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January 19, 2011

スコープ越しの戦場 サミュエル・マオス 『レバノン』

110119_174801♪れっばっの~ん れっばっの~ん(『戦場でワルツを』より)
暮れに見た映画の紹介記事も、これでようやく最後です・・・・ 2009年ヴェネツィア映画祭で見事金獅子賞に輝いた戦争映画『レバノン』、参ります。

1982年、レバノン侵攻。新たに作られた4人の戦車小隊は、歩兵隊と共に占領地へと向う。それは簡単な任務のはずだった。だがいかなる情報ミスか、彼らは敵兵のただ中にとり残されてしまう・・・・

皆さんは戦車に乗ったことってありますか? まあ、普通ないですよね。この映画ではほとんどのシーンが戦車内のため、まるで自分もそこに乗り組んでいるような気分を味わえます。
乗務員は神経質そうな隊長、不平の多い弾込め係、腕の怪しい運転手、そして気の弱そうな砲撃手。心強いことこの上ありません。

なんせ砲撃手の青年が、「撃て」と命令されてるのに、「人を殺したくないから」となかなか引き金が引けなかったりします。え・・・ だってここは戦場であなたは兵隊さんでしょ・・・ と少なからず面食らいます。
しかしこの描写の効果で、砲撃手の青年がぐっと我々に近い存在に感じられるようになります。そして彼がスコープをのぞき込むと、我々も彼と一体となり、あたかも戦車から外を覗いているかのような錯覚に陥ります。

ただこの経験、心地よいものではありません。戦争においては、軍隊は弱者を容赦なく踏みにじります。その蛮行の共犯者となっていく過程を、ずっと追体験させられることになるわけですから。
「戦車の中」という環境がまた息苦しい。潜水艦の映画でさえ十分に圧迫感を感じるのに、5人前後しか乗れない戦車となったらその窮屈さはたまったものではありません。おまけに時々死体置き場にされるわ、床には汚水やゴミが散らかってるわ(掃除しろよ)、捕虜はしょっちゅう缶カラにおしっこをしてるわ・・・・ 今にもスクリーンからぷ~んと異臭が漂ってきそうです。

実は紹介記事などを読んで、少しエンターテイメント的な要素があるのでは、と期待していたのですが、そんな脳天気なものはほとんどありませんでした。さすがは芸術性が重視されるヴェネツィア映画祭でトップをとった作品。
(ちなみにヴェネツィアが金獅子賞で、ベルリンが金熊賞です。わたしもよくどっちがどっちだかわからなくなるんですけど。
考えてみれば監督のサミュエル・マオス氏もまた、実際にレバノン侵攻に参加してその地獄を目の当たりにした人。そんな経験を普通は娯楽仕立てになどしないものですよね。

さてこの『レバノン』、上映形式においてもちょっと変ったところがあります。(日本では)新作映画のはずなのに、現時点で渋谷のシアターN一軒でしか公開されてません。そして公開中にもうDVDが発売されてしまいました。
恐らく本当ならDVDスルーとなるところを、「ファンはスクリーンで観たいだろう」ということで、Nさんが独自に権利を買われたのかもしれません。そんなわけでか、本作はDLP形式で上映されております。
DLP形式とは何か。わたしも昨年ようやくこの言葉を知ったのですが、はやい話がDVDを専用の映写機にかけて上映する方式です。この方法だとフィルムを複製するよりも安上がりに興行ができるようです。
ただこのDLP方式の画像にも一長一短ありで、詳しくはコチラをご覧ください。
映画ファンの中にはフィルムに強いこだわりを持つゆえに、この方式を敬遠される方も多いようです。正直自分には「ああ、これはデジタルね」と見分けられるだけの眼力はありませんが、カッコつけて「やっぱ映画はフィルムだよね~」と言っておくことにします。

110119_174708そんな『レバノン』は二月初めまで引き続きシアターNで上映される予定。「なんとしてもスクリーンで」という方は渋谷までがんばって行ってください。「観たいけどそこまでは・・・」という方はアマ○ンをポチと


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Comments

あ、この間観たヤツね~。
話の流れも見せ方もリアリティ溢れる良い作品なのにね。
しかもヴェネチアで金獅子賞とってる作品が日本でシアターN
だけってのがもう日本の映画文化を象徴してると思う。
下らん作品をシネコンでやらずにこういうのやるのも映画館
の使命だとおもうんだけどな。

Posted by: KLY | January 19, 2011 09:57 PM

>KLYさん

おはようございます。毎度ありがとうございます
こないだは『モンガに散る』と『君を想って、海をゆく』を見たのでした。こっちは暮れにこっそりと

確かに地味な作品なんですが、やっぱり三大国際映画祭で大賞を取った作品くらいは、普通に封切りされてほしいものですね

シネコンのラインナップもまあ、どれも似たり寄ったりですが、わたしがよく行くところは遅れて単館系の作品もかけてくれるので、まことにありがたい限りです

Posted by: SGA屋伍一 | January 20, 2011 07:37 AM

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