カラスが駒鳥になるまで リドリー・スコット 『ロビン・フッド』
新年ということで、気持ちも新たに(というか気持ちだけ・・・)再スタート! 2011年最初の記事は、リドリー・スコット監督の最新作『ロビン・フッド』参りましょう。
お話は奇しくもリどす子作品『キングダム・オブ・ヘブン』のちょい後から始まります。張り切ってエルサレムまで行ったはいいが、ヘロヘロになって帰ってきたリチャード王率いる十字軍。その中に歴戦の戦士でサイコロと弓矢の扱いに長けたロビン・ロングストライドの姿もありました。ひょんなことからある騎士の剣をイギリス北部のノッティンガムまで届けることになった彼は、またまたある事情から領主と未亡人を助けて、悪党どもと戦うことになります。
ロビン・フッドといえば一般のイメージでは、森に隠れ住んで悪代官をやっつける正義のヒーロー、庶民の味方というものかと。日本でいえば水戸黄門と鼠小僧を足したようなものでしょうか。が、今回のロビンさんはなんかそういうイメージとずれがあります。戦うのは悪代官ではなくもっぱらフランス軍だし、何より誰も彼のことを「ロビン・フッド」と呼ばない(笑) まあ早い話が今回の映画は、みんながよく知ってる伝説の前日談というところ。
ロビン・フッドのお話はこれまで何度か映画化されております。有名どころではオードリー・ヘップバーンも出演した『ロビンとマリアン』、ロビン(笑)・ウィリアムス主演のパロディ『キング・オブ・タイツ』、そしてケビン・コスナーの人気の絶頂期に作られた直球ものの『ロビン・フッド』。
そういう数々のロビン映画と同じものを作ったところでしゃあない、ということで今回はそういうストーリーにしたものと考えられます。
ロビン・フッドの伝説で欠かせないサブキャラクターが二人おります。一人はロビンの恋人であるマリアン。ケビン版では若さはじけるピチピチのお嬢さんだったのに対し、こちらではケイト・ウィンスレット演じるファイティング熟女。「リドリーさんって暴力は大好きなくせに、ほんとにお色気に興味ねえよな」ということをあらためて思い知りました。
もう一人は史実上の人物リチャード獅子心王。定番では不在の間に悪者と戦ってくれたロビンに感謝する、「いいもの」の役割を果たすことが多いようですが、今回は「なんだかなー」という扱い。たぶんイスラム教徒を虐殺したという経歴が、中東との平和を願うリドリー氏には気に入らなかったのでしょう。
ほかにも今回コメディ・リリーフとして登場するタック和尚なども、向こうでは有名なキャラクターのようです。
正直いってとても「明るい」とは言いがたいリドリー・スコット作品。彼の撮る映画は大体において虚無感に覆われていて、みんな笑ってハッピーエンド、というものはほとんどなかったように思います。決して悲劇的な結末ではないにせよ、なんとなく手放しでは喜べないような余韻が残っていたりして。
それが今回は全体的にほのぼの明るいムードに包まれております。御大もさすがに70を越えて丸くなってきたのか。でもまあお得意の暴力描写は健在であります。最近のインタビューで「わたしだって休日には犬と戯れる穏やかな男なんだよ」と答えておられましたが、「絶対ウソだね」と思いました。
個人的には天涯孤独だったロビンが、不思議な経緯から新たな父を得て、そして実の父への誤解が解けていく・・・ そんなあたりに心温まるものを感じました。そういう血のつながらない親子の情愛とか、絶たれた絆の回復とかにワタクシ弱いもので。そういえばやはり現在公開中の『トロン・レガシー』も、父と子の絆が重要なテーマになっていましたが、ロビンといい、トロンといい、母親の影がやけに薄いのはなぜなんでしょう・・・
そんなわけで『ロビン・フッド』は現在全国の劇場で上映中。まだもう一、二週間はやっている模様。リドスコ師匠は次は制作か監督かであの『エイリアン』の新作に関わるとのこと。どうぞいつまでもお元気で!
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日本公開は12月なんだー?
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やっぱり日本の暑い夏に観るのは、辛いよね。
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それがいつの間に、こんなに暑苦しく・・・・
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Tracked on January 04, 2011 10:42 PM
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なんか濃いよなぁー
(悪い意味ではありません)
最近、わりとさらっとした
作品ばかり観てたせいか
なんとなくそう感じてしまいました。
俳優人も濃いし(笑)内容も濃い!
