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April 18, 2011

図書館暴動 アレハンドロ・アメナーバル 『アレクサンドリア』

20080312163527これまたモタモタしてる間にメインの劇場では公開が終ってしまいました。スペインの鬼才、アレハンドロ・アメナーバルが手がけた一大歴史叙事詩『アレクサンドリア』、ご紹介いたします。
西暦四世紀、エジプトの都市アレクサンドリアは学問の都として大いに栄えていた。天文学者ヒュパティアは女性の身でありながら、その類稀な才能により、多くの若者たちから師として慕われていた。だが数を増すキリスト教徒と、支配階級の確執が深くなっていくにつれ、アレクサンドリアには不穏な空気が流れはじめる。やがて二つの勢力は激突し、ヒュパティアもそれと無縁ではいられなくなっていく。

アレクサンドリア・・・ エジプト好きにとっては、特別な響きをもって聞こえる名の都市です。当時世界最大の蔵書量を誇る図書館と、いわゆる「七不思議」にも数えられた大灯台を有する都市。しかしながら時経つうちに大図書館も大灯台も滅びを余儀なくされ、多くの遺跡が海に沈んでいきました。そのアレクサンドリアが映像で甦ると聞いては、これは観にいかないわけにはいかないでしょう! ヨーロッパ映画史上最大級の制作費を投じただけあって、その再限度は大したものです。青い空と広大な海をバックに、そびえたつ巨像や神殿。道を埋め尽くして行きかう様々な人々。多くの名作史劇がそうであるように、この作品もまた当時の世界へとわたしたちをタイムスリップさせてくれます。ただ・・・ 一つ残念だったのは、肝心の大灯台の登場場面がものの数秒だったこと ま、この点に関してはまた別の映画で扱ってくれることを願いましょう。

さて、主人公となる女性ヒュパティアですが、実在の人物です。時代が多神教からキリスト教にシフトしていき、多くの人々も改宗を余儀なくされる中で、彼女だけは自分の信じる道を変えません。それは人が様々な学説をとなえようとも、天文における真実はただひとつであることとシンクロいたします。当時のキリスト教は支配階級を屈服させ、大図書館を破壊しましたが、このただ一人の女性の信念を変えることはできませんでした。そんなヒュパティアの気高い姿に、胸を打たれました。
そんなヒュパティアとは対照的に、彼女を愛する男たちは揺らぎまくりだったり、大事なところで役に立たなかったり。これには監督の男性観が反映されてるような気もします。ちなみにアメナーバル監督はゲイだそうで・・・ 同性のダメなところが好きなんでしょうか。よくわかりません。

これだけ観ると、「キリスト教ってとんでもない宗教だな」と思う人もいるかもしれません。ですが私自身はキリストは偉大な人であったと思いますし、聖書も人に良い影響を与える本だと思ってます。厄介なのは、その教えを自分たちの都合のいいようにねじまげてしまう連中ではないかと。
実際キリストは劇中でも言われているように、自分を殺そうとしてる人々すら愛しました。だのにこの映画に出てくる「クリスチャン」たちはわけのわからぬ理屈でもって、その重要な教えをスルーし、権力を得るために暴力をふるいます。恐らくキリストがその場にいたならば、彼らを決して弟子とは認めなかったことでしょう。
それに比べると、先の『神々と男たち』に出てきた修道士たちは、本当の意味でキリストに倣おうとしている人たちだと思いました。

2011041319470000図らずもこの映画が日本で公開される少し前、エジプトでは長期に渡って君臨してきた政権が民衆によって覆されました。新しい政権が、多くの人にとって寛容な政治を行うことを願うばかりです。
そんなわけで『アレクサンドリア』は現在全国各地で転々と上映中。カタルシスは得られないかもしれませんが、エジプト好きな方はぜひ。

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Comments

そもそも宗教は不寛容なものだからねぇ。
キリスト教本来のドグマって何?と聞かれても、多分色々ある
のでしょうし。こういう作品観ると「あー日本人でよかった。」とか
思ってしまう自分がいます。
それでなくたって世の中面倒なのに、宗教絡むとそれが100倍
になるから…(苦笑)

Posted by: KLY | April 18, 2011 10:16 PM

>KLYさん

こんばんは~ これ、KLYさんと会った『ファンタスティック・フォックス』の前に見たのですよ

わたしは一応聖書を一通り読んだことがあるのですが、まあキリストが一番重んじていることというのは「神と人々を愛せよ」ということなんですよね。それが組織化するとどうしてこんなにややこしいことになるのか・・・

何かと争いが絡むことが多いので「宗教嫌い」という人たちの気持ちもわかる反面、「宗教にでもすがらないとやっていけない」というひとたちの気持ちもわかるんですよね。なんせ世界人口の九割近くは何かしらの宗教を奉じてるわけですから

Posted by: SGA屋伍一 | April 18, 2011 10:57 PM

ヒュパティアたちが白、キリスト教徒が黒っていう色分けに、
何か思惑があるのかも? と勝手に想像してますが。
信念を貫くのはあの時代は大変だったと思いました。

Posted by: rose_chocolat | May 03, 2011 01:27 AM

>rose_chocolatさん

そういえば「キリスト教徒が黒装束をまとってた」という話はあまり聞きませんもんね。監督の演出でしょうか
なにかと周りに流されやすい身としては、確固として揺らがないヒュパティアの姿が目にまぶしかったです

Posted by: SGA屋伍一 | May 03, 2011 09:55 PM

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