彼岸より クリント・イーストウッド 『ヒアアフター』
これはいま非常に紹介しづらい映画なんですが・・・ もういい加減見たのが三週間も前なので、忘れないうちに書いておくこととします。もはや世界を代表するといっても過言ではないクリント・イーストウッド最新作『ヒアアフター』です。
フランスのジャーナリスト・マリーはバカンスの際遭遇した災害で、危うく命を落としかける。息を吹き返す直前に彼女が見たのは、亡くなった人たちが立ちつくす奇妙な光景だった。
イギリスの少年マーカスは、自分の半身であった双子の兄を事故で亡くす。さびしさに耐え切れず、マーカスはなんとかして兄に会う手段を探し続ける。
アメリカの青年ジョージは、かつて霊能者としてその名を知られていた。だが彼は自分の能力を嫌い、いまではその仕事をかたくなに拒んでいた。
遠く離れた地の三つの物語は、やがてどう交差していくのか・・・
今度のイーストウッド作品はオカルト・超常現象を扱った話らしい・・・と聞いて身構えておりましたが、見て胸をなでおろしました。全然怖くない。幽霊やお化けも出てきませんし。そもそもこれは「あの世」の話というより、「あの世」を素材としてこの世の孤独を描いた話だと思いました。
そもそもなぜ親しい人の死が辛いのかといえば、それはその人ともう会えなくなってしまうのがさびしいから。マーカス少年はほぼ同じ世界を共有していた兄ジェイソンを失い、はかりしれない孤独に包まれます。
マリーは自分が見た光景を人々にわかってもらおうと張り切りますが、周囲の人々から理解されず、これまた孤独を味わいます。
そしてジョージですが、彼がなぜ霊能者の仕事をやめてしまったのか。それはその仕事をやればやるほど、自分が他の人と異なることを思い知らされたからではないでしょうか。彼が見る光景は彼にしか見えず、他の誰にも見えません。彼がディケンズの愛読者だったのは、きっとその作品に人の孤独が描かれたものが多いからでは(わたしはそんなに読んでないんですけど)。ディケンズの作品の主人公に感情移入するとき、ジョージはその孤独をわずかな間まぎらわすことができたのでしょう。
で、ここからは結末を割ってるんですが
最後唐突にジョージがマリーにメロメロになってしまうくだり。あれはたぶんようやっと、自分と同じ世界を見た人を見つけた。思いを共有できる人に出会えた・・・ そういう喜びの表れだったのだと思います。はるか離れた場所に住む運命の二人が、見えない糸に引き寄せられてめぐり会う・・・ ロマンですね。
本好きとしてはこの映画のクライマックスが「ブックフェア」というのが嬉しかったです。この映画にはイーストウッド作品には珍しくネットをカチャカチャやってる場面が幾つかあるのですが、三人をひきよせる直接のきっかけとなったのは紙の本でした。電子書籍もけっこうですけど、やっぱ本は紙ですよ、紙。
まあ文字にせよ電子通信にせよ霊界通信にせよ、人が思いを伝えたがるのはやっぱり「ひとりではさびしすぎるから」。人間というのはつくづく寂しがりやさんな生き物であります。
上陸前の海外での評価はあまり芳しくなかったこの『ヒアアフター』ですが、日本での評判はそれほど悪くないような。たぶんこの映画の「あの世」感って、日本の人々にはなじみやすいものだったんでしょうね。
『ヒアアフター』は現在全国の劇場で上映中。そろそろラストスパートというとこだと思うので、ご覧になりたい方はお早めに。
Comments
こんばんは!
地震お見舞い申し上げます。
ご無事でなによりです。余震とか気をつけてくださいね。
さて、さすがに公開中止になっちゃいましたね〜。
まあ冒頭に津波のシーンがあるからしかたないけど・・・。
クリント・イーストウッド作品にしては、なんとなくパンチがない気は
しましたが、やさしい作品だったと思います。
特に双子のエピソードは泣けました。
本好きの私も、ブックフェアはなんかうれしかったです。
そうそう、やっぱり本は紙ですよ!!!
Posted by: ルナ | March 17, 2011 12:47 AM
>ルナさん
おはようございます! おきづかいありがとうございます。本当に頭のクラクラするような一週間でした・・・ ピンチはまだ続行中ですが
『唐山大地震』はしかたないとしても、こちらは津波がメインの映画ではないから大丈夫では・・・と思ったんですがねえ
ただこちらではなぜかまだやってる劇場もあります ともあれ内容はいい作品だけに、日が経ってから冷静に評価されるといいですね
イーストウッドはここ三作、めっきりいやし系ですな。電子書籍って「本」っていうよりデータにしか思えなくて。古いタイプの人間ゆえ(笑)
Posted by: SGA屋伍一 | March 18, 2011 08:12 AM
わー、この時期公開してたんだー。
18日って日にちのコメをみて当時を思い返してしまいました。
親の死亡確認した日だった。
なんだったんだろうねえ。
私も私もー、本屋のシーンはどの映画も好き!!
