その街の強盗たち ベン・アフレック 『ザ・タウン』
うわああ気がつけばまた一週間更新が空いとったw 本日は日本ではどちらかというとバカ大作の主演俳優として知られている、ベン・アフレックの監督第二作『ザ・タウン』ご紹介します。
全米で最も強盗事件が多いと言われているボストンはチャールズタウン。そこでは驚くべき事に、強盗が職業として親から子へ「世襲」される。ダグもまたその街で育ち、「常習的犯罪者」となった一人であった。だがあるヤマで人質にした女性を監視しているうちに、ダグは彼女と親密な仲になってしまう。彼女と共に街を出、普通の暮らしを営みたい・・・ そんな思いを募らせるダグ。そんな彼の思いをよそに、FBIは徐々にダグとその仲間たちへの包囲を狭めつつあった。
人というのはいろいろな事情を背負って生まれてくるものだと思います。その荷物が、多い・少ないの差はありますが。ダグはその中でも特に重い荷物を背負って生まれ育った男です。親も兄弟のような友人も強盗であり、周囲が自然と彼をそのような道を歩ませるような環境ができていました。一度はそこから這い出るチャンスがあったものの、それを失って以降はアリ地獄のようにしがらみの中でがんじがらめになっていきます。
カタギになるために街を出れば恩知らずになってしまう。さりとて現状のままでは、いずれ一生を塀の中で過ごすことになる・・・・
常習的犯罪者という人種は、我々と異なるルール・異なる世界で生きている人々です。時としてまったく理解できない別の生き物であるように思えることもあります。しかしこの映画ではダグや仲間たちを、彼らもまた我々と同じ感情を持つ人間として描きます。そのタッチはどこか池波正太郎の小説に出てくる盗賊たちを思い出させます。そしてそんな「異なる世界」で生きている人々の、存在感の強烈なこと。
ダグの幼なじみであり、強い暴力衝動を抱えたジェム。膨大な量の懲役を課され、一生刑務所から出ることがかなわないダグの父。ダグたちに仕事を紹介し、その上前をはねる男「花屋」。ジェムの妹で、強盗たちの町で放縦な生活を送っているクリスタ。そして彼らとは対立する領域で生きているものの、やはり人ならざる世界に身をおいているFBI捜査官フローリー。ベン・アフレックの、この印象豊かな群像を生き生きと映し出している才能は、まさしく非凡なものであると言えます。
以下は結末までネタバレで参ります。これから見ようという方は避難されてください。
強盗たちの鮮やかな手際や派手な銃撃シーン・カーチェイスも目を惹きますが、それ以上に記憶に残っているのは、アクションの合間に静かに交わされる別れの場面。
刑務所のガラスを挟んで淡々と語り合うダグと父。感情にまかせて殴りあったあと、謝罪と決別をジェムに告げるダグ。警官たちに包囲され、銃弾を浴びるジェムを遠くから見つめ、そっと目を伏せるダグ。そしてダグと恋人クレアの最後の電話。
いずれも大仰な音楽が流れるわけではなく、静かな優しい眼差しでもって情景が描かれます。
ダグが官憲の手を逃れ、別の場所で暮らしているラストを「許しがたい」と思われる方もおられるかもしれません。しかし彼はこうして生きることで、また罰を受けているのだとわたしは思います。彼はジェムを見捨てた罪の意識に苦しみ、全米で網を張るFBIの手に怯えながら残りの生涯をすごすことでしょう。そして恐らく父親と同様、クレアと再会することもかなわない。それでも彼は生まれ育った町を出ることを選びました。なにもかもいいことずくめの選択などありません。それでもわたしたちは何かを捨て、何かを取ることを選び続けねばならないのです。
確かにツッコミどころはいろいろあります(笑) しかしこの力強さと優しさ、決しておしつけがましくない語り口は、クリント・イーストウッドの名作を彷彿とさせます。そういえばイーストウッドもベンも、そしてマーティン・スコセッシもそれぞれデニス・レヘインの小説を一度映画化しておりますね。「暴力的な世界にいかに向き合っていくか」 レヘイン作品のそんな主題が彼らの心に強く響いたのかもしれません。
『ザ・タウン』は現在全国の劇場で上映中。まだ早いかもしれませんが、紛れもなく今年を代表する映画の一本、と断言しておきましょう。
Comments
こんばんは、伍一君。
ベンは今後も有望だと思うし監督作楽しみ。
たくさんのつっこみどころあれど楽しめた作品♪
カーチェイスで追いつめるとこもハラハラ。
エンタメはこうでなくちゃ。
ことしもレッドカーペット記事載せたわ☆
Posted by: mig | March 01, 2011 11:23 PM
最後の絵、シスターってより蛇おばさん?ホラーかと思った こわーい!(笑)
Posted by: mig | March 01, 2011 11:24 PM
>migさん
こんちはー
もともと期待してたけど期待以上の出来でした
カーチェイスが終ったあとではしゃいでたらたまたま休憩してたオマワリさんと目が合っちゃったり、シスター衣装で車に乗っていたら子供が呆然と見ていたり、そういう細かいところもいろいろ印象的だったなあ
シスターの絵怖いかな?(笑) migさんを怖がらせるとは、ワシ、ホラー漫画家の才能あるのかもな・・・ あとでお邪魔するね~
Posted by: SGA屋伍一 | March 02, 2011 12:47 PM
伍一くん、こんばんわん♪
今年を代表する映画に推薦なのね!
やっぱり男の人にはぐっとくる映画なのかな。
私はつっこみどころが女の立場として気になってしかたなくて、ちょっと盛り上がりきれなかったなぁー
ベンは女心を理解してない!と理解しましたが。
Posted by: ノルウェーまだ~む | March 03, 2011 03:19 AM
>ノルウェ-まだ~むさん
おはようござりまする~ 返事が遅れてすいません
上の記事にも書いてありますけど、ボコボコ殴りあったあと、急にしんみりして「出て行くなよ」「お前は兄弟同然だ。だけど・・・」のあたりでわたしの「男ツボ」がぐぐぐぐっと押されてしまったのでした。うむ、やはりいい映画だ・・・・
そして女心がわからないことにかけては自信があります!(爆) まだ~むさん! わたしはいったいどうすればいいんでしょう!?
Posted by: SGA屋伍一 | March 04, 2011 08:02 AM
伍一くん、
いや、どうもこうも・・・・・・・
Posted by: ノルウェーまだ~む | March 04, 2011 08:30 AM
>ノルウェーまだ~むさん
>いや、どうもこうも・・・・・・・
ナイスとどめ
Posted by: SGA屋伍一 | March 04, 2011 08:47 AM