« 3月16日、伊豆の現状報告 | Main | エリ MY LOVE SO SWEET トーマス・アルフレッドソン 『ぼくのエリ 200歳の少女』 »

March 19, 2011

シャベクルマン トム・フーパー 『英国王のスピーチ』

2011031918440000そう、一ヶ月前はアカデミー賞の話題でもりあがってたんですよね。ふう、何もかもがみな懐かしい・・・ といつまでも過去に浸ってても仕方ないので、未来に目を向けるためにこの映画の記事を書くとします。今年度アカデミー作品賞・監督賞・主演男優賞に輝いた『英国王のスピーチ』ご紹介します。

時は第二次大戦前夜。英国の第二王子ジョージ(後の六世)は、幼い頃からの吃音症に悩まされていた。万国博覧会の開会のあいさつでも派手にどもってしまい、ジョージの心痛は深くなるばかり。力になりたいと願う妻のエリザベス(笑)は、ジョージを一人の風変わりな療法士のもとにつれていく。彼の名はライオネル。王家の者にも遠慮しない彼の態度にジョージはいらだつが、やがてその胸のうちを明かすようになっていく・・・

いま世界において「王家」というものは非常に数少なくなっていると思うのですが、その中でもいまだ強い存在感を保っているのがイギリス国王。その行動・言動は常に多くの国から注目をあびております。日本の天皇陛下よりははっきりと「人間」に近い存在でありながら、一般人からしたらやはりやんごとなく近寄りがたい方。
我々庶民からしたら豪勢な暮らししてそうで羨ましいな~と思いますが、そのプレッシャーたるや相当なもののようです。父からは容赦なく叱責され、左利きやX脚は矯正され、常に周囲からの視線にさらされている。これではジョージならずとも引っ込み思案な性格になってしまうというもの。ただわからないのは、兄のエドワードも同じ環境に育ったはずなのに、こちらはずいぶんとまた奔放な性格であるということ。いかにも怪しげな年上の女性にぞっこんほれこみ、ついにはその女性のために王冠さえ投げ出してしまいます。普通は長男の方が堅物で、次男の方がフリーダムな性格になるものですけど。

そのジョージの数少ない支えが妻のエリザベス(どうしてこうイギリス王家っておんなじ名前ばっかりなんでしょう)。そして終生の友人となったライオネルです。恐らくその地位と性格のため、ジョージには友人といえるものはほとんどいなかったものと思われます。軍隊でも体調不良のためあんまり目立った働きはできなかったそうですし。ジョージが自身の「吃音」という障害をのりこえられたのは、妻の献身やライオネルの療法もさることながら、この奇妙な友情にあるような気がします。
 
ジョージとライオネルの友情はわたしたちに多くのことを教えてくれます。真の友情には、年齢や身分は関係ないということ。時には物怖じせず、率直に相手に言ってやることも大事だということ。一人では乗り越えられなかった壁も、二人で励ましあうことによって乗り越えられるということ。そうした親友は何ものにも代えがたい貴重な財産だということ。友情・努力・勝利・・・・ まるでどこかの少年週刊誌のようです。そういえば昔『キング』なんて雑誌もあったなあ。まあこんなご時世だからだこそ、一人でつっぱりすぎないで、ともに誰かと支えあっていきたいものですね。一方的に依存するというのはまずいですけど、二人で協力しあうなら可能性はいくらでも広がるはず。

またライオネルはジョージにとって友人であると同時に、父親がわりのような存在だったのかもしれません。いまわのきわに息子のことを誉めていたようですが、ほとんど息子のことを怒ってばっかりいたジョージ五世。『エリックを探して』にもおっかないお父さんが出てきましたが、イギリスにはそういうパパンが多いのでしょうか。
対してライオネルと息子との関係は、それこそ年の離れた友人へのもののよう。一緒にゲームをしたりプラモデルを作ったり。ジョージも息子こそいなかったものの、映画の幾つかのシーンで二人の娘に対してはとてもよいお父さんだったことがうかがえます。そして彼の娘の一人が、後にダイアナさんと確執することになるエリザベス二世。あんなに可愛かった『お嬢ちゃんがねえ・・・・ ま、それはまた別の話。

