現代ギリシャ悲劇 テオ・アンゲロプロス 『エレニの旅』
「旅」をテーマにした叙情的な作風で知られるヨーロッパ映画の巨匠テオ・アンゲロプロス。前から興味はあったのですが、なかなか作品を見る機会がなく。しかし先日ようやっと某名画座で拝見することができました。2004年の作品『エレニの旅』です。
お話は1910年代から始まります。ロシア革命から逃げてきて、祖国にコミュニティを築いたギリシャ人の一団がありました。その中にはリーダーに拾われた幼い少女エレニの姿もありました。時は流れて、美しく成長したエレニを、村長のスピロスは妻に迎えようとします。しかしスピロスの息子アレクシスと愛し合っていたエレニは、彼と二人手に手を取って、村から駆け落ちするのでした・・・
この辺でまだ序盤のストーリー。ここでめだたしめでたしとなるお話も少なくありませんが、エレニはこのあとひたすらかわいそうな運命に弄ばれます。
彼女を翻弄するもののひとつは育ての親でもあるスピロス。エレニをあきらめきれないこの老人は、彼女と息子をその後もしつこく追い回します。本当に年寄りが若い娘にトチ狂うというのは、見ていて非常に情けないものがありますが、自分も将来そんな風になりそうな気がしてちょっとイヤでした。
ギリシャの圧政や内戦もエレニを苦しめます。この映画はギリシャ版『女の一生』であると同時に、かの国の近代史の側面ももっています。ギリシャといえばまっさきに神話とか文明とかが思い浮かんでしまって、二十世紀はどんなだったかよく知りませんでしたが、第二次大戦前後はそれは悲惨な状態だったようです。そんなやるせないムードに、アレクシスの奏でる物悲しいテーマ曲がよく似合っておりました。
巨匠アンゲロプロスはそんな激動の物語を極めてまったりとした、おごそかなタッチで語ります。ロングにひいたカメラで、美しい絵をじっくりと見せるような手法。時として映画を観ているというより、美術館を巡っているような錯覚に陥りました。
そしてその絵には、よく大河や海といった雄大な水の深みがモチーフとして使われています。悠々とたたえられたそのイメージは、個人ではどうすることもできない歴史や運命をさしているのかと思いましたが、どうにもしっくりきません。あるいはエレニそのものの象徴なのか。・・・いや、ほら、よく「女は海」とか言うじゃないですか。
そんな『エレニの旅』は現在紀伊国屋書店よりDVDが発売中。アンゲロプロス作品はちょくちょく特集上映も行われているので、そのうちこの作品もどこかの名画座で見る機会があるやもしれません。
アンゲロプロス氏は『エレニの旅』を「二十世紀三部作」の第一部として構想。そして第二部にあたる『第三の翼』がすでに2009年に完成しているのですが、いまだ日本では公開されておりません。でもどうやら今年中にはなんとかなりそう・・・・とか? 煮え切らない締めで恐縮ですがファンの方々のためにも実現するとよいですね。
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