今思い浮かぶのは、キリングミーソフトリーとか、ローラスマイルズに出てきたシーン。
本屋でナンパされるっていうのが夢!!アートコーナーなんかで。
ラブリーボーン並のあの世を想像してたんだけど、リアルで地味ーな成り行きがクリントらしいと、伍一くんのレビューみてじわじわっと
理解しました。
双子の兄弟、良かったよね。悲しすぎるけども。
あのお母さんにして、あの兄弟あり。子供の面倒みられないぐらいの精神状態の親って現実にいるわけだよねー。
うーむ
Posted by: hino | October 17, 2011 10:29 AM
>hinoさん
おはようござります~
そう、この記事書いたころは、こちらもまだ大わらわだったんですよね。みんなこれから先どうなるのか不安でたまらない時に、のんきにブログなど書いていたのでした
hinoさんはこの日が一番辛い時だったんですね。思い出させてすいません・・・
そういえば映画で本屋のシーンってあまり思い出せない 本屋さんでナンパされるの夢ですかー
わたしは映画館で偶然美女とふたりっきりになって、「このあとお茶でも・・・」というのが夢なんですが、知人女性二人にそのことを話したら、「そういうのひく」と言われました。あはははは
『ラブリーボーン』はよくわからないというか置いてけぼりをくったクチなんですが、あれは女子や親の立場にある人の方が共感できるかもしれませんね~
hinoさんちのお嬢ちゃんたちは明るくて楽しいお母さんがいて、本当に幸せだな、と
Posted by: SGA屋伍一 | October 18, 2011 11:31 AM
伍一さん、こんにちは。
hino氏のコメントへのお返しで本屋うんぬん。。。。で、本屋って言えば、『Notting Hill』ですよぉ。偶然に美女と知り合うって、やっぱり難しい確率なのかしら?『セレンディピティー』という映画ありましたよね。デパートで同じ物買いたくて、ムカつきあった二人の恋物語。
『ヒアアフター』観てないです。クリント・イーストウッドのだから面白いとは断定出来なすぎました。日本での評判はそんなに悪くなかったのですね。
Posted by: まみっし | October 18, 2011 04:59 PM
>まみっしさん
こんばんは~
『ノッティングヒル(の恋人)』存じてますよ。こないだモデルになったお店が閉店したとか・・・ あと『ユウ・ガット・メール』も書店がらみのお話じゃなかったかな。ただ両方恋愛映画なもんで、内容を知ってはいても観た事がありません
基本的に人間しか出てこない映画は興味のある題材でもないと観ないのですよ~
『ヒアアフター』ですが、日本の映画好きにはおおむね好評だったように記憶しています。映画好きにも賛否両論まっぷたつだったのは、むしろ今夏公開された『ツリー・オブ・ライフ』の方でしょうか・・・
Posted by: SGA屋伍一 | October 18, 2011 09:40 PM
わははは、観てないのに ユーガッタメールが出てくるところすごい!!それも良かったなあ。
まみっし、セレンディピティ良かったよねえ。
ビフォアサンライズも良かったなあ。
ここで恋愛もの語るのもなんだけど、、映画館で出会いを妄想する伍一くん、そうなるといいねー。本屋と映画館とカフェは確率高いと
思うんだどねー。あと、公園も。
えー、人間だけ出てる映画はあまり興味ないって><
エイリアン、アニメ系かいーー。
でも、幸せの隠れ場所はいがったよねえ。
Posted by: hino | October 18, 2011 10:45 PM
>hinoさん
ええ、わたし得意なんです。観てもいない映画をさも観たかのように語るのがw
いや、これはあくまでも妄想であって、本気でそう願っているわけでは(^^; 何年か前に一度だけそういうシチュエーションな時がありましたが、チキンなので結局実行に移せませんでした。わはは
公園での出会いってどんなんだ? 「かわいい猫ですね」「ええ、わたし猫大好きなんです。ポチっていうんですよ」そんな感じ?(このくらいにしとくか・・・)
基本は非現実系ですが、男の熱い対決ものとか、元気な子供が出てくる映画は好きです。最近だと『メアリー&マックス』というのがおすすめ。人形アニメだけど(爆)
Posted by: SGA屋伍一 | October 19, 2011 09:11 PM