2011031918460000最近のオスカー映画って小難しいものが多かったですけど、これは分かりやすくて笑えて、元気の出る映画。肝心のスピーチが戦意高揚のためのもの、というのがちとひっかかりますが、やはりこれは国家の問題を描いた作品というよりは、個人的な戦いを描いた話だと思います。『英国王のスピーチ』は、まだたぶん全国の劇場で上映中。たぶんこれは自粛とか中止とかにはならないと思う・・・


|

« 3月16日、伊豆の現状報告 | Main | エリ MY LOVE SO SWEET トーマス・アルフレッドソン 『ぼくのエリ 200歳の少女』 »

Comments

>普通は長男の方が堅物で、次男の方がフリーダムな性格になるものですけど。

確かにそうだよね。しかも兄ちゃんの方がどう観ても若いし(笑)そこだけがこの作品の唯一気になったところでしたよ。
確かにとても解りやすい、昔ながらの映画らしい映画だったと思います。

Posted by: KLY | March 19, 2011 08:59 PM

>KLYさん

でしょ? ていうかウチがそうです(笑)
軽いにーちゃんはガイ・ピアースでしたっけ? 『LAコンフィデンシャル』ではあんなに堅物だったのになあ
某局では「保守」とか言われましたが、たまにはこういうのもいいもんです

Posted by: SGA屋伍一 | March 20, 2011 10:16 PM

伍一くん、こんにちは☆
イギリスでは今度公開される「わたしを離さないで」で出てくる寄宿学校などでも見られるけど、結構生活態度に厳しいんだよね。
インターナショナルスクールだと授業中もガムをかんでたりするけど、ブリティッシュスクールだとムチでたたかれるし。
そんなわけで子どもに厳しい(大人になるまで美味しいものを食べさせてもらえないとか・大人になっても美味しいものないけど・笑)イギリスの、しかも王族だから大変だったでしょうね。
長男はきっと大事にされたのだと思うので、その辺の寂しさもあったのでしょう。

Posted by: ノルウェーまだ~む | March 21, 2011 06:45 PM

伍一さん、

絵、面白いです。
感謝の気持ちで一杯です。

Posted by: まみっし | March 21, 2011 10:25 PM

>ノルウェーまだ~むさん

わたしは寄宿もの(ギムナジウム)の映画って独特の雰囲気があって好きなんですけど、実際に通っている子供たちは息が詰まることもあるかもしれませんねえ。『ハリー・ポッター』にもおっかない寮番が出てきたし
あれはアメリカの話だったと思ったけど、ピーター・ウィアーの『いまを生きる』もそんな厳しい教育の中、一生懸命自分らしさを探す話であったなあ

ライオネルさんはオーストラリアの人だったから、息子さんたちにも優しかったのでしょうね。どうでもいいことですがライオネルというとリッチーとか飛鳥とかが思い浮かびます

Posted by: SGA屋伍一 | March 22, 2011 07:39 PM

>まみっしさん

いえ・・・ 自分にできることなんて全然大したことはなく
せめてこういう変な絵でも描いて、誰かに和んでもらえたらなあと
こちらこそいつも暖かいお言葉ありがとうございます!

Posted by: SGA屋伍一 | March 22, 2011 07:41 PM

ゴイチン、こんばんは〜☆久々のblog訪問ありがと!
ただいまんぼう!

あのACのCM可愛くて癒されてるわ。

この映画は二人の友情がハマったわ。
ジェフリーラッシュは好きなオッサンには入れないけど
ぜひ「シャイン」は見てね。いい映画よ。

Posted by: mig | March 25, 2011 09:47 PM

>migさん

おかエリザベス~ そしてこちらにもコメント、ありがとう
わたしもいまじわじわとはまってきてるよ・・・ 特におはよウナギ(笑)

なんでジェフリーは入らないのかな(笑) おっさんというよりじいさんだから? 『シャイン』はたしかピアニストの話だったよね。鑑賞リストに入れておこう

Posted by: SGA屋伍一 | March 26, 2011 06:27 PM

こんばんは!
私も、オスカーにしては、わかりやすくて笑える元気の出る
良い映画だったと思います。
本心で、ちゃんと言いたい事が言い合える友人って
ホントに大事ですよね〜。
国王でありながら、一生の間にそんな友人ができて、
彼は本当に良かったと思いました。

Posted by: ルナ | March 30, 2011 03:38 AM

>ルナさん

こんばんは。わたしは予想で「こういうわかりやすい話はオスカーは取れないだろう」なんて堂々とつぶやいていたのですが・・・ 予想って難しいですね!