重厚な歴史もの!って
感じの作品でした。
12世紀末、ロビン(ラッセル・クロウ)は十字軍の兵士として
フランスでの戦闘に加わっていた。
王が突然死んで逃げ出す途中、騎士ロバートの暗殺現場に居合わせ
その遺言を受け、ロバートの父(マックス・フォン・シドー)に
遺品の剣を届けると約束する。
やがてノッティンガ... [Read More]
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» Robin Hood / ロビン・フッド [我想一個人映画美的女人blog]
暴れん坊、ラッセル・クロウ×リドリー・スコット、5度目のタッグ
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[Read More]
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原題:ROBINHOOD監督:リドリー・スコット出演:ラッセル・クロウ、ケイト・ブランシェット(TOHOシネマズ1か月フリーパス鑑賞 9本目)公式サイトはこちら。<Story>時代は12世... [Read More]
Tracked on January 06, 2011 10:17 PM
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Tracked on January 09, 2011 01:47 PM
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Comments
伍一さん、
そうなんです、この手の映画では、母親の影がやたら薄いですよぉー。伍一さんの鋭い疑問に同感です。
言葉では上手く伝えられない様な理屈ぬきの男の情や問題解決手段の取り組み方や成り行き等には、女が入ると描写し難いみたいな? なぜか必要な登場人物の女性は、あくまでも母親では無いですね。
Posted by: まみっし | January 04, 2011 08:17 PM
>まみっしさん
さっそくコメントありがとうございます
まあ男子というものは戦場において父のことを思い出すと戦意が奮い立つものですが、母のことを思い出すと逆に鈍ってしまうものなので・・・ リドスコ監督も母性を描くことにはま~ったく興味なさそうですし
そういえば昔のアニメには「母親を助け出すために戦う」という作品がけっこうあったと思うのですが、最近そういうの見なくなりましたね・・・
Posted by: SGA屋伍一 | January 04, 2011 09:44 PM
やっぱね、リドリー・スコットとラッセル・クロウの組み合わせは最高ですよ。両者共に自分の1番得意なところで勝負しているというかね。中世の細かい描写がまた私は好きなんです。チェインメイルは一人だと脱着が大変だとかね、普通そんなとこ拘らないし。
ラッセルは上手いんで何やらせてもこなしちゃいますが、メタボのオッサンよりこっちの方が断然好きです^^
Posted by: KLY | January 04, 2011 09:52 PM
伍一くん、ロビンスコ~☆
男くさい戦争物が好きなだけに、戦いシーンの迫力はすごかったですね。
やっと活躍する弓のシーンも、待たせただけあって、汗のとびちりとか感動的でしたわ。
メタボのロビンフッドは、確かに男くさいーっ
Posted by: ノルウェーまだ~む | January 04, 2011 10:53 PM
こんばんは(*^^*)
なんで今頃、ロビン・フッド!って思ったけど
これは一応ビギンズだったんですねぇ〜。
それにしては、歳とってる気もするけど・・・・(笑)
リドリーさんが普段穏やかな人かどうかはわかりませんが
これからも大作を撮り続けてほしいですねぇ〜。
Posted by: ルナ | January 05, 2011 01:30 AM
>KLYさん
さっそくご来訪ありがとうございます
ああ、仲いいですよね。ラッセル・クロウとリドリー・スコット。密かにできてるんでは・・・なんて邪推をしております
>チェインメイルの描写
ありましたね~ じいちゃんに「くさいよ」とか言われてたから、相当長いこと着てたんでしょうね。うっぷ
なかなか不便な代物だな・・・とは思いましたが、命を守るためとあらばこのくらいの手間暇は我慢しなくちゃならないんでしょうね
Posted by: SGA屋伍一 | January 05, 2011 07:37 AM
>ノルウェーまだ~むさん
キン・リドスコー! おはようございます
私もリドスコ氏にはできることなら現代劇より、歴史ものをやっていてほしいです
昔の戦いで一番ものをいうのはやっぱ弓矢ってことですね
これは日本のデータですが、戦において一番有効だったのが弓で、ついで槍だったとのこと。剣は意外と使えなかったとか
男臭いの・・・お嫌ですか? しかし世の中にはこの匂いがけっこう好きという方も
Posted by: SGA屋伍一 | January 05, 2011 07:43 AM
>ルナさん
こちらにもどうも! なんでも『ロビン・フッド』というのは向こうのクリエイターたちにとっては、いっぺんは挑んでみたくなる、そんな題材なんだそうです
ああ・・・ 確かに年はくってましたね・・・ ほら、甲子園によく明らかにオッサンみたいな顔をした球児がいるじゃないですか。きっとそういうタイプなんですよ(笑)
リドリーさんは今回調べてみて、予想以上に高齢だったと知ってちょっとビックリ。本当にお年のわりに、作品はいつもエネルギッシュですよね
Posted by: SGA屋伍一 | January 05, 2011 08:27 PM
ロビンコ スッドー
伍一くん、これ年末観るの楽しみにしてたのに
まだ行ってない。まだやっているんだね!!
