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February 07, 2011

何とかカントナ ケン・ローチ 『エリックを探して』

110207_184155いやー、盛り上がりましたね。サッカーアジア杯。そんなわけで、こんなサッカー映画はいかがでしょう? 『麦の穂を揺らす手』で知られるケン・ローチ監督作品『エリックを探して』です。

エリック・ビショップはしがない郵便配達夫。既に二度の結婚に失敗し、二人の血のつながらない子供と住んでいる。ある日はなれて住む孫の面倒をみることになったエリックは、久しく見ていなかった最初の妻の姿を見て動揺する。昔とほぼ変らぬ美しさを保っていたからだ。ショックのあまりエリックは交通事故を起こしてしまう。以来何をやってもうまくいかないエリックは、ついつい息子が隠していたマリファナを一発決めてしまう。するとあろうことか、彼がもっとも尊敬するサッカー選手、エリック・カントナが目の前に現れた・・・

エリック・カントナとはなんぞや。90年代英国はマンチェスター・ユナイテッドで活躍した名選手です。鮮やかなプレーでチ-ムに多くの勝利をもたらしたものの、ボールだけでなく相手チームの選手やたちの悪い観客にまでキックを食らわしたというトラブルメイカー。しかしその熱い人間性に惹かれるファンも数多くいるようです。
もちろん国を代表するスター選手ではありますが、クラブチームと地域の結びつきが強い奥州の事情を考えると、「街の英雄」みたいな側面の方が強いかもしれません。ですからマンチェスターの人々の彼への思いいれは並々ならぬものがあるようです。

わたくし最初にこの映画の概要を聞いたとき、てっきりしょぼくれのエリックさんが、偶然町のどこかでカントナと出くわして仲良くなる・・・ そんなお話を想像してたのですが、この「マリファナでラリッたら出てきた」というストーリーにはおったまげました(笑) まあ英国人にとっちゃマリファナは惑溺性も薄いということで、ちょっとした火遊び程度のものなんでしょうね。シャーロック・ホームズも事件がない時は暇つぶしにやってたそうですし。

妻を呼び戻すこともできず、子供にはなめられ、さらにはギャングにまで目をつけられてしまうエリック(実在)。そんなエリックにカントナ(非実在)はサッカーを例えに用い、様々なアドバイスを与えます。すると面白いように、それまで難航していた事柄がうまく運びはじめます。

カントナの言葉の中で特に印象に残ったのが、「自分のベストプレーはどこそこの試合で出したパスだ」というもの。てっきり自らが放ったシュートだとばかり思っていたエリックは意表をつかれます。
まあ本物のカントナさんがどこまでそう思ってるかはアレですが(笑)、本当に充実感を味わえるのは、自分がヒーローになることではなく、ほかの誰かに会心のアシストができた時・・・ そんな意味がこの言葉にはこめられているような気がしました。サッカーでも個人プレーよりチームプレーが重んじられる、欧州らしい言葉であります。

あとこの映画を観ていて思いだしたのが、西原理恵子先生の名作『ぼくんち』で、チンピラ・こういうくんが述べていた「生きるためのヒント」

「さつじんはぜったいしない ごうかんはなるべくしない それからだいすきなひとをひとりつくっておく」

・・・・ま、ごうかんも絶対やってはいけませんが、肝心なのは一番最後の部分ですね。エリックが人生の荒波を老境にさしかかったところで乗り越えられたのは、やっぱりエリック・カントナという大好きな人がいたからだと思うのですよ。怪しげな新興宗教の教祖とかだったらまずいですけど、自分もそういう尊敬にたる「大好きな」人を誰か作っておこう・・・ そんな風に思いました。

エリックの仲間であるマンチェスターのサポーターオヤジたちも、フーリガンのくせに実に暖かいヤツラです。エリックがどんな失敗をして、どんな苦境に陥ろうと決して見捨てません。この友情パワーはもしかすると大空翼とその仲間たちをもしのぐものがあるかも。こんなチームメイトに恵まれたエリックさんが、本当に羨ましいです。

110207_184235『エリックを探して』はもう終ってしまった劇場もありますが、まだまだ首都圏をはじめとして全国で順次公開予定。この映画ひとつよくわからないのが、製作国がイギリス・フランス・イタリア・ベルギー・スペインと五カ国にもまたがっていること。そんなに国際色豊かな作品でもなかったのですが・・・ でもまあ、国を越えて共に作品を作るってのはいいことですよね。うんうん。


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Comments

いやぁ、サッカー好きでないと出来ない作品ですよ。
サッカー愛を感じます。日本人には逆立ちしてもあと100年
は作れないでしょう。
エリックの現役時代の映像まで観れて、もう満足♪

Posted by: KLY | February 07, 2011 09:15 PM

>KLYさん

こんばんはです。毎度ありがとうございます
まあ我らが郷土静岡県は別として、他の地域ではプロサッカーがヨーロッパほど地域と密着してませんからね

でもプロ野球ならいけるんじゃないでしょうか? 
ある日突然チョーさんの幻影が現れて
「いわゆるひとつのポジティブシンキングでズバーンとクリティカルヒットすればオーライですよ」とか語りだす・・・

あ、なんか見たい気がしてきた(笑)

Posted by: SGA屋伍一 | February 08, 2011 07:55 PM

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