本心でちゃんと言い合える友人、わたしにはいるかなあ~ ・・・辛うじて何人か心当たりが

友人といってもちょっと年の離れてるあたりが自分的にツボでした。こういう年の差のある友情って、いいなあと思うので

Posted by: SGA屋伍一 | March 30, 2011 07:20 PM

こんばんは

久々に映画記事をアップしましたのでお邪魔させてください。
鑑賞したのは1か月も前なんですがね・・・。
で,今年はアカデミーのチェックさえしなかったので
これが作品賞受賞作というのも知らずに観ました。
アカデミーにしては素直で直球の感動作で
地震でへこんでいたなか,私もかなり元気をもらえましたよ。

私は自分が教育者のはしくれで
それも近年は特別支援教育にかかわっているので
心因性の吃音症の治療法がとても興味深かったです。
エリザベス2世のご両親がこんな苦労をしたなんてことも
初めて知って面白かった。
ジョージ6世の兄ちゃんの「王冠をかけた恋」っていうのは
どっかで聞いたことがあったんですがね。


Posted by: なな | April 18, 2011 12:20 AM

>ななさん

こんばんは。ご来訪嬉しいです♪

この作品、たしか公式サイトができた時は十館くらいしかリストにあがってなかったんですよね。それが「アカデミー賞有力候補!」となったと途端上映館がドバッと増えまして。アカデミーの力の強さを実感させられました

そうか・・・ 教育に携わっておられる方には、いろいろ感じ入るところがあるでしょうね。良かれと思ってやってあげても、なかなかその思いが伝わらないことっていかにもありそうだし
でもこの映画のように真心と辛抱強さがあれば、その思いは相手にきっと伝わると信じたいものです

それにしても王室というのは本当に秘話の宝庫ですね・・・ まだまだ映画になりそうな話、ほじくればぞろぞろ出てきそうな気がします

Posted by: SGA屋伍一 | April 18, 2011 10:24 PM

深夜にどうもです。。。
SGAさんはフリーダムな次男なんでしたっけ?

スピーチで失敗して、笑われるならまだしも
やんごとなき身分であるがゆえに、みんなただ黙って目を伏せるだけ・・・というのがたまらんなーと思いました。

最新記事、ファーストジェネレーションのタイトルに吹きました(笑)
ずいぶん前に観てるんだけど、また自分とこでUPしたらおじゃましますー
その前に『トゥルーグリット』などにも。

Posted by: kenko | June 30, 2011 02:42 AM

>kenkoさん

こんばんばん! おかやしありがとうござります

いやいや。堅物な長男の方がもちろんわたしですよ。その証拠にこちらが田舎のぼろっちい工務店を継いだのに対し、弟はアメリカで某社の工場を一個まかされたりしてます

そう。わたしもちょっとジョージさんの気持ちわかるんですよね。最近になってこの仕事(ガテン系です)はじめたもんだから、電ノコの扱いひとつとってもおぼつかないんですけど、一応跡取りということでみんな厳しく教えてくれないんです。ああ・・ ・・・って王室とあまりにも差がありすぎだろー!!

くだらない話をお聞かせしました。他記事でもまた語り合いましょう~

Posted by: SGA屋伍一 | June 30, 2011 10:53 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference シャベクルマン トム・フーパー 『英国王のスピーチ』:

» 英国王のスピーチ [LOVE Cinemas 調布]
後に「善良王」と呼ばれた英国王ジョージ6世が、ヨーク公爵時代に出会った言語聴覚士ライオネル・ローグの助けで自身の吃音を克服する姿を描いた伝記ドラマだ。主演は『シングルマン』のコリン・ファース。共演にジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーターと言った実力派が揃う。監督はトム・フーパー。第64回英国アカデミー賞では作品賞初め7冠を獲得した。... [Read More]

Tracked on March 19, 2011 08:58 PM

» 英国王のスピーチ [シネマDVD・映画情報館]
英国王のスピーチ 子供の頃から悩む吃音のために無口で内気な、現エリザベス女王の父、ジョージ6世。しかしヒトラーの率いるナチスドイツとの開戦に揺れる国民は、王の言葉を待ち望んでいた。型破りのセラピスト、ライオネルの友情と妻の愛情に支えられ、渾身の......... [Read More]

Tracked on March 21, 2011 04:02 PM

» 「英国王のスピーチ/King's speech」思わず拍手喝采 [ノルウェー暮らし・イン・London]
思わず涙しながら拍手をしようとしている自分がいた。 ゴールデングローブ賞でも主演男優賞を獲得したコリン・ファース。 今やコスプレもせず、カツラもヒゲもつけず、体重も変えずに、まったくの別人を完璧にこなせるのは彼しかいない!!... [Read More]

