猿の妖精 アピチャートポン・ウィーラセータクン 『ブンミおじさんの森』
・・・地震前に見た映画もこれがようやく最後の一本。昨年のカンヌ国際映画祭においてパルムドールをかっさらった世にも不思議なタイ映画『ブンミおじさんの森』、紹介します。
タイの山村で農園を営むブンミは病をわずらい、死後のことを相談するため、亡妻の妹とその息子を家に呼ぶ。三人で夜食事を取っていると、ブンミの隣にいつのまにか一人の女性が座っていた。彼女はブンミの死んだ妻だった。さらに近くの森の中から、驚くべき客がやってくる・・・
パルムドールを贈った審査員の一人、ティム・バートンがこんなことを言ってます。「世界はますます西洋的になっている」。その通り、アジアの一部である日本、もものの見方や生活様式はすっかり欧米式となりました。「人が死んだらその魂はどうなるか」ということについても、「電気が消えるように消えうせる」と考える人がほとんどでしょう。しかし世界にはまだまだ霊が身近に存在する国・地域も残っているようです。この映画に出てくる、ブンミおじさんの森のように。
ブンミの隣にすっと亡き妻が登場するシーン。欧米や現代日本であるなら、「ひいいい!!」という絶叫と共に迎えられると思うのですが、その場に居合わせた面々はちょいびびりつつも、「あ、そうなんだ」と自然に受け入れます。のんきに彼女が死んだあとのアルバムなんか持ってきたりして。
サプライズはそれだけにとどまりません。このあとブンミの息子がさらに驚くべき姿で現れるのですが、これまた彼らは「そうなんだ」と受け入れます。タイの人って懐が広いわあ・・・ まあ実際にタイでは霊(ピーと呼ばれている・笑)が、そんな風にとても身近なものらしいです。
恐らくアジアやアフリカだけでなく、電気照明が行き渡る前は、日本や欧米でもそうだったのだと思います。夜にあってもこうこうと世界を明るくするそれは、霊や妖怪にとって甚だ相性の悪いものなのでしょう。
ただでさえ暗い夜闇にあって、さらにあの世に近くなっている領域が森です。そこでは未だに文明の及ばない、人間の存在しない世界が息づいているようです。『もののけ姫』『ミツバチのささやき』(見てませんが)『アンチクライスト』などの映画、さらにはグリム・アンデルセンの童話、日本の民話でも、「森」はそんな風に描かれておりますね。小心者としては、夜には絶対に行きたくないところであります
そんな風に感覚だけではなく、ストーリー的にもハリウッド流とはかけ離れた、定型を外した作品であります。ブンミおじさんのお話が進行してる途中に、何の脈絡もなくどこぞの王女様とナマズの話が始まってしまったり(笑) ひごろわかりやすい映画ばかり見ていると、こういうのがけっこう新鮮に感じられてわたしは悪くなかったのですが、観た方の中にはあっけにとられる方も多いことでしょう。
わたしも結末部分などはかなりポカーンとさせられました。バートンは「わたしたちは常にサプライズを求めている」とも語っておりましたが・・・ ええ、なかなかにサプライズでしたよ(笑)
この結末の意味、ああでもないこうでもないと、いろいろ考えることもできるのですが、なんか野暮な気がするのでやめておくことにします。
『ブンミおじさんの森』は現在渋谷のシネマライズで上映中。その他の地方にも順次回っていくようです。決して万人に薦められる映画ではありませんが、アジア的な感覚やヘンテコな映画が好きだという方はどうぞご覧ください。
Comments
こんにちは〜。
変てこりんな映画はすきなんだけどね〜
どうにもこの映画のまったりとトロトロうとうとした感じが好きじゃなかったわ、それにナマズと王女のあれも(笑)
変でも面白く感じれば問題ないんだけど、、、。
サプライズ、大歓迎だけど面白くなくちゃな〜
そういうバートン自身、なんか最近リメイクばかりでちょっと辟易なのよね
Posted by: mig | April 03, 2011 02:38 PM
>migさん
こんばんばん~ 「まったりうとうと感」はよかった(笑)
確かに心地よい眠りに誘われそうにはなった。がんばったけどね!
この映画に関してはもう本当に感性の世界だと思う。のであまり積極的にかばおうとは思いません。まあわたしはとりあえず「モトはとった」ってとこかな。あの時も言ったけど、「東京まで来てハズレをひいた」とは思いたくないので、シネマライズの映画には点が甘くなりがち(笑)
バートンはもともと元ネタがないと映画を作れない人なんだと思う。次の仕事はフランケンシュタインと吸血鬼ものだったかな?
Posted by: SGA屋伍一 | April 03, 2011 08:48 PM