父と子なんだ〜。
神風特攻隊の手紙とかには、お母さんから始り、
突撃するとき「ママーーーッ」と叫ぶ、
最後はお母さんなのかなって思ってました。
仕事先で、痛みのあるおばあちゃんが「痛い、痛い、お母さん」と言ってた。
そんな意味でも、リドスコさんワールド観てみたいです。
Posted by: hino | January 08, 2011 11:06 AM
>hinoさん
誰が殺したクック・ロビンスコー!
昨日はいろいろ楽しませていただきどうもありがとうございました
まだやってるよー まだやってるけど・・・そろそろやばいかもしんない。ちなみに今弟さんの『アンストッパブル』もやってるから、兄弟で売り上げ食い合ってたりして。醜いね!
うん、やっぱりいよいよ死を覚悟した時はママンの名を叫ぶんじゃないの? ワシは死んでも叫ばんけど(笑)。パパのことを思い出して盛り上がるのはこう、戦意が高揚してるときですね。オヤジー! オレはやったるでー! みたいな感じで。だからかスポーツ漫画ではスポーツやってるお父さんって大体早死にしちゃったりするんだよね・・・
Posted by: SGA屋伍一 | January 09, 2011 05:53 PM
SGAさん,ご覧になったんですね~
この作品でのリチャード獅子心王の扱いは確かに微妙でしたね。
私なんぞは,ケビン版のロビンフッドの印象が強くて(あの作品では最後にショーン・コネリーがリチャード役でロビンの結婚の祝福に現れましたよね。)この作品であんまりあっさりリチャード王が死んじゃったので吃驚しました。実は生きてるんじゃないか・・・と最後まで疑っていましたがホントに最初に死んじゃった設定だったのですね。
えーと,それからリドスコ作品ではヒロインはカッコいいんですが色気はそんなにないですね。キングダム~のエヴァもそんな感じだったし・・・男勝りのヒロインがお好みのようです。何はともあれ,ラッセルに似合う設定のロビン・フッド物語に上手くまとめてあったので安堵いたしました。
Posted by: なな | January 10, 2011 10:18 PM
伍一さん、
これだけは確かだと思うのだけど、ラッセル・クローは男臭い感じが似合いますね。
『グラディエイター』でも、そう思ったけど。
伍一さんのここで最初にコメントに下さったコメントに何かとても感謝してます。
Posted by: まみっし | January 11, 2011 12:08 AM
>ななさん
こんばんは。お返しありがとうございます
そうそう、ケビン版では最後の最後に登場するんですよね。あれが頭にあったので今回の唐突な退場には驚きました
史実では英国に帰国後、ジョンを屈服させてまだ五年ほど生きていたようです。そんで城攻めの最中にうっかり矢に当たって亡くなったとか。この辺は映画も一緒ですね
そういえばリチャード王、『キングダム・オブ・ヘブン』の最後にも思わせぶりに出てきましたよね・・・
>リドスコ作品ではヒロインはカッコいいんですが色気はそんなにないですね。
これの代表格はやっぱりリプリーさんでしょうか(笑) 『ブレードランナー』のヒロインも・・・・という設定のせいか、お色気薄味のクール・ビューティーという感じでしたし
Posted by: SGA屋伍一 | January 11, 2011 08:10 PM
>まみっしさん
こんばんは。先日義妹さんにお会いしてきましたよ
そうですね。ラッセルにはぴしっとした007のようなぴしっとしたスーツは似あわなそうです。現代劇でも前をはだけてよれよれ~なほうがしっくりきますね
そういえば息子さん今年が新成人だそうで。お母さんとしては感慨もひとしおでしょうか。おめでとうございます
Posted by: SGA屋伍一 | January 11, 2011 08:15 PM