Tracked on March 21, 2011 06:47 PM

» 英国王のスピーチ / The Kings Speach [我想一個人映画美的女人blog]
ランキングクリックしてnbsp;ねlarr;please click nbsp; 先日の第83回アカデミー賞で作品賞受賞の話題作は実話が基のストーリー。 [Read More]

Tracked on March 25, 2011 10:01 PM

» ツーリスト [ルナのシネマ缶]
予想以上の低評価な作品に なっているようですねぇ〜。 まあ、私的にはストーリーは イマイチでしたが、 ちょっと古典的な ラブサスペンスって感じで、 それなりに楽しめました。 (ジョニーのファンだし・・・(~_~;) 傷心を癒やすためイタリアを訪れたアメリカ人の 数学教師フランク(ジョニー・デップ)は、ベニスに向かう車中で ミステリアスの美女エリーズ(アンジェリーナ・ジョリー)に 声を掛けられる。魅力あふれるエリーズに誘われるがまま、 翻弄されるフランクだったが、突然マフィ... [Read More]

Tracked on March 30, 2011 03:39 AM

» 英国王のスピーチ [虎猫の気まぐれシネマ日記]
第83回アカデミー賞作品賞受賞作。英国王室史上,最も内気な王であるジョージ6世(ヨーク公アルバート王子)が王位を継承するにあたり,それまでの吃音症のコンプレックスを見事に克服して苦手だったスピーチをやり遂げ,国民から敬愛される王へと成長するまでの,史実に基づいた作品。 主演のコリン・ファースの演技が... [Read More]

Tracked on April 18, 2011 12:21 AM

» 映画「英国王のスピーチ」 [itchy1976の日記]
英国王のスピーチ - goo 映画 英国王のスピーチ(映画.com) 「英国王のスピーチ」オフィシャルサイト 英国王のスピーチ@ぴあ映画生活 英国王のスピーチ - Wikipedia ○作品データ(映画.com) 監督・脚本:トム・フーパー 脚本:デビッド・サイドラー 製作:イアン・キャニ...... [Read More]

Tracked on April 23, 2011 07:22 PM

» 英国王のスピーチ [映画、言いたい放題!]
この映画、アカデミー賞を取ったということもあって 是非観たい映画でした。 折しも観に行った日は、ロイヤル・ウェディングの日でした。 そのせいか、公開から随分経っていましたが その割にはお客が多かったです。 隣のお客さんは、始まる前にロイヤル・ウェディングの話を... [Read More]

Tracked on May 05, 2011 05:59 PM

» 映画:英国王のスピーチ [よしなしごと]
 言わずと知れた、アカデミー賞4部門受賞、英国アカデミー賞7部門受賞などなど多くの賞にノミネート・受賞に輝いた英国王のスピーチを見てきました。 [Read More]

Tracked on May 14, 2011 01:29 PM

» [映画『英国王のスピーチ』を観た] [『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭]
☆遅ればせながらの感想です。  これまた、英国紳士的なスマートな造りの傑作ですなぁ^^  先の大戦前夜、国民の多くの期待を受けて即位せしジョージ6世・・・、英国王として、その「言葉」は大いなる力になり得るのだが、彼は幼い頃から深刻な吃音症に悩んでいた。 ...... [Read More]

Tracked on May 29, 2011 10:20 PM

» 英国王のスピーチ [C note]
映画ブログらしきものをやってくうえで、去年くらいから「映画館で観た映画の感想はぜ [Read More]

Tracked on June 30, 2011 02:43 AM

» 「英国王のスピーチ」 [或る日の出来事]
ううむ…ソツがない。 [Read More]

Tracked on January 21, 2012 09:50 AM

» 別館の予備(英国王のスピーチ 感想224作目) [スポーツ瓦版]
6月7日 英国王のスピーチト アメブロが5月15日よりTB廃止する事が発表されましたので 5月15日以降に更新した記事では当ブログでTBを受付ます 当ブログにTB入らな ... [Read More]

Tracked on June 07, 2012 02:06 PM

« 3月16日、伊豆の現状報告 | Main | エリ MY LOVE SO SWEET トーマス・アルフレッドソン 『ぼくのエリ 200歳の少女』 »