします。なんとなく懐かしく感じるのは、宮崎系のヨーロッパを舞台にした名作『カリオストロの城』『紅の豚』『魔女の宅急便』などの背景と似たところがあるからでしょうか。エジンバラといえばイアン・ランキンの小説などでぼんやりと想像したことがありましたが、こんなにも坂が多く、せせこましく、情緒溢れる町だとは。

わたしがこの作品で特に気に入ったのがこの風景と、ユロ氏がいつも連れてるウサギ(もちろん奇術用)。このウサギ、最初はとっても可愛げないんですけど、終盤ではわたしの涙腺をいたく刺激してくれました。なんかもうヒロインなんかどうでもいいよ、というくらいに。そういやヒロインの名がアリスなのとウサギが出てくるのは、あの名作を意識してるのかもしれませんね。

110515_190723『イリュージョニスト』はメイン館での公開こそ終了しましたが、まだ首都や他の地方でも公開続いているようです。夢幻のようなはかない世界に浸りたいという方は、ぜひご覧ください(と、ガラにもなくメロウに〆る)。

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Comments

伍一くん、お久しぶりんスコ~
さすが本領発揮で絵が上手い~と感心しながら拝見しておりました。
日々お忙しそうね~
1ヶ月あっという間に経っちゃうよね。
私も半年前の記事ネタでようやく書いているものが・・・(汗)

そうそう、エジンバラって言ったら、本当に坂が多くてせせこましいのよねぇ。
それは「坂が多くてせせこましい」と言われて想像する以上に坂が多くてせせこましい街なの!
で、想い出して私の旅行記のスコットランドを見たら、
その坂の多いせせこましさは全く伝わってこないなー(汗)
でもこの街自体が、なんとも物哀しい哀愁の漂う街であることは間違いないです。

Posted by: ノルウェーまだ~む | May 17, 2011 09:19 PM

>ノルウェーまだ~むさん

こんばんは~ 毎度ヘボ絵にお褒めの言葉恐縮です。&こちらこそご無沙汰ですみませぬ。それほど忙しいわけでもないんすけど、仕事が変ったせいで、どうもいまひとつ新しい生活ペースになじめてないというか

そういえばまだ~むさんは行った事あったんですよね、スコットランド。いまさ~っと読み返してみたんですけど、確かにあんましせせこましそうには見えませんねえ(笑) ただエジンバラ城の遠景なんかはこの映画にも似たシーンがありましたよん
機会ありましたらまだ~むさんもこの映画を観て、スコットランド旅行のことなど思い出してください

Posted by: SGA屋伍一 | May 18, 2011 10:18 PM

娘の面影を見たと思わせるようなシーンは、確かに有りました。

時間が経っているので、記憶が定かではないのですが、確か写真を見ていたように思います。

ほんのチラッとだったと思うので、そこを見逃すと分からないと思います。
私は見た瞬間に「チェブラーシカのサーカスに入った女の子と逆バージョンだ」と思ったので、有ったことは間違い有りません。

Posted by: サワ | May 20, 2011 12:12 PM

>サワさん

ご指摘ありがとうございます
最初にあらすじを読んだ時『ライムライト』のような話かと思ってしまったんですよね。ところが観ているうちにどうも違うムードだな・・・と

フランス映画はやはり細かい仕草も見逃してはいけませんね。アニメだったせいか油断してしまいました

Posted by: SGA屋伍一 | May 20, 2011 11:41 PM

こんばんは!(^_^)
そうそう、ウサギ結構ポイントでしたよね〜。
すぐ噛み付くし・・・さすがにスープの時はまさかぁ〜・・・って
思ったけど・・・・(笑)

老マジシャンが最後に立ち去っていく列車の中で
幼い娘の写真を見るシーンがあったので、
これは、やはり父と娘の話だと私は思いました。

Posted by: ルナ | May 21, 2011 01:04 AM

>ルナさん

こんばんは

いやあ、あのシチューのくだりがこの映画でもっともハラハラした場面でした
帽子からウサギを出すというの、定番の芸なんですかね? ピクサーの短編にもそんな話があったような

>幼い娘の写真を見るシーン

ぐわっ なんか見てたな、というのは覚えてるんですが、何を見てたのかはまったく記憶にない・・・・ いったい何を見てたんだろ~

Posted by: SGA屋伍一 | May 22, 2011 09:18 PM

>本編観ただけじゃわからないですよね?

そう!分からなかったんです〜
公式サイトとか事前に見ないし・・・てか、予告編ではそう言ってた?
それも見落としてるし、娘の写真見てるシーンも記憶にない・・・

メアリーマックスもイリュージョニストもまた観たいなー

Posted by: kenko | January 07, 2012 04:33 PM

>kenkoさん

こちらにもコメントありがとうございます(^^)
まあこのあえて説明しないという奥ゆかしさ?がフランス映画ならではのテイストですね~
去年『緑子』というへんてこアニメも観たんですが、そちらも本編を観ただけではまったくわからないことが公式サイトにたくさん書いてあって爆笑しました

Posted by: SGA屋伍一 | January 08, 2012 10:47 PM

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» イリュージョニスト [ルナのシネマ缶]
ゆっくりとした雰囲気と 独特の映像で、ちょっと切ないけど いいお話でした。 フランス人の老マジシャンと 英語しか理解出来ない少女は うまく言葉が通じない。 なので、セリフは少ないですが 情感は充分伝わります。 1950年代のパリ。 場末の劇場やバーで手品を披露していた老手品師のタチシェフは、 スコットランドの離島にやって来る。 この辺ぴな田舎ではタチシェフの芸もまだまだ歓迎され、 バーで出会った少女アリスはタチシェフを“魔法使い”だと信じ、 島を離れるタチシェフについて... [Read More]

Tracked on May 21, 2011 01:05 AM

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